第835話 瞬殺狙いの結果
エイとコケの融合種になったであろうフィールドボス戦の真っ最中である。コケの有利な点としてHPが無くて増殖や群体化による生存能力が高いというのがあるけども、逆に言えばそれを封じてしまえば通常の敵よりも簡単に倒せるはず。
問題は火の昇華魔法であるエクスプロードのみで倒し切れるかどうかだけど、フィールドボスのコケ……厳密にはエイとの融合種になってるはず。フィールドボスのコケと戦うのは初めてだから倒せるかはやってみないと分からないんだよな。
出来れば進化後の識別もしておきたかったけど、タイミング的にする余地が無かったから仕方ない。作戦的に進化直後を狙わないと意味がなかったしさ。
「こ、これは!?」
「……エレインさん、どした?」
「とんでもない速度で操作の時間が削られて……あぁ、もう保たない!」
「あー、生成した岩じゃ昇華魔法の威力を抑え切れないのか……」
完全に誤算という訳ではないけど、エクスプロードの高温と威力に耐えられず、エレインさんの生成した岩が赤熱して融解していったか。……もう少し保つかと思ったけど、閉じた範囲の中で使ったから威力も凝縮された?
うーん、根本的に味方の攻撃ではダメージはないけど、魔法は味方でも破壊出来るのが少し難点だね。まぁ流石にそういう制限がなければ強過ぎるか。
「生成した岩が消滅します!」
「ハーレさん、連投擲の用意。獲物察知で位置を伝える!」
「了解です!」
完全にエレインさんの生成した岩が消滅し、中で荒れ狂っていた炎が解放されて火の勢いが収まっていく。ふむ、昇華魔法の時間切れってとこか。
「あれ? さっきまで密閉してたのに、空気が入っても一気に爆発しねぇの?」
「……ザックが言ってるの、バックドラフト現象?」
「おう! それだ、それ!」
えっと、バックドラフト現象って前に何かで見た気がするな。確か……あぁ、いつどこで知ったかは忘れたけど、どういう内容かは思い出した。
火災とかで密閉空間の酸素を消費し尽くして火が弱まったところに、外部の空気が入って一気に爆発していくやつだ。確かにさっきまでの状況は重なりそうだけど……って、考えてる場合か!
バックドラフト現象があろうがなかろうが、まだ討伐報酬が出てきていない。すなわち、エイとコケの融合種は倒し切れていない。
今もまだ弱くなった炎に包まれているけど、あれに耐え切るとかコケの生存能力がヤバい。地面の無事なコケを群体化して逃げられていたらマズいし、大急ぎで位置を特定しないと!
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 31/67(上限値使用:13)
ふむ、黒い王冠マークのある矢印はそろそろ消えていきそうな炎の中にある。いや、もうエクスプロードは消えてるっぽいし、今見えてる炎はファイアプロテクションか?
でも、黒い王冠マークがついているのは、なんか焼け焦げた小さな黒い塊にしか見えないな。これは群体化で核の位置も……あ、ポリゴンになって砕け散っていった。
<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<ケイ2nd未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<『瘴気石』を1個獲得しました>
どうやら昇華魔法は辛うじて耐え切ったけど、攻勢防御であるファイアプロテクションが上手く効果を発揮したようである。
ふー、昇華魔法のキャンセル対策が役立ったみたいだね。てか、それが無かったら倒し切れなかった可能性があるのが恐ろしい。経験値は美味かったけど、Lv26はちょっとやり過ぎたか。
「おっし、討伐成功だ!」
「もう火に塗れて、何が何だか分からなかったけどね」
あー、そりゃ紅焔さんとソラさんはエクスプロードとファイアプロテクションを同時展開しているすぐ近くにいたんだしね。火で何も見えなくても、それは流石に仕方ない。
「紅焔さん、ソラさん、お疲れ様! でもギリギリだったな」
「いや、マジでそうだったぜ。ファイアプロテクションを使ってなかったら多分ギリギリで生き残ってたぞ、あれ。なぁ、ソラ」
「そうだね。エクスプロードの炎の勢いが落ちてきても、死なないコケはヒヤッとしたよ」
「……ちなみにダメ元で聞くけど、今回のフィールドボスは何をしてた?」
「ぶっちゃけまともに見えてなかったから分からん!」
「僕も同じだよ。まぁそれでも推測するのであれば、増殖をし続けてたんじゃないかい?」
「……まぁ、内容的にそんなもんか」
ある限りの行動値を使って、焼かれていく速度よりも早く増殖をし続けたというのが無難な解釈か。ただ、ファイアプロテクション攻勢防御の効果も出てたから、何らかの攻撃も仕掛けていたんだろうな。
「何はともあれ、勝ちは勝ちなのです!」
「ま、そりゃハーレさんの言う通りか。保険も使わずに済んだしな」
「保険があった分だけ、まだ余裕はあったのさー! ところで、この毒の魔法弾はどうすれば良いですか!?」
「勿体無いし、それは次の1戦で使うか。あ、そういや弾として保持しておける時間ってあるのか?」
「ヨッシとザックさんが何も出来ない代わりに、保持しておく時間制限はないのさー!」
「時間制限がなくても、とんでもないデメリットじゃねぇか!」
「……あはは、スキルが何も使えないのは困るね」
「次に初手でぶっ放せば問題ねぇけどな!」
うん、まぁそこはザックさんの言う通りではあるけどね。ヨッシさんは移動で氷塊の操作を2回使ったのも合わせて消耗はしてるだろうけど、ザックさんについては問題はない。
色々と博打でやった戦闘だったけど、とりあえず作戦自体は大成功っと。反省点は、少しフィールドボスのLvを高く設定し過ぎた事と、純粋な魔力型ではなくバランス型の紅焔さんとソラさんの2人での昇華魔法だった事くらいかな。
まぁ役目はなかったけども、保険を用意していたのは正解ではあった。昇華魔法を過信せずに、対策を用意しておいてよかったよ。そして、ここはあれだね。
「エレインさん、ナイス作戦だったぞ!」
「いえいえ、あくまで私はきっかけだけでしたよ。その後の詳細についてはケイさんのお手柄です」
「まぁその辺はどっちでもいいじゃねぇか。今日の1番の経験値だしな!」
「それもそうですね、肉食獣」
「そだな、肉食獣さん!」
カリンさん達がちょっと瘴気石を奮発してくれたお陰で、俺のLvより高いフィールドボスを倒したからね。18人の大人数だから人数が少ない時より経験値は減るけど、それでも相当な経験値は入った。
「さーて、この調子で続けて4戦目のフィールドボス戦をやっていきますかー!」
「「「「おー!」」」」
「よし、次の1戦の戦闘メンバーを割り振っていくか。まず紅焔さんとソラさんは回復で待機だな。エレインも行動値が厳しいだろうから、回復しとけ」
「ま、そうなるよな。次は肉食獣さん達とカリン達が主力か」
「後はハーレさんとサヤさん? ヨッシさんは移動で地味に消耗してそうだけど、ケイさんはいけるかい?」
「少なくとも私は毒の弾はぶん投げるのです!」
「私は全然大丈夫かな!」
「……私は休憩させてもらうね」
「俺は行動値が減ってるけど、多少は問題ないから参戦するぞ」
「なら、ケイさんとサヤさんとハーレさんも参戦だな」
「次は俺もやるぜ、肉食獣!」
「……私も回復は充分!」
うん、消耗している人は回復をしていく必要はあるけど、その間に戦うメンバーは揃っているから問題はない。これが連結PTでのフィールドボス戦の連戦での立ち回りになるんだな。
「おし、それじゃ――」
「肉食獣、交代希望で成長体の持ち込みが来ましたよ」
「お、マジか! それなら……ケイさん、余力はあるだろうけど消耗はしてるだろうから紅焔さん達とそっちの対応を頼めるか? ケイさんなら岩の操作もあるしな」
「あー、そういう形か。おし、それは了解!」
「おし、それじゃそういう形でやっていくぞ!」
その肉食獣さんの掛け声に、みんなが盛大な歓声を上げて4戦目の準備を進めていく。さて、俺は成長体を持ち込みに来た人の対応をしていきますか!
◇ ◇ ◇
そんな風に消耗した人が回復と成長体の持ち込みの対応をしていき、行動値と魔力値が回復している人を主力としてフィールドボス戦を繰り返していった。
そして、5体目のフィールドボスを倒し終わったところである。ふー、途中からは成長体の持ち込みも増えてきて、捜索に行く必要がなかったのはありがたいね。
「あ、もう少しで6時かな」
「ほんとだー!?」
「時間切れだけど、なんだかんだで結構倒せたね」
「そだなー」
なんだかんだでフィールドボス戦を5戦した訳だから、1人辺り瘴気石5個は手に入った。4人の合計で20個だから、結構良い個数にはなったね。
経験値についてはLvが上がるには足りないけど、1時間くらいにしてはかなり稼げた方だろう。
「肉食獣さん、俺らはそろそろ時間切れだから連戦の連結PTを抜けるぞー! あ、この場合だとザックさんか翡翠さんをリーダーにして、俺らが抜けていく方がいいか」
「もうそんな時間か。PTについてはその方が良いだろうな」
「……それなら私がPTリーダー。……サヤさん、お願い」
「あ、うん。分かったかな」
そうして今のPTリーダーであるサヤが翡翠さんにPTリーダーを変更していった。さて、サヤとヨッシさんについてはすぐにログアウトになるからPTの再結成は気にしなくて大丈夫だな。
<翡翠様のPTから脱退しました>
よし、これで6時から俺らと交代でこの連戦の連結PTに入れるように待っていた人達の枠が空いた。とりあえず俺らの夕方のフィールドボス戦の連戦はここまでだ。
「みんなもお疲れさん! それじゃまた機会があればよろしく!」
そう声をかけていけば、みんなから盛大な声が返ってくる。いつものPTメンバーでLv上げをするのも良いけど、こうやって今まで一緒にプレイした事がなかった人達と一緒にやるのもいいもんだね。
「さてと、邪魔になってもいけないから、とりあえずミズキの森林まで戻るぞ!」
「「「おー!」」」
という事で、地味に発動したままで解除になることがなかった飛行鎧の岩を追加生成して、みんなを乗せてミズキの森林に向けて移動開始!
<『上風の丘』から『ミズキの森林』に移動しました>
今回は虫に衝突して強制解除にならないように注意しながら、それほど時間もかからずにミズキの森林まで戻ってきた。
「夜からの予定は、まずタッグ戦の打ち合わせかな?」
「まぁそうなるな。アルとはハイルング高原への切り替え地点で待ち合わせになってるし、夜の合流はそこで問題ないか?」
「それは1番効率はいいよね。それでその後はどうするの?」
「はい! 『封熱の霊峰』の先の洞窟に行ってみたいです!」
「あ、それは私も行ってみたいかな!」
「サヤとハーレさんとしてはそういう希望らしいから、俺とアルとヨッシさんは纏火の用意をしといた方が良いかもな。この後、俺の方で調達しとこうか?」
「ううん、それなら私が晩御飯を食べた後に行ってくるよ。ケイさんとハーレは、色々気になってる情報の確認をお願いできる?」
ふむ、確かに色々と確認したい情報は溜まっているもんな。タケノコという変わった種族についてとか、黒の暴走種をフィールドボスにする際の特殊性とか、今日初めて見た特性の『一撃離脱』とか、草属性と樹属性を同時に持っているとどうなるかとか、そういうのは気になったままだしね。
他にも有益な情報が無いかが知りたいし、ちょっとミズキの森林の湖に落ちた時に見かけた謎の影についても報告しておきたい。
「俺としてもそこは気になってるから、その辺の確認は任された。あ、ハーレさんはどうする?」
「もちろん一緒に確認していくのさー!」
「ま、そりゃそうか」
今のは聞くだけ愚問だったね。サヤとヨッシさんは情報共有板はあまり見る事はないけど、ハーレさんはそうじゃないもんな。
よし、とりあえず7時までに俺とハーレさんでやっておく事は決定。そしてアイテムの調達についてはヨッシさんとサヤに任せておけば大丈夫だろう。
「あ、ヨッシさん、これを渡しとく」
「え、あ、さっきの連戦での瘴気石だね。これは強化したのと交換してきたらいい?」
「それでもいいし、纏火用のトレードでもいいぞ。その辺はヨッシさんに任せる」
「了解。それじゃその方向性で取引しておくね」
「はい、私の分です!」
「うん、ハーレの分も預かったよ」
「私のも渡しておいた方が良いかな?」
「サヤは一緒に行く事になるけど、預かっておこうか?」
「うーん、それじゃ預けておこうかな」
「うん、分かった。それじゃ預かっておくね」
そんな感じで今回の連戦で獲得した瘴気石は、ヨッシさんに預ける事になった。まぁ誰かがまとめて持ってる方がトレードはしやすいし、この方が良いだろう。
「それじゃ晩御飯を食べてくるね」
「また後でかな!」
「ほいよっと」
「また後でねー!」
そうしてサヤとヨッシさんは食事の為にログアウトをしていった。この辺の食事の時間帯がみんな一緒なら色々と都合が良いんだけど、流石にそれぞれの家庭の都合の部分だから仕方ないよな。
「おし、それじゃ情報共有板を見に行きますか」
「おー! でも、湖の畔くらいまでは移動しませんか!?」
「あー、確かにそりゃそうだな。それじゃ移動してからにするか」
「はーい!」
今いる場所は上風の丘からミズキの森林に切り替わったばかりの場所。正確にいうなら前にキノコ軍勢とタケノコ軍勢の対立のスクショを撮った崖の上だな。
流石に今の場所は外れた位置過ぎるから、もう少し人手がある場所に移動しておきたくはある。……ミズキの森林の湖に関しては、さっき思い浮かべた報告したい案件もあるしね。
それに情報収集を終えた後にはハイルング高原のエリア切り替え地点まで移動しないといけないしなー。
エンとミズキの間の転移と直接空路を移動するのでは極端に移動時間に差はないみたいだし、エンの元に戻らず直接飛んでいくのもありだよね。
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