第916話 集合場所でのスクショ
合同撮影会の集合場所に来てみれば、なんだか妙な流れで被写体になってしばらくはその周囲と飛び回っている。うーん、割と時間ギリギリでかなりの人数が集まっていた状態で目立つ移動の仕方をしたのが原因だろうなー。
まぁ別に嫌な訳でもないし、逆にメリットすらあるんだから問題はなし! 問題があるとすれば、それほど操作時間が残っていないから一度適度なところで下に降りて、回復をしておく必要がある事か。もうちょいはいけるけど――
「ごめん、氷塊の操作はもう時間切れ!」
「え、あ、そうか! 俺の水流の操作とヨッシさんの氷塊の操作じゃLvが違うもんな」
氷塊の操作Lv3と水流の操作Lv4の違いがこんな形で出てくるとはね。Lvが上がるだけでは時間自体が延長される訳じゃないけど、精度に無駄がなくなる分だけ時間が減りにくくなっているんだろう。
操作系スキルについては無駄なく使えば、それだけ長く使う事が可能だしなー。でも、応用スキルの方の操作系スキルってLv4から先には中々上がってくれないもんだね。
とりあえずサヤとハーレさんの演出を含めて5分くらいは飛んでたから、演出の時間としては問題ないはず。
「アル、一旦降りる……その前に確認か。ハーレさん、レナさんに一度降りて回復の時間が取れるか確認してくれ!」
「どこに降りたら良いのかの確認も頼む」
「はーい! レナさん、移動の時に結構操作時間を使っちゃってたから、これ以上は限界なのさー! うん、降りる場所の確認と回復ー! はーい! アルさん、降りて大丈夫だってー! 降りる場所は集まってるみんなからは少し離れた位置にいる赤のサファリ同盟のとこでだってー!」
「おう、了解だ! ……あー、弥生さんとシュウさんとルストさんがいるあの位置か?」
「そうなのです!」
「お、どれどれ?」
とりあえずヨッシさんの氷での固定が無くなったし、アルのクジラの上から覗き込んでみる。ふむふむ、集合場所から少し離れた位置にちょっとした集団がいる感じだね。
赤のサファリ同盟が立候補してきているとは聞いたけども、弥生さんとシュウさんとルストさんの3人だけなのかな? 赤のサファリ同盟の全員の参加が必須って訳じゃないし、それだと大人数になるから人数を絞ったっぽい?
その横には青の群集の1PTもいるから、こっちが青の群集からの立候補みたいだね。うん、そのPTについては6人PTか。
というか、なんだか見覚えのある感じの大根の人がいるし、野菜ばっかなのは気のせいか? ……名前や共同体名が見える距離まで行ってたから確認してみよ。
「あ、弥生さんが纏雷をしてるかな?」
「弥生さんがメインで演出をするみたい?」
「あー、まぁその辺は降りてみてから聞いてみよう!」
「確かに聞くのが一番早いのさー!」
「だな。ケイ、もう水流は解除して構わんぞ」
「ほいよっと」
という事で、俺の水流の操作は解除。まだ空中浮遊だけでは浮き切れないくらいの高さではあるけど、アルが風除けに使っていた水のカーペットはまだ展開中だし、そこは問題ないだろ。
「おらよっ!」
うん、考えていた通りにアルが自分のクジラの下に水のカーペットを移動させて、ゆっくりと地面に降りていく。
徐々に地面が近付いてくれば青の群集の大根の人の名前が見えてきた。えっと、大根の人の名前は煮付けさんで、所属共同体が『青の野菜畑』になっている。
確か『青の野菜畑』って、雪山の中立地点でトラブルがあった時に会った事があったはず。なるほど、だからスイカの人や、トウガラシの人や、豆の人や、トウモロコシの人や、カボチャの人がいるんだね。
あ、煮付けさんが俺らの方に近付いてきたね。青の群集から時間潰しの演出をやっていくのは煮付けさん達なんだな。
「グリーズ・リベルテの皆さん、お久しぶりっす!」
「久しぶり、煮付けさん。前に会った時は色々と災難だったよなー」
「本当っすね!」
「あはは、あの時は本当にお騒がせしましたー!」
「……僕はなんとも言い難い話題だね」
「弥生さんは大変な事になりましたし、兄さ……シュウさんもキレてましたしね! 私があの時、どれだけ必死だったか!」
おっと、弥生さん達もやってきた。そっか、このメンバーだと全然知らない関係でもないんだな。まぁ『青の野菜畑』は煮付けさん以外は初対面……いや、もしかしたら会話はしてないけど会ってはいるかもしれないか。
まぁそこはいいや。とりあえずこのメンバーが俺らと一緒にスクショを撮影するメンバーって事になるんだね。
「弥生さん、少し質問いいですか!?」
「んー、良いよって言いたいけど、それは少し後でもいい? 私達、これから演出の方をやらないとだしね」
「はっ、そういえばどんな演出をするのー!?」
「ふっふっふ、それが見てのお楽しみ! それじゃ、シュウさん、ルスト、始めるよー!」
「分かったよ、弥生」
「私はスクショを撮る方に回りたいんですが、やっぱり駄目ですか? 何故、私が今回は撮られる……いえ、撮られる役目ですらなく補佐なんですか!?」
「え、だって、私達って一応主催側だよ? でもメインの仕切りは灰のサファリ同盟が主体でやってくれてるんだから、ここで待ち時間が発生する間くらいは何かやらないとダメでしょ? それにルストは散々あちこちで自由に撮りまくってたよねー? ここで変に駄々を捏ねるなら……」
「分かりました! やりますよ! やればいいんでしょう! でも、発火草の群生地ではスクショはしっかり撮らせて下さいね!」
「はい、それでよろしい!」
なんだかルストさんとしては演出側に回るのは不本意のようだけど、弥生さんとしては主催側だから待ち時間が暇にならないように手を打とうとしてるんだな。なるほど、だから立候補ですぐに赤のサファリ同盟が出てきた訳か。
集合しているみんなの方を見てみれば……お、水月さんが補佐をしつつ、アーサーが班分けをしてるっぽい。うんうん、アーサーにはこういうのは良い経験かもな。
あ、クジャクの琥珀さんもいるし、他にも灰のサファリ同盟の人も結構集まってるね。
「それじゃシュウさん、ルスト、やってくよー!」
「分かりました。『根脚強化』『根棍棒』『殴打重衝撃』!」
「さて、ルストのチャージ待ちだね」
おぉ、久々に見た気がする。ルストさん以外では地味に見た事がない物理型の木での固有強化スキル! えっと、ぶっちゃけどういう効果だったっけ?
確か『根脚強化』が根を使った攻撃用の魔力集中みたいなもんで、『根棍棒』は根で固有スキル以外のスキルを使えるようにする為のスキルだっけ? ふむ、ルストさんが『殴打重衝撃』を使うって事は打撃の特性を持ってるんだな。
「そういや、アルの木はルストさんみたいに物理攻撃は……魔法型を目指してるんだし、なしか」
「いや、色々と上げるものが多くて後回しにしてるだけだが、そのうち多少は取るぜ? 支配進化ならステータスは問題にならんしな」
「あ、単純に優先順位の問題か」
根本的にアルの最優先は支配進化の出現だし……って、確か支配進化が出る条件応用スキルの操作系スキルがLv3以上が3つだったっけ? 意外ともうすぐなんじゃ?
あ、確認したいけど流石に弥生さん達が目の前にいる状態で聞くのもまずいか。うん、もしかしたらヨッシさん辺りも新しく進化先が出てる可能性もあるから、この話題は後でやろう。
「それにしても、植物系って魔力集中や自己強化って使えないよなー」
「いえ、使えるには使えますよ? ただ、固有の『根脚強化』の方が色々と便利なだけです。こっちは根での攻撃速度の上昇効果がありますからね」
「え、ルストさん、マジで!?」
あ、そういえばよく考えたら最近全然使う事がなくなった『進化の輝石・樹』で纏樹を使った時に魔力集中を使ったような覚えがあるような、ないような……?
あれ? アルが木で魔力集中や自己強化を使わないから、俺が使えないと勘違いしてただけ!?
「アル、なんで魔力集中や自己強化を使ってないんだ!?」
「あー、そもそも取ってねぇからな。てか、今更過ぎねぇか?」
「確かに今更な気もするけど、その理由ってなに!?」
「それはどっちも根脚移動にも根の操作にも効果がないからっすね! 樹木魔法にももちろん効果はないっすから、さっきのルストさんみたいに汎用型のスキルを使いたい場合以外はほぼ無意味っす!」
「まぁ、そういう事だ。てっきり知ってるもんだと思ってたんだが……」
「……思いっきり今知ったとこだよ」
魔力集中も自己強化も取るだけは取れるけど、草花や木を物理型にして、その上で汎用的なスキルを使おうと思わなきゃ無意味とか、そんな罠があったんかい!
いや、一番罠に引っかかったらダメなアルがちゃんと把握してたんなら問題はないのか? 今まで問題になるような事もなく、そもそも気付きすらしてなかった訳だし……。
「ケイ、ドンマイかな?」
「そういう勘違いは誰にでもあるのさー!」
「うん、まぁこれまで問題なかったし、大丈夫だよ」
「その心遣いがグサグサと刺さってくるんだけどー!?」
うぐっ、今回のは思いっきり醜態を晒した気がする……。くっそ、なんで今まで俺はその部分に疑問を覚えなかったんだよ!
纏樹で魔力集中を使ってルアーとの一戦を切り抜けたと思った時は、実は魔力集中は関係なかったとか、そういう話になるよねー!?
「あ、でも例外が1つだけあるっすね! 魔力集中や自己強化を、ポイントではなく自力で取得した時の初撃だけはどんなスキルにも効果が乗るそうっすよ?」
「勘違いの原因はそこかー!?」
取得したての場合だけは効果が違うんかーい! えーと、ちょっと待てよ。色々と混乱してきたから、ちゃんと思い出して整理しよう。俺のコケは全然使ってないけど、魔力集中と自己強化は両方取ってる。
どっちも纏樹中に取ったはずだけど、自己強化はどういう流れで取ったんだっけ……。えーと、あぁ、そうだ。コケとロブスターがまだ共生進化だった時に、纏樹を使って取得したんだった。
そういえばあの時って、コケで発動した自己強化がロブスターにも影響が出てなかったっけ。え、そこもおかしくない?
ちょっと待った。今、共生進化のサヤはクマと竜で個別に魔力集中や自己強化を発動しているよな? え、なんで俺はあの時にどっちにも発動してたんだ?
よく考えろ。バグの可能性もあるけど、どこかに違う条件があるはず……って、明確に違う部分は纏樹じゃん!?
「あと、纏樹と纏草を共生進化で使った場合、魔力集中と自己強化がどっちの種族にも適応されるって特殊な仕様があるそうっすよ! 組み合わせによっては意味ないっすけど!」
「煮付けさん、マジか!?」
あー、そっか。纏樹と纏草の特殊仕様なのか。それだね、今俺が不思議に思ってた件の答えって。うん、答えが分かってすっきりした。なるほど、樹属性も草属性も例外属性だから、基本属性とは違う性質をしてるんだな。
うん、その辺は全く知らなかったから、良い情報が手に入った……って、ちょっと待ったー!?
「……煮付けさん、俺にそんな情報を思いっきり喋ってもいいのか?」
「ジェイさんから許可が出てるから問題ないっすよ! むしろ『ケイさんは変なところで情報が抜け落ちてる事があるので、そういう部分の情報を積極的に喋ってフェニックスの昇華魔法の件については帳消しにしておいて下さい』って通達されてるっす!」
「やっぱりその件は根に持ってたのか、ジェイさん!」
くっ、バレても問題ない情報で、フェニックスの昇華魔法の発動条件を見つけた件を帳消しにしてくるとは……。ジェイさん、油断出来なさ過ぎだ!
「ちっ、ジェイさんに狙われてたか……」
「……あはは、これはやられちゃったね」
「ケイ、改めてドンマイかな!」
「失敗は誰にでもあるのさー!」
「だー!? 思いっきり釈然としないんだけどー!?」
くっそ、今になって特に気にしてもいなかった情報の齟齬に気付いて、その情報補填をジェイさんに狙われた! てか、そういう事を通達してるって、ジェイさんやり過ぎじゃない!?
「あの、チャージは終わったんですが、開始しても良いのでしょうか?」
「あ、ルストさん。すまん、邪魔になってたか! とりあえず釈然としないとこはあるけど、ひと段落はついたからやってくれて問題ないぞ」
「いえ、それは構いませんけど……ケイさんも大変ですね」
「ジェイさんはケイさんの事をかなり警戒しているみたいだからね。ケイさん、ミスや勘違いは誰にでもあるから、気にし過ぎるんじゃなくて、繰り返さないように気をつけるといいよ。……僕もそれは痛感したからね」
「……ルストさん、シュウさん。うん、次からは気をつけるよ」
後悔先に立たずとも言うし、済んだ事を気にし過ぎても仕方ないのは確かだもんね。肝心なのは次に同じようなミスや勘違いをしない事。それが大事だよな。
「さーて、それじゃ演出をやっていくよー! 『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『雷纏い』! シュウさん、ルスト、お願いねー!」
「ルスト、タイミングは僕の方で合わせるから、任せるよ」
「えぇ、分かりました。弥生さん、準備は良いですか?」
「いつでもいいよー!」
そう言いながら弥生さんはバチバチと放電する雷を纏い、眩い銀光を放つルストさんの棍棒のように太くなった根の上に乗っている。これって、どういう演出をやるんだろ?
「それでは行きます!」
「それじゃ行ってきまーす!」
そのルストさんの掛け声と同時に、弥生さんの黒いネコが凄い勢いで上空へと投げ飛ばされていった。
えーと、かなり雲が下がってきてはいるけど、弥生さんが雲の中に突入していったんだけど……ここからどうなるんだ?
「さて、弥生からの合図がきたね。いくよ、弥生。『飛翔疾走』『エレクトロクリエイト』『並列制御』『雷の操作』『ウィンドインパクト』!」
「いっくよー! 『飛翔疾走』からの少し『大型化』から更に『大型化』!」
おぉ、シュウさんが空中に駆け上がったかと思えば、雲の中から落ちてくる弥生さんに向かってウィンドインパクトで落下の加速をしたっぽい。
そして弥生さん自身を雷で覆い尽くし、その雷の中を駆けて、2段階に分けて大型化していく雷を纏った巨大な黒いネコが地面に降り立った。
「おー、こりゃ良い感じの演出だな! あ、スクショを撮り損ねた!?」
「ふっふっふ、私はバッチリ撮ったのです!」
「……あはは、移動が早くて私は撮るのに失敗しちゃったよ」
「……私もかな」
「あー、俺もだな。ケイ、撮ろうとしても今のは難しいから気にすんな」
「……そうっぽいなー」
確かに今のは相当な早技だったし、撮るのは難しそうだ。というか、あの速度で地面にちゃんと着地するのも難しそう……。流石は弥生さんだし、それにタイミングを合わせられるシュウさんも凄いね。
「おぉ、なんだかんだで撮れなくはないですね! 弥生さん、シュウさん、一度ではそれほど時間は保ちませんし、何度かやりましょう! そうですね、着地の時に砂埃とか、爆発みたいなのが欲しいですね」
「ルストさん、俺らを見ても行動値の回復中だから無理だからな!?」
「……そういえばそうでした! それでは誰か手伝ってくれそうな方を探してきます!」
「あ、ルスト!? それはちょっと待ちなさーい!」
そして、相変わらず木とは思えない速度で走っていったルストさんと、それを追いかけていく弥生さんの姿があった。うん、まぁこの辺は相変わらずだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます