第762話 それぞれに騒いで
今回の作戦の主戦力として動いていたメンバーを筆頭に集まっているイカダの上で、タッグ戦の決定をベスタに移譲する事で話はまとまった。
「よし、作戦の成功の打ち上げを始めるぞ」
「ダイク、水のカーペットー!」
「ほいよー。『アクアクリエイト』『水の操作』!」
「あぁ、悪いな、ダイク」
「問題ないって、リーダー」
ベスタが何も言う間もなく、レナさんがダイクさんに指示を出して水のカーペットで足場を作り出していた。それに乗ったベスタが空中に……って、海中から照らされてるな? あ、ソウさんのイチゴが光って、下から照らし上げているっぽいね。なるほど、あれはソウさんの光の操作か。
そして集まってきているみんながその様子に気付いて、さっきまで賑やかだった様子が静まり返っていた。うーん、ベスタの貫禄が凄い。
「あまり長々と話しても仕方ないから、単刀直入でいくぞ。今回の作戦、全員良くやった! 食材アイテムは基本的に持ち込みにはなるが、この周囲には一般生物の魚介類は多く生息しているから現地調達でも構わん。焼く場所は用意しているから、後は各自の自由に楽しんでいけ! それと明日の夜からは他の群集を交えたタッグ戦に出場する者を決めるトーナメント戦を開催する。それについては明日、改めて告知するから興味のあるやつは確認をしておいてくれ。話は以上だ!」
そんな簡潔なベスタの宣言と共にみんなの歓声が上がり、今回のイカの討伐作戦の祝勝会というか打ち上げが始まった。
「それじゃ海鮮を食べまくるぞー! 『略:傘展開』『略:ウィンドボール』」
「あ、ハーレ待ってかな!」
「あはは、これはもう我慢は無理だよね。私は調理を手伝ってくるよ」
「ほいよっと」
待ちきれないとばかりにイカダの上へと凄い勢いで吹っ飛んでいくハーレさんと、それを追いかけていくサヤとヨッシさんであった。まぁハーレさんはこれを楽しみにしていた部分も大きいし、ヨッシさんも調理する気満々だったからね。
「アルと刹那さんはどうする? すぐに何か食べに行くか?」
「それも良いけど、ちょっと現地調達をしたいとこだな。漁をしているってのも気にはなるし」
「あ、それいいな。ちょっと見に行くか」
「それなら拙者が案内するのである! 多分、拙者の伊勢海老1匹では足りないである!」
「刹那さん、案内は任せた!」
「任せるのであるよ! それでは着いてきて欲しいのである!」
「「おう!」」
そうして俺はアルの背中の上に乗ったまま、刹那さんの案内に従って移動を……って、誰か隣に飛び乗ってきた!? しかも俺の左右に2人って、このタイミングで誰が……あー、そりゃ左右になるか。
「ほほう、それは面白そうではないか! なぁ、疾風の!」
「漁なら俺らも行くぜ! なぁ、迅雷の!」
「……なんだ、風雷コンビか。一緒に行くのは良いが、流石にびっくりするから一言声をかけてくれ」
「おぉ、それは済まなかったな、アルマース」
「そこは悪かった、アルマース」
「……拙者、なんだか一抹の不安があるのであるが……」
「あー、奇遇だな、刹那さん。俺もだよ……」
なんだか急に風雷コンビが一緒に行く事になったけども、なんとなく不安が拭えないんだよなー。ぶっちゃけこの2人の行動は読めない部分が大きいし……。ま、なるようになれだ。
「ともかく気を取り直して出発であるよ! 風雷コンビは海中は大丈夫であるか?」
「アイテムで適応しているから問題はない! なぁ、疾風の!」
「おうとも! なぁ、迅雷の!」
「だったら海中から行くのでも問題はないな」
「そうであるな! あ、ケイ殿、明かりを頼めるであるか?」
「任せとけー!」
ナギの海原は比較的浅いエリアだし、天気は途中から晴れになったままで月明かりも射し込んではいるけども、それでも暗い事には違いがないからね。明かりがあった方が色々と見やすいし、何だかんだで海中や水中では懐中電灯モドキは役に立つなー。
<行動値上限を4使用して『発光Lv4』を発動します> 行動値 74/78 → 74/74(上限値使用:5)
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 74/74 → 68/68(上限値使用:11)
デスペナがいつの間にか終わってて、行動値も普通に全快していたね。まぁそれは良いとして、岩を右側のハサミに固めておいて、増殖したコケの放つ光をそこから光の操作で照らす範囲を調整していく。……うん、まぁ普通に懐中電灯を持ったような感じで良いだろう。
そんな感じで刹那さんを追いかけていけば、色んな魚の人や、クジラ、イルカ……お、アザラシの人とかもいるんだ。そんな海エリアの人達が集まっていて、その先には海藻を山盛りに置いている様子が見えている。なるほど、ここが漁の場所か。
「お、ここが目的地か?」
「そうであるよ、アルマース殿! これは丁度、漁を始めるところであるな! ジンベエ殿、拙者達も加わって良いであるか!?」
「お? 刹那達もこっちに来たのか。いいぜ、やってけ!」
「了解なのである! それでは拙者達も参加するのであるよ!」
「おう! で、俺らは具体的に何をすればいいんだ?」
「海水の操作で一気に持ち上げるので、その中から落ちてくる一般生物を仕留めていけば良いのである! 必ずアイテム化する訳ではないであるが、それで魚介類は手に入るのである!」
「あ、そういうやり方なんだ」
普通の漁って網とかでやるイメージだったけど、このゲーム内ではまるで別物なんだね。まぁ網とか用意する事がそもそも困難だから、その辺はある意味では仕方ないか。
それにしてもパッと見た感じでもあちこちに魚の群れが見えるし、海藻に隠れている魚とかも見えている。これは獲物察知を使ってみれば、とんでもない量の緑色の矢印が出そう。
ちょっとした岩場もあるから、伊勢海老とかロブスターとか貝類もいそうだね。リアルでその辺を獲ると密漁らしいけど、ゲームじゃそんなのはないしさ。
「……ほう? つまり倒せば一般生物の魚介類が手に入るというのだな? どう思う、疾風の?」
「俺らなら一網打尽も可能だろうよ! よし、やるぜ、迅雷の!」
「同じ発想に至ったか。ではやるぞ!」
「おう!」
「ちょっと待て、風雷コンビ!? 何をする気――」
「「『エレクトロクリエイト』!」」
「……うわー」
慌ててジンベエさんが風雷コンビを止めようとするけど、それは既に遅く、風雷コンビの手によって発動した昇華魔法のサンダーボルトが海水という条件下で盛大に範囲を増して放電を続けていく。てか、ダメージはないけど放電が眩し!?
そしてサンダーボルトの効果が収まっていく。えーと、さっきまで見えていた一般生物の魚とかの姿が一切見当たらないんだけど……。ちょっと確認してみるか。
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 63/68(上限値使用:11)
うわー、こりゃ酷い。緑色の矢印は皆無だし、黒い矢印すら1つもなく、見えるのは灰色の矢印のみである。……やり過ぎてない、これ?
「ふはは! 大漁であるぞ、疾風の!」
「インベントリに収まりきってねぇな、迅雷の!」
「おい、風雷コンビ……何やってくれてんだ!?」
ジンベエさんの声が低くなってて怖いんだけど……。でもまぁその気持ちは分かる。……一般生物を一度全滅させてしまえば、復活までにはかなり時間がかかるんだもんな。
「安心するがいい、ジンベエ! 我らとて、今日のこの場で全て持っていく気など欠片もない! なぁ、疾風の!」
「おうよ! 全部バーベキューのとこに持っていくから――」
「そういう意味じゃねぇよ!? これじゃしばらくここで漁が出来ねぇじゃねぇか!」
「……そうであるな。一度全滅してしまえば、再生までにはかなり時間がかかるのである……」
「「あっ!?」」
「『あっ!?』じゃねぇよ! あー、やっちまったもんはどうしようもねぇか……」
「……そうであるな。ジンベエ殿、これは明日からしばらくの間、他のエリアから一般生物を生け捕り持ち込んで、再生を早めるしかないのでは?」
「……それしかねぇか」
あ、他のエリアから一般生物の魚とかを生け捕りにしてくれば再生するのを早める事は出来るんだね。まぁそれでも一般生物を全滅させるような行為は流石に控えた方がいいんだろうけど、早々そういう自体になる事ってないよな。
「さっき凄い海中が光ってたけど、そっちは何かあったのかな!?」
「あー、サヤの方から見えてたのか。まぁ風雷コンビがこの辺の一般生物を全滅させたというか……」
「え、それって大丈夫なのかな!? あ、だからさっき刹那さんが再生を早めるとか言ってたのかな?」
あ、そういや刹那さんは同じPTのままだから、刹那さんの発言はPT会話で聞こえてたのか。ただ断片的にしか情報が伝わらないから何が起きたかよく分からなかったんだろうね。
「……まぁそういう事であるな。これらの再生については拙者達、海エリアで手分けをして対処をするので心配は無用であるよ。とりあえず今日は、風雷コンビが過剰な程に海産物を獲得したようなので、それをバーベキューの材料にするのである!」
「って事だから、風雷コンビを連れて戻るわ」
「うん、分かったかな!」
「あはは、それは大変な量になりそうだね。紅焔さん、それは焼き過ぎ! ……え、鶏卵を持ってるの、レナさん。あ、群集支援種で情報ポイントと交換で手に入るんだね」
「これで塩釜焼きが作れるのさー! あ、シンさん、アジの塩焼き、ありがとー!」
あー、どうやら断片的に聞こえてくる内容からして、サヤ達の方も色々な事が起こってるみたいだね。どうやらちょっと前に話題に出ていた鶏卵の入手方法もあるにはあるみたいである。
何だかんだでヤナギのような群集支援種で情報ポイントと交換できるアイテムは、まだ入手方法が正確に分かっていないものも結構あったりするんだな。……情報ポイントは余ってるし、機会があれば積極的に交換しに行くにもありなのかもね。
「さてと、とりあえずみんなのとこに戻るか。……結局漁は何にも出来なかったけど」
「ま、そういう事もあるだろ」
「明確に戦犯はいるのであるが、今回はまぁ大目に見るのである。だたし、風雷コンビには食材を提供してもらうのであるよ!?」
「……分かっている。流石に今回は我ら反省せねばな……」
「……だな。完全に全滅の事と、海での雷属性の影響を忘れていたし……」
「言い訳をさせてもらえるのであれば、電気を使った漁というのを聞いた事があってだな……。なぁ、疾風の」
「迅雷と同じで、俺もそれを連想してな……」
あー、そういや電気でショックを与えて魚を獲るっていう方法があるのは聞いた事があるような……。なるほど、風雷コンビがやった事の発想自体はそこら辺から来てたのか。
「はぁ……。そういうのはあるのは知ってるし、実際に海エリアで電気魔法を使ってそういう事をしない訳でもないんだが……風雷コンビ、いくらなんでも昇華魔法はやり過ぎだ」
「「面目ない……」」
そんな風に風雷コンビがジンベエさんに怒られながら、海鮮バーベキューの会場のイカダまでやってきた。おー、なんか岩を生成したっぽい足場が増えて会場が広がってるぞ。
「おっしゃ、どんどんシンに魚を刺していけー!」
「「「「おー!」」」」
「いやいや、刺し過ぎだって!?」
「プロメテウス、こっちの火も頼んだ!」
「俺の名前はカインだよ!」
「聖火の人じゃねぇよ、ちゃんとしたプロメテウスの方だ!」
「……え? あ、悪い」
「おーい、ここにはプロメテウスは来てないぞー?」
「あ、バレた」
「おいこら!?」
あー、うん。これまで何度か見た光景だけどかなりカオスな事になってるな。でもまぁみんな楽しそうだし、こういうのもたまには良いよね。
さてと予定とは全然違う経緯にはなったけど海産物の現地調達はしてきたし、俺らもそろそろ食べていきたいとこだね。
「風雷コンビ! 獲れた食材は何がありますか!?」
「ふむ、内容だな。アジ、カサゴ、イカ、アワビ、海老……他にも色々あるが、疾風はどうだ?」
「俺の方は……被ってるのは除外するとして、イワシ、タコ、ウニ、ナマコ……お、伊勢海老が3匹ほどいるな」
「はい! その伊勢海老を食べたいです!」
「ハーレばっか食べるのはズルいからねー?」
「レナさん、その辺は分かっているのさー!」
「ヨッシさん、塩釜焼きはもっとかかるのかい?」
「んー、手探りで作ってるからまだなんとも……。やっぱり普通の人間の手でやる訳じゃないから難しいね」
どうやらヨッシさんは誰かが土台をして作ってくれた竈とソラさんの力を借りて塩釜焼きを作っている最中みたいである。氷の操作で頑張ってるけど、苦戦しているっぽいな。……まぁそりゃそうか。
そんな風に海産物の現地調達をし、ヨッシさんが他の人達と混ざって調理をし、ハーレさんが大食いを披露し、俺らも色んな物を食べながら、その日にログアウトするまで打ち上げは続いていった。ま、たまにはこんな日も良いよね。
◇ ◇ ◇
そうして盛大に騒いだ後にログアウトとなって、いつものログイン場面へとやってきた。えーと、今回のいったんの胴体は……なんだ、夜に見た時と内容は同じで明日の定期メンテについてだな。まぁそこは変わる内容でもないか。
「お疲れ様〜。なんだか楽しそうだったね〜」
「まぁなー。って、いったんは見てたのか?」
「えーと、運営が用意したもの以外でプレイヤーが大勢で動いている時は一応リアルタイムでモニタリングはしているよ〜」
「あ、そうなんだ? なんでまたそんな事を……?」
「えっと、どうしても人が集まるとトラブルの発生も増えるからだよ〜。今回は特に何も心配はいらなかったけどね〜」
「あー、なるほどね」
確かに人が多ければそれだけトラブルが発生する確率も上がるから、もしトラブルが発生した際に早めの対処が可能なようにしているんだな。……何度か実際にトラブルは発生した事はあるんだし、必要な事ではあるか。
「それでスクショの承諾はどうする〜?」
「あー、それは明日でいいや。ちょっと騒ぎ過ぎて疲れた……」
「うん、それは了解〜」
「って事で、ログアウトをよろしく」
「はいはい〜。またのログインをお待ちしております〜」
「ほいよっと」
そうしていったんに見送られながらログアウトをしていった。明日からの予定を具体的には立てれてないけど、まぁそれは明日ログインしてからでもいいだろう。まぁトーナメント戦の最後の一戦を見に行くのだけは確定だけどね。
さてと、それじゃ色々片付けてから寝よ……ん? あれ、そういや何かを忘れているような気もする……? えーと、なんだっけ……? うーん、思い出せないし……まぁいいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます