第1210話 総力戦、開始!


 無所属集団……いや、もうここまで来たらそう言うべきではないな。どう呼べば的確なのか分からないけど、群集に不満を持つ集団が無所属を基点として各群集に潜り込んでいるのは確定な状況になった。

 これから青の群集との総力戦を行うという時に露骨な攻撃を受けたけど……まぁそこは灰の群集らしさとベスタの機転で切り抜けた。まだ完全に終息したとは言えないけども、とりあえずはこれで大丈夫なはず。


「あー、ベスタさん、ジェイとジャックからの連名での伝言があるんだが……」

「もう開始時間までそう時間はない。ジークフリート、手短に話せ」

「まぁそりゃそうか。それじゃ手短に……『妨害工作があっても、見極めは難しいから手心は不要』だそうだ。具体的にどういう意味だ、こりゃ?」

「ふん、例の連中が潜り込んでて仲間割れをしてるように見えても、どっちが裏切り側か判別する必要は無いというところか。まぁ今回の総力戦においては青の群集は元々敵でしかないから、その辺の遠慮は元々いらんな」

「あー、そういう意味か! だから、遠慮なくぶっ倒せばいい……って、物騒な伝言をさせてんな!?」

「わざわざ言う必要もないような事だがな……」


 なんかジェイさんとジャックさんからの伝言があったみたいだけど……まぁ青の群集の人なら倒すだけだから、わざわざ念押しは必要な事でもない。なのに、あえて明言化したって事は……今の状況を把握してるって意味なんだろうね。

 流石に総力戦をする為の待機場所に青の群集からのスパイを送り込んできてるとは思わないけど、他のエリアでの異常なデマ情報の広がり方とかは嫌でも情報は入ってくるだろうしね。

 羅刹と北斗さんと桜花さんが、その辺のデマ対策に動いてくれてるけど……どうなってるんだろ? 今はそれを確認する手段がないから、どうなってるかが分からないな。


「おっ、灰の群集の合図役のソラさんが到着したってよ! 合図は22時になってすぐに、上空にファイアボムを撃ち上げるんで良いんだよな?」

「目印になるなら正直何でも構わんが、まぁ火魔法が目立ちやすいからな。それで頼む」

「おし、なら時間が来たら即座に打ち上げるぜ!」


 そういえば、ジークさんって青のサファリ同盟にリーダーって事は知ってるけど、それ以外はぶっちゃけ殆ど何も知らないな。なんか前見た時は大きなトンボなだけだったと思ったけど、今は赤くなってるし……火属性になってそうな見た目。

 いや、でも纏火を使って一時的に火属性にしてるだけって可能性もあるんだよな。うーん、まぁ今回は非参戦って事で合図役に来てるんだし、ここでジークさんの分析をしても意味はないか。


 ともかく、今は騒動で乱れていた状況を立て直している真っ最中! 俺らは特に動く必要もないし、対戦が始まってから現地入りになるんだから、ある程度固まってる状況でさえあれば大丈夫か。


「ケイ、風音さん、魔力値の回復は大丈夫かな?」

「ん? あぁ、それならもう全快にはなってるぞー。非戦闘状態だし、回復は早くなったもんだよ」

「……同じく。……成熟体は……回復が……早い」

「それならよかったかな!」

「開始前から魔力値が尽きてたら、流石に問題だもんね。ともかく、状況が落ち着いてよかったけど……」

「まだ油断は出来ないけど、ベスタさんの言う通り、疑うのは無しなのさー!」

「ま、そこは同意だな。ケイ、変に気負わずいつも通りに指揮を頼むぞ」

「ほいよっと! そこら辺は任せとけ!」


 あの連中からの妨害工作の可能性は十分過ぎるほどあるけども、そこばかり気にしていても駄目だからな。ベスタの疑わないという方針は、青の群集の方に集中しろって意味でもあるんだろうね。


「間もなく22時だ! 開始の合図と共に、互いの邪魔にならないようにミヤ・マサの森林へと移動開始! それから各班のリーダーの指示に従って、作戦通りに動いていけ!」


 少し前とは違った戦闘前の落ち着きのなさからくるざわめきが広がっている中に、そのベスタの言葉が響き渡っていく。そして、それに応じるように気合の入った大勢の声が返ってきていた。

 さーて、もうあと十数秒。俺らも全力で頑張って、浄化の要所を抑えに行きますか! その為にもミヤ・マサの森林入りしてから、即座に推進力を用意してくれる森守りさん達と合流だな!


「カウントダウン、行くぜ! 5……4……3……2……1……総力戦、開始!」

「全員、戦闘開始! 皆の健闘を祈る!」


 そうして青の群集との総力戦は開始になった! おっしゃ、やってやるぜ!


「1班、出発! アル、移動は任せるぞ!」

「おうよ! ただ、まだ行動値は温存しとくからな」

「総力戦、頑張るのさー!」

「ここは、意地でも負けられないかな!」

「やられた分は、やり返さないとね!」

「……当然!」

「大暴れしようではないか! なぁ、疾風の!」

「おうともよ! なぁ、迅雷の!」

「不安要素がない訳じゃないが……やるぞ、ディール」

「おう! やるからには勝つ気でいくぜ!」

「ジンベエ殿、拙者達も頑張るのであるよ!」

「地味に今回は海エリアは良いとこ無しだからな。ここら辺で、その分だけ取り返すまでだ!」

「みんな、拠点を取られないように頑張ろー!」

「下手に渡す気はねぇしな! なぁ、黒曜」

「そうだね、ツキノワ。色々と置いたままのものもあるし、取らせはしないさ」

「頑張るよ、モコモコ!」

「そだね、シオカラ!」

「さーて、殴り込みの開始だねー! わたしも大暴れしますか!」


 俺ら1班のメンバー、全員分の気合の入った声は聞こえた。他にも色んなとこで、色んな気合の入った声が続々と聞こえているけど……どこも気合いは十分だな!

 少し前まで騒動が起こってたとは思えないくらいだけど、こういう部分が灰の群集の強みでもある! 妨害するならしてきやがれ! そんなもん、青の群集と一緒に叩き潰してやるまでだ!


<『始まりの森林・灰の群集エリア1』から『ミヤ・マサの森林』に移動しました>


 大勢が一斉に移動を始める中、上空にいた俺達は早めに現地入りを済ませていく。ジークさんは開始早々に離れていったし、ベスタも自分の所属してる班の方に戻っていった。

 そういやベスタって、2班と3班のどっちなんだ? 青の群集の様子を伺いながら突っ込むタイミングを調整するって言ってたし、一番最後になる3班と考えるのが順当かな?


 まぁそこはいいや。俺ら1班にとって肝心なのは、どれだけ素早くミヤビが植わっていた浄化の要所まで辿り着くかだ! その為にも、森守りさん達と即座に合流する必要が――


「おら、おら!」

「はい!? ちょ、森守りさん!? なんで他の人を俺らの方に投げてんの!?」

「こっちの方が早いんだよ! お前ら、ケイさん達の固定とスチームエクスプロージョンの準備を急げ!」

「「おう!」」

「てか、ジンベエさんのサンゴとアルマースさんのクジラのドッキングも急げ! 何気にあの騒動の中で、しっかりと準備はしといてくれたみたいだけどな!」

「リーダー達がどうにか収めようとしてたのは分かってたし、その間にやるべき事をやっていたまでだ。アルマース、クジラの強化をするなら先にしておけ」

「あぁ、それもそうだな。『自己強化』!」


 羅刹や北斗さんが来てたのに気付いた時には、もうジンベエさんがサンゴを増殖させてアルのクジラより二回りほど小さいくらいのサイズのサメにはなっていたもんな。比較対象がクジラなだけで、サメとしてはかなり巨大。

 サンゴの密度はスカスカだけど、その隙間に大型ではない種族の人がみんな入っている状況が凄いもんだ。コケの俺が言うのもあれだけど、サンゴも大概変な種族だよなー。流石は同じ色物枠。


「とりあえず、クジラの上側のメンバーの固定をしていくぜー! 『アースクリエイト』『岩の操作』!」

「助かる!」

「無茶を任せるんだし、これくらいはどうって事ねぇよ!」


 俺らに移動には行動値を使わせない為に、『森林守り隊』のメンバーの1人の茶色いトカゲの人が岩での固定をしてくれている。凄い手際がいいから、普段から使い慣れてるね、これは。

 もう1人の赤と青のまだら模様になってる不思議な色合いのカブトムシの人が、スチームエクスプロージョンの発動役みたいだね。アルのクジラの尾びれ側で一緒に固定されてるし、それは間違いないはず。


「龍に乗る方も、準備を急いでくれ!」

「それでは準備を始めようではないか! なぁ、疾風の! 『自己強化』! ツキノワよ、早く乗れ!」

「頼んだぜ、風雷コンビ!」

「もちろんだぜ! なぁ、迅雷の! 『自己強化』! 黒曜、早く乗れ!」

「お願いするよ」

「……急がないと。……『自己強化』……富岳さん……どうぞ」

「おう! よろしくな、風音さん」


 これでほぼ準備は完了か? 後はアルが根の操作で、ジンベエさんのサンゴに巻きついて持ち上げてしまえばそれで……って、ちょっと待てーい!? 今、思いっきり盛大な爆発音が聞こえたんだけど!?

 南側から聞こえたし、青の群集ではないはず……って、違う! ミヤ・マサの森林だと灰の群集は北側に位置するんだった!? って事は、今のは青の群集の仕業か!


「もしかしなくても、先にやられたか! 誰か、何がどう飛んでいったか分かる人、いるか!?」

「ケイさん! 浄化の要所の位置に向けて、銀光を放ちながら吹っ飛んでいく細長い何かが見えました!」

「……今のは、クジラではないみたいだねー? でも、細長い銀光に今の爆音って、良い予感はしない相手な気がするね」

「……ですよねー。多分だけど、ジェイさんと斬雨さんコンビの可能性が高いだろうな」


 しかも今の時点で、既に何かしらの応用スキルを発動しながらの吹っ飛びかよ! ……同じ事をしてくる可能性は考えていたけど、これは俺らがやりそうな事を先読みしてのカウンター狙いか? だとすると……。


「ハーレさん、レナさん、白の刻印の発動は確認出来たか? 『守護』を使った溜め攻撃の可能性がありそうだけど……」

「あぅ……急だったから、そこまで確認出来なかったのです……」

「ごめん、わたしも……。ある程度は警戒してたけど、流石にちょっと細かな発動状態まで確認するには距離があって……」

「あー、まぁそれなら仕方ないな。さて、そうなるとどうするか……」


 吹っ飛ばす人数が少ない……というか、必要最小限の2人組での実行となると、俺らの方の準備が間に合うはずもない。白の刻印の『守護』でキャンセル封じをした上で、カウンターを狙っている可能性は高いはず。

 でも、そう思わせておいて……実はジェイさんでも斬雨さんでもない、構成を真似た他の人って可能性も捨て切れない。俺らが浄化の要所を抑えにくるかどうかを見極める為の手段の可能性も……いや、可能性を考え出したら、数が多すぎる。

 だったら、その場の判断で動きつつ、相手の意表を突くまで! 今あるメンバー構成で考えられる手段としては……あぁ、これならいけるか? 警戒してるのはアルのクジラの巨体だろうけど、ジンベエさんは警戒範囲に入ってるかは……どうだろね?


「ベスタ、この判断は俺がすべき? それともベスタがする?」

「俺はどっちでも構わんが……何か案があれば、ケイに任せるぞ」

「そりゃどうも! おし、罠を承知で突っ込んでいく! ジンベエさんは特性に突撃があるって話だったよな?」

「まぁそりゃあるが……へぇ、アルマースさんじゃなくて、俺に突っ込めって事か? 白の刻印は『増幅』だが……先に溜めてからなら、キャンセルされる事もねぇな」

「おっ、察しが早い! 着地地点を少し浄化の要所より先の場所にして、途中でアルの根を離してジンベエさんと、ジンベエさんのサンゴの隙間にいるみんなを投下する! 意識をジンベエさんに引き付けつつ、こっちも囮で……ディールさん、溶解毒でジェイさんを倒せ!」

「ちょ、本命は俺か!? いや、いいぜ! その案、乗ってやろうじゃん!」

「……ケイさん」


 あ、思いっきり風音さんの不満そうな声が聞こえてきた。いやいや、そんな風に言われても、必ずしも風音さんメインで状況を構築出来る訳じゃ……いや、そうでもないか。


「風音さんは、ジェイさんが何らかの対抗手段を取ってきた場合にディールさんのフォローを頼む! 毒と炎の両方には同時に対応は難しいだろうし、状況次第ではわざと岩の操作を使ってアブソーブ・アースの発動を誘発させてくれ! 手札が多い風音さんだからこそ出来る事だし、どういう手段でやるかは全面的に任せる!」

「……対応された時の……対応……うん……任せて!」


 よし、アブソーブ系のスキルは相当なな防御性能を持っているけど、それはあくまでも同属性の魔法に対してのみ! しかも別に無制限という訳でもない。コケを倒す手段は何パターンか存在するけど、その複数を同時に展開すれば倒せる可能性は高いよな。

 こんな序盤からいきなりジェイさんと戦う可能性が出てくるとは思わなかったけど、浄化の要所を押さえに行くのは計画通りだし、そこで耐久戦を行うのも想定済み!


「富岳さんは、風音さんへの攻撃があったら防御を頼む」

「おう! 誰かが襲ってきても、邪魔はさせねぇよ!」

「……頼りに……するね」

「他のみんなは、臨機応変に対応で。今のがジェイさんと斬雨さんのコンビだとは断定出来ないし、あのコンビだとしても必ず2人だけとは限らないからな!」

「慎重に、慌てずにいくのです!」

「まずは敵が誰で何人いるかを見極めないとねー!」


 あのコンビを連想させる、初手から大きく目立つ動きだからね。何があるかは分からないし、油断せずにいこう。下手な油断は……負けに繋がりかねないしな!


「それじゃアル、ジンベエさん、準備を頼んだ!」

「おうよ! 安定させるならこうだな。『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」

「……なんだか吊り下げられるのは不思議な気分だが、そこは今はいいか。『白の刻印:守護』『砲弾重突撃』!」


 さーて、ジンベエさんのチャージが終わり次第、吹っ飛んで攻撃開始だな! 少し突撃していくタイミングがズレたけど、競争クエストで何もかもが予定通りに進む訳もないか!

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