第861話 泥を使って


 小さく浅い湖の水とその周辺の土を混ぜて泥を作って、それを水の操作と土の操作で同時に操作をしてみた。うーん、扱えない訳じゃないけど、地味にちょっと難しいな。


 とりあえず泥の塊を軽く動かしてみたけども、スムーズに動く時と動かない時があるっぽい。これは何が原因……って、深く考えるまでもないか。多分この状況の原因は水の操作と土の操作が同一方向にちゃんと動いているかどうかだな。

 えーと、さっきは割と雑に扱ったから今度は丁寧に扱って……よし、意識して水の操作と土の操作での動きが同じようになるようにすればスムーズに動くね。この泥の動かし方は個別に動かすんじゃなく、まとめて1つの塊として操作する様な感覚だね。


「……これ、サヤは苦手そうだな」


 俺はこの手の操作系スキルの扱いは得意だから普通に出来るけど、今は慣れてきているとはいえ操作系スキルが苦手なサヤには難しそうな気がする。

 でも、これくらいの難易度ならアルやヨッシさんなら普通に使えそうだよな。まぁ2人が泥を使う機会があるかどうかが怪しいけど。ぶっちゃけ俺が使えていればPTとしては問題ない気がする。


「ま、とりあえず色々と試してみるか」


 ただ泥が操作出来ましただけじゃ意味がないし、応用していくためにも色々やってみよう。今回はどっちも天然産を使ったけど……うん、一番使い道がなさそう。というか、使える場所が限定的過ぎるか。

 あー、でもエリアの地形として泥濘んでいる場所なら有用性もある? なんとも言えないから、まずは泥から水と土の分離するのを試してみるか。流石にこれは不可能って事はないだろ。


 という事で、泥を操作している状態から、水の操作を右側に、土の操作を左側に動かすイメージでそれぞれ操作をしていく。くっ、これって地味に操作時間が削られていくのか!?

 それでも何とか強引に引き剥がすようなイメージで……よし、水と土が分離出来た! ふむふむ、ちょっと動かし方を変えながらやってみたけど、土を一ヶ所に固めて水の中から引き抜く感じが良さそう。


 なんというか、割とあっさり出来て拍子抜けだな。いや、どっちも通常スキルだし昇華になってるLv6ならこんなもんか。

 まぁこうして分離が出来るなら、泥濘んでいる場所から水分を抜いて、地盤を固めるという手段もありだね。……そういや水分吸収でそういう事をしてるってのもあった気はもするけど。


 さて、次は……とりあえず分離した土と水を3分割してから、もう1回水と混ぜて泥にしてみよう。


 まず土の塊を3つと水の球を3つにしてそれぞれ操作していき、1つの水の球に2つの土の塊を入れてみるか。これで全体的に混ざり合うように……って、操作で混ぜるの地味に難しい!? 

 さっきの泥の状態で操作するのと違って、バラバラに動かす必要があるんだな。うーん、上手く混ぜるには……あ、これは以前我が家の庭で池作りをした時にモルタルやらコンクリートやら……いまいち違いは知らないけど、父さんが色々やってたからその時を参考にしてみよう。

 あの時は大きな容器に材料のセメントを入れて、砂利を入れて、水を入れてスコップで掻き混ぜてたような……。少しずつ1つの水球から水を入れつつ、土を掻き混ぜるように操作をしていけば……お、これならいけそう。よし、この調子で混ぜてみよう。


 ふー、とりあえず苦戦しつつも混ぜ終わったけど、これだと泥というより少し水分を含んだ粘土質の土って感じだな。

 粘土質の土……これをさっきの泥を操作する要領で成型して、天然産の火で焼けば焼き物が出来たりしない……? うん、何となく出来そうな気がするし、後でその辺りはまとめを見てみようっと。

 というか、これってセメントの材料になるものがあればコンクリートが作れるような気もする。セメントの材料ってなんだっけ? 石灰岩? ……探せばありそうな気もするぞ。これも後でまとめを要確認だな。


 ふむ、普通に操作するよりも早く操作時間が減っていってるけど、まだもう少しはいけるか。今度は2つの水の球と、1つの土の塊を混ぜてみよう。こっちは水の方が多いから、泥水っぽくなるはず。

 まずはさっき使わなかった2つの水の球を1つにまとめて、その中にこっちもさっき使わなかった土の塊を1つ放り込んでいく。今回は水を回して、溶かしていくような感じで混ぜてみよう。


 ……うん、普通に濁った泥水が出来た。こっちは何の捻りもなくあっさりかい! 水分を含んだ粘土質の土も、今の泥水も、この状態での操作のコツは1つのものとして扱う事っぽいね。この辺は共通している部分か。



 あ、この時点で操作時間が無くなって、解除になってしまった。時間がまだあったら粘土質の土の器の形にしてみようかと思ったけど、その時間までは残らなかったかー。ま、思った以上に操作に可能時間が減るっぽいから、この辺は運用する上では要注意だね。

 それにしても泥がこんな感じで操作が出来るなら、他の属性での組み合わせも何か出来そうな気もする。この辺もまとめで一緒に確認してみるか。



 それじゃ次は魔法産で試して……って、行動値が9しかないから、生成と操作の両方を並列制御で使うには足りなくね!? うん、計算してみたけど確実にちょっと足りない。

 ふー、足りないものは仕方ないし、足りないとはいってもほんの少しだ。全部終わらせてから確認する気だったけど、今のうちにまとめを確認しておこう!



 行動値の回復を待つ間にまとめを開いて、まず何から確認していこうかな? とりあえず泥を操作するやり方についてのまとめを見ていくか。……まだ試していない魔法産での使い方は出来るだけ見ないように要注意。それは自分で試したいしね。


 えーと、『複数の属性の操作の連携について』っていうのがあるからこれっぽい気がする。泥……この場合は水の操作と土の操作の連携になるのかな? 多分、この項目で合ってると思うから見ていこうっと。

 さて、内容は……あ、火の操作に風の操作で風を送り込むと火力が増すとか、氷雪の操作を風の操作で拡散させると霧になるとか、水の操作に氷の操作を叩きつければ広範囲を凍結させられるとかがあるね。お、泥も作れるとは書いているけど、ここは読み飛ばそう。


 それにしても色々と種類はあるみたいだけど、どうやらここにまとめてあるのは基本的に天然産を扱う場合のみで、魔法を使う場合は複合魔法のまとめを参照するのが推奨か。

 魔法産で同じような効果を得ようとすれば、それは複合魔法に変化する場合の方が多いらしい。どうしても天然産と同じ効果が欲しければ魔法産は先に操作しておくことってなってるね。って事は、泥の部分は読み飛ばす必要もないのか。


 それじゃ改めて泥の部分を見ていこう。えーと、地面が土の場合は水をばら撒いて水の操作で乱しまくって泥濘みを作って足場を悪くする事が可能……って、俺が考えてた手段が既に書いてあったー!? まぁそれくらい思いつく人は誰でもいるか。

 あ、焼き物は実験の最中なんだね。どうも成型する操作難度が高くて、思った通りの形が作れていないようである。確かにあれは誰でも簡単に出来る感じでは無さそうだったもんな。


 コンクリートについては……セメントの原料になる石灰岩を捜索中なんだ。って、珊瑚礁を破壊して少しは確保してるの!? あー、珊瑚も石灰だっけ? うん、海エリアで地味にコンクリートが作られるようになっているっぽい。

 あれ、もしかして少し前に海エリアで海鮮バーベキューをした場所、コンクリートで土台を作る計画とかになってたりする? ……ここには書いてないけど、その可能性は否定出来ないね。



 さて、軽くまとめを確認している間に必要なだけの行動値は回復した。……でもぶっちゃけ、魔法産も確認しちゃったからする事がない気もする。

 いやいや、そこから発展させてこそだろう! 足場を悪くするまでは可能だと分かっているのであれば、そこから発展させてみるまで!


 元々ある足場を泥濘みに変えるのなら、土の生成はいらないな。まず必要なのは水の操作に必要な水の生成のみ!


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 16/79(上限値使用:2): 魔力値 219/222


 今回は水の生成だけなので、昇華魔法になる心配はないね。さて、次をやっていこう。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を3消費して『水の操作Lv6』は並列発動の待機になります>  行動値 13/79(上限値使用:2)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『土の操作Lv6』は並列発動の待機になります>  行動値 7/79(上限値使用:2)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 地面の土を可能な限り広範囲で支配の指定をして、その土を魔法産の水と混ぜ合わせていく。どちらかと言うとまずは水量を多めにして泥水に近い状態が良いだろう。

 よし、とりあえずこれで天然産の土を混ぜた結構な量の泥水が完成! 天然産の土だから砂利や砂も混じっていて、その辺の効果も期待したいとこだね。


 さて、それじゃここからは俺流の思いついた手段をやっていくぞ! まずはこの泥水を回転させながら近場の地面を抉り取っていく。

 くっ、抉った地面の土が泥水に混ざって、操作がしにくいな……。これ、抉り取った土も一緒に操作してしまいたいんだけど、流石にそれは出来ないか。


 あー、それなりに地面を泥水で抉りながら掘ったけど、抉った分の土が泥水に混じっていくにつれて、操作の難易度が跳ね上がっていく。ちっ、これは駄目っぽいな。

 一応今のでどれだけ掘れたか確認する為に泥水を持ち上げていったら、支配下にない抉った土砂が落下していっている。うへぇ……妙な手応えがあったりもしたけど、木の根が邪魔してたみたいだし、大して掘れてないな……。


「……こりゃ無理っぽいか」


 折角地面を掘って、中身が泥の落とし穴を作ろうと考えたけど、それを実行するのは無理だったみたいだね……少なくとも今はまだ。

 一度泥の中に落としてから、水分を分離して相手を埋めるのはありだと思ったんだけど……。うーん、改善点は削った地面の土をどう処理するかと、地面の下の木の根をどうするかだな。


 落とし穴を掘る段階と、敵を落とし穴に落とす段階で手段を変えるか? 穴を掘る時は水流の操作と砂の操作で強引に木の根と土砂を削り取る。水流の操作であれば多少の土砂はそのまま力技で流し切ることも出来るはず。

 その後に水流の操作と砂の操作を解除して、天然産の水と天然産の土で泥を作り落とし穴に流し込む。土の操作の方は2つに分割して、1つを蓋にして偽装に使えば良いだろう。


「……どうにかする手段は思いついたけど、こんなのどこで使うんだ?」


 水の操作と土の操作だけで完結するのなら普段の戦闘でも実用性はあるけど、水流の操作と砂の操作も使うなら行動値を消費し過ぎてて実用性は一気に下がる。……現時点でこれを使わなきゃいけない場面というのが思いつかないね。

 でもまぁ、一応思いついたから手段としてまとめに上げておくか? あー、でも無意味かもしれなくても一度は自分で実行してみた方が良いよな。



 という事で、今思いついた手段を報告に上げられるように下書き状態までにはしておいて、再び必要な行動値の回復を待ってから実行に移してみた。

 その結果としては、ぱっと見では分からない中身が泥になっている落とし穴が完成。ちなみによく考えたら操作を解除した段階で魔法で生成したものは消滅するので、天然産の水よりも魔法産の水の方が分離の必要がない事に気付いた。なので水は魔法産を利用。


「……一応出来た」


 1メートルくらいの深さだからそんなに深くはしてないけど、これに落ちたらどうなるのか……。報告を上げるにしてもこの罠の効果は知りたいとこだよな。近くに敵は……って、操作を使ってる最中だからそれは無理。

 それなら誰かを呼んで実験台になってもらうか? うーん、折角それぞれ自由に行動している時にみんなを呼びつけるのもね。エリアとしても端の方なので近くに他の人が通りかかるのも……期待は出来そうにないよな。


「……仕方ない、自分で試すか」


 自分で作った泥に満ちた落とし穴の効果を自分自身で試すというのもあれだけど、今取れる手段としてはそれが一番手っ取り早いしね。


 ふー、とりあえず偽装用の土の蓋の上に乗って……土の操作と水の操作を解除! うぉ!? どうなるか分かってるからマシではあるけど、急に足場が消えて落下していくのはビックリするね。


 そして水分が多かったのか思ったより早く泥の中へと沈んで……ちょ、沈み切ったと思ったら予想よりも早く魔法産の水が消えて周囲の土が固まってきた!?

 やば、俺のロブスターの大きさだと既に完全に泥の中に沈んでるから、このままだと完全に地面に埋まる!? 


<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します>  行動値 8/79 → 8/78(上限値使用:3)

<行動値6と魔力値18消費して『水魔法Lv6:アクアインパクト』を発動します> 行動値 8/78(上限値使用:3): 魔力値 200/222


 視界が完全に土で覆われてしまってまともに照準の指定が出来そうにないから、魔法砲撃にしてロブスターの頭を基点に指定! 頭から一気にアクアインパクトでぶっ放して、視界を確保出来ればそこからどうとでも脱出は出来る!


 おし、土に固められたとはいえ所詮は天然産の操作されていない土である。魔法砲撃のアクアインパクトで簡単に吹っ飛ばせた。とりあえずこれでロブスターの頭部は埋もれずに済んだよ。

 咄嗟にこの落とし穴に落ちれば慌てるけど、脱出自体はそう難しくはない。後はロブスターのハサミで崩してから脱出すれば大丈夫だな。それと泥に水が多かった分だけ、土だけになった際に下がって、俺が埋まっている位置と穴の上までは少し隙間がある。


 あ、そっか。さっきは使い道に悩んだけど、集団での対人戦でなら思いっきり役立ちそうだ。次にある競争クエストで、敵の移動経路が分かる事があれば隙を作るのに有効かもしれない。

 これって水の分量を増やせば大型の種族を一気に沈ませる事も出来るし、逆に水の量を減らせば足元だけを埋める事も出来そうだ。


「ケイさん、地面に埋まって何やってるんですか?」

「あー、フーリエさん、おはよう!」

「あ、はい! おはようございます!」


 そこにやってきたのは細長いコケの塊のフーリエさんであった。……うん、誰も来ないと思ってたけど、凄い変な状況にやってきたね、フーリエさん! あー、弟子にこの状態は見られたくはなかったなぁ……。



 

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