第1106話 準決勝、第1回戦 後編
魔法Lv10を目指す為のトーナメント戦、準決勝の1戦目の真っ最中。行動値を使い過ぎた富岳さんが一時的に撤退を選び切り立った岩山の方へと移動。半自動制御に過剰に沢山の火魔法を登録してしまっていた紅焔さんは拓けた岩場に残ったまま。
「視点が2ヶ所に離れましたので、切り替わった際にそれぞれの様子を伺っていきましょう! 早速、切り立った岩山へと向かった富岳選手の方に視点が切り替わりましたが……岩山の崖を背にして、岩と岩の隙間に隠れて回復に専念しているようですね!」
「みたいだなー。魔力値の方はまだ余裕はあるだろうけど、行動値はかなり減ってるはずだし、回復優先か」
「応用スキルがお互いにあまり決定打になってなかったしな。攻撃をどう確実に当てていくか、逆にそれをどう凌いでいくかが勝負の分かれ目だろう」
富岳さんも紅焔さんもまだ全力を出し切ってない感じはするけど、今の時点では富岳さんが少し優勢? あー、でもなんだかんだで富岳さんと紅焔さんのHPは同じくらい減ってるし、極端な差もないか。まだまだどうとでも転ぶ範囲だな。
「……思った以上に懐に入りにくいな。遠距離だと飛行種族が相手には分が悪い……。さて、どうするか……」
「どうやら富岳選手、これからの戦法を考えているようです! 次の衝突ではどのような戦法を見せてくれるのかー!? 解説のケイさん、ゲストのアルマースさん、参考までにどのような戦法が考えられますか!?」
「そうだなー。富岳さんがどういうスキルを持ってるかによっても変わってくるけど、確実に攻撃は当てたいところだろうし……まずは紅焔を地面に叩き落とす方法からか」
「叩き落とすのに魔法を使って、決定打で物理攻撃ってとこだな。ドラゴンは西洋系だろうが東洋系だろうが、総じて魔法への耐性があるのが厄介な部分になってくる。根本的に飛んでる事もか」
「紅焔選手はドラゴンですからねー! 富岳選手はまずは近接戦闘へと持ち込むのが先決かー!?」
移動操作制御や飛翔疾走とかは使えそうな気もするけど、どうも富岳さんは今のところそういう感じの移動用のスキルを使う気配がないんだよな。あえて使わずにいるのか、それとも使えないのか……どっちかというと前者な気がする。
この辺の解説をしといた方がいいか? いや、まだ理由が全然未知数だから解説としては混乱させるだけ――
「ここで紅焔選手を映し出す視点へと切り替わりました! おぉーっと、紅焔選手は切り立った岩山地帯に向けて空を飛んでいる最中だー! どうやら回復に専念せず、追撃を選んだようですね! この行動はどう分析しますか!?」
「うーん、結構博打? かなり魔力値は消耗してるはずだけど、炎の操作がフェイクだったし、行動値はまだ残ってるのかも? あー、だから追撃か」
「行動値を回復される前にもう少し富岳さんのHPを削っておきたいってとこだろうな。完全に見失う前にって目論見もありそうだ」
「なるほど、それで紅焔選手は追撃に動いているのですね! しかし富岳選手は既に隠れ終わっているー! 行動値や魔力値を回復される前に紅焔選手は探しきれるのかー!」
決して紅焔さんにも余裕がある訳じゃないだろうけど、行動値の余裕の無さは富岳さんの方が上。逆に魔力値が危ないのは紅焔さんの方のはず。魔法への耐性が高めのドラゴンの強みを生かして、ここで削り合う気なのかもね。
「あー、色々ミスった……。流石に1対1であれは連発し過ぎた……。もう少し控え気味じゃないと、後がキッツイな。それにしても、どこに隠れた?」
「紅焔選手、何やら反省しながらの索敵を行っていますねー! おっと、両者が映る視点に切り替わりました!」
おっ、この視点に切り替わったってことは、画面内に2人共が映ってるって事か。紅焔さんが飛んでいる様子は見えてるけど、富岳さんはどこにいる?
「おーっと、富岳選手の姿がパッと見では見つからないー!? これは、巧妙に隠れているのかー!?」
「ハーレさんでも見つからないのか?」
「いえ、既に見つけていますよー! 中継画面の左の岩場をご覧下さい! カンガルーの手が、岩を支えている様子が見えるはずです! 先程、富岳選手が映っていた切り立った岩山の崖部分を目印にしてみてください!」
「ちょ、そんな状態!?」
「……あぁ、本当だな。分かりにくいが、確かにそう言わればそう見える場所がある」
えーと、どこだ? 流石に解説中だし、これ以上ハーレさんに聞くのは無しでいこう。画面の左の岩場……あ、それっぽいのがあった。確かにちょこんと岩の両端を掴んでるような手らしきものは見えるけど、これをよくすぐに見つけられたな、ハーレさん!?
「さぁ、ここが勝負の分かれ目になるかもしれません! 富岳選手が隠れきるのか、それとも紅焔選手が見つけ出すのか、果たしてどちらの結果になるのかー!?」
残りHP的にまだこのタイミングでは勝敗までは決まらないだろうけど、ここでの結果はかなり影響が出るはず。でも、この感じは……紅焔さんは全然見つけられてる気配がないな。
「逃げてるんじゃねぇぞー! 出てこい!」
紅焔さんがそう言いたくなる気持ちは分かるけど、それで出てくる相手はいないって。行動値を回復させたくて隠れている人は特に! 獲物察知が使えたら見つけるのはすぐなんだろうけど、紅焔さんが持ってるのは危機察知の方だしな。
「おーっと! 紅焔選手、富岳選手に気付く事なく通り過ぎていったー! これは富岳選手の隠れ勝ちかー!?」
この様子なら、富岳さんが凌ぎきって多少の回復が済むまで膠着状態になるのかも――
「……『投擲』!」
「っ!? なっ!?」
おっ、ここで富岳さんが動くのか! へぇ、このタイミングで仕掛けるって事は、何かをする為に必要なだけの行動値は回復したのかも?
「まさか、まさかの、ここで富岳選手が仕掛けてきたー! 隠れる為に持っていた大岩を紅焔選手に向かって放り投げるー!」
「これは多分、大型砲撃にして投げたっぽいな。小声が聞こえてたから、そこで発動したか」
「危機察知で反応されるのが分かってて、あえて声に出してた感じもするぞ」
「そのままでは投げられないサイズなので、おそらく大型砲撃で間違いないでしょう! しかし、紅焔選手は危うくはあっても、しっかりと回避はして……いや、これはそうでもないかー!?」
ん? ハーレさんは何を言って……って、あぁ!? これは確かに回避出来たとは言えないかも。
「危なっ!? なんで隠れてたのが出て――」
「『移動操作制御』『双打連破』! 自分で出てこいって言っておいて、それはねぇだろう?」
「なんで真後ろから反応が!? って、小さい……ぐふっ!」
「ここでまさかの小さな石を足場にした小さなカンガルーの登場だー!? 小さなカンガルーが明滅する銀光を放つ拳で富岳さんに向けて紅焔さんを殴り飛ばしていくー! 一体何がどうして、このような事態になっているー!?」
「おらよ!」
「ちょ、待っ!? ぐはっ!」
「おら!」
「ごふっ!」
うわー、ハーレさんの実況に重なりながら富岳さんのカンガルーと、どこからか現れた小さなカンガルーの間で交互に吹っ飛ばされてる。何をやってるのかは大体分かったけど、地味にえげつないな、この攻撃。
でも、これって銀光の明滅の速さ的にLv3くらいで発動してる気がするんだけど、そんなに行動値がもう回復……って、あー!? さっき、紅焔さんに砕いた地面をぶつけたのってもしかして!
「見事にフェイクに引っかかってくれてありがとよ、紅焔さん。おら! 『双打・重撃衝』!」
「なっ!? 何かがフェイク!? ぐふっ!」
「双打連破だけでは終わらず、これは応用連携スキルでの吹っ飛ばしが継続だー! 紅焔選手、吹っ飛ばし効果から抜け出せずどんどんHPが削られていくー!」
「ハメ殺しじゃん、これ。えげつない戦法を考えるな、富岳さん」
「発動が終わるまで、これはそう簡単には抜け出せないか」
えげつないけど、色々と面白い使い方でもあるよな。これ、上手くこの状況にハメるのは相当難しい気がするしね。
「どうやらどのような手順なのかは分かっているようなので、解説をお願いできますでしょうか?」
えーと、思いっきり紅焔さんが吹っ飛ばされまくってる最中なんだけど……まぁ朦朧が入っちゃってるし、HPの減り方的にもう脱出は無理っぽいか。そういう状態なら解説していこ。
「えーと、まず起点となるのがあの小さなカンガルーだな。今みたいに離れた状態でああいう使い方が出来るのは、支配進化の派生の同調で手に入る『遠隔同調』の効果で間違いない。その進化を実現させる為に小型化の進化をさせたカンガルーとの、同種族2体での同調種になる」
「小さなカンガルーは、カンガルーの本体の腹にある袋……育児嚢と言うんだが、まぁ名称はいいか。隠れていたのはその中だろう。大型砲撃を使う前に、投げる岩に遠隔同調で切り離した小さなカンガルーしがみつき、そのまま岩を投げて紅焔さんの背後に送り込んだってとこか。投げる時に分かりやすいように大きめな声だったのは、躱されるのが前提だったからだな」
「なるほど、同調種での遠隔同調によるものでしたか! そしてあの岩の投擲も、小さなカンガルーを接近させる為の罠だったと! おーっと、そうしている間にどんどんと紅焔選手のHPが削られていくー!」
あー、これはもう勝敗が決まりそう。まだ解説が終わってない部分が多いんだけど、その辺はどうしよう?
「ここで紅焔選手のHPが完全に尽きてポリゴンとなって砕け散っていくー! 予想外に早い決着となりましたが、トーナメント戦『魔法Lv10を目指せ!』の準決勝1戦目の勝者は富岳選手となりました! さて、解説が途中ではありましたが、みんな、続きは聞きたいかー!」
「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」
「という事なので、続きの解説をお願いします!」
「ほいよっと」
「おう、それは構わないぜ」
もうどう考えても解説はここで終わりって雰囲気ではない。てか、結構ややこしい事をしてたっぽいし、俺も途中で違和感は感じてたけど富岳さんがフェイクとか言ってなければ気付かなかったかも。
「えーと、遠隔同調を使ってるのと、小さいカンガルーの接近方法は説明したから……双打連破の解説をしようか。あのスキルは2発同時に叩きつけて吹っ飛ばす性能があるんだけど、これ自体は扱いにくいんだよ。だけど、本体の普通サイズのカンガルーと小さなカンガルーで挟んで吹っ飛ばしあう事で、そのデメリットを大幅なメリットに変換してる」
「ただ、これは位置関係に調整が難しいはずだ。おそらく、富岳さんはかなり早い段階からこれを狙って、その為にこの崖の多い岩山の方に移動してたっぽいな。チラッと言っていたフェイク発言がその証拠だな」
「そのフェイクとはどういう内容でしょうか!?」
今考えてみると、地味にハーレさんはそのフェイクの部分って言葉を選んでるんだよなー。多分、ハーレさんは俺らよりも先にフェイクである事には気付いてた気がする。でも、あえて分かってないフリをして俺らに解説を振ってるね。
「フェイクの部分は、絶対とは断言出来ないけど雷の操作と岩の操作を並列制御で使った部分。あれ、多分岩の操作じゃなくて思考操作で発動した土の操作だな。並列制御の後ろ側で発声して、より多くの行動値を使ったように見せかけた」
「その可能性がかなり高いはずだ。その辺の岩をそのまま使うんじゃなくて地面を砕いたのは、土の操作で操作出来る最大サイズを3つ繋げて岩に見せかける為だろうな。それで行動値の消費量を誤認させられる」
「そうなるとあの地面を砕くところから……いや、それよりも前から狙っていた可能性がありますね!」
具体的にいつから狙っていたかは富岳さん自身に聞いてみないと分からないけどね。もしかすると、紅焔さんが火の操作を炎の操作に誤認させようとしたのを見て思いついたのかもしれないし。
「後はまぁ同調種ならどっちの種族の部位でも攻撃に使えるから、その性質を上手く使って吹っ飛ばし続ける状況を作り出したって感じのはず」
「簡単に出来る事でもないから、ここは富岳さんのアイデアと、それを実行に移せる状況を作り出したのを称賛すべきとこだな」
「確かにそうかもしれませんね! 紅焔さんも、操作のフェイクや魔法の連発などの素晴らしい戦法を見せてくれましたし、非常に高い水準の戦闘だったと思います! 他に何か残っている解説はありますでしょうか?」
「いや、俺の方は特にないぞ。アルは?」
「俺ももうないな」
アルの大体の事は把握してたから、俺1人で解説にならなくて良かったよ。多分、内容的にはこれ以上の解説はないはず。
「それでは、これにて準決勝の1回戦の実況と解説は終了となります! 少しの待機時間を挟みまして、続けて準決勝の2回戦の実況と解説を行いますので、しばしお待ち下さい!」
ハーレさんがとりあえずの〆の挨拶をしてる間に、紅焔さんと富岳さんは模擬戦エリアからは出ていったようで、トーナメント表に表示が切り替わっている。うん、富岳さんが勝ち抜いたって表示が出ているね。
さてと、少しではあるけど次の1戦まで休憩。こういう結果になったら、風音さんと紅焔さんのドラゴン対決はもうこのトーナメント戦では実現しなくなったかー。
「紅焔さん、負けちゃったね」
「ドラゴン対決、見れなくなったかな……」
「まぁ絶対に勝てる勝負はないんだし、これは仕方ないって」
「確かにそれはそうなのさー! 富岳さんも相当強かったのです!」
「それは間違いない。ま、どうしても戦いたいなら、模擬戦機能でやってもいいんだしな」
「そりゃそうだ」
今回はタイミング的にトーナメント戦の開催があったから、そこで白黒つけようってなってただけだしね。別にこのトーナメント戦の決勝にこだわる必要はないけど……それで納得するかはまた別な気もしてきた。
あー、もうその辺はどうにでもなれー! 今回の趣旨は紅焔さんと風音さんの対決じゃないんだから、その辺の責任は取れるかー!
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