第1180話 毒魔法の強化 その4
毒魔法Lv10の内容は『ポイズンクラスター』で、Lv10に至った事で手に入ったスキルは『アンチドート・コンバート』というスキルだった。まだどっちも試せてないけど、これはどう試すのが正解?
性質的には多分『ポイズンクラスター』は基本属性の魔法のものとは大きくは変わらないと思うから、通常発動なら無差別に上空から複数の毒の弾を落としてくる内容のはず。
敵には毒の効果を与えて、味方にはおそらく『毒の刻印』が刻まれる。名前の法則が同じだから、多分大きく性質は変わらないだろうし、『毒の刻印』の効果は大幅な毒耐性の上昇か? どの毒かに限定されるのか、それとも毒全般に対する耐性なのかは不明だよな……。
「ケイ、独り言での解説はありがとうかな!」
「あ、また声に出てたか!? いや、今のは内容的に整理した方がいい内容だったし、今回は結果オーライで!」
忌まわしい悪癖だけど、今回はこれから試すべき内容の整理が出来たから悪い事ではない! ……そういう事にしておきたい!
「『ポイズンクラスター』が他のと同じかどうかの確認をしたいから、ちょっと試してみるね」
「それなら、私は当たりに行くのです! 『自己強化』!」
「私も行くかな! 『自己強化』!」
「そこはサヤとハーレさんに任せた!」
ヨッシさんは魔法砲撃を持ってないんだから、今は無差別に降り注ぐだろう毒の弾に当たりに行くしか方法はない。まぁサヤとハーレさんの2人なら、このジャングルの中でもちゃんと当たりにはいけるはず!
「あ、発動前にこれは説明しとかないと! どうもこの『ポイズンクラスター』は毒の指定が出来ないみたい?」
「なに? ヨッシさん、どういう事だ?」
「アルさん、ごめん。そこは私にも詳しくは分かんない。もしかしたら、落ちてくる毒の弾ごとに違う種類の毒になるのかも?」
「……なるほどな。まさか毒の種類は指定不可でくるとは……」
「地味に厄介な仕様だなー」
どうにも魔法Lv10のクラスター系は一癖も二癖もある。それは毒魔法でも同じっぽい。でも、これは決してデメリットだけって訳でもないし、活用方法は既に思い付いた! まぁちょっと博打要素にはなるんだけど――
「……それって……抗毒魔法を……突破出来る? ……全ては……防げない」
「あ、風音さんに先に言われた!?」
「……ケイさんも……同じ事を……考えてた?」
「まぁなー! とは言っても、実際に別々の毒になるかを確認してからじゃないと……」
「あはは、ケイさんも風音さんも、あっさりととんでもない手段を思いつくよね。今の私の抗毒魔法で防げる毒は2種類までだし、全部がバラバラの毒になるなら有効かも? 使ってる本人すら毒の種類が分かんないんだから、駆け引きも何もないしね」
「それも確かめていきたいとこなのさー!」
「でも、それはどうやって確かめるのかな?」
「……あぅ、そこが問題です……」
そうなんだよなー。それを確かめるには『ポイズンクラスター』を何発も当てる必要があるし、敵が必須な状況でもある。出来れば、耐久性が高いやつで!
「うん、こうなったら私も魔法砲撃を取るよ! えっと、時間の短縮をしたいから、進化ポイントで取っても問題ないよね?」
「おう、そこは問題ないと思うぞ。なんだかんだで、進化ポイントは余り気味だしま」
「だよね。それじゃ手早く取得してくるから、少し待ってて」
「ほいよっと!」
アルの言う通り、進化ポイントにはかなりの余裕がある。まぁどこかのクエストで進化ポイントを提供するみたいな事がまたあるかもしれないけど、馬鹿みたいに浪費しまくらなければ使っても問題はないさ!
ヨッシさんが魔法砲撃の取得を済ませるまで待つとして……そうなると、どういう手順で試すのが早い? 魔法砲撃にした『ポイズンクラスター』を1体の敵に連発して使うのもありだけど、それに適した相手がなぁ……。
成熟体のフィールドボスはLv16からだって話だし、いくらなんでも試すだけでそのLv帯のフィールドボスとは戦いたくない!
「うん、魔法砲撃の取得は完了! えっと、どういう風に試してみよっか?」
「はい! 予定通り、適当にぶっ放してみてくれればいいのさー! そして、アルさん!」
「ん? どうした、ハーレさん?」
「今こそ、樹液分泌の出番です!」
「……なるほど、その手があったか!」
「あー、ジャングルなら虫もいるだろうし、当たるだけの敵を用意すればいいだけか。でも、サヤとハーレさんは……色々と大丈夫か?」
多分、このエリアにはGやらクモやらもいそうな気がするけど……それらが樹液分泌で寄ってくる可能性は否定出来ない。ハーレさんの方は苦手生物フィルターである程度は大丈夫なのは分かってるけど、サヤの方は苦手生物フィルターがあっても怪しいからなぁ……。
「「…………」」
あ、サヤとハーレさんがお互いに顔を見合わせて、完全に黙ってしまった。最近はその手のに遭遇してなかったから、完全に失念してたっぽいね。
まぁGはともかく、クモはあまり寄ってくるとも思えないけど、他の敵を追いかけてくる形でやってくる可能性はあるからなー。事前に意識しておくくらいはしておいた方がいいはず。
「……2人は……苦手なのが……いるの? ……ダメそうなら……代わりに倒すよ?」
「その時はお願いなのさー!」
「風音さん、お願いかな!」
「……分かった。……それで……具体的に……何がダメ?」
「あぅ……家の中に出る、黒い素早いあれなのです……」
「私は、糸で巣を作って獲物を捕まえるあれかな……」
「……うん……大体分かった」
名前を出すのも嫌なくらいな苦手っぷりですなー。まぁ風音さんにはちゃんと伝わったみたいだし、そこは問題なさそうか。
「風音さん、その辺の殲滅は必要なら俺も一緒にやるからなー。とりあえずは『ポイズンクラスター』での毒の効き方を確認しつつ、基本的には1体ずつ撃破で!」
「……分かった。……『ポイズンクラスター』に当てるのは?」
「そこは……アル、任せていいか? 多分、根の操作で移動させるのが1番楽そうな気がするし」
「おう、それは任せとけ!」
よし、とりあえずこれで役割分担は問題なし! フーリエさん達は今回は見物なんだし、そのまま見てもらっておくので――
「ケイさん、そういう事なら手伝います! 『ポイズンクラスター』が落ちてくる場所に敵を持っていけばいいんですよね!?」
「フーリエ!? コケの人の弟子になっただけはある、躊躇の無さだな!? それ、俺も手伝わせて下さい!」
「俺らも手伝いたいっす!」
「捕まえるだけなら、問題なし!」
「やらせて欲しいです!」
あらま、見学しててもらおうと思ったけど、フーリエさん達はそういうつもりは無かったらしい。まぁそういう事なら、手伝ってもらいますか!
「それじゃ手伝いを頼む! これからアルが樹液分泌で敵を集めるから、フーリエさん達が各自で無茶にならない程度でいいから敵を捕獲! その後、ヨッシさんに通常発動の『ポイズンクラスター』を使ってもらうから、着弾地点を確認しつつ、そこに敵を持っていってくれ! ただし、自分達が『ポイズンクラスター』を受けない事! それ以上に、無茶まではしない事!」
「「「「「はい! 『自己強化』!」」」」」
「サヤとハーレさんは、『ポイズンクラスター』を受ける事に集中で!」
「分かったかな!」
「はーい!」
よし、これで今度こそ役割分担は問題……あれ? 地味に俺のやることがないけど……まぁ全体把握をしながら指示出しをしてるんだし、そこが俺の役目か。今回の検証内容に主体はヨッシさんの毒魔法だしね。
「それじゃアル、頼んだぞ!」
「おうよ! 『樹液分泌』!」
久々に使う気がする樹液分泌だけど、今日は夜の日だから効果は出やすいはず。あー、でもそれなら光源で集めた方が良かったかも?
って、よく考えたら俺は獲物察知を使えば良い状況じゃん! 近付いてくる敵の数は分かった方がいいし、そうしよう!
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 115/120(上限値使用:1)
という事で、即座に発動! えーと、集まってきてる敵は……4体だからそんなに多くはないか。他に戦ってる人の反応があちこちにあるから、空いてる敵自体が近くに沢山はいないっぽいな。
「フーリエさん、正面右から敵が来るぞ! シリウスさんは真後ろ!」
「はい! あ、大きめなカブトムシですね! 『噛みつき』!」
「真後ろ!? あ、ナナフシか! 『獲爪撃』!」
おー、オフライン版でもいたけど、オンライン版でナナフシを見るのは地味に初めてかも? まぁそこはいいや!
「レインさん、左後ろだ! フェルスさん、左前の上の方!」
「おわっ!? 捕獲はミドリ、頼む!」
「もう、仕方ないね! 『根の操作』!」
「了解っすよ! 『伸縮舌』!」
よし、これで近付いてきてた敵の捕獲は全部完了! 数が思ったよりも少ないけど、まぁ4体もいれば今は十分だろ! ただ、全部の敵は視認は出来なかったなー。
「ヨッシさん、任せた!」
「了解! みんな、いくよ! 『ポイズンクラスター』!」
そのヨッシさんの声と同時に上空へと毒々しい液体の塊が撃ち出されていき、それがバラバラになり、地上へ向けて落ちていく。どうも範囲はアクアクラスターに比べると狭めだし、落ちていく毒の球も小さめだな? 分かれた数は12発……で合ってるか?
「ハーレ、私達は離れたとこに行くかな!」
「了解なのさー!」
「シリウス、急ごう!」
「分かってるって!」
「急げ! フェルス、ミドリ!」
「自分は確保してないからって気楽っすね!?」
「レインだけ気楽だよねー!」
「数の問題は仕方なくねぇ!?」
なんだか騒がしい感じではあるけど、それぞれが近くに落ちていく毒の球へと大急ぎで移動して……うん、木々の間に飛び込んでいったからよく分からん! これなら飛んでおいて確認しておくべきだったな。
「各自、成功か失敗かの報告をしてくれー!」
「ケイさん! 僕の捕まえていたカブトムシは、普通の毒になってます!」
「シリウスです! 俺の方は、麻痺毒です!」
「フェルスっす! すみません、間に合わなかったっす!」
「ミドリです! えっと、間に合ったというか……私が受けちゃいました! 『毒の刻印』ってのが刻まれましたよー!」
「フェルス、ミドリ、何やってんの!?」
「……失敗して申し訳ないっす」
「……すみませんでした」
あー、内容的には間に合わなくても仕方なかったんだけど、そこを気にしちゃったか。その辺、実行に移す前に言っておけばよかったな。別に失敗しても責める気は欠片のないしさ。
「その辺は気にしなくてもいいぞ。無差別に落ちてくるのに、絶対に追いつけって方が無茶だしなー」
「そうだぞ。ケイだって、全くの失敗無しって訳でもないからな」
「それは確かにそうだけど、今それを言う必要ってあった!?」
「何言ってんだ? 今だからこそ言っておくべき内容だろ?」
「……気負わせない為に……大事な事」
「うぐっ!?」
あー、もう……確かに言われてみたらそうだよなぁー! なんかフェルスさん達は検証でミスは許されないみたいに思ってる感じがするけど、そんな事は全然ないしね。……俺という実例を上げるのが、今は1番説得力もあるか。
「ケイさん達でも失敗するんっすか?」
「まぁなー。失敗は成功の元とも言うだろ? 失敗を恐れてたら、何も出来ないしな!」
「思いつきで、色々やらかすケイが言うと説得力が違うな」
「おいこら、アル!? さっきから余計な一言が多くねぇ!?」
「……そういえば……ログイン早々に……ケイさんに……吹っ飛ばされた事を……思い出した」
「風音さん!?」
いや、確かにそんな事もあったけど、今それを持ち出してくる意味って……あ、さっきまで微妙に凹んだ感じの声になってたフェルスさん達が笑ってる。
はぁ、アルや風音さんの狙いとしてはそこみたいだし、実際に意味があったのなら文句も言えないか。
「えっと、サヤとハーレはどうなってるの?」
「私は無事に『毒の刻印』が刻まれたかな!」
「私も同じくなのさー! これ、『水の刻印』と同じで毒属性への耐性大幅アップなのです!」
「地味に毒属性魔法って記載になってるから、物理毒には意味ないみたいかな?」
「でも、毒の種類は関係なさそうなのです!」
「あ、そんな感じになるんだね」
「おー、良い感じじゃん!」
「魔法砲撃にして、毒魔法への耐性を持たせるのもありか。抗毒魔法とはまた別の毒対策の手段って事になるんだな」
「だなー」
毒属性魔法に限定はされるけど、やっぱり『毒の刻印』は『水の刻印』と同等性能と考えて良さそうだね。それならおそらく効果の対象はスキル1回分のみになるから、範囲内なら無効化し続けられる抗毒魔法との差別化にもなっているか。
なんというか、毒を育て続ければ、毒を防げるようになっていくのが凄まじいね。まだ『アンチドート・コンバート』の性能確認が出来てないけど、こっちも毒を魔力値に変換するような性能っぽいもんな。
「さてと、折角だから捕まえてた敵を全部連れてきてもらっていい? 今度は魔法砲撃にして『ポイズンクラスター』の連発を撃ち込んでみるからさ」
「はい! それじゃ連れて戻りますね!」
「分かりました!」
「了解っす!」
「了解でーす!」
うーん、流石に一気にスキルLvを上げた時はどうしても検証に時間がかかるね。アルが樹木魔法をLv10にするのを躊躇ったのはこの辺があるからだしなー。とはいえ、高Lvの魔法は性能が独特だから、検証せずにいきなり使うのは危険過ぎる。
どうとでも応用が利くからこそ、ちゃんと基本的な性質を把握した上で戦略に組み込んでいかないとダメだよな。相手も使ってくる可能性があるんだから、その辺は尚更に!
「あ、『アンチドート・コンバート』の検証はその後でいい?」
「まだそっちもあるんだよなー。まぁそこは順番にか」
というか、どうやって検証すればいいのかがイマイチ分かってないんだよなー。魔法毒を吸収するなら、本格的に魔法毒を使える人がいないと話にならないし……。
その辺を考えるなら魔法砲撃にした『ポイズンクラスター』の検証が終わった段階で一度報告を上げてから、模擬戦での協力者を募った方がいいのかも? まぁそこはフーリエさん達が戻ってきて、先にやる事をやってからでいいか。
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