第1105話 準決勝、第1回戦 前編
魔法Lv10の取得を目指すという趣旨で行われているトーナメント戦、その決勝トーナメントの第1回戦が始まった。まぁ決勝トーナメントは4人だから、これが実質的な準決勝か。
そして第1回戦の組み合わせは火属性のバランス型の龍である紅焔さんと、カンガルーの富岳さんである。富岳さんの戦闘スタイルについては何も知らないので、どういう戦い方をするのかが楽しみだ。
「『自己強化』『跳躍』!」
「なっ!? 『ファイアウォール』!」
「おぉーっと!? 開始早々に空へと飛び上がった紅焔選手に向かって、富岳選手が跳躍していくー! そして、咄嗟に火の壁を展開する紅焔選手ー! ここからどう展開していくのかー!?」
おー、まさかいきなり近接戦闘に持ち込んでくるとは思わなかったよ。こういう動きをするって事は富岳さんはバランス型っぽい? まぁ魔法Lv10を目指すのが参加条件なだけであって、戦いには魔法しか使ったらいけないなんてルールはないもんな。
「『魔法砲撃』『ウィンドボム』!」
「ちっ!」
「腕を振りかぶり殴るように、富岳選手のカンガルーの拳からウィンドボムが放たれたー! 紅焔選手の展開したファイアウォールもあっさりと吹き飛ばされ消えていき、咄嗟に紅焔選手は更に上空へと飛び上がっていくー!」
「紅焔さんが距離を取ったのは正解っぽいな。富岳さんの今の動きを見る限り、近接戦闘も普通にいけそうだ。この感じだと、バランス型?」
「もしくは支配進化かもな。まぁもう1体の姿が見えないのが気になるが……。威力に関しては単独進化や合成進化の場合は『孤高強化Ⅰ』でステータスに割合で補正が入るから、極端に見劣りはしないしな」
「だよなー」
「その辺りは戦いが進めば分かってくるのでしょうか!? なにやら富岳選手、地面を見つめていますが何をする気でしょうか!?」
上空で様子を伺ってる紅焔さんとは対照的に、富岳さんは紅焔さんを警戒しながらもハーレさんの実況通り地面の方を気にしている。これは何かを企んでる感じがするね。
富岳さんの構成がどうなってるのかも気になるけど、そこは今無理に分析する必要もないな。バランス型ではなく、支配進化やその派生の同調ならどこかにもう1体の姿がどこかにあるはずだし、戦ってる間に姿を表す可能性もある。
「何を狙ってるから知らねぇが、させるかよ! 『ファイアクリエイト』『並列制御』『炎の操作』『フレイムランス』!」
「いきなり大技か。『跳躍』『ウィンドボール』『跳躍』!」
「ちょ、そんなのありか!?」
おぉ、地面を見てたのってそういう事か! へぇ、そういう使い方は初めて見たよ。うん、これは地味に参考になるね。
「富岳選手が地面にあった石を風で打ち上げて、それを足場にして飛び跳ねていくー! 狙いは炎魔法のキャンセルかー!? だが、紅焔選手の周囲には操作された猛火があるのはどうする気なのかー!?」
「懐に飛び込んで近接戦闘に持ち込むのが狙いだろうけど……」
「下手に突っ込むと手痛い反撃を受けるそうだな」
無作為に突っ込めば良いって話でもないんだよな。富岳さんには何か狙いはあるんだろうけど、まだその狙いが分からない。それにこれって紅焔さん、面白い事をするね。確かにその2つは見分けにくいけど、火なら偽装もしやすいか。
「だが、突っ込んできたところで、焼き尽くすまで!」
「ただ突っ込む訳もないだろう! 『ウィンドインパクト』!」
「っ!? どこから――ぐふっ!」
おー、これは紅焔さんが完全に意表を突かれたな。さっきから富岳さん、色々と魔法で面白い使い方をしてるね。地形も上手く利用してるもんだ。
「これは一体何が起きたのかー!? 放たれたのは風魔法のはずですが、紅焔選手に直撃したのは大岩だー! そして、朦朧が入ったのか、紅焔選手は地面へと落下していくー! 今の一連の流れの解説、お願い出来ますでしょうか!?」
「今のはやってる事自体は割とシンプルで、紅焔さんの真下にあった大岩をウィンドインパクトで真上に打ち上げただけ。上手い地形の使い方だ」
「思考操作で岩の操作を使ったと誤認を狙っている感じもありそうそうだが、まぁそれにしては明確にウィンドインパクトは発生していたな」
「そういうカラクリでしたか! 先程、地面を確認していたのはそれらを使う為の下調べをしていたという事なのでしょうね!」
「だろうなー」
十中八九、それで間違いはない。だけど、今ので追撃をしてないのはなんでだ? 紅焔さんは朦朧になってるから絶好の攻撃チャンスだと思うけど……いや、そうでもないか。
「朦朧が入ったフリならいらねぇぞ。カウンターを狙われてる追撃なんざしねぇからな」
「バレてるのなら、意味ねぇな! おらよ!」
「やっぱり炎の操作に見せかけた火の操作か! 『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」
「まさか、まさかの、火の操作による炎の操作への偽装だー! 見えない位置で小さくなっていた火が、大きくなって富岳選手に襲いかかるー! そして、それを避ける、避ける、避けるー!」
「火に空洞を作った状態して大きな炎に見せかけて、フレイムランスの溜め時間を確保する為に炎の操作と誤認させようとしてたぞ。しかもその上で朦朧になったふりでわざと落ちて、カウンター狙いとはね。まぁ本命はフレイムランスの発動だったんだろうけど、そこは潰されたな」
「狙いは良かったが、富岳さんの方が一枚上手だったか。追撃を狙いたくなるタイミングだったはずだが、よく見ている」
お互いにフェイントの応酬をしてるけど、このレベルになってくると有効打を当てるのが一苦労だな。思った以上に強いな、富岳さん。
「どうした、こんなもんか? 火のドラゴンってのは」
「まだまだこんなもんじゃねぇよ! 『高速飛翔』『並列制御』『火刃熱閃舞』『ファイアディヒュース』!」
「うぉっと! 『並列制御』『ウィンドウォール』『ウィンドウォール』!」
「紅焔選手が全方位に火を放ちながら赤熱する爪で一気に距離を詰め、それに対する富岳選手は複合魔法のウィンドプロテクションでの防御を選んでいくー!」
ふむふむ、全方位攻撃で下手に突っ込んでこれない状態にしながら、その上で移動速度を上げて急接近から近接攻撃か。性質がまるで違う2種類の攻撃を使って、どっちかへの対応をさせる事でもう片方を確実に当てていく戦法だな。
「紅焔選手の火による全方位攻撃を富岳選手は凌いだけども、まだ銀光を放つ赤熱する爪が襲いかかるー! これをどう凌ぐのかー!?」
「危ないっての! 『ウィンドボム』『ウィンドボム』!」
「ちっ、器用な避け方を!」
「ここで富岳選手のカンガルーの脚の下で爆風が発生させて、距離を取っていくー! 紅焔選手、連撃を当てる前に攻撃圏内からの離脱を許してしまったー!? 今の移動方法はどういうものでしょうか!?」
「まぁ見たままではあるけど爆発魔法を移動の瞬発力に変えてる感じだな。ただ、少しでも爆風の方向を読み違えたら変な方に吹っ飛ぶだろうから、見た目ほど簡単じゃないはず」
「その辺は少し脚を浮かせてから、魔法砲撃にして角度調整はしてるな。最初の方で地形を観察してたのは、この辺の回避手段を安定させる為の下調べか」
「何気なく見ていたかに見えたあの富岳選手の観察は、岩を吹き飛ばす攻撃と合わせて同時に下拵えだったという訳ですね! 紅焔選手が、それらをここからどう切り崩していくかが勝負の分かれ目になりそうです!」
ハーレさんが実況してる間に、紅焔さんの攻撃は一度も富岳さんに当たる事なく完全に躱されたなー。紅焔さんは攻撃に攻撃を重ねて追い込んでいく戦い方。対象的に富岳さんは最初こそは自分から仕掛けてたけど、その後は機動性が高くて防御的な印象だね。
「挑発してきた割には、随分と消極的だな! 『魔法砲撃』『半自動制御:登録1』『ファイアウィークン』!」
「なっ!? 『ウィンドボム』『魔力集中』『連強衝打』!」
「ここで、紅焔選手がファイアボムの連続発射で襲いかかっていくー! 対する富岳選手は確実に火属性の大幅な弱体化だけは確実に避け、真っ向からの迎撃だー! この攻防はどう見ますか!?」
「上空からの連続爆撃は富岳さんにとっては厳しいだろうね。魔法砲撃で狙いが分かりやすいけど、それが逆に逃げ場を制限してる」
「地味にファイアボールやファイアインパクトも混ざってるな。口からだけでなく、尻尾や手からも放ってるから相当厄介な攻撃だぞ」
「確かにファイアボムだけではありませんね! 半自動制御には同一のスキルしか登録出来ないという制限はありませんので、これは上手い使い方のようです!」
俺は同じのを連発で登録してるけど、紅焔さんは色んな種類の火魔法を混ぜて登録してるんだな。凄い魔法の連発になってるけど、これは撃ち出す場所も切り替えまくってるから避けるのは相当難しいはず。
それを見越して、富岳さんは回避ではなく迎撃を選んでそうだ。この場合、下手に動く方が意表を突かれて瓦解する可能性もあるもんな。でも、流石に全ては迎撃し切れてなくて結構ダメージは入ってるね。
てか、紅焔さんはいつの間に取ったんだろ、Lv9の魔法。うーん、謎。可能性としては、どこかの別のトーナメント戦で勝ったか、運良く群集支援種からトレードが出来たか、そんなとこか。
「カンガルーの拳で数多の火魔法の迎撃を行っていく富岳選手の銀光が最大限まで輝いたー! だが、ここからそれを当てる術はあるのかー!?」
「おら、おら、おら! まだまだ終わりはしてねぇぞ!」
「そんな事は分かっている! ふん!」
「なっ!?」
「おーっと!? ここで富岳選手、足元を殴りつけて地面を砕いたー!? これで何をするつもりなのかー!?」
本当にこれは何をするつもりだ? 地面が岩場だから、今の一撃で砕けてバラバラになったりしてるけど……って、それが狙い!?
「『エレクトロクリエイト』『並列制御』『雷の操作』『岩の操作』!」
「ちょ!? ここで雷って……ぐはっ!?」
おっ、こりゃ凄い。へぇ、富岳さんって結構色々と使うんだな。なんというか、手札の多彩さが俺に似てる気もする。
ん? でも、今のって何か違和感が……? なんだろう、今の違和感。何か発声と実際の発動の間に少しズレというか間があったような? 地面を砕いたから、岩として指定する対象を選ぶのに手間取った?
「紅焔選手に富岳選手の攻撃がクリーンヒットー! 富岳選手、砕いた地面を持ち上げ盾にしながら、生成した雷を直撃させたー!?」
「ついでに、おらよ!」
「ぐふっ!」
「さて、流石に行動値を使い過ぎたか。『ウィンドボム』『ウィンドボム』!」
「なっ!? 逃げやがった……って、流石に登録し過ぎたか!?」
「そして、砕けつつある操作した地面を紅焔選手に叩きつけ、切り立った崖のある方に勢いよく駆けていくー! これは一時撤退かー!?」
「まぁ今の並列制御は流石にかなりの消耗だろうしな。制空権を取られたままで戦うのを避けるのも戦法の1つだろ」
「というか、紅焔さんの半自動制御での魔法を無駄に撃ちまくって滅茶苦茶な状態だから、回復させるのにもチャンスだな」
半自動制御で登録したスキルって、全部使い切るまで止められないからね。紅焔さん、ちょっと登録のし過ぎ。まぁあの魔法のぶっ放し方は爽快な気はするけど。
「さぁ、富岳選手の一時撤退という形で初めの衝突は終わりましたが、ここまでの戦闘を見ての感触はいかがでしょうか!?」
「2人とも、かなり水準は高いなー。でも、色んな手段を使ってくる富岳さんに対して、紅焔さんは火属性に拘り過ぎてる感じはする。まぁそれが悪いって訳じゃないし、半自動制御での複数の種類の魔法の連発は上手いと思ったぞ。1体1じゃなければ、もっと活きた戦法のはず」
「あれは確かに魔法砲撃の狙いが分かりやすいって弱点を潰す良い手だな。ただ、大量の魔法の登録順を正しく把握していて、尚且つ戦闘の状況に応じて撃ち分けるだけの判断力も必要だろう」
「紅焔選手の魔法での猛攻は、確かな判断能力と対応能力に裏付けされたものという事ですね!」
あれを真似しろと言っても、多分簡単には真似出来るものではない気がする。でも、俺としてはちょっとやってみたいかも? あー、でもあれってかなり魔力値は消費してるはずだよな。
まぁこのトーナメント戦だと昇華魔法1発で決まるような事はないだろうし、手段としてはあれでいいのかもね。1対1で、相手が魔法を使うのなら魔法への耐性は物理型よりも高めだし昇華魔法はリスクが高い。
「それでは富岳選手についてはいかがでしょうか?」
「うーん、途中までは防御主体の人かと思ったけど、今の印象は別物だな。相手に合わせて、臨機応変に手札を変えるタイプな気がする」
「俺も同じ印象だな。初めの方の攻防で風属性がメインかと思ったが、電気を生成して雷の操作を使えるなら電気の昇華は間違いなく持っているだろう」
「メインの属性が分からないと、紅焔さんとしては対処しにくいだろうなー」
「確かにな。それに……まだ何か隠し持ってそうだぞ」
「なんとなくだけど、バランス型じゃなくて支配進化って気はしてきてるなー。ただ、もう1体の正体が分からない」
「それに関しての推測は出来るが……絶対とも言えないからな。今は説明はやめておこうか」
ん? アルは富岳さんのもう1体の居場所に心当たりがあるっぽいね。でも、カンガルーの表面にそれらしきものは見当たらないけど……あ、ちょっと待てよ? カンガルーって事は、もしかするとあそこか?
この戦闘中ではないけど、不自然に動いた様子は見た気もするしさ。可能性としてはあり得るけど、解説をするのなら確証を得てからの方がいいか。多分、アルもそのつもりで説明は控えるっぽいし。
「さぁ、そうしている間に両者はかなり離れたようです! 半自動制御による魔法の発動が終わった紅焔選手は拓けた岩場に残り、一時撤退をした富岳選手は切り立った岩山の方へと移動しました! 互いに4割ほどHPは削れていますが、果たしてどちらに勝利の女神は微笑むのか!?」
とりあえずしばらくは2人とも、少し魔力値と行動値の回復に専念するはず。てか、こうして見て思ったけど、バランス型の紅焔さんの攻撃力って思った以上に高そうだな。
やっぱり『孤高強化Ⅰ』でステータスの1割増加の影響は大きいのかも。支配進化は2種族のステータスの良いとこ取りをするけど、割合でのステータス強化とかは無いもんな。まぁまだ富岳さんのカンガルーが支配進化だと確定した訳じゃないけども。
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