第752話 役割分担 後編


 作戦会議というか役割分担の説明も大詰めになってきたけど、刹那さんは自分の役割の説明が中々回って来なくて焦っている。まぁ他のみんなの役割は説明されたし、気持ちは分からなくもない。


「ベスタ殿! 拙者の役割は何なのであるか!?」

「役割はあるから、そう焦るな。刹那、覚えたての分体生成を使う気はあるか?」

「っ!? ……それはまだ殆ど見せていないのであるが、どこで聞いたのであるか?」

「……お前、どこで使ったのかを覚えていないのか?」

「はっ!? そういえばケイ殿達に見せた際には近くに他のプレイヤーも!?」


 あー、そういや刹那さんのタチウオが2体になる『分体生成』を使ったのは妨害ボスの水刃鮫を仕留めた時だっけ。あの時は普通に他のプレイヤーも……って、よく考えたらこの場にいるジンベエさんとかも見てたんだよな。


「悪いな、刹那。面白そうな内容だったもんで、つい喋っちまった」

「ジンベエ殿の仕業であるか!? ……いや、あれを隠したいのであれば拙者が使った場所が悪かったかであるな。まだ検証段階であったから公表してなかっただけで、隠す気があった訳でもないであるし……。して、ベスタ殿は拙者に何をやれと?」

「その分体でイカのカウンターを誘発させて、アンモナイトにイカの攻撃を当てさせてくれ。分体はすぐに消せるんだろう?」

「……長くは保たない代わりに、自分の意思で消すのはすぐではある! ただ、タイミングが非常にシビアではあるが……その役目は拙者が引き受けさせていただこう!」

「あぁ、任せたぞ」


 ふむふむ、刹那さんの分体生成を活用してイカのカウンター攻撃を誘発し、分体を消す事で空振りさせ、それをそのままアンモナイトにぶつけてしまおうという作戦か。

 刹那さん自身の分体を消すタイミングもシビアにはなるけど、アンモナイトの攻撃対象がどうなるかが博打にはなりそうだ。でも、成熟体の攻撃の優先順位がどうなっているのかはどこかで試しておきたい内容ではあるよね。……成功しても失敗しても、色々と情報自体は手に入りそうだ。


「よし、班分けは以上だ! 作戦の決行はレナを筆頭に灰のサファリ同盟やオオカミ組が指揮をしている他の連中の包囲網が完成してからだ。ただアンモナイトの誘導班は移動を開始しておいてくれ。そっちにも待機している奴らがいるから、そこからの合図を待ってくれ」

「了解ー! みんな、行くよー!」

「「「おう!」」」


 そうして作戦の概要の伝達が終わり、招き猫さん達はアンモナイトのいる方向へと向かっていった。……正確な位置は知らないんだけど、まぁこのタイミングで向かっている方向なんだからそっちで合ってるよね。

 さーて、成熟体のアンモナイトを利用したイカの討伐作戦も遂に大詰めだ。それにしてもいないと思っていたレナさんや灰のサファリ同盟やオオカミ組とかは、包囲網の方に行ってたんだな。まぁあっちはあっちでまとめ役がいないと大変だから誰かがまとめ役に行ってるのは不思議でもなんでもないか。


「おーし、俺らも行くぞー。シアン、セリア、くれぐれも暴走はすんなよ?」

「ソウ!? 俺ら、流石にこの大人数ではそんな事はしないよ!?」

「そうだよ、ソウ! シアンはともかく私はやらないからね?」

「はいはい、シアンさんもセリアさんも睨み合わないのー! ソウさんもわざわざ煽ってどうするのさ?」

「……すまん、アリスさん」

「……くっ、くっく……ソウが、お、怒られてやがる!」

「おいこら、ジンベエ!? 笑う事はないだろ!?」

「はーい、だからジンベエさんも煽らないの! ……うーん、なんで海エリアの主力がこれで上手く回ってるんだろねー?」

「そりゃまぁ、一応はソウの頑張りの結果じゃね?」

「一応って何だよ、ケンロー!? てか、お前とシアンの和解が一番大変だったんだからな!?」

「……まぁ、気にすんな?」

「ケンローが被害者側とはいえ、仲裁をした俺に言う事かー!?」

「まぁまぁ、ソウ、落ち着いて?」

「元凶のシアンが言うなー!?」


 あー、うん。そういやケンローさんは最初期の頃にシアンさんに呑み込まれたんだったっけ。……あの頃はどことなく妙な距離感があったような気もするけど、今こうやって一緒に動けているのはソウさんの尽力のおかげのようである。あれだね、ベスタを筆頭にまとめられる人の存在は大きいな。

 ちょっと海エリアがどういう流れで今までやってきたのかが気になるところではあるけど、どこかで機会があれば聞いてみるか。まぁ少なくともこれから作戦を実行しようというタイミングで聞くべき事ではないけどね。


「だー! とにかく移動するぞ! 包囲網の中を追い込む俺らが先に到着してないと意味ないだろ!」

「ソウの言う通りだねー! それじゃ俺らも出発だー!」

「「「おー!」」」


 なんだか騒がしかったけども、アリスさんとかの遠距離攻撃持ちの陸エリアのプレイヤーを背中に乗せて、海エリアのシアンさん達はアンモナイトと反対方向……俺らがさっき来た方向に出発していく。


 シアンさん達が出発していくのに合わせてそっちの方を向いたら、ここまで来る時とはかなり違った景色になっていた。うっわ、こりゃ凄いな


「随分と大掛かりな事になってるな」

「みたいだな。これがイカの包囲網か」

「多種多様な種族で構成された、光る海中トンネルであるな!」

「刹那さん、良い例えなのさー! そしてスクショのチャンスなのです!」

「あ、シアンさん達は包囲網の外側から行くみたいかな」

「まぁイカをあの包囲網の中に入れなきゃいけないし、外から追い込む形にはなるよね」


 集まっているみんなが構築している包囲網にイカを入れなきゃ意味がないんだし、ヨッシさんの言ったような形にはなるんだろうね。

 まぁ追い込む前に逃げられない為の包囲網の完成が先なんだろうけど、そっちはレナさんが指揮しているらしいし心配はいらないだろう。……レナさんは技術を教えるのはぶっちゃけ相当下手みたいだけど、こういう指示を出すのは問題はないもんな。


「あ、そういやベスタは? 遊撃とは言ってたけど、ここで待機?」

「まぁそうなる。俺は各場所で待機している連絡係との中継役も兼ねてるからな」

「あー、なるほどね。ちなみに風雷コンビは?」

「……ここが作戦実行場所だから、風雷コンビもここで待機だ」

「「了解だ、ベスタの旦那!」」

「旦那はやめろ! さっきはリーダーって言ってたのはどうした!?」

「やはり旦那の方がしっくりくるのだ。なぁ、疾風の」

「そういう事だ。なぁ、迅雷の」

「……はぁ、もういい、好きにしろ」

「「おう!」」


 あはは、風雷コンビは相変わらずだなー。まぁ今回の風雷コンビはもし包囲網が崩れた時の保険で、それ以外には何もさせないつもりならここで待機が妥当なとこか。……海では範囲が広がり過ぎて雷属性は扱いにくいみたいだけど、それも使い方次第だな。

 そしてイカの追い込みをするシアンさん達の班はともかく、アンモナイトを誘導してくる招き猫さん達は当人達からの連絡を受けるのは無理だろうから連絡役の人も配置はしてるんだな。まぁタイミングを図る為にも連絡役は必要な要員だしね。


 さてと、他の班の動きがあるまでは少し待機時間はあるから紅焔さん達とアンモナイト戦の作戦会議をしていこうっと。相手が成熟体なんだから、雑な連携になってしまえばそこが命取りになるからなー。


「おっしゃ! それじゃケイさん達、俺達は俺達で作戦会議をしようぜ!」

「ちょうど俺からも提案しようと思ってたとこだよ、紅焔さん」

「あ、ちょっと待って。その前にこれをお願い」

「お、PTの連結か!」


<紅焔様のPTと連結しました>


 今PTのリーダーになっているヨッシさんが紅焔さんのPTとの連結申請を出してくれたようである。ま、これから一緒にアンモナイトと戦うんだし、これは必須だよな。


「おし、PTの連結は出来たし改めて作戦会議だぜ!」

「そうですね。まずは私とケイさんとヨッシさんは役割が決まっていますので、他の方の役割を決めていきましょうか」

「私達の役目はケイ達の護衛だよね? 万が一に備えるなら、アルは戦闘に参加しない方が良いんじゃないかな?」

「あー、俺の木がリスポーン位置になってるもんな。……少なくとも作戦が終わるまでは絶対に木は死なせないようにした方が良いのか」

「……アル、万が一の時はクジラを盾にしても良い?」

「おいこら、今の流れでいきなりそうくるか!? ……だけど、ケイの言う事にも一理ありだな。一応纏海に使う進化の軌跡もあるから、クジラが死んでも戦闘継続は可能ではあるか」


 ぶっちゃけ無茶な事を言ってる自覚はあるんだけど、今回は相手が相手だしね。同調の俺は片方が殺られたらほぼ詰みだけど、木でログインしている状態のアルのクジラなら共生進化の解除だけで済むからね。どうやらアルの木で纏海も使えそうだし、選択肢としてはありなはず。


「はい! その場合は私はアルさんに設置している巣には居ない方が良い気がするけど、どうすれば良いですか!?」

「あー、そういやそうなるな。ケイに乗るのも危険性を上げるだけだし、サヤと一緒に動くのでどうだ?」

「今回はその方が良さそうかな?」

「アルさんの上が危ないなら、その方が良いかもね」

「了解なのさー! サヤ、よろしくねー!」

「任せてかな! あ、そういう事ならちょっと竜の上限発動指示の登録を小型化から大型化にしてきても良いかな?」

「あ、そういや今は小型化にしてるんだったっけ。よし、待ってるから早めに切り替えて来てくれ」

「うん、分かったかな!」


 そうして一度サヤは上限発動指示で呼び出す為の竜の登録内容を切り替えにログアウトしていく。まぁすぐに竜で再ログインして、更にクマに戻す為に再々ログインになるんだよな。

 ちょっと手間がかかるけども、大型化を簡略指示で使うと行動値が半減するからね。今回の作戦ではサヤ自身も個別に飛んでおく必要がありそうだし、行動値を使用しない上限発動指示で使えるようにしておいた方が良いだろう。


「ライルは拘束に専念してもらうとして、俺らはどうする?」

「僕にアイデアがあるけど、ちょっといい?」

「カステラ、どういうアイデアだい?」

「僕のカブトムシと辛子のクワガタは飛べるとはいえ瞬発力寄りで、紅焔の龍とソラのタカとは同じ飛行種族でも少し性質が違うよね?」

「まぁ、そうなるな。認めるのは癪だが、紅焔とソラの方が回避性能は高いだろうよ」

「そこで提案。僕と辛子が、それぞれ紅焔とソラに乗っていくっていうのはどう? 基本的には紅焔やソラの上から突撃をして気を散らしていくけど、アンモナイトの攻撃を避けきれない場合も想定して場合によっては僕と辛子は紅焔とソラの盾になるんだ。一気に瓦解するの防ぐ為にもね」

「……へぇ、思い切った提案じゃねぇか。ま、全滅は想定してるんだし、俺はそれに乗るぜ! ライルが無事なら3回は復活出来るしな」


 おっと、これはカステラさんはかなり大胆な提案をしてきたね。でも内容としては俺がアルのクジラを盾にすると言ったのと同じようなものだな。

 ま、成熟体を足止めするとなれば、それ相応に対応していく必要はある。多分誰も死なずにという前提は無茶が過ぎるから、優先順位は考えておいた方がいい。さて、そのカステラさんの提案に対して紅焔さんとソラさんはどういう反応をするんだろ? 


「あー、ちょっと複雑な気分ではあるが、それは仕方ないか。ソラ、カステラの提案で行こうと思うけど、良いか?」

「カステラも考えた上で言ってるんだろうし、僕に反対する理由はないよ」

「よし、ならそれで決定だな。で、どういう組み合わせで行く?」

「一人称が被るから、僕は紅焔を希望するよ」

「まだソラと一人称が『僕』で被ってるのを気にしてんのかよ!?」

「……カステラ、そういう事なら僕が一人称を変えようかい?」

「あ、そういうつもりじゃない!? ただ紛らわしいかと思って!?」

「……まぁそういう事にしとこうぜ、ソラ、カステラ」

「あー、そうだな」

「うん、その方が良さそうだね」

「そういうつもりじゃないんだってば!?」

「カステラ、気を落とさないで下さいね」

「ライルまで!? だからそういうんじゃないって!?」


 なんというか共同体を作ってるとこでは全面的に仲が良いだけの方が多いかと思ってたけど、意外とそうでもないみたいだね。

 まぁグリーズ・リベルテの中でも似たようなからかい合いはあるし、仲が良いからこそ、こうやって軽口を叩きあえるって側面もあるのかもなー。お互いに褒め合って、顔色を伺って表面上は仲良しなだけよりはこっちの方が気楽ではあるもんね。


 前にやってたオンラインゲームでは、気を遣い過ぎて気疲れした事もあるから、今の状態はかなり居心地は良いもんだ。

 まぁサヤとハーレさんとヨッシさんがゲーム外でも仲が良いのと、俺とハーレさんが兄妹なのと、アルがなんだかんだで年上なりの配慮をしてくれているのもあるんだろう。……そこに頼り切らないようにはしたいし、してはいないつもりではあるけどね。


「あ、そうだ。ライルさん、ヨッシさん、俺らはどういう位置関係で捕獲をしていく?」

「……そうですね。同じ方向に固まるのは一気に壊滅の危険性もあるので、三角形になるように分散していきますか?」

「私もそれが良いと思うよ。それと一応発動する順番も決めておかない?」

「あー、確かに順番は決めといた方が良さそうだな。……状況によっては臨機応変に変更はありなのを前提にして、俺、ライルさん、ヨッシさんの順番でどう?」

「完全に固定は想定外で混乱する事もあるでしょうし、順番もそれで構いません」

「私もそれで大丈夫」

「よし、それじゃそれで決定!」


 とりあえずこれで捕獲組の作戦立案も完了っと。さて、後はサヤが大型化に登録し直すのを待つのと、他の班で動きがあるのを待つばかりだな。

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