第806話 決勝トーナメントの観戦へ


 今日のみんなキャラのLvを1は上げるという目標はぎりぎりで達成したし、他にも色々と強化出来たのは大きいね。てか、今気付いたけど進化項目は思いっきり光ってるからロブスターに新しい進化先が出たな。

 でも今はベスタからフレンドコールがかかってきているので、そっちが優先だ。進化先の確認は決勝戦が終わってからでも問題はない! という事で、フレンドコールを繋いでいこう。


「ベスタ、ぎりぎりだったけど目標は達成したぞ!」

「お、おう、そうか。……随分とテンションが高いが、ぎりぎりだったならそうなるか」

「あ、悪い、ちょっと興奮し過ぎてた。えっと、とりあえず言ってた通りに3位決定戦が始まったって事でいい?」

「あぁ、それで問題ない。既に桜花のところで3位決定戦の中継が始まる寸前だから、目標を達成したなら戻ってこい」

「ほいよっと! それじゃ今からすぐに戻る!」

「おう、待ってるぞ」


 そんな風に簡潔に用件を伝えて、ベスタはフレンドコールを切っていった。もう間もなく3位決定戦が始まるなら、解説をすると言っていたベスタとしてもそれほど時間の余裕はないんだろうね。


「ベスタから3位決定戦がもう始まるから、戻ってこいってさ」

「おし、それじゃサッサと戻るか」

「その前に少し提案があります!」

「え、ハーレ、どうしたのかな?」

「週末とかにLv上げはしていきたいし、転移の実のスタックを分けてこのカイヨウ渓谷の新たに登録をしておく事を提案します!」

「それは確かにありだが……スタックは最低5個ないと分割出来ないが、ケイ達は6個以上持ってるのか?」


 あー、俺は普通の模擬戦のテストでの参加と不具合の報告で共闘イベントの報酬とは別に6個ほど持ってるけど、みんなはどうなんだろ? 実際に使うかは別としても、ある程度の敵の数を倒せば自分達から積極的に探す必要があったから、ありな提案ではあるんだよね。


「あ、それなら模擬戦のテスト参加で1個だけだけど余分はあるかな」

「うん、私もあるから大丈夫。一回サヤと模擬戦をしたからね」

「……え、いつの間に?」

「……俺も初耳だぞ」

「ふっふっふ、何日か前に私とケイさんが晩御飯でログアウトして、アルさんがログインしてくる前にやってたのさー! 私は聞いただけだけど!」

「まぁそのタイミングならハーレさんも居ないから見てる訳がないか。……ちなみにどっちが勝ったんだ?」

「……あはは、状態異常を入れる前に一気に距離を詰められて、一方的に私が倒されたね」

「ヨッシの状態異常は使わせないのが一番かな!」


 うん、サヤのプレイヤースキルなら距離を取らずに常に先手を打って、ヨッシさんに何もさせないのが確実ではあるよな。……てか、知らない間に2人で模擬戦をしてたんだね。


「私はレナさんとの一戦でもらってるし、みんな最低1個は持ってるなら、改めてここに登録をしておくのを提案します!」

「……実際に転移の実で転移してくるかどうかは別としても、登録しておくだけなら問題ないか。俺はそれでいいと思うけど、みんなはどうだ?」

「俺は元々転移の実は何個か買ってるし、特に問題はないぜ」

「私も賛成かな」

「そだね。死蔵してて仕方ないし、ここは登録しておこっか」

「よし、それじゃここで登録……って、場所的に大丈夫か」


 今いる場所は、マップを見てみたら多分エリアの中央付近である。転移の場所に設定するのなら、エリアの切り替え地点とかにしたいとこだけど……。


「ケイが心配してるのは転移直後の巻き込まれの可能性か。……それも承知の上で登録するのもありじゃねぇか? 今更巻き込まれてもどうこう言う事でもないしな」

「まぁそりゃそうだな」


 流石に今からマップの切り替え地点まで移動してから登録するのは時間が惜しい。確かに転移直後に何かに巻き込まれる危険性は高くはなるけど、元々承知の上であれば即座の対処も不可能ではない。

 それに巻き込まれたりする事を必要以上に警戒する事もないから大丈夫か。まぁ万が一で死んだとしても1回ならデスペナは問題ないしね。


「よし、それじゃ各自で転移の実にここを登録して、その後に帰還の実で森林深部に戻るって事で!」

「「「「おー!」」」」


 という事になったので、サクッと転移の実のスタックを分けて未登録になっているやつで登録をして……よし、登録完了っと! みんなもすぐに登録を済ませたようなので、帰還の実で森林深部に戻るぞー!


<『カイヨウ渓谷』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 よし、帰還の実で森林深部のエンの所に戻ってきた。って、アルが思いっきり地面に打ち上げられてる状態ー!? あ、地上に適応してるけど、空中浮遊を使ってないからこうなるのか。

 他の人の邪魔にならないようにいつもよりかなりエンから離れた位置には転移されていて、桜花さんの桜の木に近い側の方にいるんだな。……他の人達の真上に落ちなくて良かったってとこだな。


「やべっ、海と陸の違いを忘れてた! 『略:空中浮遊』!」

「おーい、アル」

「悪い、悪い。海中で泳いでるのと空中で泳いでる感覚は大差ねぇから、空中浮遊を発動してないのをすっかり忘れてたわ」

「……あはは、みんなを押し潰さなくてよかったかな」


 色々と急いでたから焦るのは分かるけど、まぁ混雑している時にクジラみたいな大きな種族が転移してくれば今みたいに外れの方へと転移になるんだな。

 森の中ではアルのクジラは程度の差はあってもずっと飛んでるから、こういう仕様なのは地味に知らなかったね。


「それはともかく、桜花さんのとこに急ぐのさー!」

「確かにそりゃそうだ! アル、大急ぎで移動!」

「とは言っても、そんなに距離はない速度自体は出せないからな」

「その範囲内で大急ぎって事で!」

「おうよ!」


 そうして森の木々の上から桜花さんの桜の木に向かって移動を再開していく。……チラッとエンの近くに投影されているトーナメント戦のダイジェスト映像が気にはなったけど、今はそっちに集中している場合じゃないか。



 それからそう時間もかからずに桜花さんの桜の木まで辿り着いた……って、人が多いし、今回は外でも投影をしてるみたいだし、投影も1つじゃない? 映し出されているのは同じ映像っぽいけど、中継ってこんなに同時に投影出来たのか。


 ふむふむ、混雑している所では色んな種族が混在して凄い風景にはなるけど、周囲の木々の枝の上に座って見ている小動物系の人や、大型の種族の人の上に乗っている人達もいるんだな。なんだかデカい丸太……いや、思いっきり曲がってるからあれは大蛇か……。椅子代わりになってたりもするんだな。

 あ、赤の群集の人や青の群集の人も普通に見に来てる。ふむ、割合としては灰の群集が一番多いのは当然だけど、青の群集が意外と多めだね。赤の群集は少ないけど、あっちはあっちで同じようなのを開催中だからかな?


 今は3位決定戦の最中みたいだけど、片方は……サボテンのシンさんじゃん!? あー、荒野エリアで勝ち抜いて来たのはシンさんだったのか。

 対戦相手は知らない白いライオンの人……ハクさんか。氷属性……いや、氷属性だと寒色に近い白だけど、このハクさんは暖色に近い白だから光属性のライオンの人っぽいね。


「お、ここでシンがサボテンの棘を伸ばしてカウンターを仕掛けていったか! 今のはどう見る、ベスタ?」

「今のシンは良いタイミングでカウンターが決まったが、逆にハクは不用意に攻め込み過ぎだな。今のはシンが狙って作った隙だろう」

「だなー。今のは攻め込んじゃ駄目なタイミングだぜ」


 おっと、桜花さんの桜の木の根本でライオンとタケノコとオオカミが並んで実況をしているね。ライオンはモンスターズ・サバイバルの肉食獣さんで、タケノコはベスタの2nd、オオカミは蒼弦さんか。

 へぇ、今回はこの3人で実況をしているっぽいな。肉食獣さんが実況で、ベスタが解説、蒼弦さんがゲスト枠ってとこか。……その横の木で出来たクジラが気になるけど、これは桜花さんの木での分身体か?


「お、『グリーズ・リベルテ』が来たぜ、リーダー」

「来たか。桜花、もう良いぞ。アルマース、小型化してこっちに降りてこい」

「おし、クジラの樹の分け身は解除すんぞー!」

「あー、そうやって場所を確保してたのか。そこに行けばいいんだな。『略:小型化』!」


 蒼弦さんが俺達に気付き、ベスタが俺らの行くべき場所へと……タケノコを斜めに急成長させて伸びながら指し示していた。うん、タケノコってそういう伸び方が出来るのか。

 まぁそれはいいや。どうやらこの混雑した状況で他のプレイヤーが居たら俺らが戻ってきた時の場所確保は無理だと判断してたみたいで、桜花さんの木の分身体で少し小型なクジラを作っていたんだな。通常サイズのアルのクジラだと無理だけど、小型化したアルのクジラを含めてみんなが収まるにはピッタリな広さだね。


「来たとこで悪いが、少しの間は静かに頼むぞ」

「ほいよっと」


 ベスタにそう言われたし、どう見ても今は3位決定戦の実況をしている最中だからここで俺らが余計な事を話して邪魔になってもいけないもんな。……既にかなり注目を集めている状況にはなっているから、決勝戦までは大人しくしとこ。

 うーん、どうにも何か一部から不満げな視線を感じるんだけど……多分、これは気のせいじゃないよな。あ、共同体のチャットが光ってるね。


 アルマース : 流石にちょっとこの途中からやってくる状態だと、変に悪目立ちしたみたいだな。

 ヨッシ   : まぁある意味、割り込みみたいな感じではあるもんね。

 サヤ    : そこはベスタさんや桜花さんが事情を知ってるから大丈夫じゃないかな?

 ハーレ   : そうでないと困るのさー!

 ケイ    : 元々、ハーレさんが決勝の実況をするのは確定事項だもんな。


 この辺に関してはベスタが調整をすると言ってくれてたからこそ、ぎりぎりまでLv上げに行ってたんだしね。

 ベスタが俺らが持ってきたタッグ戦の話というのを伝えてないとは思えないし、桜花さんの分身体を見る限り後から来るのは伝えてそうな感じはするんだけどな。

 

 アルマース : 仕切っているのがベスタなら大丈夫だとは思うが、どうも離れた位置の方から嫌な雰囲気がしてるか……。


 ケイ    : あー、そう言われてみると確かに……。これ、後から来て、事情を知らない人が不満に思ってる感じか?


 サヤ    : それはありそうかな。うん、事情を知らなければその気持ちも分かるかも……。

 ヨッシ   : 確かにそうだけど、それを言うなら事情を知らないのはその人達の方でもあるし……何とも言えない微妙なとこだね。


 ハーレ   : うー!? これじゃ満足に実況が出来そうにないのさー!?


 うーん、確かにこの微妙に不満が滲み出ている状況でハーレさんが実況をするとなれば、変な反発が出てくる可能性もある。でも、元々今回の一件は俺らが持ってきたものだし、一方的に文句を言われる事でもないんだけどな……。


 くっそ、ベスタ達が実況を続けているけど、そっちを集中して見れる状況じゃないな。シンさんが優勢に戦っているみたいだけど……こういう状況になるならLvが上がってなくても切り上げて、決勝トーナメントの初めからいるべきだったか?


「おーい、ケイさん達、ちょっと良いか?」

「桜花さん、どした?」

「あー、出来るだけ実況の邪魔にならないように小声でな?」

「……ほいよっと」


 ちょっと今の状況に悩んでいたら桜花さんが桜の根が繋がった2ndのメジロで俺らの所にやってきて、小声で話しかけてきた。このタイミングで桜花さんが話しかけて来たってことは、この今の雰囲気に関係ありそうだな。


「気付いてるとは思うけど、今露骨に不満そうな連中は状況の説明をした後に来た連中だな。それで俺の方でこれからちょっと対策をしてくるけど、ケイさん達はどうする?」

「……それって俺らが行った方がややこしくならないか?」

「ま、ややこしくはなるだろうなー。でも1人でもケチをつけてくれば一気に大々的には片付けられるぜ?」


 確かに不満を爆発させて騒動にしてから、一括で一気に抑え込む方が手間はかからないのか。でもそれって、事情をちゃんと把握した上で中継と実況を楽しみにしてる人達の邪魔をする事にもなるんだよな……。

 流石にそれはしたくないけど、そうなると桜花さんに対応を任せっきりになりそうだよね……。


「あー、今のは冗談だから気にしなくて良いぜ。元々こうなる可能性は考えてたから、対応策を考えてない訳じゃないからな」

「え、桜花さん、そうなの!?」

「ハーレ、声は抑えてね?」

「はっ!? 実況の声と重なってセーフなのです……」

「……悪い、悪い。この辺は絶対に起こるとも限らなかったから伝えてなかったんだが、先に伝えとけば良かったな」

「……いや、俺らの方も少しこういう可能性は考えておくべきだったよ」


 この状況に関しては少し考えておけば予想出来た範囲の出来事だ。……ちょっと何もかもをベスタ達に丸投げをし過ぎたのは反省をしておかないといけないだろう。


「……桜花さん、対策ってのはどうすんだ?」

「そのアルマースさんの疑問はもっともだよな。ま、シンプルといえばシンプルだぜ? 文句があるなら、ベスタの権限でこのトーナメント戦の決勝戦は中止って事だな」

「……桜花さん、それって流石に強引過ぎない?」

「まぁヨッシさんの言う事も分かるんだが、俺らはケイさん達からタッグ戦の出場者を選ぶトーナメント戦の開催を委託された側なんだよ。それで最優先すべきは委託してきたケイさん達の都合だ。それに対して、あいつらはただ見てるだけで何かをしてる訳じゃない。それなのに文句を言うだけであれば……楽しませてやる必要もないからな」

「まぁ、それは確かに……」


 開催に尽力してくれている人達が言うならともかく、ただ観戦しているだけの人が開催の経緯を知った上で俺らを排除するのは筋違いではある。

 ……前々から何度かあったけど、桜花さんってトラブルになると結構強引な手を使う事があるよね。


「ま、ザッと見た感じでは話が通じなさそうな奴はいなさそうだし、状況さえ説明すれば理解してくれると思うぜ。状況を把握した上で騒動を起こしそうな連中は、俺のとこは大体出禁になってるからな」

「あー、なるほどね」


 ふむふむ、桜花さんから見てそういう判断なのであれば任せてしまっても問題にはならなさそうな気はするね。……こりゃ、何かの機会に桜花さんへのお礼を考えておいた方が良いかもな。


「って事で、ちょっと事情を伝えてくるわ!」

「頼んだ、桜花さん!」

「おう、任せとけ!」


 そう言って桜花さんは離れた所にいる不満そうな人達のところへ飛んでいった。これで何事もなく沈静化してくれれば良いけど……うん、そこは桜花さんの見立てを信じよう! 



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近況ノートにちょっとお知らせがありますので、良ければご確認下さい。

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