第1065話 検証の為の模擬戦 その4


 アブソープ・アクアは物理攻撃でも魔法攻撃でも破壊出来ないのは分かった。まぁその辺の手段に対して、何の防御にもなってなかったけどね! 絶対的な防御性能があるのは水属性の魔法に対してのみかー。

 とりあえず魔法産の水の操作に対しての効果も分かったし、次は清水魔法と昇華魔法の吸収を……。


「ん? アル、ちょっと思ったんだけど、普通の天然の水だとどうなるんだ? 魔法じゃないから無理?」

「それは流石に吸収出来ない気はするが……一応、試してみるか?」

「万が一って事もあるし、頼む!」

「おうよ。『水の操作』! おらっ!」

「ちょ!? そんなに勢いよく……ぐはっ!」


 くっ、今のは必要ないだろうに、無駄に水を加速させまくって吹っ飛ばしてきた!? ロブスターのHPが地味に結構減ってきてるんだけど、検証中だからって遠慮なく攻撃しまくってない!?


「なるほど、分かってはいたが、ただの水では吸収はなしか」

「……そうみたいだなー。それにしても、アル、無意味に加速させ過ぎじゃね!?」

「……ケイのさっきの砂も大概そうだっただろ? それに、実際の攻撃の水準の方が参考にはなるしな」

「あー、それは否定が出来ない……」


 俺がさっき砂をアルにぶつけたのだって、実戦での使い方基準で使ってたしな。うん、自分がやってた以上は、アルに対して文句が言えないところ……。

 ふー、まぁそれなら仕方ないし、4割くらいまでHPが減ってるからここはサクッと脱皮で……あ、脱皮は変異して急速脱皮に変わってたっけ。そういや脱皮は再取得をしてないままだけど……まぁいいか。


<行動値を3消費して『急速脱皮Lv1』を発動します>  行動値 94/97(上限値使用:10)

<HPを30%回復します> HP 9574/12050

<防御が30%低下します>


 回復量30%じゃ全快にならなかったけど、まぁ全快しておく必要までは無いからこれでいいや。必要そうならまた急速脱皮を使えばいいしなー。


「ところでケイ、今のもハッタリで使えるんじゃねぇか?」

「あー、生成したと思わせておいて、実はインベントリから取り出した水って感じ?」

「おう、そういう事だ」

「ありといえばありだけど、規模としては控えめにはなりそう……」

「……それもそうか」


 どうしてもアイテムとして持ち運べる量には決まりがあるから、生成するよりも量は少なくなる。意表を突くには使えると思うけど、決定打になるほどのものではない。

 それにそのハッタリをするには、スキルを発動させずに生成魔法の発声しつつ、それと同時に思考操作でインベントリからアイテムを取り出すって地味に厄介な操作が必要になるもんな。言うのは簡単だけど、実際にやろうと思ったら難しい手段だしね。


「ん? ハーレさん、ちょっと質問!」

「ケイさん、どうしましたか?」

「投擲で弾の指定の最中に、アースクリエイトを発声するだけって可能? 先に思考操作で投擲を発動しておいたら、スキルの発動中になるからアースクリエイトは発動しないよな?」

「はっ!? 確かにその手順ならアースクリエイトは発動しないと思います! その後に実際には既に発動中の投擲を待機させた上で、投擲を発声で発動したように見せかけるのは可能なのさー!」

「おし! だったら、そういう偽装方法もありだな!」


 場合によっては氷属性でも氷柱を弾に使えば可能か。色々と考えてみたら、アブソープ系の回避方法って意外とあるもんだな。あの防御性能を過信してると足を掬われそうだから、その辺は要注意だな。

 あー、でも微妙に魔力視で見破られる可能性もある? あんまり気にも留めていなかったけど、今回の模擬戦でアルが魔法を使う時には青いモヤはずっと見えてたしな。


「……今の手段……ジェイ相手に……有効?」

「うーん、どうだろねー? ジェイさん自体がその手の方法を考えてる気もするし、魔力視もあるから基本的には通じないと思っておいた方がいいかも? ただ、みんなが警戒すべきところとして意識しておくのはいいかもね」

「お互いに出し抜く為の戦法の考案が凄まじいな、おい。でも、魔力視で見破られる可能性もあるのか……。それなら、並列制御で実際に生成はしておくってのはどうだ? 実際に投げる弾は別としてよ?」

「およ? 確かにそれなら偽装は出来るかもね?」

「紅焔さん、それはありなのです! 魔法産の小石を使う事がある投擲持ちの方は、こういう手段があるのを頭の隅に置いておいて下さい!」

「あ、今のハーレの言葉に補足ねー! 多分氷属性で氷柱を弾にする場合でも同じ事が出来ると思うから、そこも覚えておいて!」

「はっ! そういえばそうなのさー! レナさん、補足をありがとうございます!」


 サラッと紅焔さんが偽装工作の改良案を出してくれた上に、レナさんが必要な部分の補足はしてくれたし、この件はこれくらいでいいか。割とこの辺は考える事は同じっぽいしね。

 さーて、次の検証を始めていこうっと。アブソープ・アクアの影響範囲が広いから、検証案件が多くて大変だ。まだまだ結構かかりそうだな、この検証。


「アル、次をやるぞー!」

「次は清水魔法と昇華魔法のどっちだ?」

「んー、とりあえず清水魔法で!」

「清水魔法だな。おし、それじゃいくぞ。『ウォーターハンマー』!」

「ほいよっと!」


 地味に清水魔法はまだ一度も見ていないんだよなー。おー、アルの木の前に出現した水球が凝縮されてどんどん小さくなっていってる。これがウォーターハンマーの溜めの様子か。

 ふむふむ、通常スキルの水魔法はどのLvでも魔力視で見えるようになった前兆の青いモヤの範囲は変わらなかったけど、応用スキルになる清水魔法は青いモヤの範囲が広かったね。まぁどっちも実際に魔法が発動して段階で前兆は消えるけど、規模の違いは明確に見えるのか。


「えー、発動までに時間が少しかかるので、皆さんしばらくお待ち下さい!」

「まぁこれはスキルの仕様だから仕方ねぇな!」

「……確かに……これは仕方ない。……ところで……今のうちに……質問をいい?」

「およ? 風音さん、何か気になる事があった?」

「……うん。……魔法砲撃と……複合魔法の……検証は? ……あと……付与魔法での……強化をした場合」

「おーっと、確かにその3つもありましたねー! そういえばアルマースさんは魔法砲撃持っていなかった気がするのですが、その辺りはどうでしょうか!?」


 あ、そういやその3つが検証案件から抜けてた!? うっわ、思った以上にまだまだ検証内容が残ってるんだけど、地味に大変じゃね!?


「……魔法砲撃は持ってねぇな。ケイ、その辺はどうする?」

「模擬戦中は称号での取得って出来るのか? いや、そもそもスキルの取得自体が出来るかどうかも問題じゃね?」

「あ、称号どころかポイント取得でもスキル取得は不可能だから、持ってないなら今はスルーでいいよー! 可能な範囲で構わないからねー!」

「だそうだぞ、アル」

「だったら、魔法砲撃は今は除外で、複合魔法と付与魔法ありを試す感じでいいか」

「だなー。多分、ここまでの傾向からして、1つが駄目なら全部駄目っぽいし、1つずつにしとく?」

「なんだかんだで結構時間も経ってるし、その方がいいかもな」


 時間が経ってるって……あ、いつの間にか10時が近いし、思った以上に時間が経ってた!? 9時までに検証を終わらせるつもりが、青の群集からの強襲やら、この検証の模擬戦も思った以上に時間がかかってたっぽい。

 ふー、どうしても俺らだけじゃカバーしきれない検証案件もあるから、その辺をアルが実行出来るようにしてから再度やるのが良いかもね。もしくは、アルがやってくれている役目を他の人に代わってもらってやるのもありか。確かダイクさんが魔法砲撃を持っていたはずだから、頼める可能性はあるよね。とはいえ、それも時間はかかりそう……。


「さてと、とりあえず溜めが終わったこれをぶっ放すぞ」

「ほいよっと! さて、清水魔法はどうなるか!」

「地味に重要な部分だしな。いくぞ!」

「こい!」


 同じ水属性の魔法ではあるけども、通常スキルと応用スキルで分類が違う。でも、昇華魔法っていう別枠の魔法も吸収は出来たんだから、吸収出来る可能性の方が高いはず!

 圧縮された水が一気に解放されて、凄い勢いで迫ってくる。これは確かにアクアインパクトに近い気はするけど、それよりも魔法砲撃にしたウォーターフォールに近いような……って、拍子抜けするほどあっさりと吸収出来た!?


「びっくりするほど、呆気ない結末なんだけど!?」

「清水魔法Lv1よりもアブソープ・アクアの方が上位になるのか」

「多分、そういう事なんだろうなー」


 必要な熟練度がどの程度違うのかは分からないけども、スキル強化の種を使わずに魔法Lv8に到達している人がいるという情報がないもんな。それを考えたら難易度としては魔法Lv10の方が上でも不思議ではないか。


「ちなみに魔力値の吸収量はどんなもんだ? 消費魔力値は76だが……」

「えーと、吸収量は38だから……変わらず半分っぽい?」

「そこの仕様は変わらないのか」

「みたいだなー」


 てか、清水魔法をあっさり吸収した上に、魔力値が38も回復するのは凄いな。スキル強化の種の使い道で砂岩魔法のLvを上げる事も考えてたけど、こうしてアブソープ・アクアの性能を知っていくほどに水魔法を上げるのに使って良かった気がしてくるよ。

 まぁあくまで水魔法は通常スキルだから応用スキルほど威力が強烈って訳じゃないだろうけど、それでもこれまで分かった内容でも十分過ぎるほどに有用性は高い。アクアクラスターとか、早く実戦で使ってみたいもんだよ。


「よし、それじゃ次は複合魔法をやってみるか!」

「どうせなら、変わった組み合わせでやってみるか」

「ほほう? どういう組み合わせ?」

「こういう組み合わせだ! 『並列制御』『コイルルート』『アクアクリエイト』!」

「それってルートレストレイント!?」

「おらよ!」


 確か根で巻きついて拘束する性能を水で強化してる複合魔法! ちょ、これって水成分が少なめだから、吸収効果が十全に発揮できるか分から……って、杞憂だったっぽい?


「おーっと!? アルマースさんの根がケイさんを拘束して巻きつきはしたものの、明確に萎れていくー!」

「……樹木魔法の……水分まで……吸収してる?」

「アクアクリエイトで強化された分、余計に水の魔法成分を吸収されてる感じだねー。樹木魔法単体では吸収はされてなかったし、複合魔法にしたら樹木部分にも悪影響が出てるみたい」

「下手に水を使った複合魔法は使わない方が良さそうって感じだな!」


 解説役のみんなが説明してくれたけど、確かにそういう感じの吸収の仕方だった。……あれ? でもこれって使い方によっては、逆に危ないんじゃない?

 例えばポイズンミストで水の魔法成分を吸収してしまえばどうなるんだろ? うーん、すぐには試せないし、根本的に毒と組み合わせられる複合魔法の種類はほぼ知らないし、これについてはその辺をチェックしてから後々じっくりと考えてみようっと。


「ふむ、樹木魔法と水魔法の複合魔法は使い物にならなさそうだな。さて、次は付与魔法のパターンでいくか」

「よしきた! どの魔法を強化してやる?」

「弾数が1発増える爆発魔法でやってみるので良いか? 見た目的に分かりやすいだろ」

「あー、確かに? よし、それでいこう!」

「あ、その前に今のケイは魔力値はどうなってる?」

「えーと……そろそろ全快だなー。あれ、場合によっては過剰吸収になるかも?」

「あー、例の妙に巨大なアクアウォールになってたあれか? あれ、詳細をまだ聞いてないんだが、結局どういうものなんだ?」

「ぶっちゃけ、俺もよく分かってない!」

「分かってないのかよ! いや、まぁそれを確認する為の検証か」

「そういう事だな!」


 あの過剰魔力値で分かっている事は、魔力値の上限を超えて吸収した際に出る事と、それを使って次に使う水魔法の強化が出来る事と、そうなった場合にはアブソープ・アクアが解除になる事くらいだもんな。

 全然分かってない訳じゃないけど、それでも不明瞭な部分は多い。過剰魔力値を使わなければどうなるかとか、使ったとしてもどのくらいの過剰魔力値でどの程度の強化になるかとか、そういうところは調べておきたいもんね。


「ま、とりあえずやるだけやってみるぞ! 『並列制御』『アクアエンチャント』『アクアボム』!」

「こいやー!」


 今の魔力値はほぼ全快に近い263だけど、これがどうなるかだな。アクアエンチャントで攻勢付与のかかったアクアボムを吸収したらどういう結果になるか、そこが重要。

 さて、アクアエンチャントがかかってる分だけ発動の兆候の青いモヤが増えてる気がするけど、ともかくアクアボムの2連発をあっさりと吸収して――


<過剰魔力値を水魔法の強化に使用しますか?> 魔力値 281/274


 あ、吸収した魔力値は18で、ちょっとだけ過剰魔力値が発生したね。ふむふむ、少しでも上限を超えたらこうして出てくるんだな。


「ケイ、どうなった?」

「あー、魔力値の上限を超えて、過剰魔力値が発生した。ちょっとこれを使ってみるわ」

「ほう? どうなるんだろうな?」

「そこは試してみないとなんとも言えないし、とりあえず試すまで!」


 という事で、過剰魔力値を使用! うん、使ったら目の前に水球が出てきたけど……前回見たのより小さいな!? てか、前に使った時は気にしてる余裕がなかったから気付いてなかったけど、この水球って吸収していた水の膜が形を変えたものっぽい。


「何やら水の膜が消えて、小さな水球が現れましたね! これはどう見ますか、解説の皆さん!」

「あー、これについてはさっぱり分からん!」

「うーん、水の膜が水の球に変わった感じだね? これでどうなるんだろ?」

「……もの凄く……興味深い!」

「確かにそれはそうですね! それではケイさん、使ってみてもらって宜しいでしょうか!」

「ほいよっと! 見た目で分かりやすそうなアクアウォールでやるぞ!」


 前回使った時との比較にもなるから、ここはそれが最適なはず。まぁどうなるかは実際にやってみればいいだけだ。


<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 87/97(上限値使用:10): 魔力値 259/274

<過剰魔力値の使用により『アブソープ・アクア』は解除され、行動値上限が元に戻ります> 行動値 87/97 → 87/107


 さて、これで目の前にアクアウォールを展開! おー、目の前にあった水球を取り込んで、心なしか普通に発動する時より少し大きくて耐久性も少し多い状態で発動した気がする? 

 でも、劇的な強化にはなっていない? 正直、付与魔法で守勢付与をかけた方が耐久性は上がってる気はする。てか、過剰魔力値を使って魔法を発動すると、アブソープ・アクアは問答無用で解除になるっぽいなー。

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