第1070話 今回の臨時メンバー


 みんなと相談した結果、とりあえず昼まではジャングルへと行く事になった。活動出来る時間は1時間ちょっとくらいだろうけど、その間に何か進展があれば良いんだけどね。可能であれば1人1個は刻印石を調達したいところ。

 さて、あんまりのんびりしてても時間が勿体ないし、サクッとジャングルまで移動してしまうか! あ、でもその前にアルが使う進化の輝石……って、群集拠点種には途中で寄るんだから関係ない――


<無所属のプレイヤーが灰の群集の傭兵として登録されました。競争クエストの傭兵リストを更新します>


 おっと、新たに傭兵に加わった人が出たんだな。他の群集の方が人気らしいけど、灰の群集に味方しようって思う人がいてくれるのはありがたいね。そういや、一度どこかのタイミングで羅刹とも連絡はとっておかないと……。安全圏まで移動したら、一旦連絡してみるか。


「おー! 傭兵の人が増えたのです!」

「灰の群集には、傭兵はこれで何人になったのかな?」

「えっと……今の人で10人みたい? 多いのか、少ないのか、よく分からないね?」

「……それは間違いなく……少ない。……無所属自体は……もっといる」

「そうだぜ。発火草の群生地と取り引きをしてる人数だけでも、もっと大勢いるからな」

「確かに桜花さんの言う通りか。あの群生地で集まってるのが全員だとは思えんしな」

「あー、風音さんや桜花さんがそう言うなら、そうっぽいなー」


 なんかサラッと桜花さんと風音さんが話に混ざってきたけど、商人プレイをしてる桜花さんと、ちょっと前まで無所属だった風音さんの意見は参考になる。根本的に灰の群集に何人のプレイヤーがいるかすら分かってないけど、無所属となれば更に把握は困難だろうしね。

 それでも10人という2PTにも満たない数えられる範囲の人数は……どう考えても少ない。どんだけ灰の群集は人気がないんだよ! いや、まぁ実態としては灰の群集を倒す側に回りたいって方な気がするけども!


「ケイさん達にちょっと頼みがあるんだが、いいか?」

「ん? 可能な範囲なら別に良いけど……あ、みんな、良いよな?」


 おっと、俺の名前を出されたから俺の独断で引き受けかけたけど、みんなに確認はしとかないと。桜花さんからの頼むなら無茶な事ではないと思うけど……うん、みんなが頷いてくれてるから大丈夫だな。


「それで桜花さん、頼みってどんな内容?」

「いやなに、風音さんを一緒に連れていってくれないか?」


 なるほど、そういう内容か。でも、肝心の風音さんはそんな話は聞いてないって感じで右往左往してる……。この感じだと、全部の勢力が入り乱れる新エリアのジャングルへは行きたがらない感じもするね。

 ジェイさんに襲いかかったのは、風音さんにとってはあくまで検証を邪魔された事に対する報復でしかないんだろうな。本当に初回の競争クエストの時に、赤の群集で何を言われたのやら……。


「……桜花? ……え……なんで? ……競争クエストは――」

「今もまだ参加する気にはなれないか?」

「……分かってるなら……なんで!?」

「そりゃまぁ、より楽しめるようにってつもりだぜ? 風音さん、別に対人戦が嫌いって訳でもないだろ?」

「……そう……だけど」

「だったら、盛大に思う存分暴れてこい! 赤の群集だからって避けてたら、面白い相手とも戦えなくなるぞ? なぁ、レナさん!」

「およ? わたしに話を振ってくるの? まぁ風音さんが興味を持ちそうな相手は、赤の群集には何人か心当たりはいるしねー。それこそ、魔法特化でとんでもなく強い人もいるしさー」


 俺もそれについては心当たりがあるなー。しかもその人なら、ほぼ確実に風音さんとの軋轢は存在していない。なにせ、あの騒動の頃には表に出てきていなかった人なんだから。


「レナさん、それってシュウさんですか!?」

「少なくとも1人はそうだねー! それに参加してきてるかは分からないけど、赤のサファリ同盟にも何人かいるよー? 今はあそこは外部顧問みたいな形になってるから、鍛えられてる人も結構いるかもね」

「……そうなると、結構危険かな?」

「警戒しても、し足りないかも?」


 ふむふむ、赤のサファリ同盟の人達はそれほど対人戦に興味はないって話は聞いてたけど、そこで鍛えられた人が参戦してきている可能性はあるのか。そりゃアーサーとかフラムも鍛えられてたし、ガストさんみたいにゲーム内で知り合ってから加入した好戦的な人もいるはず。

 あれ? 弥生さんとシュウさんのコンビが1番ヤバい気がしてたけど、それ以外にも十分過ぎる程の危険要素が揃ってない? ちょっと待って、赤の群集にジェイさん的な参謀タイプの人の存在は知らないけど、その手の人がいたら危険な気がしてきた!?


「……赤のサファリ同盟……確かにレナの……リアルでの……知り合い集団?」

「うん、そうなるねー! ちょーっとクセが強い人が多いけど、勝ち負けで馬鹿にする事を許す人達じゃないのはわたしが保証するよ」


 レナさんがクセの強い人達とかって言うのはどうなんだ!? どちらかというとレナさんもそっちの枠に入りそうな……って、それはいい!

 そういえば赤のサファリ同盟の人達って、雪山の中立地点で弥生さんを巻き込んだ騒動があった時にブチ切れてたような? あれを考えたら、確かに勝敗で難癖をつけるような行為は嫌ってそうだよな。


「ほら、風音さん! 探してた桜花さんとも会えたんだし、今の赤の群集は前とは違ってるよ?」

「それに、全ての元凶はレナさんが無茶をして排除してくれたしなー」

「ケイさん、それは言わなくていいから!」

「……元凶?」

「ん? 風音さん、知らないのか? 少し前にセキュリティロックがかかって、ログイン出来なくなった時があっただろ。あれで逮捕された奴が、赤の群集を裏から乱しまくろうと悪意をばら撒いてた元凶って話だぜ。で、それを暴いたのがレナさんとケイさん達とウィルさんを筆頭とした元赤の群集の無所属勢」

「桜花さん、俺らはただ居合せただけだから!?」

「その話はしなくていいってー!? あれ、規約的にはすごい危ない綱渡りをしたから、あんまり話したくないの!?」

「いやいや、結果的にあの元凶のスライムを邪魔しまくってたケイさん達が居合せたからこそ、レナさんが排除の賭けに出られた訳だしな。レナさんだって最悪BANまで覚悟してやったんだから――」

「桜花さん、そろそろ黙ろうかー!?」

「ちょ、レナさん、八つ当たりで俺を踏まないでー!?」

「あ、ごめん、ダイク」

「ダイクさん、すまん」


 なんか変な流れ弾でダイクさんが酷い目に遭ってけど、流石に今のはレナさん的にもわざとやってた訳じゃないみたいだな。てか、レナさん的にはあの時の事は触れられたくないのか。


「……あの時……風邪で寝込んでたけど……そんな事が……あったの!? ……ウィル達が……謝りながら……戻っていったの……そういう事!? ……レナ……そんな無茶してたの?」

「……あはは」

「レナさんは、風音さんみたいに嫌な思いをした人の為に――ぐふっ!」

「ダイク、余計な事は言わなくていいの!」

「ちょ、だから、踏むのは勘弁して!?」


 思いっきりレナさんの照れ隠しで、ダイクさんが踏みつけられてるー!? それにしても本当にダイクさんは、レナさんから散々な扱いを受けてるのに普通な感じだよな。って、何かサヤ達が小声で話し始めた? 


「……ダイクさんって、やっぱりMなのかな?」

「うーん、どうなんだろ? ゲーム内じゃ、痛みはないし……」

「踏まれる痛みというより、レナさんに踏まれるのを望んでるような気もするのさー?」


 なんとなく俺も思ってた事だけど、みんなものその辺は思ってたんだな。その辺の気持ちはよく分からないけど、ダイクさんはレナさんに乱暴に扱われたいような気持ちはあるのかもね。


「サヤさん達、小声で話してるけど聞こえてるからなー!? 俺はMじゃねぇー!」

「はいはい、それはどっちでもいいから、わたし達はそろそろ本格的にトーナメント戦の開催の根回しに行くよー! ダイク、水のカーペット!」

「ちょっと待って、レナさん! これだけは、これだけは弁明させてくれー!」

「それはまたの機会にねー! はい、急ぐ!」

「ちょ、待っ!?」


 あー、レナさん自体がなんだかこの場から離れたかったみたいで、いつもより更に乱暴な感じでダイクさんを連れていったというか、引き摺っていった。まぁあれがあの2人のいつもだし、多分大丈夫だろ。


「……そっか……色々と……知らなかった」

「で、風音さん、どうするんだ?」

「……うん……桜花、決めた! ……ケイさん達と……一緒に……暴れてくる!」

「よし、それでいい! ケイさん達、頼んだぜ!」

「おう、任せとけ、桜花さん!」

「風音さん、歓迎なのさー!」

「強力な助っ人かな!」

「今日の臨時メンバーは風音さんだね!」

「って事で、風音さん、PT申請な」

「……うん!」


<風音様がPTに加入しました>


 よし、これで6人のフルPTにはなった。状況次第では現地で他のPTと連結PTにするかもしれないけど、今はこのメンバーで動いていこう!


「おし、それじゃジャングルに行くぞ!」

「「「「おー!」」」」

「……うん!」

「楽しんでこいよ、風音さん」

「……うん! ……桜花もね!」

「おう、もちろんだ!」


 そんな感じで風音さんが臨時メンバーになったし、桜花さんの樹洞から出てアルに乗って移動を始めていこう。俺らの中では誰も持ってない闇魔法と火の昇華があるし、単独で自由に飛べる空中戦力だから頼もしいよな!

 さーて、ジャングルまで行って色々やっていきますか。とりあえず具体的な行動方針については、安全圏まで移動して最新情報を仕入れてから考えていこう。



 ◇ ◇ ◇



 すぐにジャングルまで行こうと思ったけども、ちょっとエンのところで少しだけ待ち時間が発生中。アルが進化の輝石を交換する事になったけど、どの属性にするかがまだ決まっていないのである。


「アル、どの属性にするんだ?」

「あー、悩ましいとこなんだよ……。元々は火属性にしようって考えてたが、風音さんがいる時に試すのもなぁ……。いや、でもいつも風音さんがいる訳じゃないんだし、ここは火属性でもいいのか?」

「とりあえず実験なんだし、どれでも良いんじゃないかな?」

「他の属性が欲しくなった時に、新たに交換すれば良いのさー!」

「それも選択肢としてはありだよね」

「……悩む気持ち……よく分かる」

「だよな!? だー! とりあえず今回は火の進化の輝石にしとく!」


 ふー、何とかアルが交換する進化の輝石の属性は決まったね。ん? ふと思ったけど、闇や光の進化の輝石を使えば、俺も闇魔法や光魔法を覚える事も可能?

 うーん、試してみたい気もするけど、それは今すぐにでなくてもいいか。それにしても、成熟体になってから纏属進化の有用性が高まる可能性が出てくるとは思わなかったね。

 まぁまだ有用かどうかは確定ではないけど、その辺を確認する為にも風音さんに纏火をしてもらって『異形のモノの討伐』の称号で……って、その辺の説明は中途半端になってなかったっけ? あー、その辺の説明をするにしても先に安全圏へ移動した方がいいかもな。


「……ところで……龍のサイズは……どうしたらいい?」

「アルに乗るなら、小さい方がいいとは思うかな? でも、ジャングルで戦闘の可能性は高いから、そのままの方がいいかも?」

「……そっか。……うん……その時の……状況次第で変える」

「隠れる時は、アルさんと一緒に小型化なのさー!」

「うん、それが良さそうだよね」

「ま、その方が色々と動きやすいだろうしな。ただ、あくまでそれは基本方針なだけで、必要に応じて臨機応変にいくぞ。あー、それと俺らの共同体はケイがリーダーだから、基本的にケイが指揮を出すからな」

「……分かった。……ケイさんの……指示に従うね」

「そうしてくれると助かる」


 今のところ、分かっている範囲では風音さんの持っている主力攻撃は闇魔法と火の昇華と土の昇華なはず。もうちょい詳しく把握したいとこだけど、それも安全圏まで移動してから聞くとして……あぁ、これだけは今確認しておいた方がいいか。


「風音さん、ちょっと確認しておきたいんだけど、確かトカゲの方は小さい状態が本来の姿って言ってたよな? それは間違いないか?」

「……うん。……それが……どうかした?」

「それなら共生進化を実行出来るよな? そうはしないのか?」

「……考えた事……なかった」

「なるほど、試した事自体がないのか」


 ふむふむ、今までソロで自由に動いてたんだろうし、無所属で積極的に他のプレイヤーと交流をしてた訳でもない。群集にあるまとめの情報にも、まだ目を多くは通せてないだろうなー。

 てっきりあの大きなワニっぽいサイズのトカゲに進化させたものだと思ってたから除外してたけど、大きさの制限に引っ掛からずに共生進化が可能なら良い手段がある。


「風音さんの構成なら、単独で2人で発動する場合と同じくらいの威力が出る昇華魔法を使う方法があるんだけど、興味ある?」

「……興味ある! ……そんな手段があるの!?」

「あー、ジェイさんが使ってたあれか」

「そう、あれ!」


 ジェイさんと斬雨さんと一緒に、氷樹の森を突っ切った時に見せてくれたやつだな。共生進化の両方が魔法型である事が必須だけど、風音さんは見事にその条件を満たしてるしね。


「……その方法……知りたい!」

「やり方さえ分かれば結構簡単な手段でなー。例えば風音さんの場合で例を上げるなら、龍のファイアクリエイトと、共生指示で呼び出したトカゲのアクアクリエイトの2つを並列制御で発動するんだよ」

「……共生指示?」

「あー、『共生指示』は共生進化をした相手側の『半自動制御』ってスキルに登録したスキルをログインしてる側から呼び出して使うスキル。これを使って発動すると、登録してるスキルは行動値や魔力値は消費せずに、再使用時間が発生するようになるんだよ」

「……そうなの!? ……でも……昇華魔法に使う……魔力値は?」

「再使用時間に、呼び出された方の種族の持ってる魔力値分だけ秒数が加算される仕様だったはず」

「……消費する部分が重ならないから……威力が2人で発動したのと……同等扱いになる?」

「俺自身は試せないけど、まぁそういう事になるな」

「……少しだけ待ってて! ……すぐに……共生進化を……してくる!」

「あ、この位置だと邪魔になりそうだから、少し離れたとこで待ってるぞー!」

「……分かった!」


 そこまで言ったら、即座に風音さんはログアウトしていった。多分、1stのトカゲは森林深部にいると思うから、すぐに戻ってこれるはず。さーて、しばらく待機だな。

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