第731話 夜の部、開始!


 とりあえず晩飯を食べる為にログアウトをしてきた。……うん、もう見慣れてきた光景だけども晴香が俺の部屋の椅子を陣取って、携帯端末を操作しているね。


「晴香、サヤとヨッシさんから連絡か?」

「うん! これからログインして、成長体を受け取ってからネス湖まで移動しておくってさー!」

「ほいよっと。……ちなみに2人はどんな成長体を選んでくるんだろうな?」

「灰のサファリ同盟で確保してるのが何かにもよるよね!」

「ま、それもそうだな」

「そうなのさー!」


 灰のサファリ同盟……この場合は森林深部の本部だね。そこに何がいるかと、その中からサヤとヨッシさんが何を選ぶのかというのが重要にはなってくるもんな。

 陸地に魚がいたり、砂漠にペンギンがいたりもするし、その辺は確認して来なかったから未知数なんだよね。まぁ流石に海エリアで逃亡しているイカの件もあるから、その辺の特性については気をつけてくれていればいいか。


「あ、そういやネス湖でフィールドボスを誕生させるのって、湖の水の中じゃないと駄目とかそういう制約はあるのか?」

「あれ? その辺は気にしてなかったけど、どうなんだろー!?」

「……晴香、大急ぎでその辺の確認をしてくれってサヤとヨッシさんに伝言を頼んだ」

「了解です!」


 よし、今ならぎりぎりセーフなはず。……もしも水中で誕生させるのが必須条件とかなら、水中で死なない成長体を選ぶ必要があるからね。まぁレナさんがその辺について何も言及してなかったから、多分湖畔とかでも大丈夫な気はするけど、そこはやっぱり念の為。……ログイン中に確認しとけって話だけどねー。


「返事が来たよー! ちゃんと確認しておくって!」

「ほいよっと。他には何か言ってるか?」

「湖畔でも大丈夫なら、湖で戦うのに有利そうな成長体を優先して選ぶってー!」

「ほほう、そうきたか」


 湖で有利に戦える成長体を選んでくるんだね。ふむ、そういう事なら淡水に適応出来ていない種族から選ぶって事かな? うん、確かにそれなら俺が水に飛び込んでフィールドボスをネス湖の底に引っ張っていって、他にみんなは癒水草茶で淡水に適応してから優位に戦闘を進めるのも可能そうだ。


「それじゃ私達も御飯の時間なのさー!」

「慌てて今朝みたいに足を――」

「あぅ!?」

「……遅かったか」

「……もう少し……早めに……言って……」


 なんだか晴香がテンションが上がった状態で俺の部屋から出ていこうとした時に、扉の隅に盛大に足の指をぶつけてた。1日に2回も足をぶつけるって、何やってんだか……。

 って、ちょっと待てよ? 慌ててたからって、そう何度も1日に足を何度もぶつけるか……?


「晴香、ちょっと質問なんだけど、今は視力どうなってる?」

「……いきなり視力って……どうしたの……兄貴……?」

「いいから、とりあえず片目ずつ瞑ってみろ」

「……んー? ……別になんとも……ないよ?」

「あー、それならいいや」


 ぶつけた足の指を押さえつつ、俺の言う通りに片目ずつ目を瞑っていたけど、どうやら特に問題はないようである。左右の目のどちらかの視力が極端に落ちて距離感が狂ってしまっている可能性を考えたけど、どうやら杞憂だったようである。ただの不注意だっただけか。


 まぁ仮に視力が極端に落ちていても、VR技術の発展の前身となった脳への電気信号を再現することで五感を人為的に作り出すAR技術があるから盲目の人でも普通に見えるようにはなるんだけどさ。……その辺の個人でのAR使用範囲の拡大は医療機関による認証が必須だけど。

 俺が小学生になった頃に世紀の大発明として、盲目の人の視界代替技術として凄いニュースになってたらしいしね。それと同じ頃にARによる触覚の再現とかもあったはず。それでそこから一気にフルダイブのVR技術も発展したって話だったっけ。


「圭ちゃん、晴ちゃん、ご飯だから降りてきてねー!」

「はーい! ……あいたた」

「……大丈夫か?」

「……朝よりは……マシ……なのさー!」

「まぁこれに懲りて気をつけろよ?」

「……そう……します!」


 そうして足を痛がりながらも晴香は階段を降りていった。ま、とりあえずは大丈夫そうだな。……でもまぁ不意に足をぶつける事は俺もあるから、そこら辺は俺も気をつけておこうっと。あの痛さは嫌だからね。



 それから晩飯を食べ終えて、晴香は先に部屋へ戻っていった。足をぶつけた痛みも割とすぐに引いたようなので、特に大事にはならなかったね。

 さて、今日の晩飯は青椒肉絲を始めとした中華料理だったけど、油が凄くて後片付けがいつもより大変だな。まぁ油汚れに強い洗剤を使って片付けていこう。……正直なところ食洗機が欲しいよなぁ。



 ◇ ◇ ◇



 少しだけ普段より手間がかかりながらも、片付けを終わらせて自室へと戻ってきた。さて、それじゃ続きをやっていきますか!


 という事でいつものいったんのいるログイン場面へとやってきた。えーと、7時の段階でお知らせの更新がある事が多いけど今日はどうだろう?

 とりあえずいったんの胴体部分を見てみると『明日は定期メンテナンスとなっています。また、模擬戦のテスト実装も第二段階へと進みますので詳細は公式サイトか、いったんまでよろしくお願いします』となっていた。うん、明日は木曜日だから定期メンテナンスだし、第二段階の模擬戦のテスト実装は共同体によるトーナメント戦の開催だったよな。……間違ってても困るから、ここはちゃんと確認をしておこう。


「いったん、模擬戦のテスト実装って共同体によるトーナメント戦で良かったよな?」

「うん、そうなるね〜。あと、少しだけ今の模擬戦に追加があるよ〜」

「お、マジで? どんなの?」

「少し選べるマップが増えるのと、天気のランダム設定が出来るようになるね〜」

「ほうほう、天気はランダムで決まるようにするかをオンオフで設定する感じか?」

「うん、オフなら晴れに固定で、オンなら曇り、小雨、豪雨、雷雨、雪とかそんな感じ〜。ちなみにオンでも晴れになる事もあるよ〜」

「なるほど、そんな感じか」


 ふむふむ、天気がランダムで決まるというのもそれはそれで面白そうな内容だね。雷雨とかなら折角取った雷の操作が使えるだろうし、雪なら氷雪の操作が使えるだろう。うん、普段では昇華になってないと使いどころが難しいスキルを試すのにもいいかもしれない。


「……って、天気はランダムでしか決めれないのか?」

「とりあえずはそうなるね〜。そこは実際に試してみてからの意見を貰って、調整していく事になるかな〜。任意での設定も検討はしてるんだけど、まずは固定せずに色々試して欲しいってところ〜」

「あー、なるほどね。あくまで、今の段階はテスト実装って事なんだな」

「そういう事だね〜。だから不満な部分や改善して欲しい部分があれば、僕か公式サイトの方から要望をお願いします〜」

「ほいよっと。あ、それと追加されるマップってどんなエリア?」

「そこは追加されてからのお楽しみという事になっております〜」

「今の段階では教えてくれないのか」

「それはごめんね〜」


 まぁ追加のマップについては明日になれば分かる話だから、そこまで気にする必要もないか。とりあえず重要なのは、共同体で主催が可能になるトーナメント戦についてかだな。まだみんなと相談が出来てないけど、場合によってはタッグ戦の出場者はこれで決める事になる訳だしね。

 さて、とりあえずスクショの承諾が来てないかを確認してから、みんなと合流だな。何をするにしても、まずは合流が最優先!


「いったん、スクショの承諾はある?」

「今は特にないよ〜」

「あ、ないんだ。それじゃコケでログインをよろしく」

「はいはい〜。それじゃ楽しんでいってね〜」

「おうよ!」


 ハイルング高原で紅焔さん達とスクショを撮ってた時の様子のスクショが来てるかと思ったけど、どうやらまだ来てないっぽいね。まぁその辺りはスクショを撮った人が申請を出すタイミングに左右される事だし、そういう事もあるよね。

 とりあえずいつものようにいったんに見送られながら、ゲーム内へと移動だな。さて、まずはみんなと合流だ!



 ◇ ◇ ◇



 そして再びゲーム内へとやってきた。えーと、エンの近くにログインした時と違って、夜の日にネス湖の湖畔にログインしたら暗いな。……ちょっと離れた所ではログアウトした時にはいなかったバーベキューをしている集団がいるけど、やっぱりまずは夜目を使うべきだね。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 78/78 → 77/77(上限値使用:1)


 よし、これで視界は良好っと。でも今は夕方からずっとではあるけど曇りではあるから、普段よりは薄暗いね。うーん、これは場合によっては飛行鎧に組み込んでいる灯りが役立つかも?

 てか、ハーレさん以外とはネス湖へバラバラにやってきてるから、どこにいるのかが分からない。うーん、周囲を見回してみても特にそれっぽい姿は見えないぞ。アルならすぐに見つけられると思ったんだけどなー? それに成長体を2体持ってるはずだから、目立つ気はしたんだけど……。

 ここで変に時間をかけても仕方ないから、手っ取り早く共同体のチャットで位置を確認しようっと。


 ケイ    : おーい、みんな、何処にいる?

 サヤ    : あ、ケイが来たかな!

 ハーレ   : それじゃちょっと私は湖畔に戻るのさー!

 ヨッシ   : うん、多分その方が早いかも。


 ん? なんだか話の流れが見えないぞ? ハーレさんが湖畔に戻るって事は、もしかしてみんなは湖の中……いや、湖面をよく見たら俺の方に向かって進んできてる波紋があるぞ? あ、ハーレさんが泳いでるのか!


 ケイ    : ハーレさんが俺の方に向けて泳いできてるのは分かるんだけど、何がどうなってんの?


 サヤ    : それは、えーと、何と説明をしたらいいのかな……?

 ヨッシ   : サヤ、無理に気遣わなくてもいいよ。ケイさん、ごめんね。私が成長体のアルマジロを捕まえてたんだけど、ちょっと弟が悪さして強制ログアウトになっちゃって、取り逃がしちゃったんだ。


 アルマース : それで湖の中に逃げ込まれてな。今、大急ぎで探してるとこなんだよ。

 ハーレ   : そして私が合流しようとしてたとこにケイさんが来たのさー! 待ってても中々来ないんだもん!


 ケイ    : 片付けに時間がかかったんだから、それは仕方ないだろ。……てか、アルマジロって水中に逃げて大丈夫なやつなのか?


 サヤ    : ……さっきまで知らなかったんだけど、アルマジロって普通に泳げるみたいなんだよね。

 ヨッシ   : それで慌てて探してるんだけど、中々見つからなくて……。


 あー、ちょっとトラブルがあって変な事になってるみたいだね。ハーレさん以外の姿が見えないって事はアルとサヤとヨッシさんは湖の中って……あれ? アルかサヤがもう1体の成長体を持ってはずだけど、そっちは一緒に水中に持って行っても大丈夫なのか?


 サヤ    : あ、ケイ、私は今は水中には居ないかな。流石にもう1体の成長体は火属性のキツネだから、持っていけないんだよね。


 ケイ    : あー、サヤがもう1体の捕獲をしてるのか。そっちは火属性のキツネなのは良いんだけど、それじゃサヤが何処にいるんだ?


 サヤ    : えっと、アルが進化記憶の結晶を戻した小島かな。

 ケイ    : なんでそこにいるんだ……?

 アルマース : いや、聞きたい気持ちは分かるんだが、まずはアルマジロの捜索を手伝ってくれ。折角の成長体を逃がすとか勿体無いからな。


 あ、それは確かにそうだな。折角の報酬として手に入れた成長体だし、これからのフィールドボスの誕生にも必須だしね。それに水中で敵の捜索となれば俺が一番適任だもんな。


 ケイ    : よし、それじゃすぐに水中に入って獲物察知で探してみるわ。

 サヤ    : うん、お願いかな!

 アルマース : 途中でハーレさんを拾ってやってくれ! そこから手分けをして捜索を頼む!

 ケイ    : ほいよっと!

 ハーレ   : 了解なのさー!


 どうやらアルマジロは意外な事に泳げるらしいから、急がなければどこかに逃げ切られてしまう可能性があるな。……てか、アルマジロが泳ぐとは知らなかった……。

 とにかくアルマジロが水中に逃げ込んでどのくらい経ったかは分からないけど、急いだ方が良いのは間違いないな。方針自体は決まったから、飛行鎧を展開して獲物察知をしつつ――


「ぷはっ! みんな、何とか見つけたよ!」

「……え?」


 えーと、俺が準備をしようと思った瞬間に、ヨッシさんが氷の檻に閉じ込めたアルマジロを湖の中から持ち上げていた。……うん、どうやら無事に捕獲出来たようである。アルマジロのHPは危険域でもないから大丈夫そうだ。


「ヨッシ、ナイスなのさー!」


 うん、無事に見つかったのは良いんだけど、これから大々的に探そうと意気込んでいた俺は一体……いや、ここは喜ぶべきところだぞ! 

 逃げ切られる前に見つけられて良かったって、理屈では分かるんだけど、なんとなく釈然としない気分ー! ……ヨッシさんが悪い事をした訳じゃないんだし、無事に見つかって良しって事で気分を切り替えていこう、そうしよう。

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