第757話 海での討伐作戦 その5


 とりあえずアンモナイトにイカのカウンターを当てる事で、イカを倒させる事には成功した。っていうか、アンモナイトはあの見た事もない砂を散弾のように放つ魔法は俺らには使わなかったのに、フィールドボスのイカにはあっさり使ったね。

 ちょっとその辺は気になる差異ではあるけど、フィールドボスであるって事が分かれ目だったりするのかな? まぁそれについては調べようと思えば、後からでも調べられる……いや、条件的にそう気軽な話でもないか。


 ともかく今はそんな事より、イカを倒した後に海水の中へと落ちていったアンモナイトがどうなったかが重要だ。

 ここからの可能性としては、アンモナイトがイカを倒した事で俺らを見逃してこの場を立ち去っていくか……もしくは、さっきの戦闘が継続になるか、そのどっちか――


「わー!? なんか不穏な雰囲気なのさー!?」

「え、こんなのありかな!?」

「……渦巻きが発生してるね」


 え、海中からの土魔法とかばっか警戒してたけど、こんなのマジか!? アンモナイトが沈んでいったところを中心に海が渦巻いて、海が荒れ狂っていく。これは多分海流の操作なんだと思うけど、ヤバそうな雰囲気が凄い……。


「ちっ、やっぱり何もなく終わりはしないか。レナ、アンモナイトと戦っていない奴は全員下がらせろ!」

「はーい! 包囲網の構築をしてたみんなに通達ー! アンモナイトの行動パターンが変わったから、標的になってる人以外は退避! 巻き込まれても知らないよー!」

「あー、俺らは――」

「ジンベエさん、後シアンさん達も残るのは無しで! 海の代表PTなんだから、そっちはちゃんとまとめておいてよー?」

「……はぁ、まぁしゃーねぇか」

「「えー!?」」

「『えー!?』じゃねぇよ、シアン、セリア! 最悪、俺らで余波は防ぐぞ」

「ジンベエの言う通りだぜ。元々この事態は予想通りなんだから、被害を最小限に動くべきだ」

「……分かったよ、ソウ」

「はー、仕方ないかー」


 そのレナさんの通達を聞き、さっきのアンモナイトの砂の散弾の巻き添えにならない様に散らばっていた多数の光源は更に距離を取って散らばっていく。アンモナイトと直接戦闘をしていないみんななら離れさえすれば巻き込まれる心配はないだろう。

 シアンさんとセリアさんは不満げだけど、イカの追い込み班がそのままアンモナイトと俺らの最終戦の余波を防いでくれるみたいだね。……ま、今回の作戦で俺らの班が死ぬのは覚悟の上だけど、無用に死ぬ人を増やす必要はないもんな。


「さてと、アンモナイトは任せっぱなしだったし、最後はお付き合いしますかー! ベスタさんもだよねー?」

「……なんだ、レナ。気付いていたのか」

「まぁねー。ベスタさんが殿をして、みんなを逃がすつもりだったでしょ?」

「……色々自覚がないようで、なんだかんだで目聡いな」

「ん? それってなんの事ー?」

「……いや、何でもない。気にするな」


 何だかレナさんとベスタはこの場に残って、俺らを逃して殿をするつもりでいたっぽい? あー、なんか感じてたベスタの違和感の正体はこれか。アンモナイトと俺らの戦闘を見ながら、全力で俺らを逃がす為の確実な策を練っていたとかそういう感じなんだろう。

 まぁその気持ち自体はありがたい。でもこの作戦を俺らが自分の意思で引き受けたんだから最後の最後でこの2人に助けてもらうというのは……何か違う気がする。


 みんなを見回してみると力強い頷きが返ってきたし、みんなも同じ気持ちのようだね。レナさんとベスタには悪いけど、今回のは俺らが決着をつける。……例え全滅したとしても、それが今回の戦いの結果だしね。


「そういう訳で、もう猶予も無い。風雷コンビ、俺とレナを――」

「ちょっと待った!」

「ケイ? ……あぁ、なるほど、そういう事か」

「あー、そっか、そっか。……うん、これはわたし達が無粋かー」


 ストップをかけたら、レナさんとベスタはそれだけでみんなの様子から内容を察してくれたようである。もういつアンモナイトが攻撃を仕掛けてきてもおかしくはない状況だし、説明の手間が省けるのはありがたいね。


「ベスタ、レナさん、我が儘を言って悪いな」

「いや、それは気にしなくていい」

「そうだよー。あ、それじゃ代わりに何かお願いでもあれば聞くよー?」

「レナ殿、それならお願いがあるのである!」

「お、あるんだねー! 内容によるけど、可能な限りは請け負うから言ってみてー!」

「拙者、ケイ殿達と祝勝会の海鮮バーベキューを約束しているのである! 海エリアの方で軽く話は通してあるので、そちらの取り纏めをお願いしたい!」

「あ、それはチラッとは聞いてるよー! うん、それじゃそれはわたしの方でやっとくね」

「そういう事なら俺も手伝おう」

「うん、ベスタさんもよろしく……って、もう時間切れみたいだね」

「……そのようだな」


 そんな風にこの後のハーレさんの希望による海鮮バーベキューの用意はしてくれる事が決まったけど、もうそれどころではなさそうだ。変化が訪れたの見て、レナさんとベスタは俺らから距離を取っていく。

 渦潮は収まったけども、海中からアンモナイトの影が海面へと近付いているのが見える。さっきの渦潮は何だったんだろう? もしかすると消費した魔力値の回復行為かも……? ……一般生物を海流の操作で掻き集めて回復するというのはあり得る話だな。魔力値の回復出来る海の一般生物がいるのかはよく知らないけど!


「危機察知に反応ありです! え!? これ、みんなが標的だー!?」

「これ、やべぇぞ! 全員、空中へ退避しろ!」


 今は龍だけどトカゲの時に危機察知を持っていた紅焔さんと、普通に危機察知をよく使っているハーレさんのその呼び掛けに応じてみんながそれぞれの手段で空中へと飛び上がっていく。

 そしてその直後にアンモナイトが海面に顔を出し、その眼前にはイカを仕留めた時と同じ砂の塊が存在していた。今度は俺達にもそれを使うって訳か。


「ふははっ! 面白いではないか、アンモナイト! 死して終わるまでは全力を尽すのみ! 逝くぞ、疾風の! 『飛翔疾走』!」

「前に戦った成熟体のカメより数段強いしな! 逝くぜ、迅雷の! 『飛翔疾走』!」

「風雷コンビ!?」


 みんなは退避しているのに、風雷コンビだけはアンモナイトに突っ込んでいった。……いや、全滅を覚悟しているからと言って、あっさり逃げに転じるよりは無茶をしてでも少しでも情報を得るのもありか。

 ははっ、やってる事がザックさんみたいになってきたね。おっしゃ、上等だ! 全力で戦って、引き出せるだけの情報を引き出してやる!


「風雷コンビ、ちょっとだけ攻撃は待ってくれ!」

「何か案があるのだな?」

「そういう事なら待ってるぜ!」

「俺が水の付与をするから、その後にサンダーボルトをぶっ放せ!」

「「了解だ!」」


 今のアンモナイトが用意している砂の塊を散弾のように撃ち出す魔法……魔法だよね? あれはどうも威力はとんでもなく強力な代わりに、即座に発動が出来る魔法ではないように見える。

 ネス湖でのアロワナの使ったレーザーのようなものも同様の性質があった気もするから、もしかするとそこが上位っぽい未知の魔法の共通する特徴なのかもしれない。……って、呑気にしてる場合に発動されても困るな。でもまぁ発動に明確な隙があって時間がかかるのなら、発動キャンセルを狙える可能性はある!


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv1:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 13/70(上限値使用:8): 魔力値 195/216


 とりあえずこれでアンモナイトに水属性の強制付与は成功っと。今回の一戦で思ったけど付与魔法って、自分より明確に格上の相手にも普通にかかるんだな。まぁ必ずしも弱体化する訳ではないからなのかもしれないけどさ……。

 あー、でも付与魔法は攻撃じゃないから、魔法のキャンセルは無理だよね。土属性のみなら全然役に立たないだろうけど、水属性の強制付与をした今なら風雷コンビの電気の昇華魔法でならキャンセルが出来るかもしれない。……やってみるしかないな。


「風雷コンビ、頼んだ!」

「行くぞ、疾風の! 『エレクトロクリエイト』!」

「おうよ、迅雷の! 『エレクトロクリエイト』!」


 風雷コンビによって生成された2つの電気の塊が重なり、発動した昇華魔法である『サンダーボルト』によって海へと幾重に雷が落ちていき、アンモナイトの動きが一瞬止まった。


「おっ! ソラ、今のは効果あるんじゃねぇか!?」

「……HPは全然減ってないし、麻痺にもなってはいないよ。でも……」

「砂の塊が消えたのです!」

「魔法のキャンセルは成功かな!」

「ケイさん、風雷コンビ、ナイス!」

「おっし! 博打だったけど、あの未知の魔法の弱点は見つけたぞ!」

「……ケイさん、それ自体は成果のようですが、それほど甘くはないようですよ?」

「はい!?」


 え、折角上位っぽい魔法のキャンセルに成功したのに、その直後にアンモナイトの全身が白光を放ちだした……? 成熟体が白く光る様子は今まで何度か見たけど、魔法型でもこれがあるのかよ!?


「また砂の塊を生成し始めたかな!?」

「あー! とりあえず白光してる効果が分からないけど、もう一発昇華魔法でキャンセルさせるまでだ! ソラさん、辛子さん、テンペストはいけるか?」

「僕は問題ないよ」

「俺も行けるぜ!」

「それじゃ任せた!」


 風雷コンビ……というか、迅雷さんにエレクトロエンチャントを使ってもらって、俺とライルさんでアップリフトという手段も考えたけど、風雷コンビはさっき昇華魔法を使ったばっかで魔力値が無くなっているから無理。

 物理攻撃でも試してみたいんだけど、みんなここまでの戦闘で行動値はかなりぎりぎり状況のはず。普通の魔法では多分高確率で威力負けするから、今使える高火力の攻撃手段となると昇華魔法しかないんだよな。でもまぁ昇華魔法でならキャンセル出来るのは分かった。……こっちの消耗が半端ないけどね!


「ソラ、やるぞ! 『ウィンドクリエイト』!」

「上手くいくと良いんだけど、あの白光が不安……。でもやってみるしかないね。『ウィンドクリエイト』!」


 そうして海面に顔を出しているアンモナイトを荒れ狂う暴風に……って、あれ!? 全然反応がない上に、今回は魔法のキャンセルが出来ていない!? あ、でも全身からの白光は消えた……?


「っ!? やばいのです!」

「ちょ!? この射程と攻撃範囲は!?」

「うわっ!?」

「これは……!」

「耐えてかな! 『略:ウィンドウォール』!」

「『アイスウォール』!」

「紅焔、ソラ! もっと上空だ!」

「これ、間に合う!?」

「上じゃ駄目! こっち!」

「っ!? そっちだね!」

「ソラ!?」


 みんなで上空に攻撃が届かないように飛び上がっていたけど、アンモナイトの砂の散弾の射程距離と見誤った! 思った以上に射程範囲が長いぞ、これ! くっ、アンモナイトがイカを仕留めた時に少し海面向きに攻撃してたから、射程距離の確認がちゃんと出来ていなかったのが仇となったか……。


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 13/70 → 13/72(上限値使用:6)


 思いっきり水のカーペットに被弾して強制解除となり、アルとライルさんも俺と同様に移動操作制御が強制解除となっていた。そして咄嗟に防壁魔法を発動していたサヤとヨッシさんも耐えきれずに、あっさりと破壊された上で大ダメージを受けている。

 そして上に逃げた紅焔さんとカステラさんは射程外に逃げ切れず撃ち落とされ、もう瀕死の状態となっている。今のを避けきれたのは横方向……厳密には散弾が広がらない範囲の側面側へと回避したヨッシさんとソラさんとカステラさんか。……風雷コンビは、どうしたのかは分からないけど死んではいないっぽいな。


「って、俺はもう飛行手段がないんじゃん!?」

「ケイ、慌てんな! 通常発動でやれば――」

「……いえ、もう遅そうですよ」


 そんな風に落下していくだけの俺とアルとライルさんに向けて、上部からアースインパクトが迫ってきた。……あ、これは回避も防御ももう無理だ。


<『同調打撃ロブスター』のHPが全損しました。『同調強魔ゴケ』が大幅に弱体化します>


 その攻撃でロブスターのHPが全て無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていく。それと同様にライルさんの松の木も、アルの蜜柑の木もHPが全て無くなってポリゴンとなって砕け散っていった。


「ケイ!? アル!?」

「一気に3人が殺られたよー!?」

「……これはやっぱり厳しいね」

「あー、悪い! 先に死んで待っとくわ! リスポーンはアルのとこな!」


 それだけ言い残して、ロブスターの砕けた甲羅に残ったコケが海の中へと落ちていく。ロブスターの同調共有の効果が切れて、海水に弱いコケの群体数がどんどんと減っていってる……って、目の前にアンモナイトが来たか。

 どうやら海水で自然に死んでいく状態にはさせてくれないようで、触手で俺を掴み、その口の中へと運ばれていく。……はははっ、未成体と成熟体との絶対的な差で負けたという結果にはなったけど、その内ぶっ倒しに来てやるから覚悟してろ、このアンモナイト!

 

<群体が全滅しました>

<リスポーンを実行しますか? リスポーン位置は一覧から選択してください>


 さてと、アルは共生進化を元に戻すのにはこのエリアにランダムリスポーンするのが一番都合が良いから、多分ランダムリスポーンをしているはず。まぁそうでなかったとしても、アルの場所でリスポーンする方が合流はしやすいだろう。

 それにあの感じならほぼ確実に全滅だろうしね。ま、成熟体の持つスキルの得体の知れなさが増したけど、かなり重要な情報は手に入った。あの白光するスキルは、これまで思っていた以上にかなり特殊な性能をしてそうだ。

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