第807話 見れなかった対戦


 俺達の登場に不満げな様子の人達の元へ桜花さんが話をしに行き、少し経てば俺らに向かってきていた不満感のようなものが一気に薄れていった。感覚的なものだから完全に解決したかは断言出来ないけど、多分桜花さんが事情を上手く説明してくれたようである。

 ふー、事情を話せば分かってくれる人達だったみたいでよかったよ。でも状況が状況だったから3位決定戦は一応見れてはいたけど、実況はほぼまともに聞けてないんだよな……。


 とりあえず対戦エリアは荒野エリアになっていて、天候は晴れで時間は夜だから、条件的には荒野エリア出身のシンさんが有利な状態。見れた範囲ではシンさんはほぼ移動せずにサボテンの棘を射出したり、伸ばしたりする物理でのカウンターメインの戦い方っぽいね。

 そういや光属性っぽいライオンであるハクさんは物理をメインに使っていたけど、同じような構成の蒼弦さんの動きと比べたら見劣りしたなー。あと時間帯で夜を引いてしまって、光の操作が十全に使えなかったって感じか。


 今回はベスタは非参戦だし、蒼弦さんや肉食獣さんもここにいるって参戦してないんだろうね。

 そして、参戦すると聞いていたレナさんがここに居ないという事は、まぁそういう事なんだろう。本人はいまいち無自覚っぽいけど、あのレナさんだしね。


「おっと、ここで全然移動してなかったシンが走り出したぞ! その動きの変化にハクが戸惑っているな!」

「……ほう? ここまでカウンターに徹していたのは、この動きのギャップでハクの動揺を誘う為か」

「へぇ、サボテンってあんな攻撃が出来るんだな」

「そこからサボテンの棘の生えた枝……? それでシンが銀光を放ちながら殴っていき、ハクも銀光を放つ爪で相殺を試みているぞ!」

「リーダー、あのシンの攻撃って打撃? それとも刺突?」

「あれは『射刺連打衝』という応用スキルで、打撃と刺突の両方の特性が必要だな。スキルの特徴としては――」

「おっ、ハクが打撃を避けようとして距離を取ったが、そこにサボテンの棘が射出されて突き刺さっていったぞー!」

「とまぁ、近接なら最後の突き刺した後に吹き飛ばす性能があり、中距離では躱したとしても棘が射出するスキルだな」

「おう、良くわかったぜ!」

「ここでハクのHPが尽きていったぜ! 勝者は荒野エリアのシンで、3位に入賞だ!」


 おー、シンさんが勝ったね! 見始めたのは途中からだから全体的な戦い方は見れなかったけど、シンさんって結構強かったんだな。

 ベスタの解説でカウンターに徹していたって言ってたし、自分自身の行動値の消費は控えめに戦っていた感じか。カウンター主体の戦闘方法ってあんまり知らないから興味深いとこではあるよね。


「これで決勝トーナメント『タッグ戦、出場者決定戦!』も残すところは決勝戦のみとなったな! さて、ここで実況者の交代だ! ほれ、ハーレさん!」

「呼ばれてきました、決勝戦の実況担当のハーレです! みんな、楽しんでますかー!?」

「「「「「「「おー!」」」」」」」

「遅かったじゃねぇか、企画の発端の『グリーズ・リベルテ』!」

「さっきは変な視線を送って悪かった!」

「まぁ俺らも決勝トーナメントまではLv上げしてたしなー」

「いやー、さっき桜花さんに説明してもらわなかったら身勝手な事を言うとこだったわ」

「そこは尽力してくれた桜花さんや、ベスタさんや、灰のサファリ同盟のみんなに感謝なのです!」


 おぉ、肉食獣さんに呼ばれてハーレさんが……何故桜花さんの桜の木に登る? いや、桜花さんも止める様子もないし、肉食獣さんのほぼ真上の位置だし別に良いけどね。

 てか、さっき桜花さんが話をしに行ってくれたおかげで盛大な歓声が返ってきている。なるほど、スムーズにトラブルを未然に防いだのは流石は桜花さんと言ったところだね。


 まぁどこからともなく舌打ちも聞こえてはいるけど、大きな問題にはならなさそうだ。……地味に俺らを嫌ってる人ってのもいるっぽいけど、直接的に何かをしてこないのであればスルーでも大丈夫だろ。

 てか、そんな事を考えてたらベスタのタケノコが俺らの方に根で歩いてやってきた。


「……少し気になるのが何人かいるが、一先ずは問題はなさそうだな」

「あ、ベスタ。悪い、ちょっと考えたらさっきみたいな可能性はあったのは分かってたのに……」

「桜花も言っていただろうが、想定済みだから問題ねぇよ。それで決勝戦はハーレが実況で確定だが、それ以外はどうする? 解説は俺がやってもいいが、ゲスト枠なら空いてるぞ」

「それじゃここは『グリーズ・リベルテ』代表って事で、ケイで良いんじゃねぇか?」

「アル!?」


 おいおい、ここで俺がゲスト枠なのか? まぁ解説をベスタがやってくれるなら俺への負担は少なめだから大丈夫だとは思うけど、それなら俺でなくてもアルでも良いはず。


「私もアルさんに賛成。今回はケイさんが良いと思うよ?」

「ヨッシさんまで!?」

「そこはちゃんと理由はあるからね、ケイさん。今回の件の根幹に『グリーズ・リベルテ』が関わってるっていうのを示す為にも、リーダーのケイさんが目に見える形で関与しておいた方がいいと思うんだよね」

「あー、なるほど……。ハーレさんが中継するのはいつもの事だし、その印象が薄いもんな」

「うん、そういう事」

「私もそれが良いと思うかな?」

「……サヤは自分が苦手だからって理由も混ざってないか?」

「……あはは?」


 うん、サヤは思いっきり顔を逸らしているから図星っぽいね。まぁヨッシさんの言う理由ももっともだし、多分アルもそこまで考えて提案してそうな感じだよな。

 今回の場合はそうした方が良さそうだし、決勝戦くらいはただ見るだけじゃなくて俺も何かしらやっておきますか。


「おし、それじゃ俺がゲスト枠で良いぞ」

「だそうだ、蒼弦。ゲスト役、ご苦労だった」

「それくらい良いって事だぜ、リーダー! それじゃ俺と交代だな、ケイさん!」

「おうよ、蒼弦さん!」


 そうして蒼弦さんと入れ替わるように俺は実況の方へと移動していく。あ、近くまで飛行鎧で飛んでいけば、ロブスターの背中の上にハーレさんが飛び降りてきた。


「……ハーレさん、もしかしてこの状態で実況をやるのか?」

「今回、投影画面が多いからこの方が良さそうなのです!」

「……なるほどね」


 確かに色んな方向にいくつも映像が投影されているので、全体的に声が通りやすい位置の方が良いか。肉食獣さんや蒼弦さんは大型の種族ではあるからそういう意味では目立ちやすいとこではあったしね。ベスタに関しては元々の存在感も強いし、タケノコでも結構伸びた状態で目立つようにはなってたもんな。

 そして再び実況席……今回は席はないけど、まぁ便宜上で実況席って呼ぼう。その実況席にベスタのタケノコが歩いて戻ってきて、地面に植わって伸びていった。……うん、ベスタはタケノコではそういう風にするんだね。

 

「ハーレ、決勝戦の開始のタイミングは俺の方で調整はしているが、あんまり待たせるのも悪いから適度なところで進めてくれ」

「了解です! えっと、ベスタさんが解説で、ケイさんがゲストで決定でいいんだよねー?」

「あぁ、それで問題ない」

「おうよ」

「それじゃそっちの情報からから進めていくねー!」


 今はまだ実況の交代としか言ってないから、その辺のアナウンスも必要だよな。まぁ肉食獣さんと蒼弦さんがアル達の方に移動したのは見えてるだろうから、大体察しはついてるだろうけどね。


「さぁ、大体察しはついていると思いますが、決勝戦の実況メンバーの変更だー! まずは実況は『グリーズ・リベルテ』所属の私、ハーレとなります! そして解説は引き続き、灰の群集のリーダーであるベスタさん! ゲストは『グリーズ・リベルテ』のリーダーのケイさんというメンバーでお送りしたいと思います! それでは私達が進行の状況を把握する為にも、ここまでの決勝トーナメントを振り返ってみましょう!」


 そうしてハーレさんが空中に投影されている映像を見ながらそんな風に進めていく。今は3位決定戦が終わり、残すところは決勝戦のみとなっている。

 今はトーナメント表が表示されているし、ベスタの方で開始のタイミングは調整してくれているようなので、決勝戦の前のおさらいって感じだね。まぁ俺らは単純に知らないから確認したいとこではあるけど。


「まずは決勝トーナメント『タッグ戦、出場者決定戦!』の第1回戦、1戦目です! こちらは荒野エリアでのブロック戦を勝ち抜いたサボテンのシン選手と、森林深部のエリアでのブロック戦を勝ち抜いたリスのレナ選手の対戦で、勝ち抜いたのはレナ選手となっております! この一戦はいかがでしたか、解説のベスタさん」

「その一戦の対戦エリアは高原エリアで昼間の晴れだったか。まぁ結果は予想通りにはなったが、意外とシンが粘っていたな。知ってるやつも多いだろうが、レナは蹴り主体で、シンは刺突でのカウンターが主体だ。レナのプレイヤースキルが高いが、初めは僅かにシンのカウンターの精度が上回っていたぞ」

「え、マジか! レナさんにカウンターって、ただ潰されるだけの印象があったよ」

「……それはカウンタースキルのみに頼った場合だな。シンの場合はカウンタースキルと自前のプレイヤースキルによる手動のカウンターとの併用だった。カウンターをメインに使う場合は、シンを手本にするのが良いだろう」

「実際の戦闘中にも解説をしていたでしょうけども、改めての解説をありがとうございました!」

「そのタイミングで見に来ていなかった連中も結構いるから、丁度良い機会だろう」


 そのベスタの言葉に頷いている人の様子が結構見えている。そういやチラホラと途中から見に来た人もいたみたいだし、俺ら以外にも決勝トーナメントの全部は見れていない人は結構いたんだな。

 俺らみたいにLv上げをしていたり、ログインするタイミングが合わなかったり、まぁ人によって色々都合はあるだろうしね。そういう意味ではこのおさらいは俺ら以外にとっても悪い内容ではないのか。


「それでは次に第1回戦、2戦目に移っていきましょう! こちらは草原エリアでのブロック戦を勝ち抜いたライオンのハク選手と、森林エリアでのブロック戦を勝ち抜いた聖火の人で有名なサルのカイン選手だー! 勝ち抜いたのはカイン選手ですが、こちらの一戦はいかがでしたでしょうか?」

「この一戦は雪山エリアで吹雪だったな。昼だったが、まぁあまりそこは意味はない気候だったぞ」

「うわっ、それって壮絶な対戦エリアじゃん!?」

「今回は海エリアを除いて、他は全てランダムでのエリア設定になっているからな。どういうエリアを引き当てるかも運の内だ」

「あー、確かにそりゃそうだ」


 全ての対戦エリアを統一していた訳じゃなく、毎回ランダムで決まる設定にしてたならそうなるよな。……そういやこの辺って俺らの方からは特に要望はしてなかったけど、対戦エリアの設定はランダムでやってたんだね。

 まぁ聞いている限りでは結構面白い事になってたみたいだし、要望を聞かれていれば多分ランダム設定を要望したから特に問題なし! エリアを固定すると種族による有利不利が固定化されるから、こういう場合はランダムの方が良いよね。素の力量差があっても、エリアとの相性で覆る可能性もあるしな!


「それでどのような戦いになったのでしょうか!?」

「まず、ハクが閃光と光の操作のコンボで雪崩を発生させていたな。だが、流石は聖火の人と呼ばれるだけの事はあるカインがその雪崩の自身に迫った部分は炎の操作で全て溶かし尽くしたぞ」

「うわー、マジか。流石、カインさん」

「そこからはハクが変に溶けた雪に足を取られたり、空中に駆け上がっても吹雪に邪魔されて下手にカインに近付けなくなっていたな。だが、カインは火魔法と魔法弾による投擲を駆使して遠距離からの独壇場になっていたぞ」

「おぉー! カインさんって投擲を使うんだー!?」

「なんだ、知らなかったのか? カインは魔法型の投擲……そういえば、他に優先順位が高い方をやっていて魔法弾のまとめがまだ出来ていなかった気がするな……」


 おっと、何かベスタが小声になったと思ったら、報告だけでまとめられていなかった魔法弾についてのまとめの事か! まぁ色々他にもまとめる情報もあるだろうし、手がつけられていない部分が出てきても仕方ないって。

 てか、カインさんの戦闘スタイルは全然知らなかったけど、魔法型の投擲なんだね。うん、これはちょっと面白い事を聞いた。


 という事は、決勝戦は火属性持ちで物理型の蹴り主体のリスのレナさんと、同じく火属性持ちの魔法型の投擲のカインさんか。へぇ、これはちょっと面白い組み合わせになったね。


「まぁカインの戦闘スタイルもそう多いって訳でもないからな。そもそもカインは火魔法がメインで……いや、これ以上は流石に解説の域を超えるな。実況中以外での個人の細かいプレイスタイルの解説は無しだ」

「あー、確かにそりゃそうだ」


 実際に中継の最中に何をしているかを解説するのはありでも、それ以外の個人的な戦闘スタイルの変更について説明するのは流石にね。

 まぁ今のでも割と言い過ぎてる感じもあるけど、今のカインさんの戦法については2戦目の時に解説してた範囲かな? その範疇なら言い過ぎってほどでもないか。


「はい、2戦目の改めての解説もありがとうございました!」


 さて、これで俺らが完全に見ていなかった準決勝の内容は軽くではあるけど分かったね。……出来れば解説が微妙にちゃんと聞けていなかった3位決定戦の事も聞きたいけど、ハーレさんはどうするんだろ?

 全部振り返るというのであれば、さっきのも改めて説明するのもありではあるよね。こうやって振り返って解説してもらってる間にも、新たに見に来ているプレイヤーも何人かいるみたいだしさ。 

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