第827話 ツバメの動き


 黒の暴走種である成長体Lv20のツバメに+20の瘴気石を与えて、フィールドボスへの進化が始まった。この進化の場合、どんな特性が追加になるかが分からないという話だけど、それがどう出てくるんだろうね。


 とりあえず今は紅焔さん、ソラさん、ヨッシさん、ハーレさんが進化していくツバメの近くに降りて、いつでも飛べるように警戒中。肉食獣さん達とザックさんが少し離れた場所に陣取って、俺を含む他のメンバーは中距離を保ちつつ紅焔さん達の背後に控えている。

 その状況で戦闘準備をして、それからそれほど時間はかからずに瘴気の膜が無くなっていき、進化を終えたツバメが姿を表した。……少し体色の緑が濃くなって、なんかよりスマートになったって感じだな。


「ちょ!? いきなりかよ!?」

「嘴からウィンドボールって、魔法砲撃か! ヨッシさん、氷で防御!」

「了解! 『アイスウォール』!」


 進化早々に魔法砲撃で魔法をぶっ放してくるのかよ! でも、ヨッシさんの防壁魔法の展開が間に合って、紅焔さんへの攻撃は防げたはず……って、おい!? 今のツバメの魔法、4発あったよな!?


「みんな、風の操作Lv7以上が確定だから……って、そんなのあり!?」

「んなろ! 逃がすかよ! 『自己強化』『高速飛翔』!」

「紅焔、僕も行くよ! 『自己強化』『高速飛翔』!」

「おう、行くぜ、ソラ! って、おわっ!?」

「わっ! 紅焔、危ないじゃないか!?」

「いや、今のは仕方なくね!?」


 ウィンドボールの連射を終えるとすぐにツバメは空へと飛び上がり、置き土産とばかりに脚から風の弾を撃ちだしてきた。紅焔さんもソラさんもそれを軽く避けたけど、これは何魔法だ……?

 狙いははっきりと分かる魔法砲撃だから地面の方を狙っているのは分かるからみんなが避けてしまえば良いだけだけど、どういうパターンなのかは知りたいな。

 

「ヨッシさんと翡翠さん、距離を取ってからその風の弾を誘爆してくれ! あのツバメの攻撃パターンが知りたい!」

「了解! どっちがする、翡翠さん?」

「……今回は私がやる! 『アイスニードル』!」


 翡翠さんの発動したアイスニードルがツバメの放った風の弾へと直撃し、それと同時に爆風が吹き荒れた。今のが爆発したって事はウィンドボムで確定だけど……どういう時に使うのかを見極めていこう。基本的に回避するにしても使ってくる状況が分かれば対処もしやすいしな。

 さて、ツバメを追いかけていった紅焔さんとソラさんは……あれ? 上空で飛び回ってるけど追いつけてないどころか、引き離されてないか? ちょっと待って、これって何か嫌な予感がするんだけど……!


「あ、自己強化を発動しやがった!」

「……これは面倒そうだし、紅焔、挟み撃ちでいくよ。『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」

「おうよ! 『魔法砲撃』『ファイアインパクト』! って、マジか!?」

「っ!? 今のを避けるのかい!?」


 あー、あのツバメは紅焔さんの口から盛大に吐き出したファイアインパクトをスレスレで避けていき、ソラさんが回り込んでいく方向から離れるように飛んでいるね。うーん、夜空に飛ぶ火を吹くドラゴンとそこから逃げ続ける緑色のツバメか。

 てか、上空で距離があるし、夜で暗いから分かりにくいなぁ……。暗視で対応してもいいけどそれじゃ俺だけだから、発光を使って飛行鎧の中の光の操作から……いや待てよ。光源なら誰か持ってる人がいたりしないか?


「肉食獣さん達かカリンさん達の中で光源を用意出来る人はいる?」

「お、そういう事なら俺の方でやっとくか。『並列制御』『ファイアクリエイト』『ファイアクリエイト』『並列制御』『火の操作』『火の操作』!」

「サンキュー、肉食獣さん!」

「ま、こういうのは手が空いてる俺らがやっといた方が負担は少ないしな」


 ふー、とりあえず空中に点在する6つの火の玉で周囲が照らされて少し見やすくはなった。……それでもまだ上空過ぎるな。って、ちょ!? なんかツバメがこっちに突っ込んできてない!?


「……え?」

「っ!? 一気に抜かれた!?」

「ケイさん、狙われてるのさー!」

「ちょっと待て、このツバメー!?」


 くそっ、ついさっきまで上空で紅焔さんとソラさんから逃げ回ってたのに、ここに来て急降下から嘴からウィンドボール4連射とかしてくるのかよ! しかも途中にいたヨッシさんと翡翠さんを素通りってどういう事だ……?

 咄嗟にここまでの移動に使ってそのまま攻撃に使えないかとおいていた岩の操作で防御はしたけど、属性的に土は風に弱いから削れるのが早い!


「ちょ!? 追撃もあるのかよ!?」


 俺の方に魔法砲撃をぶっ放しながら突っ込んできたかと思ったら、撃ち終わったら急上昇してまた置き土産的に脚から風の弾を放り込んできやがった! でも、岩の操作は解除になったけど爆風は凌ぎ切ったぞ!


「ケイ、大丈夫かな!?」

「大丈夫だ! それよりハーレさん、散弾投擲!」

「了解なのです! 『魔力集中』『散弾投擲』!」


 よし、もうツバメは結構離れた後だったけど、ハーレさんの散弾投擲は少しは当たったな。本当なら拡散投擲にしたかったけど、当てられるかどうかが微妙なとこだったから今のは仕方ないか。


「ちょこまかと逃げまくってんじゃねぇよ! 『ファイアインパクト』!」

「紅焔、闇雲に撃っても当たりそうにないよ」

「いくらなんでもあのツバメ、素早過ぎねぇか!?」

「……これは回避の特性か、回避用のスキルを持ってそうだね」


 そしてまたさっきのように紅焔さんとソラさんとツバメの上空での攻防が始まっていく。

 ふむ、さっきは逃亡の特性持ちかと思ったけど、俺をピンポイントで狙ってきたのが気になる。てか、さっさとこれは識別をしてしまった方が良いな。


「俺が識別するからツバメの行動パターンで気になるところを観察してくれ! 多分、これは結構厄介な進化してるっぽい!」

「了解なのさー! サヤ、少しだけど近付くのです!」

「上空まで行ってるし、その方が良さそうかな!」

「……今はまだ出番はなさそうだね」

「あー、カリンさん達で飛べるのは?」

「……飛ぶだけなら不可能ではないけど、あの高さと速度には対応出来ないね」

「まぁ確かにそりゃそうか……」


 サヤとハーレさんは竜に乗って飛んでいったけど、カリンさん達は流石に無理か。シカとサメとダチョウとトリケラトプスだし、基本的に上空で戦う戦力ではない。

 飛翔疾走とかで空中を駆け上がる事は出来たとしても、空中戦力である紅焔さんとソラさんの2人がかりでも回避される状況だと厳しいよね。


 こうなってくると、あのツバメの動くを確実に止める策を考えた方が良いな。その為にも識別を使っていこう。

 

<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 55/79(上限値使用:1)


『俊風砲ツバメ』Lv21

 種族:黒の暴走種(豪傑砲撃俊風種)

 進化階位:未成体・黒の暴走種

 属性:風

 特性:豪傑、俊敏、砲撃、回避、一撃離脱


 ん? ちょっと今までに見た事のない特性があるんだけど、一撃離脱ってなんだ? 名前から考えるとそのままではあるけど、一回攻撃したら離脱していく? さっきの俺への攻撃は……2回だった気はするけど、これが関係してそうだな。


「『俊風砲ツバメ』で属性は風で、特性は豪傑、俊敏、砲撃、回避、一撃離脱! 総合的に考えて、風の魔法砲撃がメインの回避型! 移動速度も早いから魔法特化じゃないはずで、多分だけどヒットアンドアウェイが基本戦術だ!」

「おいおい、『一撃離脱』なんて特性は初めて聞いたぞ」

「……肉食獣さん、それはマジで?」

「ここで嘘を言ってどうする……って、こっちに来たぞ! エレイン!」

「……何故こちらを狙って? いえ、まずは迎撃ですね。『枝の操作』!」


 松の木であるエレインさんが枝の操作を使えば、松の針のような葉が大量に放たれていく。そして魔法砲撃を放ちながら急降下してきていたツバメに、松の葉が突き刺さって結構なダメージを与えていた。

 枝の操作は木の種類によって効果が変わるって聞いた覚えがあるけど、松だと今みたいな攻撃スキルになるんだな。しかもツバメのHPが1割近く減ったのを見る限り、結構威力が高いぞ。


「おい、追撃きてんぞ! 誰か――」

「エレイン、自分で防げ!」

「分かりました! 『アースウォール』!」


 結構なダメージを負いながらもツバメは再び上空へと飛び上がっていき、さっき俺にしたようにエレインさんに向かってウィンドボムを置き土産のように放り込んでいった。


 ザックさんの声を遮って肉食獣さんが指示を出したけど、今のは狙われた本人であるエレインさんが防ぐのが混乱せずに済む最適解だったか。

 もしかしたら今のメンバーではエレインさん以外は物質的な防壁魔法を持ってないのかも……ん? 確かにその可能性はあるけど、今ので何かが引っかかったぞ。今、俺は何に引っかかった?


「……ねぇ、ハーレ? あのツバメ、妙な動きをしてないかな?」

「それ、私も言おうと思ったとこなのさー!」

「ん? サヤ、ハーレさん、何か気付いたのか?」

「うん、ちょっと飛び方に違和感がある感じかな?」

「ヨッシと翡翠さんを特に避けてる感じなのさー! 2人の近くだと加速してるのです!」

「……ほほう?」


 ヨッシさんと翡翠さんには同じハチという共通点があるけど、そこが避けている理由か? いや、これは何か違う気がする。他にどういう可能性がある?

 よく考えろ、1回目のツバメの攻撃、2回目のツバメの攻撃、3回目のツバメの攻撃、そしてヨッシさんと翡翠さんを避ける挙動……特殊な行動パターンを持っている以上はそれなりに法則はあるはずだ。


 あっ、もしかして、これか……? いや、ちょっと位置関係がどうだったかが自信がないけど、そこは確認すれば良いだけだ。その情報次第で、何を狙ってきて何を避けているかが分かるはず!


「紅焔さん、1回目の攻撃って危機察知は反応してたか!?」

「いや、発動してねぇけど……って、そういやそれだと誰を狙ってた!?」

「やっぱりか! あの時、紅焔さんとツバメの延長線上で、紅焔さんの背後にいた人が誰か分かるか?」

「ケイさん、それは俺らだ!」

「あー、やっぱりザックさんと肉食獣さん達だったか。肉食獣さん、そっちのPTで危機察知持ちは?」

「……いや、今はいねぇぜ。そうか、俺らの誰かが標的だったが、その前に紅焔さんが居たからああなったのか」

「そういう事っぽいな」


 これで紅焔さんの背後には誰もいなかったら全くの的外れな推論になってたけど、今俺が考えている可能性が当たりの可能性がかなり高くなってきた。


「ケイさん! またそっちに行くぜ!?」

「危機察知もケイさんに反応してます!」

「あー、ここで更に推論の補強をありがとよ!」


 紅焔さんとソラさんを振り切り、途中にいるヨッシさんと翡翠さんを避け、サヤとハーレさんは完全無視で俺狙いか。これは今予想している内容通りの動きだけど、そう呑気な事を言ってる場合でもないな。でもまぁ、このツバメの攻撃の法則性は見えてきた!


 進化直後からこのツバメには変に翻弄されてきたけど、ここからは俺らの攻撃ターンと行きますか! まずは突っ込みながらぶっ放してきているウィンドボール4連射の相殺……いや、相殺だけじゃ済まさん!


<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します>  行動値 55/79 → 55/78(上限値使用:2)

<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』は並列発動の待機になります> 行動値 48/78(上限値使用:2): 魔力値 196/220

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値12と魔力値18消費して『水魔法Lv6:アクアインパクト』は並列発動の待機になります> 行動値 36/78(上限値使用:2): 魔力値 178/220

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 よし、右のハサミを基点に設定して攻勢付与をかけて魔法砲撃にしたアクアインパクトを撃ち出していく。これで4連射のウィンドボールを全て消し飛ばした上で、ツバメ自体もふっ飛ばしてやる。

 おっしゃ、狙い通り吹っ飛んぞ。苦し紛れにツバメがまたウィンドボムを放り込んでくるけど、そっちもまとめて対処完了! ふっふっふ、盛大に回避出来ないカウンターを叩き込んでやった!


「ケイ、ナイスかな!」

「攻撃のチャンスだね。ハーレ、魔法弾の用意!」

「了解なのさー! 『魔法弾』!」

「『アイスボム』!」

「いっくよー! 『狙撃』!」

「あ、惜しいかな!」


 ちっ、ハーレさんとヨッシさんの連携攻撃は良かったけど、何かの回避スキルを使われたっぽくて避けられてしまった。……こりゃ回避封じはスキルの使用中にカウンターを狙った方がいいか。

 さて、ちょっと確認しておきたい事があるからそれを確認するのと、討伐の為の手段の作戦を伝えておく時間が欲しいな。


「サヤ、ヨッシさん、ハーレさん、翡翠さん、紅焔さん、ソラさん! 可能な範囲で良いから、時間を稼いでくれ! その間に討伐作戦を確定する!」

「分かったかな!」

「了解!」

「足止めを頑張るのさー!」

「……うん、頑張る!」

「任せとけ!」

「あはは、大人数での足止めだね」


 よし、これでそれなりの時間は稼げるはず。それじゃツバメが何を狙って、何を狙わないか、その条件を確定させようか。

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