第1122話 成熟体のフィールドボス討伐戦 その3


 順調にワニのHPを削れてると思ったけど、サヤが危うく死にところだった。というか竜の方だけで考えるなら実際に死んでいる。サヤのクマが物理型で耐久性があるのと、アルからの枝の操作での回復でギリギリ。……やっぱりこのLv差は厳し過ぎたか。

 まだテンペストの発動中で、ワニは雷鳴の轟く竜巻の中で吹っ飛んでるけど……ここからどうしよう? ……いや、そんな弱音を吐いてる場合でもないか。無茶だったのは元々承知の上だ!


「ここから先は完全に臨機応変でいくぞ! サヤはHPの回復、ヨッシさんは魔力値の回復を最優先! アル、2人を連れて上空へ行ってくれ!」

「……あはは、この状態じゃそうなるかな」

「そだね……。流石に消耗が激しいし」

「そりゃいいが……ケイとハーレさんと風音さんはどうする?」

「ハーレさんは俺の方に来てくれ。風音さんには俺らを乗せてワニを引きつけてもらう事になるけど、いいか?」

「……任せて。……さっきのは……魔力値自体は使ってないから……まだいける」

「了解なのさー!」

 

 とりあえず行動方針はこれで決定。アルのクジラの上で、サヤはHPを回復中。ここからアルとハーレさんの新スキルの取得条件も満たしていかないといけないんだよな。……あ、サヤの竜が死んだのはどうしよう?


「アル、ちょっと確認! 戦闘中に共生進化の相手が死んだ場合、戦闘に勝った後の経験値はどうなる!?」

「あー、サヤの竜の分か。流石に全部ではないが、8割くらいは入るはずだ。一度サヤだけ離脱して共生進化に戻してきて戦線復帰って手段もあるにはあるが、こっちの手段だとクマの方も経験値は……今の状況なら9割……いや8割くらいに減るか? いない間のダメージ量の分だけ、経験値が減るからな」

「え、そうなのかな!?」

「マジかー」


 地味にこういう状況になった事がないから把握してなかったけど、そういう仕様になってるのか。一度ログアウトしなければ共生進化には戻せないし、ログアウトする為には戦闘状態から離脱する必要がある。

 竜は8割の経験値と割り切ってクマだけで戦うか、共生進化に戻す為に両方の経験値を8割に減らすか、そういう2択……。ちっ、この辺は共生進化のややこしいところか!


「サヤ、どっちにするかは任せる! ただ、悪いけど考える猶予はあんまりない!」

「……ズレが出る方が後々面倒だし、共生進化に戻してくるね!」

「ほいよっと! あー、そうなるとアルの上はマズいか」

「確かにな。それなら一旦降りて――」

「これくらいの高さなら問題ないかな!」

「サヤ!?」

「わっ!? サヤが飛び降りたのさー!?」

「……ダメージがないからって、無茶するなー」


 まだ全快になってないサヤだけど、まだ高度を上げる前だったから思いっきり飛び降りた。でも、今のって飛び降りる必要ってあったか? あ、そういえばこの状況だとどういう条件で戦闘状態の解除になる? 倒し終わった時は単純に時間経過だけど……。


「アル、戦闘状態の解除はどれくらい待てばいいのかな!?」

「待つんじゃ駄目だ。PT自体が戦闘中の場合は、経験値が入らなくなる距離まで離れろ」

「そういう基準なの!? でも、分かったかな!」

「急げよ、サヤ!」

「うん!」


 あー、なるほど。こういう状況では戦闘中のPTメンバーとの距離が基準になってくるのか。大急ぎで俺らから離れていってるけど、出来るだけ早く戻ってこいよ、サヤ!


「……そろそろテンペストが切れるよ」

「ほいよっと。ハーレさん、俺の上に乗っとけ!」

「はーい!」

「あ、切れた。それじゃ私はアルさんの方だね」

「しっかり掴まってろよ! 『高速遊泳』!」


 よし、これでアル達は上空へと退避した。ヨッシさんに物理毒を試してもらいたかったりもするけど、サヤで避けられなかったワニの噛みつきだ。迂闊にヨッシさんをワニの懐には飛び込ませられないし、今回は魔法をメインにしてもらおう。電気魔法はよく効くしね。

 さーて、それじゃ俺らはワニを相手に時間稼ぎといきますか! 行動値は回復させておきたいし、不在時に与えたダメージ分だけサヤの経験値が減るなら攻撃は控え気味がいいか。風音さんには――


「……低空飛行で……ワニを引きつければいい? ……それもサヤさんとは逆の方向で?」

「サヤと離れる方向で頼む!」

「……任せて! 『高速飛翔』」

「ハーレさんは俺と交代しながら、ワニの攻撃を食い止めるぞ!」

「了解なのさー!」


 このエリアの木々に当たるかどうか、ギリギリの位置を風音さんが飛んでいく。そしてその後ろからは盛大に突撃をして木々を薙ぎ倒して追いかけてくるワニの姿が……ない!? いや、サヤの向かった方へ行ってるぞ、これ!? くっ、そっちの方を狙ってきたか!


「……追ってきてない!?」

「これ、サヤの方が低い位置にいるからか!」

「だったら、こうなのです! えい! 『狙撃』『狙撃』『狙撃』!」

「ハーレさん!? 風音さん、戻ってくれ!」

「……うん!」

 

 くっ、ハーレさんは地面に飛び降りて自分だけで囮になる気か!? いくらなんでもあのワニ相手に1人での囮は危険過ぎる!


「ふっふっふ、ワニが向きを変えたのさー! 『逃げ足』! こっちに付いてくるのです!」

「ちょ、地味にハーレさんが速!?」

「……すぐ追いかける!」


 そういえばハーレさんには、追われている時に移動速度が速くなる逃げ足があったんだった。あれはスキルだから、魔力集中の効果もかかってるっぽいな。サヤが向かった方角とは違う方に逃げてるけど、それだけで俊敏の特性を持ってるフィールドボスのワニを相手に――


「わっ!? 『略:ウィンドボム』! わー! 『略:ウィンドボム』!」


 あー、なんとか爆風で自分を吹っ飛ばしながら、ワニから逃げてはいるね。でも、全然余裕は皆無じゃん!?

 ワニもハーレさんも、風音さんより移動が速いんだけど、この状況は一体どうすれば!? 風音さんは自己強化を使ってるのに、俊敏の特性や逃げ特化のスキルの影響で移動速度にかなり差が出てるっぽいな。


「……追いつけない!」


 考えろ、考えろ! このままハーレさんが逃げ続けても、行動値や魔力値が尽きたらその時点で今度はハーレさんが死にかねない。せめてワニの動きを制限出来ればいいんだけど、ただ普通に攻撃しただけで意味があるのか?

 遠隔同調でコケを分離して、そっちに誘導する? いや、この状況じゃ分離したコケとワニとの距離がすぐに開き過ぎて、攻撃を狙えるかが怪しい。ハーレさんに迂回してもらって俺らと再合流……あ、そうか!


「ハーレさん! ワニが突っ込んできた瞬間に真上に自分を吹っ飛ばして、ワニを先に進ませろ!」

「はっ!? 了解なのさー!」

「風音さん、そのタイミングでハーレさんを回収する!」

「……分かった!」


 かなり危険な博打だけど、そうも言ってられない状況だしな。よし、そうしてる間にサヤがログアウトをしたのを確認! 危うい状態だけど、ハーレさん、時間稼ぎはよくやった!


「ケイ! 今のうちに俺とヨッシさんは、サヤが戻ってきたらすぐに合流出来るようにログアウトした位置の上空に移動しとくぞ!」

「ほいよっと! そっちは任せた!」

「おう!」


 アルがサヤのログアウトした位置まで行っててくれるなら、戻ってきたら即座に合流が出来る。それまでにハーレさんを回収して、逃げ切れればかなりアル達の方は回復出来てるはず!


「今なのさー! 『略:ウィンドボム』『略:傘展開』!」

「減速までやるのは、ナイス判断!」


 真上に吹っ飛んだハーレさんの回避で、ワニの突撃は完全に空振り! そのまま真正面の木々に突っ込んでなぎ倒していってるけど、ハーレさんはクラゲの傘を広げて一気に急減速をしている。これなら、俺らと合流は出来る! 飛行鎧で受け止めるのは……勢い的に良くはないか。なら、これで!


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 70/108(上限値使用:7): 魔力値 267/290

<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 67/108(上限値使用:7)

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『水の操作Lv6』が『水の操作Lv7』になりました>

<『水の操作』の同時操作数が3から4になりました>


 ちょ、こんなタイミングで水の操作のLvが上がるんかい! いや、嬉しいの嬉しいけど、もっと余裕があって喜びやすい時にしてくれない!? ともかく今はそれよりもハーレさんの回収が先!

 よし、生成した水でハーレさんを包み込んで、俺のロブスターの上に置いて操作は解除。なんとかハーレさんの回収は成功……って、ワニが俺らの方に向きを変えてきた!?


「風音さん、俺の方で足止めするから、その間に逃げてくれ! ハーレさんは無茶し過ぎだ! 少し休憩してろ!」

「……うん!」

「了解です!」


 あんな綱渡りな回避、相当神経を使ったはず。すぐにワニへ対処を任せるべきじゃないし、ここは俺がやるべきところ! 行動値も魔力値も、俺にはまだ結構余裕がある……って、ワニが銀光を全身から放ち出した!? しかも白い杖のマークあり……ん? これって、連撃の突撃っぽいな。だったら、これだ!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値2と魔力値6消費して『水魔法Lv2:アクアボール』は並列発動の待機になります> 行動値 65/108(上限値使用:7): 魔力値 261/290

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値4と魔力値6消費して『水魔法Lv2:アクアボール』は並列発動の待機になります> 行動値 61/108(上限値使用:7): 魔力値 255/290

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 どっちも魔法砲撃にして、両方のハサミから水弾を撃ち出す! ははっ! 上がったばかりの水の操作で同時操作数が3から4に増えたから、合計で8発の連射だ! 連撃数のカウント、あっという間に使い切らせてやる!


「みんな、戻ったかな!」

「サヤ、おかえりなのさー!」

「サヤ、引き上げるから登ってこい! 『根の操作』!」

「ありがとうかな!」

「サヤが戻ったか!」

「……良かった! ……それじゃ……また逃げる!」


 とりあえずワニの連撃は阻止して、再び逃走へと移行。戦闘時間は既に10分をとうに過ぎてるか。刻印系スキルがどれでも使える状態にはなってそうだけど……って、やばっ!? もう少ししたら、みんなの魔力集中や自己強化の時間が切れてくる頃か! その前に攻撃を盛大に叩き込んだ方がいいな。その為にも状況の確認!


「アル、そっちの方は回復状態は!?」

「ヨッシさんの魔力値は全快だ! サヤはどっちもまだHPは安全な水準じゃねぇが、これで一気に回復させる! 『果実生成』『枝の操作』!」

「アル、ありがとかな!」


 ふむ、これで全快でこそないけど、サヤは危険水準からは脱した。なんだかんだで思った以上にハーレさんが単独で逃げ回ってたので時間が稼げてたのか? あー、そういや新スキルに取得条件は今どうなってる? 状況が状況だから、何がどう達成出来たか混乱してきたんだけど!


「って、また水の球かよ! だったら、これだ! みんな、閃光いくぞ!」

「おうよ! 俺もその後、攻撃に加わるぞ! 『砲弾重突撃』!」

「ほいよっと!」


 川からはかなり離れたし、青いモヤも見えたから今回のは魔法で生成した水だな。アブソーブ・アクアで吸収してもいいけど、ここはあえて視界を潰す!

 そこからウォーターフォールを使ってくる可能性が高いから、そこで吸収してやる! アルのチャージ完了よりもそっちの方が早いだろうしね。


<行動値を3消費して『閃光Lv3』を発動します>  行動値 58/108(上限値使用:7)


 よし、ワニに盲目が入って……思った通り、口と脚に青いモヤが出てきた! やっぱり、このワニの昇華魔法の誘発条件は視界を潰す事! そうすれば魔法砲撃にした状態で使ってくる!


<行動値上限を10使用して『アブソーブ・アクア』を発動します>  行動値 58/108 → 58/98(上限値使用:17)


 ワニの魔力値はそこまで回復してるとは思えないけど……って、そうでもない!? あ、でも今回は全部吸収し切れたっぽいな。


<過剰魔力値を水魔法の強化に使用しますか?> 魔力値 400/290


 なんだかんだで、ワニの魔力値はかなり回復してたみたいだし、ここで吸収し切れたのは良かったのかも?


「今が攻撃のチャンスなのです! 『連速投擲』!」

「ケイさん、今ので過剰魔力値は手に入ったの?」

「無茶苦茶多いってほどではないけど、それなりには。ヨッシさん、何か考えがある?」

「うん、まぁね。サヤと私で、予定通りの〆をやっていい?」

「あれかー。まぁサヤの竜も復活してきたし、それでいくか!」

「……その前に、時間を稼ぐ。『並列制御』『共生指示:登録2』『アースクリエイト』」


 おっ、これはデブリスフロウだな。アルのチャージが完了までに時間がかかるから、その間の時間稼ぎでワニを土石流で押し潰してくれたのか。ははっ、今のでHPはもう少しで半分近くまで減ったし、効果が切れた頃にはアルの銀光が眩い状態になってる!


「チャージ完了だ、おらよ!」

「アル、その後すぐに追撃をいくかな! 『突撃』『略:黒の刻印:脆弱』!」

「おうよ! って事だ! 風音さん、離れといてくれ!」

「……分かった!」

「おわっ!?」

「アルさん、いっけー!」

「いくぜ! 『白の刻印:剛力』『並列制御』『旋転連突撃』『ルートスキューア』!」


 慌てて飛行鎧の岩で固定して、風音さんの黒い龍ごとアルの攻撃範囲から強引に離脱は出来た。これはちょっと前にもやった、樹木魔法で串刺しにした状況で白い剣のマークを表示させつつ、銀光を纏った連続体当たりだな!

 今の一連の攻撃でワニの残りHPは4割! けど、何か今のはちょっと違和感があったような? なんだろ、今の違和感。


「おし、これで俺の条件は達成になるな。まだ未達成なのはハーレさんだけか?」

「えっと、拡散投擲がまだもう1回なのさー!」

「その再使用時間は、どうだ?」

「もう過ぎてるよー!」

「だそうだぞ、ケイ!」

「状況は把握した!」


 条件達成で残っているのはハーレさんの拡散投擲のみか! ワニの残りHPを考えたら、ヨッシさんの氷魔法の方も狙えそうな気がするけど欲を出すのはやめておこう。少しの油断が、サヤの竜の死という結果に繋がったんだしさ。

 まだアルのどんどん銀光が強くなっている突撃攻撃が続いている最中だから、今がチャンスか! さて、それじゃ更なる攻撃の為に……って、サヤの黒の刻印がまだ効果を発揮してるよ!?


「ハーレさん、今刻まれてる黒の刻印が消えたら俺が新しいのを刻むから、そこで白の刻印を使った拡散投擲で!」

「了解なのさー!」


 次々と刻印系スキルの強化や弱体化の影響のある攻撃を受けていくワニのHPはかなり減った。もっと長期戦になる覚悟はしてたけど、よく考えたらこのワニは自己強化に切り替えてないんだな。

 ただ使わないだけなのか、それとも使うようになるパターンを踏んでいないだけ? もしかすると、昇華魔法で魔力値を尽きさせた影響があったのかもしれないね。

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