第730話 ネス湖へ到着


 光っている手長海老を水の操作で運びながらザッタ平原を東に進んでいき、ネス湖へのエリアの切り替え地点の付近までやってきた。

 その移動中に『瘴気汚染』も完全になくなり、平常状態に戻れたよ。まぁまだ水の操作を発動中だから、行動値は回復してないけどね! とりあえず『異常回復Ⅰ』の効果を初めて明確に実感出来る機会ではあったなー。


「さてと、ここまで手長海老はなんとか持ってこれたけど、エリアが切り替わったらどうだろね?」

「ここが重要なとこなのさー!」


 元々いた場所からある程度の距離は離しても大丈夫だという事はネス湖へのエリア切り替え地点までやってきた事で分かっている。問題はエリアが切り替わった際にどうなるかだけど、それもあと少し進めば分かる話だな。


「そういやレナさん、なんでネス湖の方に持ってきたんだ? 別にダイクさんと2人で森林深部に戻る方向性でも良かったんじゃねぇの?」

「紅焔、ここまで来てからそれを聞くのかい?」

「いや、まぁ何となくは分かってるけど、一応なー」

「んー、大体紅焔さんが考えてる通りだとは思うよー? この持ち運びは失敗する可能性の方が高いって思ってるし、そうでなくてもケイさんとハーレに着いてきたんだから、目的地まではちゃんと一緒に行きたいからね」

「あー、やっぱりそういう理由か」

「そうそう、そういう理由ー!」


 ふむ、レナさん的にはこの手長海老の持ち運びは失敗する可能性の方が高いと判断しているんだね。まぁこれが持ち帰れるとなれば破格過ぎるから、俺も失敗する可能性は高いと思うけど。

 まぁ駄目で元々だし、試すだけ試してみないと万が一にもその破格な条件が成立した場合に大損だしね。さて、それじゃネス湖に移動して、結果を確認していこうじゃないか!


<『ザッタ平原』から『ネス湖』に移動しました>


 そうしてネス湖へとようやく到着した。ふー、道中に色々あったけど、無事に辿り着けたね! ふむ、混雑はしてないけど、どこの群集の人もそれなりにいるみたいである。

 あー、昨日アルに戻すのをお願いした小島のとこに人が集まってるな。ここの光る進化記憶の結晶から発生する一般生物を手に入れれたらと少し期待してたけど、これは多分無理っぽい。


 ネス湖で経験値増加のアイテムを手に入れるのは無理そうだけど、ここは気分を切り替えて光ってる手長海老がどうなったかを見ていくか。


「あー、やっぱり駄目か」

「あぅ……光らなくなってるのです……」


 うーむ、駄目な可能性が高いとは思っていたけど、やっぱりさっきまで光っていた手長海老はネス湖のエリアに切り替わった途端に光らなくなった。エリアが切り替わったと同時にだから、持ち運べる範囲は同じエリア内までってとこか。

 後はあのボーナス的な経験値増加の一般生物が複数発生する頻度の検証が必要だね。その頻度の確認は頻繁にチェックする必要があるから大変だろうなー。……多分誰かがやるとは思うけどさ。


「予想の範疇ではあったけど……それでも残念な結果になっちゃったかー。まぁこれは仕方ないとして、とりあえず目的地には到着だねー!」

「えーと、これからみんなはどうするんだい? まだ7時まで時間はあるよね」


 ちょっと予定よりも時間はかかったとはいえ、ソラさんの言うように現時刻が6時半くらいだから時間切れのタイミングよりはそこそこ余裕を持って到着出来たしね。でもそれほど大掛かりな事をするには微妙な残り時間でもある……。


「……そういやインベントリに入れた経験値増加効果がある手長海老って、アイテムとしてどう使うんだ?」


 紅焔さんのちょっとした疑問だけど、そういや使い方ってどうなってるんだろ? 黒い欠片の方はインベントリから取り出して砕いたり、食べたりすれば良かったけど、こっちの種類は同じでいいのか……? 俺の持ってる水草もどうなるんだろ?


「……生で丸かじりか?」

「よし、ダイク、それじゃやってみようかー!」

「えぇ!? いや、勿体無いから嫌だって!? てか、レナさん、大根じゃ丸かじり出来ないの知ってるよなー!?」

「うん、知ってるからそれは冗談だよ。えーと、確かその辺は情報があったはずだけど、地味にわたしはこっちのはさっきまで持ってなかったから、忘れちゃった。えーと……」

「え!? レナさん、持ってなかったの!?」

「いやいや、ハーレ、わたしだって何でも持ってる訳じゃないからねー? そもそもこれの取得には運が絡むし、ベスタさんとかまだ1個も進化記憶の結晶は見つけてなかったりするんだよ」

「……ベスタ、まだ見つけられてないんだ」

「今回の群集クエストは本当に運任せだからねー。あ、情報発見っと。えーと、水草は食べても良いし、磨り潰しても効果は発揮するってさ。これなら手長海老は仕留めるのでも使えるんじゃない?」


 ほうほう、そういう事なら黒い方のと大して違いはないんだな。あの光る手長海老は雑魚の一般生物だからスキルを使わなくても仕留める事は簡単だし、ダイクさんの大根のように食べられない種族なら食べる以外の手段も必要だよね。


「まぁこれで使い方については解決! それじゃ改めて何をしよっか?」

「んー、微妙な時間だよな……」

「はい! 私はちょっと湖畔にある小石を拾ってきます! 出来れば拡散投擲用の砂もー!」

「それならハーレさん、手伝おうか?」

「そうしてくれるとありがたいのさー!」


 俺らグリーズ・リベルテにとって、ハーレさんの弾は割と重要だもんな。ネス湖の湖畔にはパッと見た感じでも少なからず砂地もあるし、砂の補充には丁度いいか。


「紅焔、僕らはどうする?」

「あれだな、ケイさんと模擬戦をしてみて実感した弱点を何とかしたいとこだ。ソラ、ちょっと特訓の相手を頼めるか?」

「へぇ、紅焔は弱点を実感してたんだね? どういう内容だい?」

「あー、シンプルと言えばシンプルだな。……ちょっと最近は空中戦に頼り過ぎだったと思ってな」

「……それが悪い事だとは思わないけどね?」

「まぁそりゃそうなんだが、万が一に落とされた際に対応しきれるようにしときたくてな」

「なるほど。……その弱点は僕にも当てはまりそうではあるね」

「てか、俺らの『飛翔連隊』の課題ではあるな」

「……そうだね。紅焔、特訓するのはいいけど、ここでは軽くだよ?」

「分かってるって! 他の群集の人もいるんだしな!」


 どうやら紅焔さんとソラさんは軽くではあるけど、特訓をやっていくつもりみたいである。というか、俺が思いっきり紅焔さんの翼を狙ったもんだから、それに対抗する為か。

 まぁ実際に紅焔さんと戦ってみて思ったけど、飛行系の種族は翼が弱点ではあるよなー。紅焔さんについてはドラゴンに進化する前のトカゲのスキルとかが使えそうではあるから、次に戦う事があれば厄介な事になりそうだよね。


「あ、そうだ。紅焔さん、俺の水の昇華魔法が脱皮してた割には思ったほど効いてなかった気がするんだけど、あれって種族として魔法耐性が高めなのが理由?」

「あー、そういやあれで詰んだと思ってたけど、地味に生き残ってたよな」

「ふっふっふ、それはわたしが説明しよう!」

「それについては実況中にレナさんが解説してくれていたのです!」

「あ、そうなんだ」


 ふむ、そういう事ならレナさんにはあの思ったほどのダメージにはならなかった仕組みが分かっているんだな。これはぜひ聞いておきたいところだね。今からこれを聞くとさっき決めた予定が微妙になりそうな気もするけど……。


「私は内容を知ってるから、採取に行ってくるねー!」

「あ、手伝うって言ったのに何か悪いな」

「それは問題ないのさー! それに多分ケイさんは知っておいた方が良いと思うのですー!」

「……そういう内容なのか」

「ま、魔法が主力なら知っといた方が良いと思うぜ、ケイさん。紅焔さん相手だと色々な要素が組み合わさって複雑な事にはなってたからな」

「ダイクさん、それ、マジで?」

「おう、マジで!」


 ふむ、これは本格的にしっかりと聞いておいた方が良い情報のようである。色々な要素が組み合わさって複雑な事になっているってのは、ものすごい気になるところだしな。どういう要素が組み合わさっているか、それが重要だね。


「レナさん、説明を頼んだ」

「うん、頼まれました! えーと、それじゃ紅焔さんの構成で昇華魔法のダメージに関わる要素を分解していくよ。まずは代表的なところで火属性だけど、ここはケイさんの水属性とは相性は最悪なとこだね」

「まぁ、属性相性的にはそうだよな」

「うん、単純にそこだけ見ればそうなんだけどね。そこに軽減していく要素がいくつかあって、まずは紅焔さんがドラゴンである事。ドラゴンは東洋系の竜でも西洋系の龍でも、他の種族より少し魔法が効きにくいっていう種族としての特徴があるからね」

「うん、それについては知ってる」


 どこで聞いたかは正確には覚えてないんだけど、ドラゴン系はそういう特徴があるのは知ってるからね。でもこの感じだと多分それだけじゃなさそうだな。


「そして次の要素。脱皮でステータスの防御が大幅に下がるじゃない?」

「あー、うん、だから攻め時だとは思ったんだけど……」

「ところがここにちょっと落とし穴があってねー。ステータスの防御って、魔法攻撃に対する防御力に影響はあるにはあるんだけど、実は影響度は低めなんだよね」

「え、マジで!?」

「え、そうなのか!?」

「うん、そうなの。魔法に対する防御力はステータスの魔力の影響の方が大きいんだよ」

「あ、そういう事か!」

「って事は、脱皮では魔法への防御力はそれほど下がらないのか!」


 あー、なるほどね。そっか、漠然と魔法型には魔法は通じにくいのは理解してたけど、ステータスの魔力が魔法への防御力に対して影響が大きいからそうなっているんだな。逆に物理型に魔法が通じやすいのはステータスの魔力が低いからか。そう考えてみると……。


「もう1つの要因は紅焔さんがバランス型だからか……?」

「うん、そういう事ー。紅焔さん、バランス型といっても少し魔法寄りだよね?」

「おう、そうだぜ! つまりあれか、脱皮しても大して魔法への防御力は下がってなくて、種族としての特徴も合わさって軽減されてたって事か」

「そうなるねー! それとこれはソラさんとハーレに確認したけど、紅焔さんは『火属性強化Ⅰ』を持ってて、ケイさんは『水属性強化Ⅰ』は持ってないよね?」

「そこも関係してくんの!? いや、まだ本当に『水属性強化Ⅰ』は持ってないけどさ!?」

「マジかー。あれってあんまり実感はなかったけど、そんなとこで効果が出てたのか!」


 『水属性強化Ⅰ』については今日取る予定でこのネス湖までやってきてるんだけど、まさかあれを持ってない事が影響を与えていたとは……。でもあれってぞの属性を持つスキルを強化するはず……って、あー!?


「……もしかして水の昇華魔法の前に、紅焔さんが発火を使ってたのが地味に意味があった?」

「そこについては推測にはなるんだけど、多分そこで昇華魔法が少しだけど相殺になって威力が削がれてたと思うよー。多分、ケイさんが『水属性強化Ⅰ』を持ってたら無意味だっただろうけどね。後は昇華魔法の威力は魔力よりも、消費する魔力値の量で威力の大半が決まるとこもあるからね」

「うわ、マジか……」

「知らない間に俺は地味に威力を削いでたのか……」


 うん、紅焔さん自身は意図してやっていた訳じゃないみたいだけど、結果的にはそれらの積み重ねと、俺の方の強化不足が招いた結果という事なんだろう。

 そっかー。あの時は紅焔さんは自己強化を使って全体的なステータスも強化してたし、俺も昇華魔法に使った魔力値は他に使ってた分だけ少なめだったもんな。うん、確かに色々な要素が組み合わさった結果なんだね。


「って、レナさん、ちょっと待った! それって自己強化で魔法の威力も上がるのか!?」

「あ、それは魔法に対するの防御力は上がるけど、魔法の威力は上がんないみたいだね。そういうスキルの仕様みたい」

「……それは残念」


 まぁそれで魔法の威力も上がるなら、魔法型のプレイヤーは常に自己強化を使用し続けたくはなるもんなー。……あくまで自己強化は物理攻撃向けの強化スキルって事なんだろうけど、ちょっと残念。

 でもまぁ、紅焔さんとの模擬戦で水の昇華魔法が思ったほどの威力が出ていなかった要因は理解した。あれだね、昇華魔法は魔力よりも消費魔力値に威力が左右されて決して万能という訳ではないし、場合によっては普通の魔法を使った方が良い場合もあって、属性強化のスキルも割と重要な要素になっているんだな。


「小石と砂の採集は終わりなのさー! ダイクさん、ソラさん、手伝いありがとねー!」

「いやいや、これくらいはどうって事ないよ」

「そうだぜ、ハーレさん! レナさん、そっちは終わったかー?」

「うん、丁度終わったとこー!」


 いつの間にかダイクさんとソラさんはハーレさんの採集を手伝いをしてくれていたようである。……俺らがレナさんから話を聞いている間は暇だったんだろうな。まぁこれはありがたい話ではあるよね。


「あ、もう7時前だね。それじゃ今回はこの辺で解散にしよっか」

「あー、もうそんな時間か。ハーレさん、一旦終了だな」

「了解なのさー! みんな、お疲れ様でしたー!」

「また機会があれば一緒にやろうじゃないか」

「だなー。ま、今回の1PTのメンバーとしては珍しい組み合わせだったけどな」

「俺とレナさんはともかく、グリーズ・リベルテと飛翔連隊は5人組だし、中々この6人は珍しいか」

「ま、それはそうだけど、たまにはこういうのも良いって事で! とりあえず今回はこれで解散!」


 そうしてレナさんの号令で解散である。ちなみに元に戻った普通の手長海老に関しては灰のサファリ同盟で塩焼きにするという事でレナさんが回収していった。

 今日の変則的なPTではあったし、予定外の事も色々あったけど、本来の目的であったネス湖までの移動は無事に完了だ。さて、一度ログアウトしてから晩飯を食って、それからみんなと合流して、まずはネス湖でフィールドボス戦だな!



 ◇ ◇ ◇



 ネス湖で敵や他の人の邪魔にならない端の方に移動させてログアウトをして、いつものいったんの場所にやってきた。えーと、今回の胴体は『おっしゃー! 開発中の機能のバグ取り終了!』となっている。この前からバグがどうとかあったけど、とうとう解決したんだな。運営さん、お疲れ様です!


「いったん、お知らせとかスクショの承諾ってある?」

「今は特にないよ〜」

「ほいよっと。そんじゃ晩飯食ってくるから、ログアウトで!」

「はいはい〜。晩御飯の休憩だね〜」

「おうよ!」


 そうして特にこれといった事もなく、いったんに見送られながらログアウトをしていった。さて、今日の晩飯はなんだろうね?

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