第1143話 調査を進めて


 羅刹の案内に従って先へ先へと進んで行くけど……これといって特に何もない! 赤の群集や青の群集の反応はたまにあるものの、お互いに一直線には進めないから全然戦闘にならない!?


「……出発する前に話してた内容の意味がよーく分かった。こりゃお互いに手出しが出来ないよ……」

「獲物察知持ち同士がいりゃ、こういう事態になる訳か……」


 こっちが近付いていけば遠ざかるし、こっちが遠ざかれば近付いてくるという繰り返し。相手側も俺らの存在に気付いているからこそ、そういう風にお互いに手出しが出来ない状態になってるんだろうな。

 もしくは完全に距離を取って戦い自体を避けようとするか、待ち伏せ位置を変えているような雰囲気。自分達は有利じゃない状況を作ろうとしてる感じだよね。


 一定の距離を取って離れないのが青の群集で、完全に離れて待ち伏せ場所を変えているのが赤の群集か。うーん、これは中々に厄介な状況。雑魚敵は全然襲ってこないからスルーしてるけど、瘴気が溜まってる場所もそう多くはないんだよな。


「いや、流石にここまで戦闘が皆無になるとは思ってなかったぞ。……ケイさん達、警戒されて避けられてねぇか?」

「……無いとは言えないなー。サヤ、ハーレさん、偽装した他の群集のプレイヤーって見つけてない?」

「見つけていたら、すぐに報告してるのです!」

「でも、色々と制限がある状態だから確実とも言えないような気もするかな?」

「まぁそりゃそうだよなー」


 ちょいちょいサヤとハーレさんが交代しながら、擬態している敵の索敵はしてくれてるんだけどね。自信がない時は看破も使っているけど、それで見破れたのは今のところ擬態した雑魚敵のみ。

 羅刹の言う通り、今は俺らが避けられてると考えるべきか? そうなると状況的に俺らの様子を監視してる青の群集の人がいそうな気がするけど、その発見も出来ていない。


 うーん、今の移動方法は死角が多いし、監視がいても不思議じゃないよなー。今の俺らの会話は全部PT会話になってるから監視してる人には聞こえてないはずだし、ちょっとみんなと対策を考えてみるか。


「もし俺らの動きを監視するとしたら、みんなならどうする?」

「サヤとハーレさんのスキルに頼らない索敵能力を考えれば、2人の死角を狙うとかか?」

「今の状況で1番の死角は真下だよね? 側面も死角は多いけどさ」

「見落とす可能性としては、クジラの真下が高そうかな?」

「真下を確認してきた方がいいですか!? それならすぐに見てくるよー!」

「あー、それはちょい待った」

「ケイさん、なんでー!?」

「いや、確認したい気持ちはあるんだけどな。別に今は無理に戦闘をしなくてもいいしさー」


 みんなも言ってるように、俺らの下に擬態した青の群集のプレイヤーがいる可能性はある。あるけども、今は俺の飛行鎧を使って移動してるけど、具体的にどう偽装してるかは知らないはず。

 ここで下手に見つけて戦闘になって、飛行鎧を強制解除にされてクジラを剥き出しにされたくはない。でも、監視されてるとしたら……その手段自体は確認しておきたいとこでもあるか……。


「あ、ケイが遠隔同調で切り離したコケを下に落として、それで確認するのはどうかな?」

「手段としてはありだけど……擬態してる相手を見つけられる自信はないぞ?」

「そこは看破で……あ、どっちにしても見つけた事は気付かれるんだよね」

「問題はそこなんだよなー。少なくとも俺がその立ち場で見つけられたら、とりあえず岩に1発攻撃は入れて、通常発動か移動操作制御かの確認くらいはするし……」

「アルマースさんのクジラを、確実に晒す状態になる訳か」

「折角のクジラでの奇襲攻撃が有効にならなくなる可能性があるんだな……」

「そういう事だなー」

「あぅ……厄介なのです……」


 今こうやってクジラを偽装してるのは、意表を付いて攻撃を仕掛ける為だしね。それを無理に戦闘しなくていい状態から、バレるリスクを負う必要もないだろ。


「なぁ、そのアルマースさんのクジラでの奇襲作戦は、アルマースさんが支配進化になっているかどうかを他の群集が把握してるかどうかにもよるんじゃねぇか? その辺ってどうなんだ?」

「え? それなら教えてないから、知らないはず……」


 いや、待てよ? アルが成熟体で支配進化になった後からはスキルの使用方法自体が変わってるし、そこを分析されてたら……気付かれてる可能性もあるのか。ダメだ、これに関してはどの程度まで把握されてるかの見当が付かない!?


「知られている可能性もあるだろうが、別にそれは問題ないだろ。本格的に衝突になった場合に、飛んでる木を即座に俺と見分けられる相手以外には有効なはずだぞ」

「……確かに他に実際に岩の上に乗って飛んでいる木のプレイヤーはいるし、バレたとしても多少は有効か。すまん、余計な事を言ったな」

「というか、それならバラした方が咄嗟の判断材料を増やせて、混乱させられるんじゃないかな?」

「あ、確かにそれはそうかも?」

「おぉ、その手があったのです!」

「あえてバラして警戒させるのは、確かにありかー」


 その方向性で考えるなら、ここで俺らの監視をしている奴に向かって実際に使ってみせればいい訳だ。そういう奇襲があると意識させておいて、下手に手を出しにくくさせる方向でいってみるのもありだな。


「ハーレさん、地面に下りて擬態してる敵を探してくれるか? アル、見つけたら即座に方向転換をして、その相手へ攻撃はいける?」

「そこは任されたのです!」

「いけるだろうが、方向転換はケイに任せていいか?」

「そりゃ別にいいけど、なんでまた?」

「いや、単純にチャージ中だと旋回が使えないだけだ」

「あ、なるほど! それは了解っと」


 流石にクジラで連続で突撃をするには場所が狭過ぎるし、使うとしたらそりゃチャージの方だよな。そうなると、俺の任意のタイミングで飛行鎧を解除した方が良さそうだ。


「よし、それじゃすぐに……と言いたいけど、微妙にここは狭いか。羅刹、近くに広めの十字路とかってある?」

「それなら……確かもう少し進めばあったはずだ」

「なら、そこで実行しよう。十字路に入った段階でハーレさんは地面まで下りて標的の確認。アルは十字路に入る頃に合わせてチャージを済ませておいてくれ」

「了解です!」

「おうよ! でも、なんで十字路でやるんだ?」

「あー、一気に方向を変えて困惑させてやろうかなーと。その後、アルと俺とハーレさんで見つけた相手をぶっ潰すぞ。場合によっては、サヤとヨッシさんも加わってくれ」

「分かったかな!」

「確実に仕留めるんだね」

「そういう事。羅刹は青の群集には隠しておきたいから、今回は温存で!」

「その方が良いだろうな。了解だ」


 十中八九アルのクジラの下には何かがいるだろうけど、ここでその相手を仕留め切る! 予定してた使い方とは変わるけど、これはこれでメリットがありそうだしな。


「あ、ケイ、少しいいかな?」

「ん? どした?」

「もし十字路を曲がった先で待ち伏せがあった場合はどうするのかな?」

「その場合は……そっちに突っ込んで、そのまま突破で! アル、それでもいいか?」

「別に俺はそれで構わんぞ。サヤ、そういう事みたいだが、問題ないか?」

「うん、それならそれで大丈夫かな!」


 よし、それじゃその方向で決定! あんまり大々的に戦いたくはないけど、監視されっぱなしっていうのも気に入らないしね。ここで安全圏に送り返してやる!



 ◇ ◇ ◇



 それから少し進めば、マップに前方に十字路が表示され始めてきた。さて、ここから準備をしていきますか!


「アル、先に俺が獲物察知で待ち伏せの確認をするから、それが終わったらチャージの開始を頼んだ!」

「おうよ!」


 獲物察知の妨害がされてなければ、何かしらの反応は出てくるはず。逆に何の反応もなければ妨害されている可能性は高いから、その場合は待ち伏せに突っ込んで行く方向をメインに考えよう。


<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します>  行動値 108/113(上限値使用:8)


 えーと、反応は……十字路を右に曲がった先に黒い反応がチラホラと……って、翼竜は何体か飛んでるのか。まぁこれは無視でいいや。

 他の反応は、左に曲がった先に灰の群集のプレイヤーの反応が1PT分。少し先の方だし、邪魔になりそうではないから問題ないな。真正面でもいけそうだけど、急な方向転換で不意打ちにしたいから却下で。


「右側は翼竜が何体かいるっぽいから却下。左側なら特に問題なさそうだから、左に曲がっていくぞ!」

「おうよ! それじゃ準備を始めるぜ! 『魔力集中』『白の刻印:剛力』『砲弾重突撃』!」


 完全に俺の飛行鎧の岩に覆われてるから、アルのクジラが白光と銀光を放ち出す様子は見えないね。魔力視で刻まれた刻印の種類はプレイヤー名やHP表示の下に表示されてるけど……多分、真下にいるなら見えてないはず。

 その辺は基本的にキャラの上部に表示されるし、死角があるのはお互い様だ。それが確認出来る位置にいる相手なら、サヤかハーレさんが見つけられるだろうしね。

 それにしても、よく考えたらアルが大型化を発動する余地がなかったんだな。大型化を使いたいなら、連撃の方でやらなきゃ駄目かー。まぁ小型化したままでも威力はあるし、別に問題はないはず!



 ◇ ◇ ◇



 そこから十字路に入る直前まで移動してきた。そろそろアルのチャージは終わるはずだし、変に十字路に入る前に止まるような事にはならないだろう。


「よし、チャージは完了だ!」

「ほいよっと! ハーレさん、頼んだ!」

「了解なのさー! えいや!」


 あ、アルのクジラの尾ビレの方から行くのかと思ってたけど、頭の方から飛び降りていったよ。俺が見えた範囲で、クラゲの傘を広げてパラシュート状態で飛び降りていったか。

 ここでハーレさんの報告で声が出てしまうのは確実だろうけど、まぁその直後に戦闘をするんだから別に問題はないな。


「はっ!? ケイさんの飛行鎧に、カメレオンが張り付いているのさー!?」

「はい!?」


 ちょ、ゆっくりペースで進んでたから真下の地面にいるのかと思ったら――


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 108/113 → 108/119(上限値使用:2)


 ちっ、今のタイミングで飛行鎧が強制解除になったって事は、バレたのに気付いて破壊してきたか! 真下に青い矢印の表示も出たけど、このままじゃ俺の飛行鎧に張り付いていたっていうカメレオンへの攻撃に失敗する!


「ケイ、どうする!?」

「俺の方で方向修正をするから、そのまま地面に押し潰せ!」

「どうやる気かは知らんが、任せるぞ!」

「ケイさん、フォローするよ! 『並列制御』『アイスプリズン』『エレクトロプリズン』! うん、捕獲成功!」

「ヨッシさん、ナイス!」


 俺からは様子は見えてないけど、樹洞から出てきたヨッシさんがカメレオンを複合魔法のエレクトロケージで捕まえたっぽい。これなら逃しはしない!


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 107/119(上限値使用:2): 魔力値 299/302

<行動値を3消費して『水の操作Lv7』を発動します>  行動値 104/119(上限値使用:2)


 同時操作数が4つに増えたから、2つはアルの頭の方を、2つは尾の方に打ち据えて、角度を調整! チャージは味方からの衝撃じゃ解除にはならないから、これで問題ない! よし、ヨッシさんが捕らえたカメレオンの姿が見えた!


「アル、そのまま落下の勢いも使って押し潰せ!」

「おうよ!」

「捕獲は解除するよ!」

「な、なんだ、それ!? ぐふっ!」


 アルのクジラが眩い銀光と白光を放ちながらカメレオンを押し潰していく。おぉ、白の刻印で威力強化をしているから大ダメージ!


 でも、これだけじゃ倒し切れてないし、アルのクジラの向き的に仰向けになってしまいそう!?

 さっき使った水の操作をアルのクジラが変な方向に倒れないように、クジラの顎に腹部の方から真横に4連発を打ち付ける! よし、少し持ち上がって体勢が良くなった!


「『根脚移動』! ケイ、助かったぞ!」

「アルこそ、ナイス着地! ハーレさん、追撃を頼んだ!」

「はーい! 『魔力集中』『爆連投擲』!」

「ぐはっ! がはっ!」


 小型化していたとはいえ、それでも結構な巨体のアルの攻撃を受けてカメレオンの人は朦朧になってたね。そこにハーレさんが次々と爆発する銀光が強まっていく弾を投げつけていく。

 おー、爆発でちょっとずつだけど、カメレオンの人が吹っ飛ばされてますなー。そこまで重量がない種族で、踏ん張れる状況じゃなければこういう風に吹っ飛んだりもするんだね。


「あぅ……ちょっと削り切れなかった!? サヤ、最後はお願いなのさー!」

「任せてかな! 『魔力集中』『連強衝打』!」


 そこへいつの間にか樹洞から出てきていたサヤが、倒れ伏しているカメレオンの人に向かって地面に叩きつけるように攻撃を放っていく。残りHP的にLv1の連強衝打でも威力は足りたみたいで、カメレオンの人はポリゴンとなって砕け散っていった。


「戦闘終了! みんな、すぐに移動状態に戻して離れるぞー!」


 みんな、戦闘中には思いっきり発声してたけど、俺の号令には特に返事なし。今の俺の号令は覆ってる水の中での発声だから、他の人には聞こえてないからそれでいい!

 戦闘音を聞きつけて他の人達が駆けつけてくる前に、この場を離れるぞー! 大急ぎで水の操作は破棄! それでこれだ!


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 103/119(上限値使用:2): 魔力値 299/302

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 84/119(上限値使用:2)


 飛行鎧はしばらく使えないから、通常発動で! みんなもすぐに移動の状況に戻ったし、ここは少し速度を上げて十字路は直進していこう!

 あー、それにしても俺の飛行鎧にくっ付いてたとは思わなかった。岩の表面は感触が無いから気付かなかったよ。そういうやり方もあるのは、参考になったね。

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