第1179話 毒魔法の強化 その3


 毒魔法Lv9は『トキシシティ・エクステンション』という、毒の効果時間を伸ばす効果がある補助的な魔法だった。Lv7の『トキシシティ・ブースト』と命名法則が同じっぽいよなー。まぁ次のLv 10以上は無いから、この2つだけなんだろうけど。


「ヨッシ! それって『トキシシティ・ブースト』と一緒に使えますか!?」

「えっと、ハーレが想定してるのは敵に使う方? それとも自分に使う方?」

「両方なのさー!」

「まぁそうなるよね。んー、自分に使う方は試してみないと分からないかも?」


 そういや『トキシシティ・ブースト』自体に効果が2種類あるんだったよなー。ハーレさんが言ってる両方ってのは、そのどっちの効果も重ねられるかって話か。


「……なぁ、フーリエ。『トキシシティ・ブースト』って自分の毒性を強化するだけじゃなかったっけ?」

「シリウス、それはちょっと違うよ!? 敵に使えば、毒の操作の同時操作数まで回数だけ、毒への耐性も下げられるから! それ、さっきハーレさんが言ってたよ!?」

「……そうだっけ?」

「そうだよ! まぁ魔法毒は魔力の影響が大きいし、下がるのは魔法毒への耐性だけだから僕は使い道もない以前にそこまで育ててないけど……」


 フーリエさんは物理型だし、その辺は仕方ない部分ではあるもんな。物理毒と魔法毒では耐性は別物だし……そう考えると、やっぱり物理毒は物理毒としての固有の強化がありそうだ。まぁそれが具体的にどんなのかは分からないけど。


「風音さんが戻ってくるまで少しかかりそうだし、フーリエさんに少し聞いてみていい?」

「え? 僕にですか!? えっと、ヨッシさん、どんな事でしょう?」

「私、あんまり物理毒は育ってないんだけど……その辺の強化要素ってどう?」

「……そうですね。『微毒生成』『麻痺毒生成』『毒生成』『腐食毒生成』が4つともLv6になると『多彩な毒を使うモノ』って称号と一緒に『毒性強化Ⅰ』ってスキルは手に入りますよ。これが魔法毒の強化に使う『トキシシティ・ブースト』に相当するものだと思います!」

「あ、やっぱりそういう強化はあるんだ。折角、支配進化にしてウニの要素で攻撃も高めになってるし、その辺も育てるのもありだよね」

「僕もそれはありだと思います! 物理毒だけじゃ効かない相手もいますし!」


 ふむふむ、これは興味深い内容だね。今のヨッシさんは、毒魔法、氷魔法、電気魔法の3種類の魔法での状態異常に秀でている状況だ。でも、魔法が効きにくい魔法型の相手だと状態異常がさっぱり通じないって事も、今後はあるかもしれない。

 魔法型の敵には物理特化のサヤとハーレさんがいるし、アルや俺も物理でも戦えるから、今までは気にしてなかった。だけど、そこら辺を強化していくのはありなはず。


「うーん、物理毒を使うなら、折角だし同族統率も強化したいよね。成熟体の統率個体に物理毒を持たせて、突撃させるとかもありだろうし……」

「あー、確かにそれもありだよなー」


 確か『同族統率』Lv6で手に入る『強化統率』だっけ? あれがあれば、ヨッシさんの更なる強化に繋がる! 何よりも、次の一戦に向けて手札を増やしておきたい今、無茶苦茶時間がかかりそうな強化ではないはず!


「ヨッシ、それは今は後回しなのさー! やるなら、毒魔法Lv10までが終わってからなのです!」

「ま、焦らず順番にだな。サヤとハーレさんは強化になったし、今やってるのが終わってから考えりゃいいだろ」

「あはは、それもそうだね」


 そこはアルとハーレさんの言う通りか。急がば回れとも言うし、まずは今やってる事を片付けてから! 予定外に強化する時間は確保出来てるんだから、その時間を使ってやっていけばいい。


 おっと、そうしてる間に風音さんが戻ってきたね。岩で固めて捕獲してるっぽいけど……これはキツネか! 暴れてるけど、全然逃げられる気配がないな。


「……ただいま。……キツネを……捕まえてきた」

「あ、風音さん、おかえりなのさー!」

「風音さん、ありがとうね!」

「……どういたしまして。……毒魔法Lv9……早く見たい」

「あはは、まぁ風音さんはそうだよね。さてと、ご要望にお応えしてやっていくよ!」

「……うん!」


 相変わらず魔法への興味は尽きない風音さんである。でも試す為にわざわざ敵を捕まえてきてくれたんだし、そこは感謝!


「えーと、とりあえず比較対象として、普通の麻痺毒を使ってみるね。麻痺毒で『ポイズンクリエイト』『毒の操作』!」

「普通に麻痺が入って、動きが鈍ったのさー!」

「雑魚敵相手なら、ヨッシさんの麻痺毒なら効果時間は5秒から10秒くらい?」

「多分、そんなとこだと思うけど……」


 さっきまで暴れていたキツネだけど、麻痺毒の効果でピクピクと痙攣してる感じでまともに動けていない。毒性が弱ければ多少は動けたりするっぽいけど、ヨッシさんの毒は強力だしなー!

 神経毒になれば、もう完全に身動きが取れなくなるレベル。まぁ神経毒は応用スキルの分類だから、強力で当然だけど。


「耐性がない相手だと、いまいち効果の強さが分かりませんね……」

「何も強化せずにこれだしね。これは『トキシシティ・ブースト』の効果まで有効かは確認出来そうにないけど……あ、効果が切れた」

「ある程度、耐性がある相手で試してみるしかないか……」


 とはいえ、雑魚敵では毒への耐性持ちはぶっちゃけ少ない。フィールドボスや、エリアボスとかなら可能性はあるけど、今ってそれが出来る状況でもないしなー。

 一応普通の敵でも効かない毒が設定されてたりもするけど、それは個体によってバラバラだしね。中々、全ての毒で検証を行うのは厳しい……。


 うーん、これも模擬戦でなら可能なのか? 今なら毒を使えるフーリエさんもいるし、その辺の雑魚相手に試すよりは可能性はありそう? あ、でも物理毒への耐性は高くても、魔法毒への耐性は微妙か。

 でも、その辺の毒の耐性って詳しく知らないんだよなー。ステータスとして状態異常に1番影響があるのは知識のはず。毒を筆頭に、状態異常を主力にしている人ならいけるかも?


「まぁその辺も後だね。ともかく今は効果時間の延長を確認していくよ。『トキシシティ・エクステンション』『ポイズンクリエイト』『毒の操作』!」

「今度も見事に麻痺毒になったのさー! あ、なんか毒の横に『+』マークが付いてるです!」

「これは……毒の効果が延長されてる証かな?」

「そうみたいだなー! 後は実際に効果が切れるのを待ってみるしかないけど、上手くいってそうじゃん!」

「……これは強力!」

「そだね。まだ不完全な検証にはなるけど、それでも効果自体は確認出来そうで良かったよ」

「そこは風音さんに感謝だなー!」

「本当に風音さん、ありがとね!」

「……どういたしまして」


 風音さんが敵を捕獲してきてくれたからこそ、こうして実際に敵相手に試す事が出来てるもんな。それがなければ、この『トキシシティ・エクステンション』はすぐに使ってみる事は出来なかったしね。



 それからしばらく待機して、麻痺毒の効果がどの程度続くのかを確認していった。その結果としては……。


「動きを阻害する毒の、時間延長ってえげつないな! 4倍は長いわ!」

「袋叩きにするのが楽勝なのさー!」

「まぁそうなんだけど、これを使う前にどの毒が効くかの確認は必要かも?」

「あー、効かない相手に使っても延長効果は意味ねぇしな。強力な効果ではあるが……それ相応の下調べは必要か」

「……それは……仕方ない」

「だなー」


 どの敵にも問答無用で全部の毒が効く訳ではない以上、その手の確認作業は必須。耐性を下げれば効くようになるような相手なら、『トキシシティ・ブースト』との連携は出来そうだよな。あ、連携といえば……。


「これって『ポイズンマイン』にも効果はかけられるよな? 次に使う魔法毒の効果時間を伸ばすんだし」

「うん、仕様上はそうなるはずだね。……凶悪な罠が出来そう?」

「罠でもいいけど、ハーレさんとの連携がヤバくなりそうじゃね?」


 少なくとも『ポイズンマイン』がハーレさんの投擲の弾の一部に有効なのは判明している。初弾で奇襲して麻痺毒か神経毒にしてから、一気に強襲して仕留めるって動きも出来るはず!


「おぉ! それはありなのさー!」

「いや、ケイ、それは待て。危機察知持ちはPTに組み込んでくるはずだし、そう簡単には――」

「そこも想定済み! これも後で確認した方が良いとは思うけど、あくまでそっちは囮だ! 本命は、同時に設置出来る罠の方! 多分だけど『トキシシティ・エクステンション』の効果は、『ポイズンマイン』の3発分に全て効果が出るだろ?」

「……よくすぐにそこまで思いつくな。なるほど、要は危機察知で気付かれるのを前提にする訳か。そうなると、奇襲に失敗したと見せかけて罠がある位置に追い込む役……サヤか風音さん辺りがやるのがいいか?」

「おっ、そのアイデアもいいな!」


 毒そのものが効果を発揮しなくても、それを警戒して動くという状況を作り出せれば色々と出来そうだな。こりゃ、色々と手段を考えて――


「えっと、これ以上は脱線し続けそうだから、一旦止まってもらっていい?」

「あ、すまん!」

「……それもそうだな。まだ毒魔法Lv10もあるんだし、それを見てから考えた方がいいか」

「だなー」

「……ケイとアルが、思いっきり全力かな」

「頼もしいけど、味方で良かったのさー!」


 なんだかんだで、アルも色々とこの手の連携って考えてくるしね。その割には俺ばっか変な事を考えるみたいな扱いにしてくるけど、アルは間違いなく俺と同じ分類側だから!

 まぁ本格的に運用方法を詰めていくのはもう少し後でもいい。それこそみんなに検証内容を報告してから、みんなからも意見を出してもらうのもいいしね。


「口を挟む余地がないっすね!」

「いやー、すげぇとしか言いようがねぇ!」

「だよね、だよね! うわー! 検証しながら、こんな風に戦法も考えたりするんだー!」


 フェルスさん達が静かだと思ってたら、単純に言う事がなかっただけっぽい? 別に俺としてはそういう風に言われる実感はなかったりするけど、この手の事は得手不得手もあるからなー。

 戦闘が苦手な人もいるんだし、こういう風な事もあるんだろうね。そういう人達の為にも、頑張って占有エリアは勝ち取ってこないとなー! 採集やらアイテム加工やら中継やらでお世話になってる事も多いんだしさ!


「……次は……毒魔法Lv10!」

「あはは、風音さんは待ち切れなさそうだね」

「どんな魔法になるのか、楽しみなのさー!」

「それ以上に、アブソーブ系スキルに匹敵するスキルが気になるとこだ」

「そこは気になるよなー!」

「私もそれは気になるかな!」


 Lv10の魔法の効果はもちろん気になるけど、それ以上に上限Lvに達した事で手に入るスキルの効果は破格な性能をしているからね。基本属性の魔法なら性質自体は共有みたいだけど、例外属性の毒魔法は欠片も予想が出来ないもんな。

 Lv10の毒魔法自体も、地味に効果は不明。この辺は実際に取得して、性能を把握していくしかないもんね。完全に未知のスキルに貴重なスキル強化の種を注ぎ込むんだから、情報が無いのも仕方ない。だからこそ、今やってる事に価値がある!


「さてと、それじゃ毒魔法をLv10にしていくね。……なんか緊張してきた」


 そんな事を言いながら、ヨッシさんは毒魔法を上限となるLv10へと上げていく。ちょっとしたラッキーで実行可能になった事だけど、予定してた訳じゃないし、緊張する気持ちは分かる!


「……うん、毒魔法はLv10に上がったよ。えっと、称号は『毒魔法を極めしモノ』で、得たスキルは『アンチドート・コンバート』だね。効果は……魔法毒を分解して、自身の魔力値に変換するんだって」

「性質的には、アブソーブ系スキルに近いっぽいな? 名前は違うけどさ」


 吸収するのじゃなくて、分解するってとこが違うのか。アンチドートって名前も割と他のゲームでもある名前だし、コンバートは変換とかって意味だったはず。解毒して、魔力値に変換するって名前か。


「……分解するのは……魔法毒? ……毒魔法じゃなくて?」

「あ、確かにそこの言い回しは変かも? なんでだろ?」

「はっ!? もしかして、既に効果が発揮してる魔法毒を解毒出来るんじゃないですか!?」

「あ、そうか! 確かにそれはありそうだ!」

「無いとは言えない可能性だな」

「……試してみる価値は……ありそう?」

「あはは、その方が良さそうだね」


 もし、今の可能性通りだとしたら……ある意味ではアブソーブ系スキルよりも強力なのかもしれない! あ、そっか。根本的に毒魔法から発動する昇華魔法が存在しないから、こういう性能なのかも?


「それは試すけど、その前にこっちも伝えなきゃだね。毒魔法Lv10自体は『ポイズンクラスター』だってさ。ちょっと拍子抜けしちゃった」

「そこは特に変わらないんかい! いやまぁ、それでも十分凶悪な性能な気がするけどさ!」

「ふっふっふ、そういう事ならヨッシは魔法砲撃を取った方が良い気がするのです!」

「それはそうかもな? 他の部分ではいらないかもしれんが、Lv10がクラスターになるのなら、狙いを付けられる方が良いだろうよ」

「あ、それは確かにそうだね。後で取っておこうっと」


 ちょっと拍子抜けはしたものの、既に性能が大体把握出来てる内容だったのは良かったかもね。同じ系統だと分かっていれば、検証の内容も抑えめで済むし。

 ただ、完全に同じかどうかまでは分からないから、その辺は要検証だなー。味方に当たったら毒の刻印が出るのかどうか、かなり気になる! それと何発も同じ相手に当てた場合もかー。


 なんというか後回しにした事も多いけど、全部試し切れるかが怪しくなってきたな。まぁ出来る範囲内でやっていこう。別に俺らが全部やらなきゃいけない訳でもないしさ。

 

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