第1087話 城塞ガメの討伐に向けて


 ボスの城塞ガメの討伐で先に共生してるハチを処理しようとしてたら、まさかの青の群集からの奇襲を受けるとは思わなかった。なんとかジェイさんは撃退出来たけど……よく死なずに済んだもんだよ。


「ケイ、大丈夫か!?」

「わっ!? 酷い状態なのさー!?」

「……かなり酷いかな。ロブスターの甲羅の欠片に、禍々しい瘴気を纏ったコケが少し残ってるだけ……」


 アル達が駆けつけてきてくれたけど……まぁロブスターが死んでコケは大幅な弱体化して、その上で重度の瘴気汚染。他の手段が咄嗟に思いつかなかったとはいえ、これは酷い。普通のウォーターフォールでも……いや、それじゃ魔法型のジェイさんのコケ相手にはまともなダメージは期待出来ないか。

 でも、もう少し冷静に判断出来れば昇華魔法の発動を潰すだけでもいけたはず。そこから体勢を立て直してから、みんなで攻め込めば……はぁ、焦ってたとはいえ判断ミスったかも。まぁ済んだ事はどうしようもないから、ここからの事を考えよう。出来るだけすぐにこの状態を正常に戻したいしね。


「流石に今の状態は大丈夫とは言えないから、適当にその辺の敵に殺されてリスポーンしてもいい?」


 折角生き残っといてなんだけど、死んでリスポーンして、状態異常をリセットしてしまうのが手っ取り早い――


「ケイさん、それはやめとけ。アルマースさんのとこからリスポーンする気なんだろうけど、それはここじゃ使えずに問答無用で安全圏に送り返されるぞ。そうなるとすぐには戻ってこれん」

「え、マジか!?」


 まさかのリスポーン位置の使用不可!? あ、でも俺らみたいにリスポーン位置を設定してるPTばっかじゃないだろうし、その辺を公平にする為の仕様か? ランダムリスポーンにはならずに送り返されるとは聞いていたけど、リスポーン位置の確認は出来てなかったよ。


「それと敵に瘴気汚染・重度にされた場合は、死んでも時間経過以外では回復しないそうだぞ。しかも全枠共通のデバフだ。死んで回復するのは自滅で瘴気汚染・重度になった場合だけって話だ」

「自滅の方は把握してるけど、倒された場合は継続するのか……。てか、全枠共通って地味にえげつないな!? 蒼弦さん、情報サンキュー!」

「なに、問題ないって事よ!」


 そういう事ならしばらくジェイさんの動きを大幅に制限が出来るし、俺も死なずに生き残った意味はあるはず。まぁ俺は瘴気汚染・重度が瘴気汚染に軽減するまでは戦力外になっちゃったけど。

 それにしても、瘴気汚染・重度の効果が凄まじいな。これは競争クエストに参戦する直前に検証しといてよかった。そうじゃなきゃ、あのタイミングでアブソーブ・アースへのカウンターとしてパッと出てくる手段じゃないもんな。


「てか、ケイさん、よくあの状態から生き残ったもんだよな」

「それは自分でも思ってるとこだよ……」


 ジェイさんの反応的に瘴気魔法を吸収したらどうなるかは把握してた感じだし、昇華魔法の発動で身動きが取れない状況じゃなければ上手くカウンターを入れれたかも怪しい……。

 って、ちょっと待ったー!? え、瘴気魔法を吸収させたって事は未知のアイテムの『刻瘴石』をジェイさんに渡した事になる!? ……どういう性質のものか分かってないけど、思いっきりそこが不安になってきた。くっ、普段の時ならフレンドコールでもしてアイテムの効果を聞きたいくらいなのに、いくら何でも今はそれは出来ない!


「おし、ケイさんに負けてられねぇぞ、オオカミ組! 斬雨さんの方はまだ撃退出来ているとは限らんし、他に敵がいないとも限らないから周囲の警戒を怠るな!」

「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」


 あ、とりあえずは蒼弦さんの指揮で周囲の警戒に動いてくれるみたいだな。てか、あのデカいカメはどうなった? ……うん、全然動く気配がないし、ひたすら攻撃しているサクヤについても完全スルー。

 ハチを討伐し終えたから、オオカミ組で甲羅の穴を塞いでた人達は回復に回りつつ、余力のある人達の方で警戒体制になってるね。流石、連携慣れしてる。


「サヤ、とりあえずケイを回収してくれ。みんなも一旦下がるぞ。俺はともかく、他のみんなはかなり消耗してるだろ」

「……あはは、行動値はほぼ空かな。ケイ、持ち上げるね」

「サヤ、頼んだ!」

「私も空っぽなのさー!」

「……私はHPを回復させたいね。かなり減っちゃった」

「……魔力値がもうない」


 まぁさっきあれだけ盛大に色々やったら、そりゃそうなるよな。とりあえずアルのクジラの上に乗った状態で、焼き払ったジャングル……元ジャングルの上へと降りていく。


「さて、ケイは戦力にはならなくなったが、指揮に集中出来るようにはなったよな? あのデカいカメをどうするか、その辺の作戦立案を頼むぞ」

「ほぼ戦闘不能状態なのに、こき使われるんだな!? いや、考えてみるけどさ!」


 てか、戦闘不能とは言ったけど、今の大幅に弱体化した状態って本当に何も出来ないのか? 回復不可能にはなってるとはいえ、まだ行動値は残って……ない!?

 え、行動値の上限も、残ってた行動値も10分の1くらいになってるんだけど!? うっわ、ステータスも通常時の1割くらいしかない上に、ロブスターの分のステータスが反映されなくなってる。これ、下手に動けば何も出来ずにあっさり死ぬね。


 さーて、名実共に戦力外だという事がよく分かったし、その上で出来る事をやっていこう! まだあのカメの攻略が済んでいないんだし、そっちで役目があるだけ良い方か。

 ある意味、観察と指示出しに専念出来るのもありがたい状態っぽい気もするしね。とりあえずみんなは色々と回復中だし、今のうちに情報を整理しとこう。


「まずは現状の把握をしとくかー。気になる点がある人?」

「……問題としては、あのカメの甲羅が硬過ぎるかな?」

「私やサヤの攻撃がハチから外れて何発か当たったけど、全然ダメージが入らないのさー!」

「……なるほど」


 全然効いてない訳じゃないみたいだけど、あのカメのHPの1割も削れていない。攻撃の威力不足というよりは、カメの防御力が高過ぎる感じか。まぁどう考えても、硬い甲羅を集中的に狙うのは効率が良いとも思えない。


「気になると言えば、サクヤが瘴気を大量に纏った攻撃に反応して登場してきたくらいか」

「あー、そういえばそうだっけ」


 あれがきっかけで、中州の中に埋まっていたこのカメが現れたもんな。その割には完全にサクヤは無視されてるし、カメ自体は瘴気属性は持っていない。……瘴気を取り込んで強くなってる訳じゃないけど、サクヤが使った瘴気には反応してるって事か?

 もしくはサクヤが到着して攻撃した際に動くように設定されてただけ? うーん、この辺はなんとも言えないところ。いっそ、回復しない行動値の残りを使って瘴気収束でも試してみる?


「おっしゃー! ハチの集団は突破してきたけど、する事はあるかー!」

「……うるさい、ザック」

「まったくですよ」

「……同感だ」

「おっ、ザックさん達が来たっぽいぞ」

「みたいだなー」


 南の方向から大声を上げてやってきた、毒持ちのトリカブトのザックさん、氷と風のハチの翡翠さん、キノコの生えたカニのタケさん、イノシシのイッシーさんの4人PTがやってきた。おっ、他の方向からも続々と人がやってきてる。


「わっ!? なんか凄い事になってる!? みんな、とりあえずそこのカメはスルーして、対岸のオオカミ組とグリーズ・リベルテと合流ー!」

「おー! ラックなのさー! 灰のサファリ同盟も来たのです!」

「とりあえず、戦力がある程度集まってきたのはありがたいね」

「でも、まだ油断は出来ないかな」

「味方が動けるようになったって事は、敵も動けるようになったって事だしな」


 みんなが集まってきてくれたのは心強いけども、それは決して良い事ばかりとは言えない。ザックさんがサラッと言ってたけど、ハチの集団を突破してくるのは他の群集も同じだし――


「あははははははははははははははは! いいね、いいね、いいね! ここまで耐えたのは、ベスタさんが初めてだよ!」

「ベスタさん!? あーもう! 厄介だね、危機察知回避の狙撃!」

「ちっ、いちいち邪魔が入って鬱陶しい!」

「……いい加減、狙撃が鬱陶しいね。ガスト、少しここを任せるよ」

「ちょっ、シュウさん!? ルアー、俺も少し離れる! シュウさんがいねぇとレナさんが止められん!」

「厳しいが、流石に仕方ねぇな!」

「風雷コンビ、ガストとルアーを抑えろ! レナ、ダイク、いつの間にか消えてるライを探せ! 弥生とシュウの相手だとそっちに意識は回せん!」

「およ!? ハチの始末をしてたらいつの間に!?」

「だから、やっぱりここに俺は場違いだってー!?」

「あはははははははははは!」


 なんか西の方から破壊音と共にそんな声が聞こえ始めたんだけど……うん、まぁ足止めという意味では大丈夫そうだから気にしないでおこう。ベスタが抑えつつも弥生さんが暴れてるなら、西側は迂闊に通れる状態じゃないはず。


「なんだったんだよ、さっきの大量のハチは!」

「知るかよ! 北部で馬鹿でかいカメが出たって情報なら……ぎゃー!?」

「ちっ、赤の群集か! 邪魔すんじゃねぇよ!」

「ここで足止めすんのが俺らの役目なんだよ! くたばれ! 『拡散投擲』!」

「青の群集を送り返せ! 一斉放火!」

「「「「『ファイアインパクト』!」」」」

「赤の群集を突破して北部を目指せ!」

「「「「おう!」」」」


 うっわー、あちこちの方向から色んな戦闘音や指揮する大きな声とかが聞こえてくる。……しかもどんどん俺らのいる場所に近付いてきてるし、これって結構やばくね?

 あー、こういう時こそベスタの総指揮が欲しいけど、弥生さんを抑えてる状態じゃそれはどうにもならないよなー!?


「はっ!? そこなのです! 『狙撃』!」

「おわっ!? だから、相変わらずどうやって見つけてんだよ!? てか、あの馬鹿でかいカメって何!? え、旗のマークがあるって……もしかしてあれがボス!? え、あれってサクヤか!? 何やってんの!?」

「ライさん、いつの間に!?」


 なんかシレッと近くまでやってきてたー!? だー! ロブスターが死んでるから獲物察知は出来ないし、出来たとしても各方向から聞こえてきてる声の多さから考えて使うだけ無意味だよなー!?


「ん? ケイさん、なんか随分ボロボロじゃね? あ、ロブスターがやられた……だけじゃなさそう――」

「……ヨッシ、すぐに仕留めた方がいい! 『アイスクリエイト』!」

「そうだね、翡翠さん! 『アイスクリエイト』!」

「うぉ!? 凍結!?」

「悪いが、死んでもらうぜ、ライさん! 『魔力集中』『並列制御』『氷砕刃』『氷爪凍連舞』!」

「ぎゃー!?」


 おぉ、キラキラと光を反射するダイヤモンドダストの中を蒼弦さんが2種類の寒色系に近い白いの混ざった銀光を放ちながら、ライさんを氷漬けにしつつ斬り刻んでいった。白銀の刃って感じで今の蒼弦さん、神秘的でカッコ良かったぞ! って、そんな場合かー!


「ラックさん、もうこの辺に擬態持ちの敵が紛れ込んでいるみたいだ! とりあえずここにいるオオカミ組と連携して、灰のサファリ同盟の方で炙り出しを頼む! 任せたぞ、オオカミ組!」

「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」

「ケイさん、了解! みんな、聞こえてたねー! 可能なら普段から話す事が多い人と連携して動いていって! 私達は戦力では劣っても、観察力では負けないよー!」

「頑張るぞー!」

「ここで頑張らなきゃね!」

「いっくぞー!」

「ここが正念場ですよ、皆さん!」

「絶対、勝つぞー!」


 ははっ、オオカミ組と灰のサファリ同盟ではかなり反応が違うけど、勝つ為の意気込みは変わらないか。さーて、それじゃ周りは任せて、本格的にカメの討伐作戦を――


「やっと辿り着いたが……こりゃ凄い有様だな。今ここの指揮を取ってるのは誰だ!? 蒼弦か!?」

「いや、俺じゃねぇぞ! 今はケイさんだ!」

「おっ、ケイさんが総指揮か! ……随分とボロボロだな」


 何人か南から来たっぽいけど、モンスターズ・サバイバルの一行か。あ、ツキノワさんのPTもいるね。……なんか知らない間にここの指揮が俺になってるんだけど? あれ、いつの間にそうなった?


「ぶっちゃけまともに戦闘出来る状態じゃないんだよ、肉食獣さん! てか、蒼弦さん、俺が総指揮すんの!?」

「ん? まだケイさんが指揮って決まってなかったのか?」

「俺はオオカミ組と灰のサファリ同盟との連携の指揮もあるからな! リーダーは総指揮は出来る状況じゃねぇし、灰のサファリ同盟は戦闘指揮には向いてねぇし、ここはケイさんに任せるぜ!」

「だそうだぞ、ケイさん。俺らとしても特に反対はねぇぞ。それと順番が変になったが、とりあえずマサキの護衛班としてモンスターズ・サバイバルは到着だ」

「ツキノワ一行も到着だ。ケイさんは随分とボロボロだが、指揮には問題ないよな?」

「あー、もう! 戦えない状態だから戦力にはならないし、総指揮はやるだけやってみるよ! ただし、ベスタみたいに上手くいくかは知らないからな!」


 なんか総指揮を押し付けられた気もするけどやるだけやってやろうじゃん! とりあえずこれから続々と集まってくる他の群集に対する防衛体制の確立と、あのカメの攻略の為の戦法の立案と、ボス戦への主戦力の割り振りと、マサキの護衛。……って、そういやマサキは!?


「ラックさん、マサキはどこにいる!?」

「あ、それならここにいるよー! どうすればいい?」


 普通に灰のサファリ同盟の中に紛れていたっぽい。あー、NPCの緑色のカーソルじゃなくて灰色のカーソルになってるから、紛れてたらプレイヤーと判別がしにくいんだな。ただ、実物を見て気付いたけど競争クエストの参戦マークが無いから、プレイヤーと見分ける基準はそこになりそうだ。


 ここでマサキを他の群集に倒されるとランダムリスポーンに……なるのか? うーん、群集支援種も安全圏に飛ばされる可能性はあるし、どっちにしても厄介な事になる可能性は高そう。

 そうなると、出来るだけ強いところで連携も取れているところの任せたい。ここは元々その予定でここまで来てくれてるモンスターズ・サバイバルの人達に任せよう。人数も結構多いしね。


「肉食獣さん、モンスターズ・サバイバルの方でマサキの護衛を頼む! この後にマサキには役目ががあるかもしれないから、誰が死んでもマサキを死なせない事を最優先で!」

「おう、任せとけ!」


 さて、とりあえずマサキの護衛についてはこれで良い。防衛についてはオオカミ組と灰のサファリ同盟を中心にして、集まってきた人達で構成してもらえばいい。どっちも人脈は広い共同体だから、俺が下手に口出すよりもその方がスムーズに行くはず。

 後は肝心のカメの討伐作戦と、その為の戦力の割り振りだな。さて、どんな手段が有効になってくるか、その辺を考えようか。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る