第926話 今のアルマースの樹木魔法
アルと俺はスクショのコンテストへの最終応募は済ませて、今はハーレさんのが終わるのを待っているところである。まぁ枚数が桁違いだから、時間がかかるのは仕方ないな。
サヤとヨッシさんには、アルが俺らに晩飯の時間を合わせる件をハーレさんの伝えてもらう事になってるし、その時にスクショのコンテストへの応募はやっといてもらえばいいか。
「私もコンテストの受け付け、完了なのさー!」
「お疲れさん、ハーレさん」
「ちなみに情報ポイントはどうなった?」
「ふっふっふ、15000を超えたのです! ミズキの森林に行ったら、ちょっとヤナギさんを探してみても良いですか!?」
「お、かなり大量になったな。んー、俺は良いけどアルは?」
「俺も構わんぞ?」
「やったー! それじゃアルさんの樹木魔法を見せてもらってから、ヤナギさんを探しに行くのです!」
「ほいよっと」
「おうよ」
ハーレさんが大量に稼いだ情報ポイントがあれば、ヤナギさんさえ見つけられれば何かしら良いアイテムが手に入る可能性はあるもんな。まぁ手に入るかどうかは運次第ではあるけども、微妙な空き時間でもあるしたまにはそういうのも良いだろう。
「さてと、とりあえずミズキのとこまで転移だな!」
「「おー!」」
という事で、今度はエンからミズキの所まで転移である。スクショを撮りに行ってる人が多いのなら、ミズキの森林は空いてるかもなー。
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ミズキの森林』に移動しました>
さて、いつもの特訓の場であるミズキの森林までやってきた! どうやら思ったほどは空いてなさそうな雰囲気だなー。まぁ報酬が破格とはいえ、全てのイベントに絶対に参加しないという訳ではないしね。
あ、ちょっと小雨が降ってる? ふむ、まぁ支障があるような雨でもないから問題はないね。
「少しだが、雨が降ってるな」
「今日はこの辺は天気が悪いのさー!?」
「だなー。これでヨッシさんがログインした時に、雷雨にでもなってれば良いんだけど……」
「確かにそれはそうなのです!」
ヨッシさんの電気の昇華は、雷を一度操作してしまえば取得が可能な状況までなってるからね。このミズキの森林が小雨なら、ここより西の上風の丘では雷雨になっている可能性はありそうだ。
まぁその辺はタイミングが合うかどうかの運次第ではあるからなー。上風の丘というか、丘陵エリアは雷が多いって話だし、なんとか早めにヨッシさんに電気の昇華は欲しいところ。
「それはともかく、とりあえず空いてる場所を探すぞー。樹木魔法を見るんだろ?」
「おっと、そうだった! アル、頼んだ!」
「樹木魔法は生成魔法が無かったし、どんな性能か気になるのです!」
「……まぁ基本属性の魔法とは性質が違うが、それほど面白い内容じゃねぇけどな。とにかく、適当に空いてる場所を探しつつ移動するぞ」
「はーい!」
「ほいよっと」
という事で、森の上からアルのクジラの背中に乗って移動開始だね。うーん、今少し思った事がある。
「アルってクジラでの移動が多いから、意外と根脚移動の熟練度は稼げて無かったりする?」
「……痛いとこを突いてくるな。まぁそれが事実だし、だからまだ『根脚強化』も取得出来てねぇ」
「同時に上げるのは難しいのさー! そういえばアルさんって、最近は私達がログアウトした後ってどんなLv上げをしてるのー?」
「その時によって違いはあるが、多いのはフィールドボスの連戦だな。大体野良か、どこかの固定PTに混ぜてもらってるから、木を根下ろしして、樹木魔法や水魔法を中心に防御や支援を担当だ」
「あー、そういう感じか」
ふむふむ、俺らと動いている時とはそもそも戦い方自体が違うんだな。……連携が中途半端になる野良PTなら、支援や防御に徹した方が安定性は高くなりそうだしね。
野良PTだとどうしてもその時々でメンバーが違うから安定性は欠ける部分もあるだろうし、アルの意図は分かる。あー、だから樹木魔法が育ってるのか。
「あ、アルさん! 少し先に空いてる場所があるのです!」
「よし、それじゃそこでやるか」
そうして、すぐに辿り着いた少し拓けた場所に着地していく。ふー、割とすぐに空いてる場所が見つかって良かったよ。
「おし、アル! 樹木魔法を見せてくれー!」
「わくわく!」
「……そんなに期待されても、多分それほど期待に応えられるような内容じゃねぇぞ?」
「それは見てから判断する!」
「そうなのさー!」
「まぁそれならそれでいいか。それじゃまず樹木魔法Lv4からいくぞ。あぁ、そうだ、その前に言っとく事があったな。Lv4の樹木魔法は、一時的だけどまとめに誤情報が掲載されてたらしいぞ」
「え、そうなのー!?」
「まとめの編集をしてた際に、コピペした部分の修正を忘れていたらしい。間違って草花魔法の『ルートウィップ』が記載されてたとさ」
「あー、そういうミスもあるんだな」
まぁまとめ作業自体が、無償で有志の人がやってくれているんだからどうこう言える事でもないね。誰しもそのくらいのミスはあるものだし、気にするような内容でもないね。
「って事は、樹木魔法のLv4は別物なんだな。アル、とりあえず何か的を生成しようか?」
「いや、その辺の木を的にするから構わんぞ」
「ほいよっと。んじゃ、実演よろしく!」
「おうよ! 『リーフスライサー』!」
おー、アルの木の葉っぱが数枚ほど勢いよく飛んでいき、その辺の木を切り倒したね。……え、もしかしてこれで終わり?
「これ、Lv1のリーフカッターより葉っぱの枚数が少なくなる代わりに、単発の威力は上がってるんだよ。だが、まぁそれ以上の性能は特にない」
「言ったら悪いけど、地味になってない?」
「私もそう思うのさー!?」
「……それは俺も思ってるから、期待すんなって言ったんだよ。一応、魔法ダメージにはなるが、斬撃ならサヤがいるし、遠距離攻撃はハーレさんがいるし、単純に魔法の威力ならケイの方が良いからな」
「それは確かに……」
「普段の使い所が微妙なのさー!?」
特にこれといって樹木魔法が弱点となる相手っていなかったような気もするし、普段使わない理由は何となく分かった。でも、野良PTで遠距離攻撃や魔法攻撃が不足していれば使い所はありそうだな。
「さて、次はLv5を行くぞ。これもちょっと普段だと使い勝手が悪い部分はあるんだが……」
「Lv5なら防御魔法だよな。いや、樹木魔法がそうとは限らないか」
「いや、そこは防御魔法で合ってるぞ」
「ん? そこは合ってるのか」
「どういう風に使い勝手が悪いのかが気になるのです!?」
「ま、その辺は見てれば分かる。それじゃいくぜ。『ルートウォール』!」
おぉ、アルのクジラが背負っている木から地面の中へと根が伸びていき、地面の中から多数の根が壁を作るように絡み合っていく。
んー、根と根の合間から周囲の様子は見えるから土の防壁魔法よりは視界への影響は少なめか。攻撃の種類によってはすり抜けてきそうだけど、それだけでは使い勝手が悪いというほどでも……あ、もしかして、そういう事か?
「アル、これってクジラが飛んでる場合にはどう発動するんだ?」
「……地面から離れても、地面まで根が伸びて行いってからの発動なんだよ、これ。あんまり離れ過ぎると、そもそも発動しなくなるしな……」
「地面に近くなければ、地味に面倒なのさー!?」
「あぁ、そういう使い勝手の悪さだ。地面にいる時は良いんだがな」
「……確かにそれは使い勝手は悪いな」
まぁあくまでもアルの構成にとってはって条件は付きそうだけどね。これを木だけのルストさん辺りが使うのであれば、そのデメリットはほぼ発生しないだろう。
単純にアルみたいにクジラの背に木を乗せて移動するのを前提としていない仕様の魔法ってだけか。ふむ、今日のグラナータ灼熱洞みたいにクジラではなく、根下ろしした木をメインで戦う場合には使えそうだ。
「気付いてるとは思うが、Lv5の樹木魔法は俺の構成と相性が悪いってだけだがな」
「だなー。ただ、場所によっては使えそうだ」
「ま、火属性でないところで使いたいとこだな」
「どこかで活躍に期待なのさー!」
アル自身も、あくまで相性が悪いだけという認識はあるんだな。その有用性自体は認めていると。ま、ハーレさんも言ってるけど、どこかで活躍する機会はあるはず。
「さて、最後のLv6の樹木魔法を使っていくか」
「これも何か問題があったりする?」
「あぁ、まぁな。先に言ってしまえば、Lv5と同じ問題点だ」
「あー、Lv6もなのかー」
「あぅ……アルさんとの相性が悪いのです」
「ま、そこは仕方ねぇよ。とりあえず使ってみるだけ、使ってみるぜ。『ルートスキューア』!」
おー、さっきと同じように地面の中に根が伸びていって、地面の中から鋭い根が一気に突き上げてきた。……的にされたそこらの木が真っ二つに裂けて、その間から根が見えているね。
「これ、単発に絞った高威力版のLv2のスタブルート?」
「ま、簡単に説明するとそうなるな。威力は申し分ないんだが、どうしても発動に地面を介するせいで俺との相性が悪い……」
「これ、勿体ないのです!?」
「俺もそう思ってるんだが……ケイ、なんか良い案ねぇか?」
「……ふむ、ちょっと考えてみる」
確かにLv4のリーフスライサーはそのまま使えそうだけど、Lv5のルートウォールやLv6のルートスキューアは普段使いが出来れば便利そうではある。地面を介して発動しなければならないというのがデメリットだから、そこをなんとかする手段があれば……。
「アル、土属性との複合魔法は試したか? 特に生成魔法と」
「残念ながら昇華持ちの人と試してみたが無理だったぜ」
「……そのくらいは試し済みかー」
まぁすぐに思いつく内容だし、試してない訳がないか。複合魔法でどうにかなるなら手っ取り早かったけど、そう簡単にはいかないよなー。
他に思いつくのは操作している土を経由してみる事だけど、これも思いついてそうではある。まぁ一応聞いとくか。
「それじゃ操作してる土だとどうだ?」
「あー、生成してもらった土でやってもらったが、それも無理だったぞ」
「……やっぱり試してたかー。って、生成した土?」
「おう、そうだけど、それが……あ、そういや地味に封熱の霊峰でのフィールドボスの連戦の時に試したから、天然産の土は試してないような気がするぞ……?」
なるほど、封熱の霊峰の地面は岩場がメインだからね。全く土の場所がない訳じゃないけど、アルがフィールドボスの連戦をしてた場所によっては天然産の土が無かったのかもしれない。
んー、でもこの辺はまとめに情報がある可能性もありそうだよなー。まとめで確認して済ますか、それとも自分たちで確認してみるか……まぁこれまでの方針的に迷う余地もなしか。
「よし、天然産の土を使って今すぐ試すぞ!」
「おうよ、それしかねぇな!」
「おぉ、検証の開始なのさー!」
さて、木の根下ろし自体は硬い岩場であっても不可能ではない。でも、天然の岩を使った岩の操作は正直に言えば実用性は無いと考えていい。岩を常に持ち歩ける訳じゃないしね。
という事で、使うとしたら天然産の土を土の操作で持ち上げる事だな。まぁこれもどこでも出来る訳じゃないけど、岩よりは出来る場所は多い。
<行動値を3消費して『土の操作Lv6』を発動します> 行動値 78/81
森林だから下草とかコケが沢山生えてはいるけど、土のみが剥き出しになっている場所もあるから、今回はそこの土を操作していこう。
ハイルング高原みたいに剥き出しの土が少ない場所なら、表面の下草とかコケを処理して土を剥き出しにしないと操作の指定が出来ないからねー。まぁ少しでも土が操作出来たら、それで操作した土で強引に掘り返して、改めて操作し直せばいいだけだけど。
「アル、とりあえずLv5のルートウォールから試してたみるけど、発動の位置指定ってどうなってんだ? 伸びる根の細かな操作は出来るのか?」
「発動したい場所を指定するだけだな。そこまでの根が伸びる部分は完全に自動だから、俺の方ではどうにもならん。一応根の操作との並列制御で調整は出来るようにはなるが、流石に毎回そういう訳にもいかんだろ」
「……ふむ、そりゃそうだ。まぁ今回は特に弄らずにやってみるか。土の位置は俺の方で合わせるとして……ハーレさん、悪いんだけど防御魔法の対象になってもらえるか? あと、アルは根の伸びる様子が分かりやすいようにクジラの高度を上げてくれ」
「おうよ!」
「ただ見てるだけなのもあれなので、了解です! それなら私は降りた方がいいよねー!? えいやー!」
「ハーレさん、サンキュー!」
ハーレさんは二つ返事で、的になるのを了承してくれたね。まぁ防御魔法で守る対象として指定するんだから、的という表現は正しくはないか。
とりあえずハーレさんは地面に降りて待機してくれているし、アルも少し高度を上げてくれた。これなら根が地面に伸びていく状況も把握しやすいな。
「アル、ハーレさんに根の防御を展開するようなつもりで!」
「おうよ! んじゃ、いくぜ! 『ルートウォール』!」
まずは地面に降りていく根の前に、俺の操作している土を置いていく。さて、これでどうなるか……。
「ん? 今、根の動きが加速した?」
「……みたいだな?」
操作した土に根が触れた瞬間に根の伸びる速度が加速したっぽいけど、結局地面まで伸びていって、ハーレさんの前に複数の根が絡み合った根の壁が出来上がった。
「うーん、ぶっちゃけ俺が普通に水か土の防壁魔法を使った方がいいっぽい結果だなー」
「今回のは失敗か……」
「あぅ……残念なのです」
まぁこういう検証って必ずしも成功するとも限らないからなー。でも天然産の土に触れれば変化があるという部分は、決して悪い情報ではない。
むしろLv6の樹木魔法では、これが有利な点になる可能性も出てきた。まぁ実際に試してたみないと分からないけどね。さて、次を試してみますかー!
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