第927話 新たな樹木魔法の検証
さてと、アルの樹木魔法のLv4〜6は見た。Lv4のリーフスライサーはシンプルに葉を飛ばして切りつける魔法だから、意外と使い勝手は良さそうだな。というか、これはオフライン版の『葉っぱカッター』を思い出すなー。
「あ、アル。さっき確認し忘れたけどリーフスライサーって飛ばす枚数に制限ってある?」
「根の操作の操作数の半分までだな。根の操作の同時操作数がLv+2本までだから、今は4枚までなら同時に飛ばせるぞ」
「ふむ、4枚までか」
「投擲のライバルが増えたのです!?」
これが根の操作と同じ数までで8枚まで飛ばせれば結構良い感じな気もするけど、4枚かー。1発毎の威力は高めになってるっぽいから、枚数を抑えてバランス調整ってとこだな。
「んー、アルにはどっちかっていうと攻撃よりは根の操作とかで拘束役に回って欲しいとこだなー。まぁケースバイケースにはなるけど……」
「俺もその方が良いと思うぜ。葉を飛ばすと、どうしても巣にいるハーレさんや、近くにいるヨッシさんに当てかねないからな」
「え、私って邪魔になってたのー!?」
「あー、いや、ハーレさん、そういう訳じゃねぇぞ。この樹木魔法、地味にどこの葉っぱが飛んでいくかが分かんねぇんだよ……」
「え、マジで?」
「おう、マジだ」
うっわ、大量にある葉っぱのどれが飛んでいくのか分からないなら、葉っぱのすぐ近くにいるハーレさんに当たっても不思議じゃない。
ヨッシさんが離れておくという手段で解決はできるけど、確かにそういう条件じゃ使いにくいな。飛ばす枚数を増やせば増やすほど当たる可能性も上がるんだから地味に嫌らしい仕様だけど、なんでこんな仕様になってるんだ?
「はっ!? もしかして私の巣でのボーナスダメージを取るか、樹木魔法を使うのを取るかの2択になってるの!?」
「あ、そういう感じか」
「……なるほど、両立はさせないって調整の可能性はあるな」
「それなら、基本的に遠距離攻撃はハーレさんじゃね? 今なら魔法弾もあるしなー」
「だな。全員が何かしらの魔法は使えるし、その方が良いだろう」
「ふっふっふ、私の立場は守られたのです!」
よし、とりあえず聞き忘れてたLv4のリーフスライサーについてはこれで問題なし。Lv5の樹木魔法であるルートウォールは絡み合う根で防壁を作るというものだったけど、まぁ範囲が広めの物理攻撃への防御には使えそうだ。
ただ、一度地面を介しなければいけないという欠点はある。……空中に浮かせた土に触れされてみたら一気に加速したのが気になるけど、それでも空中からの使用には向いてないな。性能自体は悪くないのに、ちょっと勿体ないけど仕方ない。
さて、それじゃ色々と試していきますかね。Lv5のルートウォールの反応を見た感じでは天然産の土に触れたら根の伸びが加速する可能性もあるから、そこからどう変化するかが重要だな。
えっと、土の操作の操作時間は……あー、特に減ってはないのか。となると、根の伸びが加速してるのは土の操作は影響がない?
「アル、ちょい確認。ルートウォールやルートスキューアで根が地面に入った後の速度って分かる?」
「あー、いや分からんな。そもそもそういう視点から試してねぇわ」
「……なるほど」
つまり、まだ未検証な案件って事か。となると、ちょっと比較検証をしてみたいところ。……さて、ちょっと無茶振りにはなるとは思うけど、ここはハーレさんの観察眼に頼らせてもらおうか。
「ハーレさん、スキルの発動速度の変化って見比べたらちょっとの差でも分かるか?」
「やってみないと絶対にとは言えないけど、多分分かるのさー!」
「よしきた! アル、並列制御でルートウォールを並べて発動してくれ。片方は操作した土を通して、もう片方は何もせずに比べてみるぞ」
「なるほど、発動速度に違いが出るかを見比べようって訳か」
「そういう事だな。とりあえず明確に差が出やすいように、初めは土の操作はクジラの近くに置いとく」
「おうよ!」
もし樹木魔法で伸びる根の速度が天然産の土に触れる事で変化するならば、並列制御で同時に発動すれば明確に差が出てくるはず。ハーレさんの観察眼は凄いし、その辺はしっかり見極めてくれるだろう。
「あ、そういえばアル、複合魔法にはならないように気をつけてくれよー!」
「地味にこの組み合わせだと複合魔法にはならないから心配ねぇよ」
「……マジで?」
「……マジだ。その分、アクアウォールより耐久値は多いんだがな」
「樹木魔法はなんだか特殊なのさー!?」
うん、まさしくハーレさんの言う通りだなー。樹木魔法には生成魔法はないし、魔法とはなっているけども性質的には物理攻撃に近い。多分この感じなら、草花魔法も似たような傾向な気がする。
この辺は植物系の種族の特有な性質ってとこなのかもね。魔法側にも根や葉を使うのがなければ、その辺を主力にしたい場合に物理型の一択しかないって状況になりかねないもんな。
「さて、やりますか。ハーレさん、準備はいいか?」
「いつでもオッケーなのさー!」
「おし、なら始めるぞ! 『並列制御』『ルートウォール』『ルートウォール』!」
アルが樹木魔法を並列制御で発動し、2本の根が地面に向けて伸びていく。片方の根はすぐに俺の土の操作に触れて伸び方が急加速してあっという間に地面に辿り着き、その少し後にもう片方も根が地面の辿り着く。
そして、明確に時間差がある状態で2つの根の防壁が並んで現れた。……なるほど、土に触れて加速が速かった方が先に防壁になった感じか? いや、地面に埋もれてるからどっちがどっちか分からんけど、多分そうなはず。
「発動完了までに結構差があったのです!?」
「さーて、もう一回やるぞー。今度は俺の土の操作は、地面ギリギリでなー! ハーレさん、よーく観察を頼んだ!」
「了解なのさー!」
「これでどうなるか、見ものだな。『並列制御』『ルートウォール』『ルートウォール』!」
今度は俺の土の操作は地面から少し浮かせた程度で、アルの木の根が2本、地面に向かって伸びていく。天然産の土に触れない限りは、伸びる速度には差はないか。
さて、ここからどうなるかが問題だな。とりあえず俺の土の操作に片方の根が触れ、すぐに両方の根が地面へと伸びていった。いや、土の操作が地味に邪魔で加速の様子とか、地面の中に伸びていく様子は分からなかったけど。
一応ハーレさんの目の前に2つの根の壁が出来上がったけど、俺から見たらほぼ同時にしか見えなかった。
「ハーレさん、どうだった?」
「えっと、すっごい微妙な差だけど、こっちの方がほんの少し地面から出てくるのが速かったのです!」
「あー、やっぱりほんの少しでも差は出るんだな」
「どうもそうっぽいな。……でも、これって意味あんのか?」
「んー、ぶっちゃけ微妙だな」
もっと劇的に速くなるのであれば効果はある気はするけど、今くらいの差だと実用性があるとも言えないなー。
これはただの推測だけど、地面の中に根が入った時点で俺らから見えてないだけで加速はしている。今やってる事は、その加速を土の操作を使って空中で早めに加速を発生させているだけになるはず。
「……ん? あれ、待てよ? 場合によっては使い道もあるのか?」
あ、でも防御じゃなー。それなら単純に他の属性の防御魔法を発動した方が圧倒的に速い。ただ、今思いついたのが攻撃で使えるとしたら……いや、それはまだ気が早い。
それを実行に移してみるには、Lv6のルートスキューアがどういう挙動になるかを確認してからだ。
「ケイさんが何か思いついたっぽいのです!?」
「ケイ、どんな応用方法だ?」
「あー、ちょい待った。思いついたけどまだ情報が足りないし、ルートウォールじゃ意味がない。試すのはルートスキューアの方だ」
「……ほう?」
「どんなのか、気になるのさー!」
あくまで思いつきに過ぎないし、本格的に試すとしても俺らだけじゃ多分手が足りない。その辺は最低限の確認をしてから、出来そうなら検証案件として上げておくとしよう。
まぁ今日はスクショの方で、検証する人がいない可能性もあるけどねー。あー、でもこのミズキの森林で特訓してる人もいるし、決めつけるのも早計か。
「さてと、とりあえずやるだけやってみるか。まずはLv6のルートスキューアが空中で土に触れた時の挙動が知りたい」
「……まずはそこからか。まぁルートウォールとは違う魔法だし、また違った結果になる可能性は十分あるしな」
「今度は良い結果になるのに期待なのさー! ……ところで、次も私が的になるのー?」
「いや、次は攻撃の魔法だし、それはやめとく。アル、ハーレさんの後ろにある木を的にするのでいいか?」
「おう、問題ないぞ」
「そこは安心したのさー!」
そう言いながらハーレさんは巻き込まれないように、的に決めた木から離れていく。ダメージがないとはいえ、ハーレさんを攻撃の検証の的にするのも悪いしこれでいい。
「あ、そうだ。アル、ルートは根なのは知ってるけど、スキューアって何?」
「それなら串刺しって意味だな」
「なるほど、串刺しか」
「串刺し……じゅるり」
「ハーレさん、バーベキューは明日だからなー!」
「バーベキュー、楽しみなのさー!」
バーベキューが楽しみなのは俺も同感だけどね。てか、スキューアは串刺しって意味か。要するに根で串刺しって魔法なんだな。まぁ名前については特に重要ではないから別に良いや。
「それじゃアル、今回は並列制御はなしで普通に発動してみてくれ」
「おうよ! 『ルートスキューア』!」
さて、この時点で地面に向けて根が伸びていくのは想定済み。さっき地面のすぐ近くに置いていた操作した土を持ち上げて、伸びてくる根に触れさせて――
「わっ!? そういう挙動になるのー!?」
「え、向きが変わるのか?」
「……おいおい、ケイ、この挙動は予想外だぞ」
「……俺としても予想外だなー」
操作した土に根が触れた瞬間に、地面へと伸びていた根が向きを変えて、的に指定していた木へと突き刺さっている。
ただ、どうも速度が落ちているようで、単独で発動した時よりも威力は低いようだ。単独で発動した時には真下から真っ二つに引き裂いたのに、今のはちょっと突き刺さってる程度か。
ぶっちゃけ、地面に向かうまでに加速させて突き刺す時に威力が上げられないかという考えはあったし、土の操作を複数人で重ねてどんどん加速出来ないかと考えてはいた。
その為にちゃんと加速させた時にどういう挙動をするのかを確認したかったんだけど、攻撃の向き自体が変わるのは想定外も想定外。まさか土に触れた時点で標的に向かっていくとはね。ただ、これだと土の中での加速が足りてない感じか。
でもまぁ、これならこれで別方向に持っていける。よし、この際だ。土の昇華を持っているのは俺だけだけど、アルもハーレさんも土の操作は使えるから、それを試してしまおう。
「ハーレさん、操作量は少なくていいから、並列制御で天然産の土を並列制御で操作してくれ」
「え、それはいいけど、何やるのー!?」
「ルートスキューアの地上での加速実験。アルもルートスキューアと土の操作を同時に発動で!」
「……なんとなく読めてきたぞ。ケイ、樹木魔法で伸びる根は土の中で加速するって推測か?」
「ま、単純に言えばそうなるなー。それに、今の挙動なら地面を経由する必要もないだろ?」
「確かにそりゃそうだが、威力は出るのか?」
「さぁ? それを試す為にこれから検証をするんだし」
「……あー、それは確かにそうだな。今のは愚問だったわ」
「だろ? って事で、試してみるぞー!」
「おー!」
「ま、やるだけの価値はありそうだな」
さて、それじゃやる事は決まったから、準備をしていこうか! 1ヶ所の土の触れた程度では威力不足に陥るのなら、複数の土に触れさせればどうなるかを試してみるまで!
これが上手くいくならば、土の操作を使える人を集めれば、どんどん加速させられる可能性もある! まぁ魔法の射程もあるから、ある程度の限界はあるはずだけど。
とりあえず、俺は今発動中の土の操作は解除しようっと。そして並列制御で操作のし直しである。今度は触れる回数を増やす為に3分割×2で6個の土の塊を用意しよう。
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を3消費して『土の操作Lv6』は並列発動の待機になります> 行動値 75/81
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を6消費して『土の操作Lv6』は並列発動の待機になります> 行動値 69/81
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
さっき操作を解除した土と、その土を操作した事で出来た穴から追加で土を操作して、6分割! 昇華のおかげで、結構な量の土が操作出来るからありがたいよね。
「ケイ、俺らも土は分割した方がいいか?」
「あー、アルとハーレさんは分割したら小さくなり過ぎるし、1個ずつでいいぞ」
「……確かにそれもそうか」
「私は並列制御でやるから2個なのさー! それで、どういう順番で当てていくのー!?」
「んー、まずはハーレさんの操作する土の片方をに当てて、その次に俺の土に当てて、ハーレさんのもう1個を当てて、最後にアルでいいだろ。アル、それなら狙いはつけられるよな?」
「多分なー」
これでちゃんと根に土を全部当てられれば、9回ほど当てられる事になる。更なる加速が可能かどうかは分からないけども、まぁこれはやってみるしかないからね。
物理型には根脚強化っていう強化スキルもあるんだし、試した感じでは癖のある樹木魔法にも何か強化手段はありそうだよなー。水での強化方法とかもありそうな気はするけど、そもそも水分を吸収してHPを回復する手段があるから、ここはなんとも言えないとこか。
「で、ケイ、狙いはどうする?」
「それはさっきの木の左側にある木で!」
「了解です! それじゃ私も発動なのさー! 『並列制御』『土の操作』『土の操作』!」
「おし、それじゃ検証を始めるぞ! 『並列制御』『ルートスキューア』『土の操作』!」
アルもハーレさんも土の操作のLvはそれほど高くないから、俺のに比べると精度は悪い。だけど、操作が下手という訳じゃないので問題はない!
まずは地面に向けて伸びていく根にハーレさんの1個目の土の塊に触れて、少し根が加速して、的の方向へと根の向きが変わっていく。よし、その根の伸びていく先に俺の6個の土の塊を並べて……。
「って、思った以上に加速が速い!?」
「あわわ!? 間に合えー!」
「くっ、俺は間に合わんぞ!」
土に触れる度に加速していく根の前に、ハーレさんはなんとか2個目の土の塊を持っていけたけど、アルは間に合わなかった。
俺の6個分の土の塊で、思った以上に加速し過ぎたな。さて、合計8個分の土の塊を経由した結果はどうなったかな?
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