Monsters Evolve Online 〜生存の鍵は進化にあり〜

第８３４話 エイとコケの融合種

　エイとコケの共生進化の個体を捕獲して、次のフィールドボス戦を行う為に元々戦っていた場所へと戻ってきた。合流しやすいようにそれほど遠くには行ってなかったから、そんなに時間はかからなかったね。

「到着なのさー！」

「おう、お疲れ様。共生進化の個体は少ないけど、今回は良いもん捕まえたな！」

「ふっふっふ、紅焔さん、今回のは大成果なのです！　ばっちりエイの擬態を見破ったのさー！　いくら隠れようとも私達の目は誤魔化せないのさー！」

「……あの、ハーレ？　今回はあんまり余計な事は言わない方がいいんじゃないかな？」

「あれは言わなきゃバレ……って、あー！？」

　あぁ、てっきり苦手な生物がいる可能性を聞いて避けようとしたのをPT会話で筒抜けになっているのに気付いた上で言ってるのかと思ったけど、ハーレさんは思いっきり忘れてただけか。

　他のみんなも地味にバツが悪そうに視線を逸らしているから、理解した上で触れずにいてくれてたっぽいな。……うん、今のはハーレさんの自業自得って事で。

「そりゃまぁ、誰にだって苦手なものあるしな！　気にしなくてもいいぜ！」

「……ザック、そこは触れないのが優しさ」

「お、そうなのか？」

「……うん、そう」

「そういうもんか！　じゃ、今のは無かった事で！」

「まぁサヤもハーレも元気出して、ね？」

「……あぅ」

「……あはは」

　ヨッシさんが励ましているけど、盛大に自爆したハーレさんと巻き添えになったサヤが少し落ち込んでしまったか。

　うん、ヨッシさん、困った様にこっちを見られても俺も困るからね。俺にこの状況をどうしろと……？　あ、良いタイミングで肉食獣さん達も戻ってきた！　頼む、この空気を変えてくれ！

「あー、気持ちは分からんでもないが、そんなに時間もないから次のフィールドボス戦をやってくぞ。気分を切り替えてけよ！」

「はっ、そうなのさ！　ケイさん、まずは識別からなのです！」

「……それもそうかな。ケイ、肉食獣さん、お願いかな」

「ほいよっと」

　ふー、とりあえずこれで雰囲気が戦闘態勢へと変わってくれた。さて、サヤとハーレさんも言っているように、肉食獣さんのLv 5まで育っている識別を頼りにさせてもらおうっと。

「肉食獣さん、すぐに識別してもらっても大丈夫か？」

「あー、少しだけ待ってくれ。クワガタとウサギを誰に持っていてもらうか決めないといかんからな」

「あ、そういやそうか」

　クワガタを紅焔さんが持っていて、今戻ってきたモンスターズ・サバイバルのPTではエレインさんがウサギを根で捕獲している。

　2人共この後のフィールドボス戦での作戦での要になる役割だし、成長体を持っておくのは他の人に任せておいた方が良いよな。

　そうなると……あれ、地味に捕獲に向いている人が少なめだ！？　紅焔さんとソラさんは次の主戦力だから除外。

　ザックさんとヨッシさんは万が一の為に毒を使える様にはしておきたい。翡翠さんの氷は……氷で捕まえるとそれだけでダメージがいくから無理か。ハーレさんも状況次第では魔法弾を使って欲しいから却下。

　カリンさん達は、シカ、サメ、ダチョウ、トリケラトプスだから根本的に向いていない。いや、出来るかもしれないけど、その情報を俺は知らない。

　モンスターズ・サバイバルのメンバーはエレインさんは今回の主戦力だから駄目だし、肉食獣さんはライオン、他はイノシシ、アリゲーターガー、キノコの生えたロブスター、キツネ……。やばい、咥えるとか挟むのは力加減を間違えて成長体が死ぬ気配が結構する。

「あ、カリンさん、岩の操作を使ってたよな！？」

「うん、ここに来るまでに使ったね。属性としては持ってないけど、一応昇華にはなってるから、それで捕獲しておけばいいかい？」

「おう、それで頼む！　あ、2体分で1つの岩の中に2つの空洞って出来る？」

「……そこまで生成は得意じゃないから、それは無理だと言っておくよ。1つの空洞が限界だね」

「あー、それなら仕方ないか」

　地味にその辺の生成精度っていうのも得手不得手がある部分だもんな。流石に無理だと言っているのを無理強いは出来ないか。

　でもまぁ1体分はこれでどうにか出来る。……変に同じ空間に成長体を2体入れて殺し合ってたりしたら困るしね。

「おし、それなら俺らが捕獲してきたウサギはカリンさんに任せるか」

「任させれようじゃないか、肉食獣さん。『アースクリエイト』『岩の操作』！」

「エレイン、頼む」

「分かっています。それではカリンさん、お願いしますね」

「しっかりと預かっておくよ」

　よし、これでウサギの方は岩の中へと閉じ込める形で捕獲は完了っと。それじゃクワガタの方は……サイズ的にハーレさんには近いから、ここはサヤだな。

「サヤ、悪いんだけどクワガタを持っててくれない？」

「え、私かな？」

「サヤなら握り潰すような力加減の間違いはないだろ。他の人は、ぶっちゃけその辺の加減が分からないんだよ」

「あ、そういう事かな」

　1人ずつ確認していっても良いんだけど、それよりはよく知ってるサヤに頼むのが1番早いしね。

「あー、確かに成長体のクワガタだと噛み潰す自信はあるわ」

「俺も挟んで切る自信はあるぞ」

「……ここは任せよう」

「俺らの中で確実に大丈夫なのって肉食獣かエレインさんだけだよなー」

「よし、お前ら。今度、力加減の特訓といくか」

「「「「うげっ！」」」」

「ほほう、揃いも揃って同じ反応か。こりゃ鍛えがいがありそうだな、おい」

　あ、なんかモンスターズ・サバイバルの面々ではそんなやりとりが繰り広げられていた。どうも今の反応を見る限り、俺の判断自体は結構的確だったっぽいね。

「ケイさん、私はなんで候補に上がってないのー？」

「あー、ハーレさんは万が一の時の保険。もし火の昇華魔法で倒し切れなかった場合はヨッシさんとザックさんのポイズンインパクトを、ハーレさんの魔法弾で使ってもらうつもりだ」

「おー！　私とヨッシとザックさんは保険なんだー！？」

「お、マジか！　俺も出番がある可能性があんだな！」

「ザックさん、あくまで保険だから確実ではないからね」

「分かってるって、ヨッシさん！　でもよ、絶対ではないにしても当てにされているってのが嬉しくてな！」

「……まぁ、それは分かるね」

　コケをメインにした融合種にするんだから、腐食毒や溶解毒が有効なのは確定。ただ、これはあくまでも本命が失敗した場合の保険でしかない。

　そして本命の作戦の詳細を決める為にも、識別情報が重要だ。……昇華魔法って、魔法吸収で吸収されたりしないよね？　いや、仮に吸収出来たとしても2人で発動した昇華魔法の威力は桁外れだから吸収し切れないはず。

「肉食獣さん、識別を頼みたいんだけど、その前に知ってたらでいいんだけど確認したいことがある。魔法吸収で昇華魔法の吸収って可能だったりする？」

「……その辺はケイさんの方が詳しそうな気もしたんだが、そうでもないのか。まぁ一応可能ではあるって話だが、2人での全力での昇華魔法ならLv4くらいの魔法吸収でも1割も威力は削げないそうだから問題はないだろう」

「あー、そのLvで1割も吸収出来ないなら大丈夫か」

　昇華魔法を一応吸収出来るというもは意外だったけど、流石に魔力値2人分の昇華魔法を吸収出来るほどの性能はしてないみたいだね。魔法吸収がLv6とかになって強化されるという事があったとしても、全部吸われる事はないと考えて良いだろう。

　そうなると1番警戒すべき点は昇華魔法のキャンセルだけど、その前に識別だな。キャンセル対策については考えはあるしね。

「おし、それじゃ識別からやっていくか。ケイさん、中が見えて、エイとコケが出てこない程度に穴を開けてくれ」

「ほいよっと」

「よし、あれか。『識別』って、おわ！？」

「ちょ！？　これ、やば！？」

　うわ、焦った！　肉食獣さんが識別をする為に岩に穴を開けたら、そこからエイが尻尾を突き刺してきたよ。何とかすぐに穴を閉じて、突き出した尻尾の部分も岩の追加生成で覆って対処した。

　でも、尻尾の部分にコケがあった気がするのが気になるな。その確認というか対処は後にするとして、識別情報の確認といこう。

「肉食獣さん、識別は出来たか？」

「あぁ、それは問題ないが……今のでどこかのコケが群体化されたりしてねぇか？」

「そこは後で確認しとく。とりあえず今は識別情報を頼む」

「……まぁコケのケイさんがいるなら、その辺は大丈夫か。それじゃ識別情報を言っていくぞ。まずはコケの方だが、属性は風、特性は堅牢、回避だな」

「なんというか、回避特化のコケっぽい？　てか、コケに堅牢の特性ってあるんだ」

「堅牢があると潰して倒すのがしにくくなると聞いた覚えがあるな。次はエイの方をいくぞ。こっちは属性はなし、特性は擬態、突撃、刺突、陸地適応だな」

「あれ、空中遊泳とかはないのか」

「……そういえば、捕まえた時も地面を這って逃げてたよね」

「ほう、そういう事もあるのか。なら、飛ぶ可能性は低そうだな」

「まぁ絶対とは言えないけどね。……そもそも進化後に識別する余裕は多分ないし」

「ま、そうだろうな。で、作戦の詰めはどんな感じでいく？」

　肉食獣さんから今の段階での識別情報を聞いた限りでは、昇華魔法をぶっ放せば高確率で倒し切れるとは思う。敵の動き方で差異はあったとしても、極端におかしな事にはならないだろう。

「よし、それじゃ作戦を決めたから伝えていくぞ。まず紅焔さんとソラさんは俺の捕獲してる岩のすぐ近くに待機」

「おうよ！　ソラ、念の為に発火を使っとくぞ。『発火』！」

「暗いだろうし、牽制にもなりそうだからその方がいいね。『発火』！」

「紅焔、ソラさん、持っていっておくれ」

「お、カリン、サンキュー！　俺の方は＋13の瘴気石か」

「僕の方は＋12って事は、今回はLv26のフィールドボスにするのかい？」

「だって、場合によっては瞬殺の可能性があるじゃないかい。ここで大盤振る舞いしておくのは悪くはないと思うけど？」

「ははっ、確かにそりゃそうだ！」

「そうだね。でも、紅焔。食べさせる方を間違えない様にね。この組み合わせなら僕はエイで、紅焔はコケだよ」

「おうよ。俺はコケの上に置けばいいな」

「僕は直接口元に持っていくしかないね」

　あ、そっか。地味に今回は食べさせるの難易度は高めになるんだな。でもまぁ紅焔さんとソラさんなら大丈夫なはず。さて、次だ、次！

「次の説明にいくぞ。エレインさんは予定通り、紅焔さんとソラさんと俺の岩を全部覆う形で岩の生成」

「えぇ、分かりました。結構な量の生成が必要ですが、これで対応します。『並列制御』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『並列制御』『岩の操作』『岩の操作』！」

　おぉ、並列制御で岩の操作を2つ使う事で岩の生成量を増やして、紅焔さんとソラさんと一緒に俺の岩の操作も覆い切った。

　でも根脚移動って上限値の消費が……あ、そういや根の操作の昇華で手に入るスキルで使用量の軽減とかあったっけ。

「紅焔さん、ソラさん、問題はないか？」

「発火で光源は問題ないぞ！」

「いつでも開始できるね」

「それじゃ合図したら俺の岩を解除するから、何とか瘴気石を食べさせてくれ。その後、進化が開始するまでの間に外に群体化したコケがないか俺の方で確かめとく」

「……それって、進化が始まってからで間に合うのか？」

「そこは分からないけど、食べるまでの間に位置の確認までは大急ぎでやってみる」

「……そこはケイさんに任せるしかないね。頼むよ、ケイさん」

「おう、任せとけ！」

　ぶっちゃけ進化前に群体化していたとしても、進化後にその群体が有効なのかも分からない。

　でも、進化前に位置を把握出来れば対処は出来るし、そもそも群体化されたコケがない可能性もある。ま、ここは俺がやるべき事だな。

「それじゃ岩の解除のカウントダウンをいくぞ！　5……4……3……2……1……作戦開始！」

「おら、コケはこれを食いやがれ！」

「へぇ、そっちから食べにきてくれるのは助かるね。ほら、こっちだよ」

　お、どうもソラさんが持っている瘴気石をエイが狙いにいったみたいだね。具体的な光景は岩で塞がれているから見えないけど、問題はなさそうだ。

　さて、俺もやる事を急がないと、これは時間との勝負だからね。

＜行動値を4消費して『群体化Lv4』を発動します＞ 　行動値　36/67（上限値使用：13）

　さて、これで周囲を見渡してみれば……あぁ、嫌な予感は的中か。一部に群体化されたコケがあったよ。

　ふー、ちゃんと確認しておいて良かった。しかも位置が俺らにとってもの凄くちょいど良い。

「ザックさん、真後ろにあるコケを溶解毒で全滅させろ！　それ、群体化してるやつだ」

「お、マジか！　そんじゃ溶解毒で『ポイズンインパクト』！」

「……よし、全滅した。ザックさん、ナイス！」

「ケイさん、こっちは進化が始まったぞ！」

「ほいよっと！　紅焔さん、ソラさん、昇華魔法の妨害をされない様に並列制御でファイアウォールを複合魔法にして、同時発動！　それで防御しつつ、フィールドボスを焼き尽くす！」

　これなら絶対にとは言えないけど、昇華魔法を使いつつ、そのキャンセルを防ぐ事も可能だろう。

「中々良い手を思いつくね、ケイさん」

「おっしゃ、さっさと進化を終えやがれ！」

　さーて、この状況って全然様子が見えないんだけど、まぁ今回は仕方ないよね。この昇華魔法で瞬殺出来れば楽勝だし、もし失敗して逃してしまえば対処の難易度が一気に跳ね上がる。

「ハーレさん、ヨッシさん、ザックさん、溶解毒のポイズンインパクトで毒の魔法弾の準備。コケの逃げ場はさっき潰したから、もし焼け残って出てきたら毒を一気に叩き込んで終わらせる。無駄撃ちになる可能性もあるけど、保険でな」

「了解なのさー！　『並列制御』『魔法弾』『魔法弾』！」

「まぁ逃げられたら厄介だしね。はい、ハーレ。溶解毒の『ポイズンインパクト』！」

「絶対に逃す気はねぇんだな！　俺も溶解毒の『ポイズンインパクト』だ！」

「ふっふっふ、これで準備は完了なのさー！」

　さて、これで万が一の保険の準備も完了。でもまぁこの保険は使わないで済む方がいいんだけど……。

「紅焔、進化が終わるよ！」

「おっしゃ、それじゃいくぜ、ソラ！　『並列制御』『ファイアウォール』『ファイアクリエイト』！」

「仕留めきる！　『並列制御』『ファイアウォール』『ファイアクリエイト』！」

　声だけしか聞こえないけども、エレインさんの岩の中では今、火の防壁魔法の複合魔法であるファイアプロテクションと火同士の昇華魔法であるエクスプロードが同時に発動しているはずだ。

　さて、これで結果はどうなるか。これで仕留めきれればいいし、仕留め切れなければ、保険で待機しているハーレさんの魔法弾の出番だな。