第917話 待っている間に


 ルストさんが更なる演出を求めて集まっているみんなの元へと駆けていき、弥生さんがそれを追いかけていった。って、今演出をする2人がいなくなってどうすんの!?


「この状態は仕方ないっすね! シュウさん、ここはおいら達に任せて欲しいっす!」

「煮付けさん、すまないけど頼めるかい?」

「任されたっす! やるっすよ、みんな!」

「「「「「おー!」」」」」


 ルストさんと弥生さんが不在になり、俺らも回復中。そうなると今は煮付けさん達『青の野菜畑』に任せるしかないよなー。

 それにしてもルストさんは完全に暴走中かー。なんというか、誰かがよく暴走してるよね、ルストさんと弥生さんとシュウさんって。


「誰か、砂の操作や風魔法を使う方、一緒に演出をしませんかー!?」

「ルースートー!? こら、待ちなさーい!」

「ぐふっ! や、弥生さん、邪魔をしないでいただけますか?」

「この状況で私の方が邪魔してるって言うつもりなの!? なんで勝手に離れて行ってるのかなー?」


 えーと、根で走り回りながら呼びかけていたルストさんを、弥生さんが大型化して爪で斬りかかってるなぁ。

 あ、ルストさんの走る速度が上がって、追いかける弥生さんの速度も上がった。というか、集まってるみんなが一斉に距離を取り始めてるんだけど……。


「いえ! これは! 追加の! 演出の! ぐはっ!? だから、邪魔を! しないで! 下さい!」

「まだ言うかー!」

「どなたか! 一緒に! 演出を! ぐふっ!」

「今日は妙にしぶといね!?」


 ちょいちょい弥生さんの攻撃が当たりながらも、ルストさんは逃げ続けているけど……これはどうしたもんだろ? 止めるべきなのか、ちょっと判断に困るんだけど……。


「弥生さん、ルストさんを止めるのを手伝いましょうか?」

「あ、水月さん達はそのまま班分けの方をお願い! 班分けが終わったとこから順番に発火草の群生地に……って、ルスト、前より速くなってない!?」

「いつまでも、ただ一方的に押さえつけられている筈がないでしょう! 私だって上達はしていますからね!」

「うーん、それ自体は問題ないんだけど、今は大人しくしてなさい!」

「お断りします! 誰か、演出にご協力を……おっと!」

「この、妙なタイミングで上達を!」

「そう簡単には当たりませ……ぐふっ!」

「まだまだ甘ーい!」

「あの、弥生さん、本当に手伝いはいらないんですか?」

「水月さんは心配しなくて大丈夫! いざとなったらシュウさんに手伝ってもらうから! ルスト、待てー!」

「待ちませんよ!」


 えっと、うん、水月さんがルストさんを止める為の手助けをしようかとしてたけど、弥生さんの方にどうも意地があるっぽい。

 というか、弥生さんもルストさんもどっちも動きが速過ぎて下手に割り込めそうにないんだけど。……もう平然と発声無しの思考操作でスキルを使いまくってるしなー。


「この状態でルストさんの呼びかけに応じるって無理じゃね?」

「……うん、私も同感かな」

「……あはは、これは割り込めないね?」

「でも、充分スクショの撮影対象としては成立してるのです!」

「あー、確かにこのレベルでの攻防は早々見られないが……シュウさん、その辺は止めなくてて良いのか?」

「これくらいなら構わないよ。弥生もルストも活き活きとしているし、何よりここでスクショの撮影を止めるのも無粋だよ、アルマースさん」

「……確かにそりゃそうか」


 あー、確かにそれはシュウさんの言う通りか。周囲を見てみれば、思いっきりみんなが注目してるもんな。


「……おいら達の出番が無くなったっす」

「……煮付けさん、そこは済まないと言っておくよ。適度なところで僕が止めるから、その後はよろしく頼むね」

「はいっす!」

 

 ルストさんや弥生さんの代わりに演出をやると意気込んでいた『青の野菜畑』の人達だけは少し落ち込んでるのは……どうしようもないか。

 まぁある意味では順番通りにスクショの演出をやってる形にはなってるもんなー。当の本人達だけはそのつもりもないっぽいけど。


「スクショを撮るのは良いけど、班分けの話はちゃんと聞いてねー! そろそろ第1陣も出発するからねー! 水月さん、第1陣の先導をよろしく!」

「あ、はい、分かりました、レナさん。アーサー、フラム、行きますよ!」

「おうよ!」

「うん、わかった!」


 あ、雷属性のツチノコで跳ねてるのが今見えたけど、フラムもいたんだな。まぁ水月さんとアーサーがいるなら、そりゃいるよなー。

 ふー、アーサーは頑張っているみたいだし、近くを通るみたいだから声をかけておくか。……って、なんでフラムの方が近寄って来るんだよ!


「おっす、ケイ!」

「……あー、うん。アーサー、頑張れよ!」

「あ、コケのアニキ! うん、頑張るよ!」

「おいこら、適当に流すなよ!?」

「……もう今日は変なのを相手にしたくないんだけど」

「変なの扱いって酷くねぇ!?」


 何を言ってるんだ、フラムは。一番最初に変なキャラ付けをして、変な喋り方をしていたのが変ではないと? いやいや、寝言は寝てから言えよなー。


「……ケイ、全部声に出てるかな」

「あー、まぁ別に聞かれたところで問題ないしなー」

「は、反論出来ないところを……地味に最近ルアーさんにその手の事でからかわれて、精神的なダメージが蓄積してんだよ!」

「いや、それは知らんし、自業自得だろ」

「もうあれは黒歴史なんだよ!」

「おーい、黒歴史にするにはまだ早い過ぎるだろ。てか、有耶無耶にしようとする事自体が黒歴史の一部になりそうな……」

「ぐはっ! それ以上言うな!?」


 なんだかツチノコでのたうち回ってるけど、変な口調で活動してた時からまだ1ヶ月も経ってないのにそんな状態になるなら初めからやるなよなー。

 もしくは青の群集のスリムさんみたいに徹底しろ。中途半端が一番駄目なやつだからな、その手の事。


「……容赦ねぇな、ケイ」

「でも、正直に言えばあれはね……?」

「途中でやめるなら、初めからやらない方が良いのです!」

「…………ぐふっ」


 あ、ピクピクと微妙に動いてはいるけど、遂にフラムの言葉がなくなったな。いや、遂にっていうほど時間は経ってないけど。むしろ早かったけど。


「……はぁ、何をやっているのですか、フラム。アーサー、先に行っていて下さい」

「分かった! 第1陣の皆さん、俺に着いてきてください!」

「……今はもうアーサーの方がしっかりしてないか?」

「ケイさん、その気持ちは分かりますが、最近フラム自身が気にしている事なので触れないであげて下さい」

「ぐはっ!?」

「……水月さんの言葉がトドメになったっぽいけど?」

「……どうやらそのようですね」


 うん、まぁフラムが精神的ダメージを受けているのは別にいいや。内容的に完全に自業自得だし、トドメを刺したのは水月さんだし。


「……だぁ! そんな事を話にきたんじゃねぇ!」

「あ、復活した。……しぶといなぁ」

「なぁ、ケイ!? 俺、なんか悪い事をしたかー!?」

「色々あるけど、大勢見てる前で大暴露大会でも開催して欲しいのか?」

「すみませんでしたー!」


 もうさっきから地味に面倒だな、このフラム。なんか話があるならさっさと本題を切り出せっての。


「……ケイこそ、その独り言の癖は――」

「それ以上言ったら、今すぐ仕留めるぞ?」

「……えーとだな、本題はあれだ! 赤の群集の強化に手を貸してくれてありがとな!」


 ほほう、午前中の件をフラムが知ってる事自体は不思議でもなんでもないけど、こっちは色々と大変だったのに、よりによってコイツはそういう事を言うのか。

 よーし、さっきの仕留める発言は冗談だったんだけど、今からは冗談じゃないぞ。まぁ水月さんなら、今の発言を聞いてたから文句は出てこないよね。


「フラム、死にたいんなら初めからそう言えよな?」

「え? あ、今のは違う!? 本音ではあるけど、用件はそれじゃない!?」


 えーと、フラムは魔法型に転向したんだからここは魔力集中を使って殴り殺すか、挟んで斬り殺すか、あぁ、両方でも良いのか。いや、あっさり終わらせるのもあれだし、魔法をぶっ放しまくって、岩の操作で潰しつつ、挟み切るってのもありだな。

 うん、行動値はかなり回復してきてるし、ロブスターによるツチノコの虐殺劇ってのもスクショの対象としては良いんじゃない?


「あー、とりあえずケイ、少し落ち着け」

「……アル?」

「おぉ、アルマースさん! そうだ、ケイを止めてくれ!」

「ケイ、殺るなら全員でだぞ」

「アルマースさん!?」

「あー、まぁ確かにそりゃそうだ。うん、そこは悪かった」

「ケイも納得すんのかよ!? ちょっ、サヤさんもハーレさんもヨッシさんも殺気立ってない!?」


 いや、だって俺ら全員が大変だったのに、それを赤の群集の強化に手を貸したって一言で済ますって喧嘩を売ってるどころの話じゃないよなー?

 それ、俺らにとって一番不利益な部分なのに、よりによって出てくる言葉がそれとかなー。うん、とりあえず本題とやらは水月さんから後で聞くとして、みんなでフラムをぶっ殺そう。そうしよう。


「フラムが無神経な発言をするからです!」

「ぐふっ!」

「先程のフラムの発言は本当に失礼しました! ラインハルトさんから普段の様子に戻っていると聞いてはいましたが、だからといって不快だった事実は消えませんし、本当に申し訳ありません! フラムも謝りなさい! いくらなんでも今のは失礼にも程があります!」

「……す、すまんかった」

「はぁ、まぁフラムが余計な事をするのは今に始まった事じゃないからこれで流すけど……次に言ったら覚悟しろよ?」

「お、おう……。今日のケイ、一段と怖ぇ……」


 ふぅ、フラムに余計な事を蒸し返されたせいで気が立ってしまったけど、とりあえず深呼吸して気分を落ち着けよう。みんなも落ち着こうとはしてるみたいだね。


「……で、結局本題はなんだ?」

「あー、あれだあれ! 午前中の方は単純に色々と助かったとだけ! 本題は2時からやってた、ケイの模擬戦!」

「……あっちの方か。全群集で中継はやってたし、フラムも中継してたのか?」

「おう、やってたぜ! それでなんだが、その後にケイのアニキとか呼ばれてたって話を聞いてたんだが、どういう事なんだ? どうもアーサーがその辺を気にしててな」

「その情報、赤の群集に伝わってんの!?」


 あー、そうか。エンの所から、桜花さんの樹洞の中へと移動する間で赤の群集の人にも聞かれてたのかもしれない。正直、あの時はケインが盛大に鬱陶しかったから、周囲の確認とか全然してなかったしなー。


「なんか人違いになってた奴の方が急にそう呼ぶようになったとか、そんな事実はないとか、妙に情報が錯綜しててよく分からねぇから、本人に聞こうと思ってな! ケイ達はLv上げ中みたいだったから、その間は聞くのを遠慮してたんだぜ!」

「水月さん、アーサーが直接聞いてこないのはなんでだ?」

「なぜ、そこで水月に聞く!?」

「アーサーは無理に聞いて、ケイさんを困らせたくなかったようですね。ケイさんが嫌がってたという情報も入ってきてましたし」

「あー、なるほど……」


 アーサーとしては俺をアニキ呼びするケインの事は気になったけど、それを俺に聞くのは状況的に躊躇った訳か。……フラムよりよっぽど気遣いが出来てんじゃん。


「俺は完全にスルーなのか!?」

「……まぁアーサーに免じて、ここは答えとくか。あれはあの時の一時的な変なテンションだっただけだから、もうその呼び方をされる事はない。以上!」

「そんだけかよ!? え、その経緯とかはねぇの!?」

「それは教えられないやつだな」

「えぇ、そここそ聞きたいってのに!?」

「そこまでは知るか!」


 てか、あの時の桜花さんの樹洞の中での出来事は外には出さないって事にしたんだから言えるかっての!

 あそこでケインが欠片も反省しなかったのならともかく、フーリエさんに言い負かされて凹んだ上で反省はしたんだから、それを大っぴらに言いふらす気はない!


「フラム、それ以上は聞くのはやめなさい。言わないと決めている事のようですし」

「まぁそれなら仕方ねぇけど……ケイ、アニキ呼びが微妙に広がってるのはどうすんだ?」

「……放っておけば、そのうち沈静化するだろ。もうケインからはその呼び方はないんだし」


 多分そのはず。そうであって欲しい。てか、そうなってくれるよね!? もしあの状況からケインが俺の事をアニキ呼びし続けるような事があれば、どうしてくれようか!


「ま、そういう事ならアーサーにはそう伝えとくわ!」

「……無駄に時間がかかりましたし、初めから私が聞けば良かったですね。ともかく、アーサーに任せっきりになりましたし、早く追いかけますよ」

「おうよ! んじゃ、またなー!」

「アーサーに迷惑かけんなよ、フラム!」

「かけねぇよ!?」

「……どうでしょうかね?」

「水月まで!?」


 なんというか騒々しいまま、フラムは水月さんのクマの背に飛び乗って走り出していった。アーサーが先導している第1陣の姿は遠くはなっているけど、まだ見えてはいるから合流まではそう時間はかからないだろう。


「あー、なんか無駄に疲れた……」

「ケイがフラムさんを雑に扱う理由、少し分かった気がするぞ」

「……あはは、確かにあの発言はないよね」

「……それは同感かな」

「そうなのです!」

「理解してくれて何よりだよ」


 フラムはリアルを含めて地味に余計な行動や余計な一言が多いからなぁ……。そういうところがなければ雑に扱いはしないんだけどね。

 特に今回の赤の群集の強化に手を貸した発言は本当にないな。うん、冗談抜きであれはない。



 

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