第919話 移動順番がやってきて
俺らの2回目の演出が終わり、その後に弥生さんとシュウさんとルストさんによる演武とでも言うような動きを見せ、今は再び煮付けさん達が爆発魔法での花火をやっている最中である。
俺らのは1回目とほぼ同じだったけど、弥生さんとシュウさんのコンビネーションは凄かった。ルストさんが多数の根で襲いかかり、それを紙一重で躱しながらルストさん本体をボコボコにしてたもんな……。いや、ダメージはないんだけどね。
そして俺らが発火草の群生地に行った後は、シアンさん達が灰の群集から演出をやる事になった。ツキノワさん達も立候補していたけど、順番的にツキノワさん達はシアンさん達の後になっている。
まぁ、この辺はまだ人が増えてきている状態だから仕方ないと言えば仕方ない。というか、第1陣で出発した人が戻ってきて、ここでスクショを撮ってるんだよねー。
なんというか開催場所が変わってません? いや、別に良いんだけど! ある意味、ここで沢山の人にスクショを撮られるのは各群集の団体部門への参加になるからさ。
「ケイさん、弥生ー! 煮付けさん達の演出が終わったら出発でよろしくー! 弥生、先導はいらないよねー?」
「レナ、了解ー! うん、要らないよー!」
「ほいよ!」
まだ17時半まで3分くらいあるけど、それで出発か。うーん、そう思うと名残惜しいような気もしてくるんだよね。まぁ発火草の群生地が今どうなってるかが気になるし、スクショも撮りたいから行くけども。
というか、俺らは他の連結PTとは一緒じゃないんだな。これはちょっとした特別扱い感があるね!
「はい、ちょっと質問です! 移動はどうするんですか!?」
「普通にアルに乗って……って訳にもいかないか」
ルストさんと弥生さんについては完全に物理型だから移動速度は速いけど、シュウさんはそうでもなさそうだけど操作でどうとでも出来そうだ。
ってか、ルストさんって木なのに異常に移動速度が速いもんな。前にアルがそのコツを教えてもらってたし、ステータス自体が上がってるからその時よりも速度は上がっている。……その分、細かい制御が難しくなってるとは思うけど、その辺はルストさんだしなー。
「最悪、弥生さん達はルストさんに乗っていけるよな?」
「うん、そだねー。私は自力で走ってもどうとでもなるけど、急ぐならシュウさんはその方がいいよね?」
「まぁ僕はそうなるけど、そこまで急ぐ必要もあるのかい? 事前の打ち合わせはまだ出来てないよ?」
「確かにそりゃそうだな。とりあえずそこら辺は煮付けさん達が終わってから、要相談ってとこか」
うーん、その辺は弥生さん達が演出をしてた時に煮付けさん達に確認しておくべきだったか。あの様子なら操作系スキルの操作精度も高いし、何か応用スキルの操作は持ってると思うから、速い移動手段自体は持ってると思うんだけどね。
既に連結PT自体は組んでおいたから、今の会話自体は煮付けさん達にも聞こえてるはずだしね。『青の野菜畑』の面々が全然分からないから、俺らだけじゃまだ判断しきれないからなー。
「これにて、おいら達の演出は終了っす! これで団体部門の優秀賞を狙うっすよー!」
お、そんな宣言をしてから煮付けさん達の順番は終わったみたいだね。てか、やっぱりここまで特訓しているからには、優秀賞狙いか。
まぁそうじゃないと、ここまで見栄えに特化した動きの特訓は出来ないもんな。スクショの撮影って、こういう方向性もあったんだと感心したよ。
「あ、さっきの会話は聞こえてたっす! でも、今行動値を使い果たしたんで、少しの間だけ誰かに乗せてもらえると助かるっす!」
「……そういやそうなるのか。シュウさん、今回は一緒にやるって事で遠慮なく聞かせてもらう! 土の昇華か氷の昇華は持ってる?」
「ケイさん、直球で聞いてきたね? まぁ僕は隠す気もないし、そこは教えても問題はないよ。今、僕は風の昇華、電気の昇華、土の昇華を持ってるよ。種族として持ってる属性は光属性だけどね」
「よし、それなら土の昇華でアルの背中の右半分に土台を作ってもらっていいか? 左半分は俺が作るからさ」
ふむふむ、シュウさんって現時点で3属性の昇華を持ってるのか。確か風の付与魔法を使ってたのを見た覚えはあるし、中々厄介な魔法型だよね、シュウさん。
それでいて、必要最低限の動きで近接攻撃の回避までするんだから、とんでもない話だ。まぁ今は敵ではないからいいとして、返答はどうだろう? 流石にダメとは言わないと思うけど……。
「あぁ、アルさんのクジラだけだとこの人数じゃ流石に狭いから、左右に岩で足場の拡張をしようって提案だね。うん、それなら構わないよ」
「いや、待て! それ自体は反対はしねぇんだけど、拡張される張本人の俺への意思確認はないのかよ!?」
「あ、すまん、アル! 普通に忘れてた!」
「おいこら、忘れんな!」
「いや、本当に悪かったって! それで、アルとしてもそれでも良いんだよな?」
「……まぁ問題はないな。ただ重量が増える分、飛べる高さは少し低くなるが問題はないな?」
「あー、そういう問題もあるのか。ま、ぶっちゃけそんなに上空を飛ばなくても大丈夫だろ!」
ぶっちゃけ、足並みを揃えたいだけだから大急ぎで上空を飛ばしていく必要もないしね。アーサーや水月さんが先導していった第1陣も、琥珀さんが先導していった第2陣も、その後に青のサファリ同盟の人に先導されていった第3陣や第4陣も、決して大急ぎで移動はしてなかったもんな。
ここからそれなりに距離はあるとはいえ、ここの適正Lv以上なら移動のみに専念すれば普通の移動でも5分もあれば十分なはず。……途中で戦闘が多ければ別だけど。
「おぉ、それは助かるっす!」
「煮付けさんもそう言ってる事だし、それで決定って事で!」
「あぁ、僕はそれで構わないよ」
「ま、そういう事ならそうするか」
これで移動手段については確定。発火草の群生地でどういう演出をするかについては、その移動の最中に相談して決めればいいか。……それほど時間はないから手早く決める必要はあるけどね。
さて、そうと決まればのんびりこの場で立ち尽くしている場合じゃないな。サクッと移動を開始していこうっと。
「あー、みんなに俺のクジラに乗ってもらうのは岩の足場が出来てからの方がいいか?」
「……そうだね。それじゃすぐに作ろうか。『アースクリエイト』『岩の操作』!」
「だなー」
今回は別にみんなを固定する訳じゃないし、先に生成してその上に乗ってもらった方が良いしね。という事で、生成開始!
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 82/83 : 魔力値 223/226
<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します> 行動値 63/83
よし、シュウさんがアルのクジラの背中の上の右側に岩の足場を広げて生成してくれているから、俺も同じように左側に岩の足場を生成していこうっと。
「ケイさん、中央の繋ぎ目の部分はどうするんだい?」
「あ、それはどうしよう?」
しまったな、地味に中央の繋ぎ目の部分については考えてなかったぞ。……一応、同じ連結PTにはなってるからキャラへのダメージはないけど、魔法同士が接触するのは決して良い事ではないもんな。
でも、全く触れさせないとなると、常にそういう操作が必要になる。……ま、移動速度が速くないならそれでもいいか。
「あー、多少の高低差は出るとは思うが、シュウさんが俺の木の根元の方を、ケイが幹の方を岩で包んでおくのはどうだ? その状態でクジラの背中に向けて補助用の支柱でも作れば安定はするだろ」
「お、アル、ナイスアイデア!」
「木を中心にして、岩の足場を支える部分も作るんだね。分かったよ」
よし、その方向性で岩の追加生成を再開! ふぅ、流石に普段の岩での固定よりも生成量が多いから、シュウさんと分担してよかった。1人じゃ生成量が足りないとこだったよ。
「……なんだか、より空中母艦に近付いた気がするかな?」
「戦闘機が飛び立つ為の滑走路が出来たような感じなのです!」
「あはは、確かにそれはそうかも?」
「これは、是非ともスクショを撮らないといけませんね! えぇ、撮り逃してなるものですか!」
「あっ、こら!? ルストがまた暴走し始めた!? シュウさん……って、今は無理だよね!?」
「……仕方ないね。ルスト、僕らはこれから出発するから、どうしても撮りたければ自力で走りながら撮ってもらう事になるけど、良いかい?」
「そのくらい、問題にもなりませんとも! むしろ、飛んでいる姿こそ、より望むところです! では、その準備をしましょうか! 『根脚強化』!」
「だ、そうだよ?」
「……はぁ、まぁルストがそれで良いならいっか。みんな、それで問題ない?」
その弥生さんからの問いかけに、俺らも煮付けさん達も異論はなかった。今からルストさんを止めようとしても時間の無駄だし、ルストさん本人が乗らずに自力で走ってくるのなら問題もないしね。
ここはルストさんの意思を尊重して、ルストさんだけはスクショを撮りながら走ってきてもらおう。……それにしても、今日は随分とルストさんの暴走癖が出まくってるねー。それだけコンテストの受け付けの最終日って事で気合が入ってるのか。
「シュウさん、一気に跳ぶよ」
「任せたよ、弥生」
「サヤ、乗せていってー!」
「うん、分かったかな。あ、ケイはどうするかな?」
「あー、ついでだから乗せていってもらうか。サヤ、頼んだ」
「煮付けさん達が上に行く道は私が作るよ。『アイスクリエイト』『氷塊の操作』! 滑りにくいようにあちこちに窪みや出っ張りを作ったから、それで登ってきてね」
「おぉ、それは助かるっす! それじゃお邪魔するっすよ!」
「「「「「お邪魔しまーす!」」」」」
そんな感じで、それぞれの方法でアルのクジラの背の上に作った広い岩の足場の上に全員が登っていった。乗られるアルと、乗る気のないルストさんを除いて。
「んじゃ出発するぜ。『略:空中浮遊』『略:高速遊泳』!」
今まで地面に降りてたけど、これで浮かび上がった。……でも、いつもよりも高度は低いか。まぁ人数がいつもの倍以上なんだからその辺は仕方ないな。
とりあえずトンネルを掘ってた場所まではこのくらいの高さでも問題はない。それにこのメンバーなら、フィールドボスでも出てこない限りは大体の敵は瞬殺だろうね。
「それでは特別兵装の空中母艦『アルマース』、出航です!」
「……なんか特別兵装とかが増えたな」
「まぁアル、それに関しては否定は出来ない気もするけどなー!」
「そりゃそうだが、なんか楽しそうだな、ケイ!?」
「まぁなー!」
だって、これまでのアルの空飛ぶクジラは、なんだかんだで生物感が全開だったけど、今回はそうでもないからね。
いやー、この岩で出来た甲板のようなのは良い感じ。出来ればもっと金属感が欲しかったりもするけど、流石にそれは無理だから諦めよう。
「さて、それじゃ打ち合わせを始めよっか!」
「あ、その前に弥生さん……正確には赤のサファリ同盟のみんなに聞きたい事があるのです!」
「ん? ハーレさん、聞きたい事って何かなー?」
「今回主催側の赤のサファリ同盟の弥生さん達が、なんで私達と一緒な班なのー?」
「あっ、そういやそれって説明してなかったっけ!? んー、簡単に言えば、赤のサファリ同盟から赤の群集に新たに出来た共同体への権限の移行作業中でね。赤のサファリ同盟は一応主催側にはなってるけど、今回は仕切りには加わってないんだー」
「え、そうなのー!?」
「でも、水月さん達はやってたかな?」
「あはは、あれは自発的にだよー。それに水月さん達は私達以外にもルアーさん達との繋がりがあるから、そっちからの手伝いだねー」
「……なるほど。そうなると、赤のサファリ同盟は群集の運営からはもう手を引くんだな?」
「アルマースさん、正解! 赤のサファリ同盟はオフライン版からのサファリ系プレイヤーでの繋がりだし、そもそもマイペースでやりたいってメンバーが多いからね。今はみんな、好きなところに行ってるよー! 私達はルストの要望でここに来た感じ」
「そっかー! 納得なのです!」
ふむふむ、本格的に赤のサファリ同盟が主体で動いている今の赤の群集の状況が変わっていくんだな。まぁ確実にウィルさんを筆頭に、反省して赤の群集に戻れた人達がいるのが大きな切っ掛けにはなってる気はする。
あぁ、だからフラムからあんな無神経な発言が出てきたのか。そりゃそうだよなー、赤の群集にとっては大転機だもんなー。……思い出したらイラッとしてきた。
「皆さん、発火草の群生地に辿り着くまでに、どういう演出にするか相談するっすよ!」
「煮付けさんの言う通りだな。誰か、何か良い案がある人ー!」
他にも聞きたい事はあるにはあるけど、今の優先順位はそっちが先だな。雪山の中立地点の赤のサファリ同盟の本拠地の扱いがどうなるかとかも気になるけど、それを聞くのは今でなくてもいい。
スクショの演出の内容は、この移動中に決めておかなければその場での思いつきで適当にスクショを撮る事になるもんな。
「案ではないんだけど、確認を良いかな?」
「はい、質問をどうぞ、サヤさん!」
「えっと、フェニックスを利用しての間欠泉の再現は完成したのかな?」
「あ、それねー! 条件自体は完全に判明したし、再現も出来たんだよねー。でも、間欠泉に必要な水の調達が追いついてないから、申し訳ないけど基本的に出来ないよ」
「え、弥生さん、マジで……?」
「残念ながら、マジだねー」
「……いつでも自由に再現とまではいかなかったか」
「あぅ、残念なのです……」
「それについてはジェイさんも悔しがってましたっす……」
あ、ジェイさんはそこは悔しがってたんだ。まぁ確かにその状況に俺がいたら、俺も悔しがってただろうなー。そっか、間欠泉は演出には使えないと思った方がいいんだな。
そうなると間欠泉がない形でやる必要があるのか。うーん、このメンバーで出来る演出って何があるかな? とりあえずまだ辿り着くまでは距離もあるし、みんなで考えていきますか。
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