第792話 魔法弾の実戦利用
海上で出てくる群れのカモメは、群れのボスになる瘴気強化種を倒した事で散らばっていった。でも、よく見れば割とあちこちにカモメの群れがいるからこういう面が海中ではなく海面を移動する時のデメリットって感じだな。
今いる海の新緑は成長体がメインで一部に未成体が混ざるくらいだから大丈夫だけど、この先の俺らの適正Lvになるカイヨウ渓谷の海面だとヤバそう……。
まぁ昨日はそこでもっとヤバい成熟体と戦ってたけど、よく考えたら他にその手の敵はいなかったね……。ふむ、もしかして海面で出てくる敵は成熟体がいれば出てこないとかそんな感じか?
「ほう、ハーレさんの新技ってそれか。なんか魔法を投げてた気がするが、どういうスキルだ?」
「ふっふっふ、アルさん、これは『魔法弾』というスキルなのです! 単発の投擲スキルなら爆発魔法を、連撃の投擲スキルなら衝撃魔法を投擲の為の弾として保持しておけるスキルなのさー!」
「へぇ、そんなスキルもあったのか。……なるほど、投擲キャラ用の魔法攻撃の手段ってとこか」
「PTメンバーの魔法も投げられるから、多分そうなのです!」
「って事は、ケイやヨッシさんや俺の魔法も投げられるのか」
「まだ試してないけど、そのはずなのさー!」
その辺が俺の持ってる魔法砲撃とは大きく違う点だね。正直、さっきハーレさんが実際に使ってみるまではどこに違いがあるのか少し疑問だったんだけど、ウィンドボムは通常時よりも小さくなっていて、命中精度もかなり高かったもんな。
その上で他のPTメンバーの魔法も投げられるとなると、かなり魔法砲撃とは違うものになる。魔法砲撃は性質変化と威力の強化の他に命中補正という役割もあるけど、その辺は投擲系スキルには元々組み込まれてるからね。
「ハーレさん、次にカモメの群れが来たら俺のアクアインパクトかアースインパクトを試してみるか?」
「やるー! ヨッシとアルさんのも試したいです!」
「それなら私は氷魔法と毒魔法だね」
「だなー。あ、そういやアルさんって水魔法のLvはいくつ?」
「あー、水魔法はLv5だな。海水魔法をLv6にしてから試すのでもいいか?」
「それでも問題なしなのさー!」
「……あはは、魔法になったら私の出番は少ないかな?」
「あぅ!? サヤは電気魔法がLv6になったらお願いするのさー! それにLv4の爆発魔法は私が使えないのもあるのです!」
「あ、そういえばそうかな? えっと、今は火魔法と風魔法と電気魔法がいけるね」
「それなら火魔法と電気魔法の爆発魔法はサヤにお願いするのさー!」
「うん、任せてかな!」
そういや、サヤは地味に竜で魔法の特訓をして爆発魔法が使えるLvになってる魔法はあるもんな。Lv6の衝撃魔法については俺自身でも使えないのも多いけど、Lv4の爆発魔法なら覚えやすいし扱いやすいはず。
ふむ、サヤが近接で対応するのが難しい場合の敵とかがいれば、ハーレさんと連携して魔法を弾にして遠距離攻撃を狙うのもありか。
「あ、そういやハーレさん、その魔法弾ってダメージ判定はどうなってんの?」
「えっと、ダメージは基本的に魔法のみで、魔法を使ってる人のステータスからなのさー! でも、魔力集中とか投擲スキルでの加速分は反映されるみたいだから、スキルLvが高めで発動する方が総合的な威力は上がるみたいです!」
「あー、そんな感じか。それなら土魔法や氷魔法みたいに明確な実体があれば、物理ダメージも発生しそうだな」
「多分そうだと思うのさー!」
ふむふむ、この辺は使う魔法の属性によって効果が地味に変わってきそうだね。……これ、投擲持ちの人が共生進化で魔法の弾を作る為のキャラを用意するというのもありだな。
少なくとも完全に弾切れになる事は無くなるし、物理攻撃が効きにくい相手にも有効なはず。というか、そういう使い方をするスキルな気もするね。
その辺を狙っていた訳ではないけど、ハーレさんは地味に相性が良い組み合わせになってきてるのかも。
「さてと、それじゃカイヨウ渓谷に行くまでの間は魔法を用意する人を変えながら、ハーレさんの魔法弾を試し撃ちしながら進んでいくか」
「「「「おー!」」」」
そんな風に言ってる間に、さっきとは別のカモメの群れが近付いて来てるんだよな。ここの海面の敵については、Lv差とかで攻撃しなくなってくるという性質は欠片もないらしい。ま、海に来たなら海中を移動しろって事なんだろうけど、それは知らん!
「それで誰からやる?」
「俺は移動しとくから、その辺は任せた!」
「ほいよっと」
海面に浮上したタイミングで泳ぐのが止まっていたアルだけど、改めてカイヨウ渓谷に向けての移動が再開になった。カモメ相手にハーレさんの魔法弾の試し撃ちをやっていくのに合わせて、少し移動速度は抑えめにしてくれているみたいだね。
「それなら私からやってみていい?」
「ヨッシさんか。毒と氷、どっちでやる?」
「ちょっと毒を試してみたいね。まだ殆ど毒の衝撃魔法は使った事ないしさ」
「それならまずは毒魔法からやるのです! 『魔法弾』!」
「あれ、ハーレ? もしかして魔法弾って毎回発動が必要だったりするの?」
「そうなのさー! 割と行動値を消費するのです……」
あー、流石に他人の魔法を投げられるという性質から考えると、その辺は仕方ない仕様なのかもね。衝撃魔法は分割して投げつけるらしいし、その魔法分の消費を他のプレイヤーでの消費になるんだしな。
並列制御で自前で用意するならともかく、他のプレイヤーに消費を肩代わりしてもらえるなんてそこまで都合は良くないか。
「……そこは仕様として仕方ないから、そのままやるしかないね。それじゃやるよ。麻痺毒で『ポイズンインパクト』!」
「お任せなのさー!」
「おっ、明確に見た目に変化があるんだ」
「へぇ、ヨッシさんがハーレさんの手に叩きつけた毒が球状に圧縮されてんのか」
「これは凄そうかな?」
ふむふむ、アルが言ってるように魔法弾を発動したハーレさんの手に、ヨッシさんが発動した毒の衝撃魔法を吸収して圧縮したように見えた。うん、濃縮された毒の塊を握ってる感じだね。
それにしてもハーレさんが巣の中にいるから、パッと見ではハーレさんが攻撃をする為の準備とは思えないな。どちらかというと、思いっきり敵に攻撃されている感じの光景だよね。
「それじゃ行くよー! 『連投擲』!」
そして向かって来ているカモメの群れに向かって、毒の弾が次々と投げ放たれていく。ふむふむ、投げられてすぐの段階では普段投げてる小石くらいの大きさだけど……あ、カモメに当たった瞬間に小規模になった感じの衝撃魔法が炸裂した。
何発かに分けて投げてるから、1発ずつの規模は通常の衝撃魔法より控えめだけど、小規模な衝撃魔法が連発で叩き込まれていると考えるとこれは地味に強力かも?
「うー! 当たったのは一般生物のカモメばっかみたいなのです……」
「もう一度獲物察知をしようか?」
「うーん、次は散弾投擲を試すので今は必要ないのさー!」
「あー、なるほどね」
連投擲でどんな風になるかは分かったけど、散弾投擲だとどういう風になるかはまだ分からないもんな。
同じ連撃のスキルという扱いではあるけど、連投擲と散弾投擲ではスキルの性質はまるで違うものである。ハーレさんとしては実際に使ってみて、使用感を確かめてみたいんだろうね。
「それじゃアースインパクトでやってみるか!」
「了解なのさー! 『魔法弾』!」
さて、ハーレさんがリスの手を広げて次の魔法弾の待機に入ったので、今度は俺の魔法を使っていこうじゃないか。
<行動値6と魔力値18消費して『土魔法Lv6:アースインパクト』を発動します> 行動値 54/79 : 魔力値 188/218
さっきヨッシさんがやってたみたいに、ハーレさんのリスが手を広げているところにアースインパクトを叩き込み、それがリスの手に収まる大きさまで圧縮されていく。この魔法弾へと変化していく様子は地味に凄いな。
「それじゃいくのさー! 『散弾投擲』!」
「え、そうなるのか!?」
「衝撃魔法が広範囲への攻撃に変わってるかな!?」
「へぇ、こりゃいいな」
「……あはは、これは回避が難しいね」
衝撃魔法は割とピンポイントな位置に叩きつける魔法だけど、アースインパクトを魔法弾にして散弾投擲で投げてしまえば土砂による面制圧の攻撃へと変貌していた。あー、俺の魔法を使ってるから、俺は何も新たにスキルが使えない状態でもあるな。
一般生物のカモメが大半だから威力の判別がしにくいけど、これは威力自体は分散はしてそうだね。ただ、ヨッシさんが言うように回避はかなり難しそうだ。
<ケイが成長体・瘴気強化種を討伐しました>
<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>
<ケイ2ndが成長体・瘴気強化種を討伐しました>
<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>
ん? あー、今回の群れをまとめていたのは成長体の瘴気強化種か。なるほど、必ずしも未成体だけが襲ってくる訳じゃないんだな。
「ふっふっふ、これは使えるのさー!」
「ハーレ、使えそうで良かったかな!」
「うん、良かったー! これは自分のクラゲでも使えるようにしていきたいのです!」
「それならカイヨウ渓谷に辿り着くまではハーレを中心にカモメの迎撃をしていく? あ、もちろん行動値が少なくなれば交代するけどね」
「望むところなのさー!」
そうして海の新緑を抜けてカイヨウ渓谷に辿り着くまでの間はハーレさんをメインに任せる事になった。ま、新スキルなんだし、今のうちに使い慣れておかないとね。
「あ、でもLv上げを重視したいので、アルさん、移動速度は上げてもらってもいいですか!?」
「あー、それもそうだな。んじゃちょっと速度を上げるか。『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」
「みんな、風除けはいるか?」
「巣の中で捕まってたら大丈夫なのさー!」
「私も大丈夫かな!」
「私も大丈夫。ハーレがもし落ちそうになったら、私の方でフォローするよ」
「ほいよっと」
基本的に今回はずっとハーレさんが巣の上から狙い撃ってるし、サヤもヨッシさんも魔法を発動するだけだから移動する必要もないんだよな。
というか、この状況で風除けを作っても投擲の邪魔にしかならない気がする。狙撃みたいな単発なら部分的に穴を開けるのは問題ないけど、散弾投擲みたいな広範囲になると邪魔でしかないしな。
「あ、そうだ、ハーレさん。今のうちに報酬で貰った弾で他に何があるか確認しときたいんだけど、その辺は良いか?」
「そういえばそだね!? はい、ケイさん! 確認お願いします!」
「おうよっと」
おっと、ハーレさんがインベントリから取り出した弾が入った革袋を投げ渡してきたけど、危うく落としかけた。思いっきりハサミの鋭利な部分で革袋を挟んじゃったんだけど……あー、良かった。真っ二つにはなってないね。
「あっ、ケイさん!?」
「ケイ!?」
「おわっ!?」
って、慌ててキャッチしたからアルのクジラの背の上から落ちかけてるがな!? 風除けはいらないって事になったけど、この状況って俺が一番落ちやすいじゃん!
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 54/79 → 54/73(上限値使用:6)
ふー、大慌てで飛行鎧を展開して落ちずに済んだ。……よし、今度は落ちないようにアルの木の根に固定するように岩を追加生成しとこ。
「おーい、何やってんだ、ケイ?」
「……ちょっと自分が落ちない対策を完全に忘れてた」
「あはは、まぁそういう事もあるかな?」
「まぁ落ちなくて良かったね」
「そうなのさー! ところで中身は他に何がありますか!?」
「あー、慌てるなって、ハーレさん」
とりあえず近くにすぐに襲いかかってきそうなカモメの姿は見当たらないから、チェックをするなら今のうちだな。……間近にいないだけで、見える範囲にはいるからねー。
さて、ともかく他の弾の詰め合わせの中身を見てみようっと。うーん、インベントリ経由で取り出す事も出来るみたいだけど、ロブスターのハサミで掴めば取り出せるかな? お、やってみたらいけそうだし、そっちでやっていくか。
「えーと、これは煙幕弾が20個か」
「おー! 確かそれは漆黒草と泥団子を混ぜたら作れるやつなのさー!」
「あ、そうなのか。ハーレさん、この弾は持ってる?」
「あんまり使う機会はないけど、持ってるよー!」
「……ならそれほど当たりって訳でもないか」
煙幕なら使い道自体はありそうだけど、使いどころは相手次第だよな。ぶっちゃけ俺みたいに暗視を持っていたら意味が無かったりするし、使うとしたらそういう対抗策を持たないボスとかがいた場合か。
ま、すぐに使う機会が無くても持っておいて損はないな。どこでどう使い道が出てくるか分からないしね。
「後は……竹串が30本、氷柱が30本、砂が100個、普通の小石が200個か」
「持ってる種類ばっかりかな」
「まぁ、一番の目当ての花粉の弾はあったから良いんじゃない? それに持ってるとは言っても、補充はしてるしね」
「自分でも補充はしてるけど、アルさんやヨッシやサヤが晩御飯を食べてる間に補充をしてくれてるもんねー! 弾の数は多くて困る事はないのです!」
「ま、そりゃそうか」
根本的に投擲の弾は消耗品なんだから、数が少なくて困る事はあっても、数が多くて困る事はない。アイテムの所持数が多ければキャラの動きに影響が出るとか、そういうシステムはないしね。
さーて、弾の詰め合わせの内容の確認は終わったし、目指せ、カイヨウ渓谷! まぁまたカモメの群れが近付いてきてるから、まだ数戦くらいはする必要はありそうだけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます