第1115話 名も無き未開の河口域


 とりあえず叫び声が聞こえた川に向けて移動中。獲物察知には敵の反応が割とあるし、刻印石の追加入手もしたいんだけどね。まぁ優先順位としては後!


「ケイさん、ケイさん! 危機察知に反応があったらどうしますか!?」

「その場合はアンデッド系じゃなければ倒していくかー。ここのLv帯も知りたいし……って、そうか。よく考えたら、ここは適正Lvが高い可能性もあるのか!」

「……そういやそうだな。すごい当たり前な事を見落としてたか」


 人が少ない可能性として、これはさっき思い当たっておけよ、俺! 強者揃いも赤のサファリ同盟なら多少のLv差なんてのは気にしないだろうけど、灰の群集の面々でそういう事が出来る人達は今はトーナメント戦に参加してそうな状況だよなー!


「よし、途中で敵を1体、識別してみるか」

「それが良いかもね?」

「賛成かな!」

「……うん」

「って事で、アル! ここから右前方にいる敵で試すぞ!」

「おうよ! って、右前方の敵ってどれだよ!?」

「矢印しか見えてないから、分からん!」

「えっと……あっ!? ……それはスルーしてもらっても良いかな?」

「え、サヤがそういう反応をするって事は、もしかして……」

「ヨッシの思ってる事は正解なのさー! その敵、大きなクモなのです!」

「おし、ケイ。他の敵を探せ」

「ほいよっと!」

「……サヤはクモが苦手?」

「……あはは、そうなるかな。みんな、ありがとね」

「……それなら仕方ない」


 サヤがクモが苦手なのは結構前から分かってる事だしね。なんというか、サヤって苦手意識があるものはとことん苦手って感じだよな。まぁそれが悪い事だとは思わないし、ゲームなんだから楽しくやるのを優先で、苦手なものに無理に慣れろという気もないけど。俺だってヘビに慣れろと強要されるのは嫌だし。

 まぁともかく他の敵は色々な場所にいるから、無理に今のクモにこだわる理由もない! って事で、他の敵を探していきますか!


<ケイが成熟体・暴走種を発見しました>

<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>

<ケイ2ndが成熟体・暴走種を発見しました>

<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>


 おっと、発見報酬が出たって事は黒の暴走種がいるのは確定。確定だけど……地味にどれなのかが分からないんだけど?


「サヤ、ハーレさん、左下の方に敵がいるけどどれか分かるか? さっぱり分からん」

「えっと、もう少し具体的な場所を教えてもらっていいかな?」

「んー? ケイさんが言ってるのがどれかよく分かんないのさー?」

「あー、まぁそりゃそうか。アル、一度速度を落としてくれ」

「おうよ」


 矢印で指し示されてても分からない状態なんだし、ちょっと無茶振りをし過ぎたな。どうも木を指し示してるっぽく見えるんだけど、その木から黒いカーソルは出てないから違うはず。蔦が幹の表面にあるから、その裏に何かがいる?


「近くに水の操作で目印を作るから、それで確認をよろしく!」

「はーい!」

「任せてかな!」


 さて、それじゃ目印用の水を生成していきますか! さーて、何かの昆虫系かな? 獲物察知に反応があるんだから、特に擬態はしてないはず。


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 114/115 : 魔力値 287/290

<行動値を3消費して『水の操作Lv3』を発動します>  行動値 111/115


 黒い矢印の指し示している木の目の前に、水を生成。今回は目印って事で球状にはせず、指し示し先の方を細くするように形を整えておく。魔法砲撃で撃っても良かったけど、識別で確認したいからこういう形で!


「……ケイ、これは蔦が敵かな」

「普通に黒いカーソルが出てるのさー! 他に変な反応があるのかと思ったけど、なんで見落としてるのー?」

「え、マジか!? 黒いカーソル、どこ!?」


 マジで黒いカーソルが見つけられないんだけど、どうなってんだ、これ。俺だけ黒いカーソルが表示されてない!? もしかしてバグか?


「……もしかすると、こういう事か? ケイ、少し高度を変えるぞ」

「え、なんで……って、獲物察知の黒い矢印で黒いカーソルが隠れてただけかい!」

「あはは、そういう事もあるんだね」

「今のはマジで見つけられないって! あー、でもバグじゃなくて良かった」


 アルが少し高さを変えた事で獲物察知の矢印の表記がズレて、普通に黒いカーソルが見えるようになってホッとした。そりゃ獲物察知の矢印が見えてない俺以外なら、そういう現象は発生しないよなー!

 うーん、バグではないけど微妙に良い状態ではないか。でもこれはそう頻繁するような事でもないし、少し位置をズラせばそれで解決する話。改善要求を出すほどでもない? いや、今はそれはいいや!


「……あの蔦を識別?」

「だなー。識別は俺がやるから、風音さん、新魔法で思いっきり暴れてみるか?」

「……うん! ……少し魔力値の回復をしてから……『フレイムランス』」

「おっ、まずは炎魔法からだな」

「風音さんが準備をしてる間に識別を済ましておくかー!」

「ケイ、任せたかな!」


 てか、応用魔法スキルを溜めながらでもレモンを齧って魔力値の回復って出来るんだ。これは地味に初めて知ったなー。対人戦だとそんな余裕は無いだろうから無理な気がするけど、今みたいな状況では有用な手段だね。

 それはともかく風音さんが炎を凝縮させている間にサクッと識別をしてしまおう。さて、どのくらいのLv帯なんだろ?


<行動値を5消費して『識別Lv5』を発動します>  行動値 109/115


『激打刺巻き蔦』Lv10

 種族:黒の暴走種(激打刺巻き種)

 進化階位:成熟体・黒の暴走種

 属性:草

 特性:打撃、刺突、伸縮、拘束、一撃強化


「げっ!? 思った以上にLvが高いんだけど!?」

「いくつだ!?」

「Lv10! 名前は『激打刺巻き蔦』で、属性は草、特性は『打撃』『刺突』『伸縮』『拘束』『一撃強化』! 物理型の草花で、地味に攻撃的で厄介かも!」

「……この程度の差なら……問題ない」

「あ、そういや風音さんが1番Lvは高いもんな」


 俺らは風音さんを除けば、今はみんなLv5である。でも、風音さんはLv7にはなってるもんな。Lv10の敵とはいえ雑魚敵だし、火属性での攻撃かつ、物理型に対しての魔法攻撃だ。Lv3差くらいなら、どうとでも埋められる範囲か。

 おし、初撃は風音さんに任せて、その後の状況に合わせてどう倒すか考えていこうっと。アルの海水や、ヨッシさんの腐食毒や溶解毒は有効なはず。


「こっちのエリアに来てる人が少ないのは、このLvのせいっぽいかな?」

「敵のLvが分かったら、そんな気がしてきたね」

「成熟体でLvが上がってなかったら、すぐにこっちに来たら危険なのさー!」


 俺らは競争クエストで城塞ガメやクエスト自体の参加ボーナスで経験値は貰ってるから、それでLv5まで上がってるしね。緊急クエストで成熟体のLv上げをしてる人もいるだろうけど、それでもLv10の敵が出てくるこのエリアはまだ余裕でもないはず。

 Lv5差くらいなら進めなくはないけど、まぁもう少し調査をしてみてから、このエリアの探索を続けるかどうかは考えよう。……川の方での悲鳴が、より気になってきたけども。


「……準備完了。……いくよ」

「ほいよっと!」

「……フレイムランス、射出」


 その風音さんの声と同時に、凝縮された炎が複数の槍状に形を変えて撃ち出されていく。おぉ、今のでHPの半分は削ったから、相性が良かったのもあるだろうけど凄い威力! 蔦が巻き付いていた普通の木もろとも、思いっきり焼き貫いてるよ。


「……っ!」

「風音さん! 『自己強化』!」


 攻撃した風音さんに対して蔦を伸ばして刺してきたけど、サヤが直前で掴んで攻撃を阻止している。うん、ナイス反射神経!


「……サヤさん、ありがと」

「どういたしまして! って、巻きついてきてるかな!?」

「……丁度いい。……サヤさん、そのままで。『魔法砲撃』『ファイアウィークン』」

「あ、特大の弱体化が入ったかな! それじゃこのまま捕まえておくね!」

「……お願い。……これで終わらせる。『ファイアクラスター』」


 そこから巻き付いていた木を失った蔦がヘビみたいに逃げ出し始めていた。でも、サヤに引っ張られた状態で逃げられず、風音さんの黒い龍の口から次々と飛ばされる火の粉が周囲に漂っていく。

 ははっ、こりゃ蔦に逃げ切る余地がないな。色んな条件的に、蔦にとっては相性が最悪過ぎたね。


「……これでトドメ」


 そしてその風音さんの一言と同時に上空へと巨大な火の球が撃ち出されて、それが複数に分割されて次々と照準となる火の粉の元へと叩き込まれていった。なるほど、全弾を1体相手に叩き込むのもありなんだな。

 あ、今ので蔦のHPが全て無くなってポリゴンとなって砕け散っていった。Lv差があってもこれだけあっさり倒せたのは、属性の相性や物理と魔法の相性の影響は大きいなー。特大の弱体化も入ってたのもか。


<ケイが成熟体・暴走種を討伐しました>

<成熟体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>

<ケイ2ndが成熟体・暴走種を討伐しました>

<成熟体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>


 よし、無事に討伐報酬もゲットしたし、結構な量の経験値も入ってきた! でも、このあっさりな討伐は風音さんだったからか。まだ成熟体に進化したての人達なら……PTでも壊滅しかねないLv差でもある。俺らでも、もうちょい手間取った可能性はあるしね。


「風音さん、お疲れさん。炎魔法や火魔法Lv10を使ってみての感想はどう?」

「……この威力は凶悪。……でも、今の1戦は相性の要素が大きい。……ここの敵の上限Lv次第だけど……まだ進出は早いかも?」

「あー、やっぱりそんな印象か」

「俺もその意見には同意だな。……さっきの悲鳴は、そこら辺を見誤った人が襲われた結果かもしれん」

「その可能性はありそうなのです!」

「そだね。思った以上にLvが高いみたいだし、一度戻ってから刻印系スキルとか他の上位の応用スキルとか、その手の準備を先にした方がいいかも」

「だなー。って、サヤ? どうした?」


 ヨッシさんの一度戻るという意見には賛成なんだけど、どうもサヤが何か考え込んでるっぽい。何か気になる点でもあったか?


「ちょっと気になる事があってね。ここの命名クエストってどうなるのかな?」

「あ、そういやどうなんだ? 何かここのエリア特有のクエストがある?」


 確か調査クエストや整備クエストがあるエリアは、それらのクエストをクリアする事で命名クエストが発生するはず。そういうクエストがここのエリアにある可能性は……いや待て! サヤが気にしてるのは、多分それじゃない!

 命名クエストの発生の条件はもう1つ存在するし、Lv10の敵が出てくるのならこの可能性は否定出来なくなってきた。ははっ、もしそうなら……このエリアは思った以上に現時点ではヤバいかもしれないなー。


「サヤ、自然発生のフィールドボスがいる可能性を考えてるのか?」

「うん、当たりかな。……場合によっては、川にいるのがそうなんじゃないかって気がしてる」

「はっ!? それはあり得る可能性なのです!?」

「……否定する要素が見つからねぇな。もしそうだとすると、Lv10どころじゃねぇかもしれん」

「それって、今の私達のLvで倒せるの?」

「……分からない」


 本当にフィールドボスがいたとしても、その種族が何かにもよる。まだ蔦1体のLvしか確認してないから、ここのLv帯の幅は不明。Lv5刻みくらいで設定されていて、蔦のLv10が下限だと仮定するとLv15のフィールドボスが存在してもおかしくはない。Lv7やLv10刻みなら……今の時点で手を出すのは、進化階位が同じなら勝てない訳じゃないけど、結構無茶だな。

 流石にLv10以上も差があるフィールドボスとの戦闘は無謀か? 無謀かつ危険過ぎるけども、そこは確認しときたいとこだよなー! 


「ちょっと無茶を承知で、その辺を確認しに行くか? 俺の獲物察知で、フィールドボスかどうかの判別は出来るしさ」

「ケイ、少し待て。その辺の報告が無いかを情報共有板で確かめておく。既に試してる人がいるかもしれんし、もう存在が判明してるなら変にリスクを負う必要も無いだろ」

「あー、それもそうか。それじゃ確認は任せた!」

「おうよ。少し待ってろ」


 あ、アルだけに任せず俺らも一緒に確認しに行った方が良かったかも? 今からなら間に合うし、とりあえず――


「風音さん、ちょっと気になった事があるんだけど、いい?」

「……いいけど……ヨッシさんは何が気になった?」

「えっと、ブラックホールの仕様がね? ほら、ブラックホールって溜めじゃないし、任意でキャンセルしてたりしたじゃない? でも、暴風魔法のゲイルスラッシュはそういう事はしてなかったし、どうなってるのかなーって思ってね」

「あ、それは俺も気になってたやつだ!」


 聞こうと思ってたのに、今の今まですっかり忘れてたよ! てか、ヨッシさんも気になってたんだなー。あ、氷や雷の応用魔法スキルの取得も検討してたんだから、その辺は気になって当然でもあるか。


「……それはブラックホールが特殊なだけ。……知ってる範囲では……他の応用魔法スキルでは……被弾しない限りキャンセルは出来ない」

「あ、やっぱりそんな感じなんだね」

「なるほどなー。ブラックホールを一発でキャンセルさせられるのは、光魔法だけ?」

「……ううん、多分違う」

「他にも破る手段があるのー!?」

「……閃光や光の操作が有効……だと思う。……でも、試せてない。……逆に光魔法には……闇の操作や闇纏いも……有効かも?」

「あー、そういう感じか……。その辺も試してみないとなー」


 とはいえ、今すぐに試せるような内容でもないか。俺と風音さんで模擬戦で試してみるって手段もあるけど……山積みになってるやる事が更に増えますがな! あー、手が足りないー!


「てか、光魔法はどうやって手に入れるんだ!?」

「……分からない?」

「ですよねー!」


 赤の群集ではシュウさんやガストさんが使ってたから、確実に取得手段があるはず! 風音さんがジェイさん相手に使った、並列制御でのブラックホールを使った共生進化の分断手段は俺にとっても脅威ではあるもんな。

 可能であれば、闇魔法封じ用に光魔法を手に入れたいところ。うーん、最低限でも纏光で一時的に光属性を得る事は必須か? あー、成熟体用に進化の軌跡を上位変換をしてもらうにも刻印石が2個は必要だよな。今俺が持ってるのが3個だけど、刻印系スキルも取りたいから個数が足りない!?

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