第1073話 どう動いていくか


 サヤ達の情報収集の結果を聞いてから、俺らの情報収集の結果も伝えていった。あんまり長々と時間をかけていられないので、この辺は手早く済ます!


「今の最優先はマサキか、もしくは同種の存在の発見かな?」

「そういう事になりそうだね。場合によっては逸れる可能性もありそうだし、マップはみんな持ってた方が良いのかも?」

「その方が良いと思うのです! だけど、今回はなんでマップの情報提供で何も無しなのはなんでー!?」

「……エリアが広いからか?」

「そういやなんでだろうな?」


 踏破情報を提供したら情報ポイントが貰えるからこそ、俺らは最新のマップ情報は手に入れずに動いてたりしているしね。その割には、最近は全然マップの踏破状況を提供してないけども……。その辺はあんまり意識しないもんだから、つい忘れる……。


「……多分……前回のせい」

「風音さん、どういう事ですか!?」

「前回って事は……あぁ、赤の群集での情報提供の強要か」

「あー、なるほど!」

「……少し違うけど……理由はその辺。……情報ポイントは捨てて……マップ情報を得て……協力しろって強要が……横行してた」

「そんな事もあったんだね」

「直接見た訳じゃないけど、それは酷いかな……」

「……言っておいて……なんだけど……今はそれはいい。……ケイさん……どう動くの?」

「あー、ちょいと考えるから時間をくれー」

「……分かった」


 とりあえず前回の赤の群集での動きがマップ絡みの仕様変更の可能性というのは置いておいていい話だから除外しよう。そこは考えても意味がない。


 サヤ達の仕入れてきた情報からすると、もうどこの群集も海エリア以外はこのジャングルを戦場として動き出していると考えていいはず。灰の群集もベスタ筆頭に強い人達が集まってくるって話だしね。

 その辺を考慮した上で、今はザックさんが見つけた骨の鎧を着たようなマサキらしきキツネの姿の目撃情報が重要だな。オオカミ組を筆頭にチラホラといくつかのPTや共同体の捜索隊がその座標の方に向かっている真っ最中。

 俺らはアルの巨大さ故に隠密行動には向いていないし、そもそも他の群集からは狙われやすいのは分かりきっている状態でもある。そうなると……やっぱりこういうパターンになるかー。


「……こりゃまた目立つように囮になるのが良さそうだな。他のみんなが動きやすいように、赤の群集と青の群集を引きつけていきますかね」

「ま、そういう結論にはなるか」

「アルが大きいから、それは仕方ないかな?」

「空飛ぶクジラは目立つのさー!」

「あはは、まぁ確かにね。ケイさん、私は抗毒魔法で防ぐ感じがいい?」

「ヨッシさんはそうしてくれた方が――」

「……抗毒魔法!? ……それ、見たい!」

「風音さん!? 近い、近いから!?」

「……ヨッシさん……ごめん」


 ハチのヨッシさんに向かって風音さんの龍が一気に迫っていくと食べられそうな緊迫感があるな!? どうもこの辺はやっぱりルストさんを連想するなー。

 そもそも風音さんって色々な魔法の情報を知りたいって理由で灰の群集に入ろうか悩んでたんだった。まぁ桜花さんの件もあったから魔法への興味だけじゃないってのは分かってるけど、それはそれとして興味がある事そのものは変わらないか。


「まぁとりあえずヨッシさんは抗毒魔法で腐食毒と溶解毒の毒魔法の防御を任せる!」

「うん、それは任せて! あ、それなら私が競争クエスト情報板をチェックしておくのがいい? 抗毒魔法を使ってる最中だと動けないしさ」

「あー、そういやそうだな。それじゃ、そこもヨッシさんに任せた!」

「了解! ハーレとサヤは、例の遠距離狙撃とか擬態してる偵察とかの発見をお願いね?」

「任せてかな!」

「そこはお任せなのさー!」

「……再現に呼び出された……あの手段。……聞いている限り……相当厄介」


 風音さんから見てもあの攻撃手段は厄介なのか。仕組み自体の推測は出来てるけど、スキル構成やスキルLvの問題で完全には再現出来てないしなー。グリースのスキルLvを上げておきたかったけど、その時間が確保出来ないまま今の時間になっちゃってるしね。

 あれは危機察知ではどうしようもないんだから、発見にはサヤとハーレさんの素の観察力に頼るしかないもんな。見つけた後に回避するのは、乱暴だけどアルに旋回で……って、ちょっと待った。


「……攻撃されてるのさえ分かれば、俺のアクアディヒュースで相殺出来るか? いや、流石に応用スキル相手だと厳しい……?」

「それなら、俺がケイに攻勢付与をかけとくか? それだけでもかなり違う……ん? あれは攻勢付与で良いのか?」

「アル、それだー! 分類的には攻撃魔法っぽいし、それでいこう!」

「お、おう」


 よし、新しい魔法を得た事によって対抗策は見えてきた。そういえば、アルに攻勢付与をかけてもらった状態で、更に並列制御で付与魔法をかけるとどうなるんだろ? 上乗せになるのか、効果が出ないのか……ちょっと試しとくか?

 いや、多分戦闘はあの遠距離狙撃だけになるはずがないし、他の戦闘中で試してみよう。今気付いたけど、アクアディヒュースの全方位攻撃が敵の数に関係なく全てに同じ威力を発揮するとも限らないしさ。


「……ケイさん……場合によっては……闇魔法で……弾道を逸らせるかも?」

「え、マジで!?」

「……敵の攻撃は……ブラックホールで……吸い寄せられる。……ただ……どこまで出来るかは……分からない」

「なるほど、細かくは試せてないんだな?」

「……うん。……ちなみに……光魔法なら……お互いに打ち消すよ?」

「おぉ、それは貴重な情報なのです!」

「シュウさん辺りは光魔法を持ってても不思議じゃねぇからな。問題はシュウさんがどの程度、競争クエストで戦う気があるかだが……」

「それは、実際に戦ってみるまでなんとも言えないか」


 昨日遭遇した時には、シュウさんは一切手を出す事なく弥生さんに全滅させられたもんな。俺らが盛大に消耗してたとはいえ、あそこまで一方的にやられるとは思ってなかった。

 でも、今度会った時には一泡吹かせてやる! 少なくともシュウさんが大人しく見ているだけでは済まない状況にはしたいとこだよね。……一応弥生さんへの対抗手段は新魔法を活用する方向で考えてはいるけど、当てられるかどうかが最大の問題な気がする。


「あ、風音さんは危機察知を持ってたりする?」

「……持ってるよ。……どうすればいい?」

「今回はハーレさんじゃなくて、風音さんの危機察知をメインでいく。攻撃方向が分かるやつは、魔法で防御をしていってくれ!」

「……なるほど……防御担当……引き受けるね。それなら……小型化して……アルマースさんの根に……隠れるのがいい?」

「あー、行動値の上限が減るけど、それもありか。よし、その方向で任せた!」

「……任された」


 全方位に対する攻撃が出来るのは、このメンバーでは今は俺だけだからね。ブラックホールで吸い寄せたり、火魔法や土魔法で防御も出来るだろうから風音さんを頼りにさせてもらおう。あ、違う。今の風音さんはトカゲと共生進化をしてるから、風魔法と水魔法が共生指示で呼び出せる状態か。

 それにアルの木の根の隙間に小型化して待機するのなら、風音さんが俺らのPTにいる事そのものを誤魔化す事が出来そうだ。ただ、小型化での行動値の上限の大幅低下は痛い。……この辺、緩和用のスキルとかないもんか? いや、そこは今はいい!


「まぁ細かい事は実際に動きながらにするとして、最終確認! ヨッシさんは抗毒魔法の展開とリアルタイムでの情報収集! サヤとハーレさんは目視での索敵!」

「了解!」

「了解なのさー! 私はアルさんの左側を確認するのです!」

「それじゃ私は右側かな!」

「アルは前方、風音さんは後方で! 俺は獲物察知で、方向関係なく警戒していく!」

「おうよ!」

「……分かった」

「それより細かいとこは、臨機応変に動いていくぞ! あと、余裕があればLv上げもしながらで!」

「「「「おー!」」」」

「……うん!」


 基本的な動き方はこれでいい。後は実際に動きながら、状況に合わせて調整していくのみだな。マサキやその同種の存在の発見情報とか、他の群集の動きがどうなるか、今の段階じゃ分からないしね。


「ほう? 随分と気合が入ってるじゃねぇか?」

「やっほー、ケイさん! さっきぶり!」

「おっしゃ、暴れるぜー!」

「気合が入っているのは良い事ではないか! なぁ、疾風の!」

「そうだな! なぁ、迅雷の!」


 ん? なんか下の方から聞き覚えのある声が多数聞こえてきたけど……この声の感じは凄いメンバーが集まってる気がするぞ? ちょっとアルの背中の上から下を覗いてみて……。

 えーと、やっぱり凄い事になってる。ベスタ、レナさん、ダイクさん、風雷コンビの5人組か。うん、ヤバい面々が集まってるよ。しかも風雷コンビはライオンと龍でのセットになってるから、迅雷さんがライオンで、疾風さんが龍でログインしてるのか。

 なるほど、同じ雷属性の種族を作ってどうするのかと思ってたけど、こういう組み合わせの仕方もありなんだな。みんな、色々とよく考えるもんだね。


「ベスタ達はその5人で動くのか?」

「いや、まだここには来ていないが無所属の傭兵が加わる予定だ」

「え、無所属の傭兵!?」

「あぁ、そうだ。それとだ、俺らは弥生を抑えに動く為のメンバー構成にしている。もし見かけたら、なんとかその位置を伝えてくれ」

「弥生さんの対策メンバーかい!」


 だから、こんな強者揃いのメンバーになってるのか! って事は、まだここにはいない傭兵の人も相当な実力者? どんな人が来るのか、すっごい気になる。


「どう考えても、このメンバーに俺って場違いじゃねぇ!?」

「ダイクは移動要員なんだし、問題ないよ!」

「無所属の傭兵って、空飛ぶカメの人って話だよなー!? 俺、本当に必要ある!?」

「あるある! だから、一緒に来なさい!」

「弥生さん相手は嫌だー!? か、風音さん、ヘルプー!」

「……ダイク、ファイト。……こっちも……頑張って……大暴れするから」

「ちょ、見捨てられた!?」


 なんというか、ダイクさんはドンマイ! でも、普通にダイクさんは強い方じゃない? 少なくとも戦力にならないと判断したら、レナさんが連れて行こうとしてもベスタが却下しそうだし。


「ケイ、大暴れって事は自発的に囮をやるのか?」

「何度かベスタに囮役を頼まれたけど、今回はそうなるなー。まぁ大きさ的にどうしても目立つから、他のみんなが捜索に動きやすいように立ち回るつもりだぞ」

「なるほどな。そうなると、弥生やジェイが仕掛けてくる可能性があるから気を付けろ」

「そっちこそ! そういやベスタ達は遠距離狙撃への対策は?」

「その為のダイクだ。さっき、ダイクは水魔法Lv8になったからな」

「アクアディヒュースで相殺して落とすんだな。……考える事は一緒かー」

「あぁ、どうやらそのようだ。ただ、Lv2以上の貫通狙撃はアクアディヒュースを突き抜けてくるから気を付けろ。可能であれば、付与魔法で強化して防げ。それで相当勢いと威力は削れるから、その後に誰かが叩き落とせ」

「お、マジか! その情報は助かる!」


 知りたかった部分は、ベスタ達の方で検証しておいてくれたみたいだね。すぐに試せるか分からなかった情報だし、これはありがたい! そっか、何も完全に相殺し切る必要もないんだな。


「サヤ 、ハーレさん、聞いたよな?」

「うん、ばっちり聞いたかな!」

「ケイさんが威力を削いだ後は、私かサヤが止めればいいんだね!?」

「そういう事だな! そうなった時は任せるぞ」

「任せてかな!」

「任されました!」


 なんだかんだで、あの遠距離狙撃の対抗策は用意は出来た。とはいえ、青の群集は他にも色々と仕掛けてくる可能性はあるし、赤の群集は真っ向から潰しに来る可能性も高い。これは、欠片も油断が出来ない勝負になりそうだね。


「それじゃ……あ、その前に全員、マップを確保ー!」

「それを忘れちゃダメなのさー!」

「とりあえず出発前に行ってない場所の地形の確認かな?」

「その方がいいかも? 何か気になる地形があるかもしれないしね」

「……特殊な地形が……あるかも?」

「その辺は先に確認しといた方がいいか。ケイ、俺らは踏破部分がほぼ同じだから俺の方で提供しとくぞ」

「アル、サンキュー! おし、それじゃ地形の確認はしとくか!」

「あぁ、そうしておけ。さて、俺も新しいマップを貰っておくか」

「さーて、今のマップはどうなってるかなー?」

「我らにマップは必要ない! なぁ、疾風の!」

「おうともよ! なぁ、迅雷の!」

「いや、良くねぇよな、風雷コンビ!?」


 風雷コンビは相変わらず自由過ぎるけど、まぁベスタが一緒なら大丈夫か。とりあえずアルが踏破情報を提供してくれたし、ミヤビからジャングルの最新マップを入手っと! おぉ、自前で持ってたやつよりもかなり埋まってるなー。

 それでも4分の1も埋まってないのか。多く埋まってるのはこの安全圏の近くで、離れれば離れる程に埋まってる場所は少ないな。そう考えると、ザックさんが示していた座標ってかなり遠いね。

 灰の群集の安全圏が南端なのに、あの目撃地点はマップのかなり北の方だしな。こう見ると、北部への進出が1番進んでる感じもする。


「……ん? 地味に北部には、踏破情報が断片的で分かりにくいが東から西にかけて川が流れてるのか?」

「みたいだなー。ジャングルで川って、危険そうな予感がするけど……」

「それに関しては行ってみないと分からないのです!」

「……うん」


 ジャングルでの川って言えば、リアルではアマゾン川とかを連想するもんな。うん、凶暴そうな生物に心当たりが色々いる気がする。


「他に踏破済みのとこで、目立った場所は特になさそうかな?」

「そうみたいだね。でも、未踏破の部分の方が多いから要注意かも?」

「んー、とりあえず未踏破部分を優先して回ってみるのがいいかもなー」

「赤の群集や青の群集の安全圏の場所も、まだ分かってないか。地味にその辺を聞きそびれたな」

「あ、そういやその情報って聞いてない!? アル、今頃言うなよ!?」

「俺だけのせいにするんじゃねぇよ!? ケイだっていただろうが!」

「……そこは……みんなの落ち度」

「あはは、そこは風音さんの言う通りだね」

「……それもそうだな」

「だなー。ヨッシさん、移動を始めたらその辺を聞いてみてもらっていい? 多分、北の踏破済みの範囲が多いのと関係してそうだ」

「うん、それは聞いとくね」

「よろしく!」


 ザッと見た感じ、今の状態で警戒すべき地形は川か。西と東の方への進出が、北に比べて控えめなのも気になるところ。可能性としては、西と東のそれぞれの先に赤の群集と青の群集の安全圏があるくらいか。

 さて、それじゃ色々と出発の為にスキルの発動をしてから、ジャングルへと進んでいきますか!


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