第1066話 検証の為の模擬戦 その5


 とりあえず少しの過剰魔力値を使用して、アクアウォールを発動してみた。結果としては、強化幅は非常に微妙。それとアブソープ・アクアの強制解除も重要そうだな。この辺は流れの解説が必要かも?


「これは……なんとも微妙ではありますが、少し大きくなっているようではありますね? ですが、私がミヤ・マサの森林で見た時とは大きさがまるで違います! そして『アブソープ・アクア』は発動になっていないようですが、これはどういう事でしょうか!?」

「んー、仕様が全然分かってないからなんとも言えないねー? ケイさん、その辺の仕様の説明、分かる範囲で良いからお願い出来ない?」

「ほいよっと。まぁ軽くは分かったから、その辺は説明していくよ」


 このいまいち強化されてないアクアウォールを見た時点で、そうしようって思ってたとこだしね。まだ確認すべき事は残ってるけど、それを試す為の準備をしといてもらおうっと。


「アル、今のうちに昇華魔法用に魔力値を全快させといてもらえるか?」

「あー、次は昇華魔法でやるんだな。それは了解だ」


 それだけ伝えたらアルは即座にレモンで回復し始めてくれたから、その間に分かってる範囲の説明をしていこう。


「えっと、とりあえず過剰魔力値についてだな。これは『アブソープ・アクア』で水魔法を吸収した際に、自分自身の魔力値の上限を超えた場合に発生するのは確定だ。アル、さっきの魔法での消費魔力値は?」

「ん? アクアエンチャントで21、アクアボムで15だな」

「……吸収してたのが18だから、合算した上での半分になるのか」


 ふむふむ、合算前に半分の判定になってたら吸収量は17だもんな。些細な差ではあるけど、切り捨てにならないのは気分的には嬉しいところ。まぁここはそれほど重要じゃないから、先に進めよう。


「まぁ吸収量としてはそうなるんだけど、上限を超えた過剰魔力値は7になってた。その過剰魔力値を次に使う水魔法の強化に使えるんだけど、大した量ではないからそれほど強化はされてないみたいだ」

「ケイ、ちなみに聞くが、昇華魔法を吸収した時は過剰魔力値をどの程度使った?」

「えーと、正確には覚えてないけど、多分100以上だな」

「……それだけ違えば、これだけ露骨に強化具合に違いもあるか」


 過剰魔力値の使用量の違いが、前回使った時との大きな違い。大量に使えば使うほど、その威力は強大なものとなる訳だ。そして、もう1つ重要なのはこれだな。


「それとは別に重要なのは、過剰魔力値の使用量に関わらず、過剰魔力値を使ったら『アブソープ・アクア』が自動で解除になる点だな」

「あれは意図して解除した訳ではないという事でしょうか?」

「そうなるなー。過剰魔力値を使用したら、水の膜が水球に変わって、それが次に使う魔法の強化に使われるっぽい。それを実際に魔法の使った時に『アブソープ・アクア』自体が解除になる」

「へぇ、そういう仕様になってる訳か!」

「……興味深い! ……過剰魔力値を……使わなければ……どうなるの?」

「そこは確かに重要だねー。ケイさん、その辺は分かってる?」

「まだ試してないから不明だなー。次は昇華魔法を吸収して、その辺を試してみるつもり」

「さぁ、次の検証内容が決まりました! 昇華魔法の吸収と、吸収し過ぎた過剰魔力値を使用しなければどうなるかを試していきましょう!」


 えーと、内容はそれでいいんだけど、昇華魔法を使ってくれるアルの準備は……もう何も食べてない状態だから、既に回復は済ませたっぽいね。うん、なんか見やすい?

 まぁアイテムの使用はありにしてるけど、模擬戦の中では実際に消費する訳じゃないから割合回復の良いやつで一気に回復もしやすいか。


「アル、始めるぞ!」

「そりゃいいんだが……ケイ、まずはアブソープ・アクアの再発動をしろよ?」

「あっ!? そりゃそうだ!?」


 しまった、まだ使い慣れてないし、さっきまでずっと効果が出たままだったから再発動をするのを忘れてた! 大事なとこなのに、そこを忘れてどうする! とにかく再発動!


<行動値上限を10使用して『アブソープ・アクア』を発動します>  行動値 107/107 → 97/97(上限値使用:10)


 という事で、発動完了。再び水の膜で覆われて、吸収出来る状態に戻った。いやー、視界が見やすいなーって思ってたけど、そりゃ水の膜が無くなってたんだから見やすいに決まってるよねー。……我ながら、何やってんの、今の再発動忘れ。


「ケイさんの変など忘れもありましたが、これはたまにある事なので気にしないで進めていきましょう!」

「ハーレさん、そういう説明はいらないから!?」


 確かにど忘れをする事が無いとは言わないけど、そこを強調して説明せんでいい! アルとの会話自体、みんなに聴こえてるんだから状況は把握してるって! そう考えるとなんか凹むなぁ……。


「……アル、始めようぜー」

「あー、使うのはウォーターフォールで良いんだよな?」

「それで良いけど……そもそも、アル1人で他に何か使えたっけ? あ、樹木魔法や海水魔法との組み合わせの昇華魔法?」

「いや、その2つには昇華魔法はねぇぞ? 昇華魔法があるのは、基本属性の6種類の属性同士の組み合わせだけだ」

「無いならなんで聞いた!?」


 てか、毒も無かった気はするけど、根本的に基本属性になる『火』『水』『風』『土』『雷』『氷』以外では昇華魔法って存在しないんだね? 明確に知ったのは初めてな気がする。

 いや、その情報自体は良いんだけど、それならウォーターフォール以外に選択肢とかあったっけ? アルの昇華って、他に無かったよな?


「ケイ、他に選択肢があるのに気付いてないな?」

「……他に?」


 え、本気で何があったっけ? アルに聞けばすぐに教えてはくれるだろうけど、ここは自力で思い至れー!


「おーっと、ここで何やらアルマースさんに考えがあるようですが、解説の皆さんは分かりますでしょうか?」

「正直、分からん!」

「およ? あ、そっか。もしかして……?」

「……レナ?」

「どうやらレナさんには思い当たるものがあるようです!」


 え、マジで!? 普段なら俺とアルでデブリスフロウの発動は出来るけど、今は模擬戦だから使えないし……って、あー! 今回の模擬戦はいつもと違ってアイテムが使える! それだけでは意味はないけど、その中で関わってくる可能性があるのはあの2つか!


「アル、それって『纏瘴』の瘴気魔法と『纏浄』の浄化魔法の事か!?」

「おう、正解だ。ま、俺もついさっき思いついたとこだがな」

「アルも思いついたばっかかい! 厳密には昇華魔法じゃないから、その選択肢は完全に抜け落ちてたぞ……」


 でも、どっちも確かに単独で発動可能な水属性を含む魔法にはなる。てか、その2つに関しては2人での発動は不可能で、1人でしか発動出来ないものだったはず。……昇華魔法とは別枠にはなるけど、それでも確かめておいた方がいいのか?


「この場合は浄化魔法の『ピュリフィケイション・アクア』と、瘴気魔法の『ミアズマ・アクア』になりますね! これは盲点でした!」

「そういやそれらがあったな! でも、使う必要性あるのか?」

「多分、試した方がいい内容だよ、紅焔さん。……しまったなー、なんで失念してたんだろ」

「え、レナさん、マジか?」

「……レナ……どういう事?」

「えっと、正確には片方だけ。わたしも今の今まで気にも留めてなかったけど、警戒すべきは『纏瘴』による瘴気魔法。その瘴気属性で付与される瘴気汚染だね。あ、でも纏浄も知っておきたいとこではあるけど……すぐには使えないから優先度は下がるかな」

「あ、そういう事か! 確かにそれは把握してなきゃ危険じゃねぇか!?」


 紅焔さんが反応してるけど、確かにそこは見落としていたかも。纏瘴による瘴気属性の付与が、対人戦でどの程度の影響が出るのか……それを全然知らない。デメリットは大きいけど、状況次第では相手を封じ込める手段になり得る。

 纏浄での浄化魔法も知っておいた方が良さそうだけど、時間をおかなきゃ使わせてくれないし……。模擬戦機能でも、レナさんの反応的にすぐに使える訳じゃなさそうだよな。

 てか、他に見てるみんなからもざわめきが聞こえてきてるから、本気でみんなも気付いてなかった手段っぽい。まぁ共闘イベント以外では、スクショの演出くらいにしか使ってなかったもんな!


「……瘴気汚染?」

「風音さん、共闘イベントは……参加してないよね?」

「……うん。……だから……さっぱり内容が……分からない?」

「それじゃ少しおさらいも兼ねて、今気付いた危険性を説明していくよー! 『纏瘴』を使う事で一時的に瘴気属性を得る事が出来るんだけど、この瘴気属性が厄介でね。この属性ありの攻撃に当たったら『瘴気汚染』って状態異常になって、アイテムでのHPと魔力値の回復量低下と自然回復速度も低下して、継続ダメージも発生するの。『瘴気耐性Ⅰ』を持ってたら継続ダメージは無くなるし、低下量は軽減するんだけどね」

「……少し厄介そう……でも……そこまで問題?」

「ううん、『瘴気汚染』までなら別に大丈夫だよ。問題はその上位になる『瘴気汚染・重度』の方。これになるとアイテムでもスキルでもHPの回復は不可、行動値と魔力値の自然回復速度の大幅低下ってかなり危険な状態異常でね」

「……かなり……理不尽?」

「今のところ、プレイヤーの攻撃で『瘴気汚染・重度』になったって情報に覚えはないんだけど……」

「そもそも試した事が無いんじゃね?」

「うん、そこは紅焔さんの言う通りなんだよねー。瘴気魔法を使った本人が確実にそうなるからさー」


 ふむふむ、ここはみんなの意識から抜け落ちていて検証をしていなかった部分になるんだな。確かに『瘴気汚染・重度』は瘴気魔法の反動としてなる事は身をもって知ってるけど、普段使いするものではなかったから全然その辺は気にした事はなかった。

 瘴気魔法の反動で確実にそうなるから、1対1での対人戦でも使うようなものじゃなかったしなー。でも、2回目の開催になる競争クエストでは話が変わってくる。1人がしばらく戦闘不能な状態になっても、対戦相手のプレイヤーを事実上の行動不能に陥らせられるなら使用価値はある。しかも、それがアブソープ系のスキルを持つ相手であれば尚更に。


「アル、地味にとんでもない発見かもよ?」

「……軽く考えてたが、よく考えると相当危険ではあるよな」

「軽く考えてたんかい!」


 いや、実際にどうなるかってのはまだ分かってないもんな。どうなるかは、試してみないと分からないか。


「思わぬ方向に話が転がっていきましたが、この内容の検証はどうしましょうか!?」

「えーと、普通に瘴気魔法を受けた場合の検証は今ここでやる必要はないから別枠でやってみるとして、ケイさんには瘴気魔法を吸収した場合にどうなるかを試してもらいたいんだけど、お願い出来る? 場合によってはさっきのルートレストレイントと同じ感じで、水属性の影響を受けた瘴気まで吸収する可能性があるからねー」


 あ、そういう可能性もあるのか! うーん、確かにそういう内容であれば、確認はしておきたいところ。それこそジェイさんに対する切り札になり得る可能性もある。

 うん、その検証をやるのはいい。いいんだけど、俺だけで決めていい話でもないし、まだ他の検証案件も残っている。アルに瘴気魔法を使ってもらう事になれば、いくら模擬戦でもデメリットは発生して、その後からは何も出来ない可能性は高い。


「アル、どうする? 昇華魔法の吸収と、過剰魔力値を使わない時の検証がまだだけど……」

「単純にそっちを終わらせてからでいいんじゃねぇか?」

「あ、確かにそりゃそうだ!」


 別に二択にしなければならない理由はどこにもなかった! 魔力値の回復にアイテムを出し惜しむ必要もないんだし、サクッと両方をやればいいだけか!


「おし、それじゃ先に普通にウォーターフォールの吸収と、過剰魔力値を未使用にしたらどうなるかの確認で!」

「おうよ!」

「どうやら方針が決まったようですね! それでは順番にやっていきましょう!」

「……楽しみ!」

「さて、どうなるか!」

「あはは、まぁ焦らずに順番にだねー」


 苦笑いをしてるレナさんとしても、ちょっと焦ってしまったとこはあるみたいだなー。今回の競争クエストは、青の群集が本気過ぎるから警戒心が強まってきてるのもあるのかもね。まだ赤の群集の動きも弥生さんとシュウさん以外は把握出来てないってのもあるから尚更に。……冗談抜きで赤の群集は、今どういう風に動いてるんだろ?

 ともかくこの検証の結果次第では、ジェイさんを抑え込む切り札にもなり得るし、逆に俺が最大限に警戒しないといけない手段になる可能性もある。俺自身もそうだったし、焦ってしまうのは仕方ないよな。でも、だからこそ落ち着いて確かめないとね。


「それじゃいくぜ、ケイ! 『並列制御』『アクアクリエイト』『アクアクリエイト』!」

「ほいよっと!」


 まぁそっちを気にするのは後にして、今はウォーターフォールを吸収していくのみ! おー、見事な程にウォーターフォールの水が吸収されていってる。うん、昇華魔法でも単独発動で水属性のみなら吸収には問題なしか。


<過剰魔力値を水魔法の強化に使用しますか?> 魔力値 406/274


 うぉ!? 凄い量の過剰魔力値になってる! アルの木は魔法型になってるから、その分だけ消費魔力値が多いっぽい気がする。でも、今回はこの過剰魔力値は使用しないを選択だ!


<使用されなかった過剰魔力値を結晶化します>

<『進化の軌跡・水の結晶』を1個獲得しました>

<模擬戦の為、獲得した『進化の軌跡・水の結晶』は破棄されます>

<過剰魔力値の結晶化により『アブソープ・アクア』は解除され、行動値上限が元に戻ります> 行動値 97/97 → 97/107


「はい!?」

「ほう?」


 え、まさか過剰魔力値から『進化の軌跡・水の結晶』が生成された!? ちょ、これは全く想像してなかった結果なんだけど!? 今のといい、過剰魔力値といい、スキルの説明欄に載ってない隠し効果多くない!?

 しかも、こっちでも『アブソープ・アクア』は強制的に解除になるんかい! 戦闘中なら、過剰魔力値は攻撃に使った方がよくない? 俺に水の進化の軌跡とか無用の長物過ぎるんだけど、トレード用には使えるのか? うーん、何とも言えない微妙な心境。


「えぇと、なにやら青い宝石のような結晶が生成されて砕け散ったようですが……一体何が起きたのでしょうか?」

「……今のは……進化の軌跡の……結晶?」

「さっき、風音さんに見せてもらった火の結晶と形は一緒だったねー?」

「そういう生成方法もあるのか! でも砕け散ったのはなんでだ?」

「模擬戦だからじゃない? ほら、模擬戦で作れて持ち出せたらとんでもない話だしさ」

「あ、そりゃそうか」

「その可能性はありそうですね! ケイさん、その辺りは実際のところどうなのでしょうか?」

「あー、それで正解だぞー。今のは『進化の軌跡・水の結晶』だ」


 何も説明しないままに、全部言い当てられてしまったよ。まぁでも見てれば今のは分かるもんな。この検証の為の模擬戦を始める前に、進化の軌跡の上位変換をしてたばっかだしね。

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