第727話 ちょっとしたミス


<『ハイルング高原』から『ザッタ平原』に移動しました>


 浄化魔法の反動で動けなくなっている紅焔さんを岩で運びつつ、ダイクさんの水のカーペットにみんなで乗ってやってきました、ザッタ平原! ここから更に東に向かえばネス湖へと辿り着くね


 そして目の前には夜の日に灯りを点ければ虫が大量に集まってくる例の林がある。ふむふむ、エリアは切り替えになったもののザッタ平原も曇り空か。まぁさっきまでのハイルング高原では強引に雲を吹き飛ばしただけだし、この周辺は今日は全体的に曇りっぽいね。


「……あ、こっちの方が直線距離で最短だったけど、失敗したかも……? 『魔力集中』『乱脚連蹴』!」

「え、レナさん、それってどういう――」


 そう言いながらレナさんリスの脚が銀光を放ち始め、林の中へと突撃していき、あちこちから銀光が強まると同時にポリゴンへ変わっていく様子が見えていた。

 うん、この様子を見ただけで十分分かったから聞くまでもなかったよ。思いっきり虫の集団が集まってきていて、その原因は紅焔さんの発動したままの発火だな。空中だから大丈夫かと思ったら、完全にアウトだったようである。

 ソラさんはいつの間にか発火は解除してたけど、紅焔さんはスキルの操作が出来ない状態で発火は発動したままだもんな……。


「わー!? 虫が群がってきたよー!? 『魔力集中』『散弾投擲』『散弾投擲』『散弾投擲』!」

「……そういえばここの林は光に集まってくるんだったね。紅焔、モテモテじゃないかい? 『ウィンドボム』『ウィンドボム』!」

「この大量の虫、原因は俺かー!? てか、敵の虫に集られて嬉しくねぇって!?」


 とりあえずレナさんとハーレさんとソラさんで群がっていくる虫を次々と倒しているけど、次から次へと虫が湧いてくるね。でも基本的に飛べるようなのばっかだな。

 今はもうここの適正Lvからはかなり離れてしまったから経験値は全然だし、どれもほぼ1撃で仕留められているから戦力的にはまるで問題はない。ないけど、これって俺もダイクさんも移動操作制御を使用中だから下手に手が出せないな……。


「レナさん、これってどうするんだ? 俺、行動値の回復速度が落ちまくってるからまともに攻撃出来ないぞ」

「俺は身動きが取れん!」


 まぁ自慢げに言う事ではないけども、今の俺と紅焔さんは間違いなく戦力外ですよねー。あ、でも暴発でも使えば俺の行動値はどうにかなる? ……切羽詰まっているならともかく、今はそこまでのリスクを負う必要もないか。


「んー、どうしよっか? 経験値は微妙だけどもう手っ取り早くザッタ平原での敵の遭遇数の上限まで一気にやっちゃう?」

「あ、その手があったね」

「賛成なのさー!」

「レナさんらしい突破方法だなー」


 ふむ、そういや氷樹の森で1エリアで普通に遭遇する敵の数には上限があるってのを聞いたっけ。その上限までサクッと仕留めて、それ以上の敵との遭遇を減らそうという算段か。うん、ここならかなりLv差があるから、仕留めきるのは容易いはず。


「ケイさんと紅焔さんもそれで良いー?」

「そもそも今の状態の俺に選択権はいらん!」

「俺も問題ないぞ!」

「よし、それじゃそれでいくよー! ハーレとソラさんで防衛をお願い!」

「それなら僕は索敵で正確な位置を把握しようかな。『鷹の目』! ハーレさん、右上から来てるよ」

「危機察知にも反応ありなのさー! 『狙撃』! そっちもさー! 『連投擲』!」


 おー、ソラさんとハーレさんがそれぞれの察知スキルで見落としそうになる虫を優先的に倒していってるね。……それでもまだまだ数が多い。さて、こうなってくると広範囲攻撃での殲滅が有効かな?


「それじゃわたしは敵を掻き集めてくるから、ダイクは合図をしたらウォーターフォールをお願いねー!」

「おうよ!」

「ダイクさん、それなら俺も一緒にやるぞ?」

「……ん? ケイさん、今は戦闘は厳しいんじゃ?」

「あー、昇華魔法1発だけなら大丈夫。多分……」


 回復が盛大に遅くなってるとはいえ、魔力値自体は結構残ってるからね。浄化魔法も瘴気魔法も、反動は凄まじいけど魔力値は全然消費しないからなー。今の状態でも昇華魔法は使えるよね……?


「俺だけ完全な足手まといなのか!?」

「紅焔、実際のところどの位で動けるようになるんだい?」

「えーと……これってカウント出ないんだよなー。動けるようになるのってどんくらいだっけ?」

「確か5分くらいだったはず……って、よく考えたらそろそろ紅焔は動けるんじゃないのかい?」

「あー、そういやそんなもんだっけか」


 えー、ぶっちゃけ動けなくなる事だけ覚えてて、その動けなくなる時間は全然覚えてなかったけど、5分なら普通に待ってれば済んだ話じゃない? まぁ今更言っても仕方ないんだけどさ。


「それなら紅焔さんが動けるようになったら、ダイクとスチームエクスプロージョンで済ませるよー! ケイさんは温存で! それじゃ行ってくるねー! 『発火』!」

「おっし、了解だ!」

「……元気だなぁ、紅焔さん。あ、レナさん、俺はあんまり魔力値は回復してないぞ?」

「大丈夫、大丈夫! 敵は雑魚ばっかだしね!」

「ま、それもそうか」


 うーん、事態は一変して俺の方が役立たずになってしまった気がする。……でも今の状態なら気にしても仕方ないか。

 そもそも纏瘴の効果時間が1時間なのに、時間経過での解除以外は不可能になる瘴気魔法を早々に使ったのが失敗だったね。まぁスクショの演出の為に使ったんだし、そこは問題はないか。


 それにしても発火を使ったレナさんが林の中を駆け回って、その後ろを凄い数の虫が追いかけてきているね。うーん、これが適正Lvの敵なら良い経験値になったんだろうけどなー。


「おし、復活!」

「それじゃ任せたよ、紅焔さん、ダイク! とう!」

「おっしゃ、いくぜ、ダイクさん! 『ファイアクリエイト』!」

「おうよ! 『アクアクリエイト』」


 そうしてレナさんが大量の虫を集めた状態でダイクさんの水のカーペットの上に飛び乗ってきた。そして即座にダイクさんと紅焔さんがレナさんを追いかけて来ていた大量の虫に向かってスチームエクスプロージョンを放っていく……って、ちょい待ったー!?

 いや、もう止めるには遅いからダイクさんの水のカーペットの方の防御に回そう。みんなして落ちる必要もない! 


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 52/71 → 52/77(上限値使用:1)


 よし、とりあえず俺の方は解除になったけど、ダイクさんの方は何とか強制解除は防げたね。ふー、危ない、危ない。


「おわっ!? あ、近過ぎたのか!」

「……悪い、紅焔さん。ダイクさんの水のカーペットの防御を優先したから、紅焔さんを落としちゃって……」

「あー、気にすんなって! 今のは俺も不注意だったからよ!」

「それなら良いかー」

「……あれ? ケイさん、それほど悪いとも思ってなかった?」

「さて、何のことやら?」


 ぶっちゃけあんまり悪いとは思ってないのは正解だけどね。そもそも5分で動けるようになるのを紅焔さんが覚えててくれたならそれを待つという手もあった訳で……まぁ俺も聞いた事はある筈なのに忘れてたけども。

 ま、とりあえず今のスチームエクスプロージョンで邪魔な虫は林の一画が更地になるのと引き換えに一掃出来た……いや、まだ他から集まってきてるな。うーん、まだ上限数には達していないのか。


「あらら、結構倒したと思ったけどこれでもまだ駄目なんだね。うん、これ以上はやるだけ無駄だし、撤退ー! ダイク、空中を飛ばしていってー!」

「ほいよっと! ケイさんが強制解除を防いでくれて助かった!」

「そりゃどういたしまして!」


 そこから一気にダイクさんが水のカーペットの速度と高度を上げて、紅焔さんとソラさんが並んで飛んできている。それにしてもまだ虫の集団は追いかけて来るのか……。


「紅焔、とりあえず発火を解除だよ!」

「あ、そういやそうだった! 発火、解除!」


 うん、そりゃ原因を解除するのを忘れてたら追いかけてきますがな。レナさんの方は、いつの間にか発火は解除していたようだけどね。

 さて、虫を集める原因は取り除いたから、今追いかけてきている集団を始末すればとりあえずは片付くかな? 俺が魔法砲撃にしたウォーターフォールか、水流の操作や、岩の操作で仕留めても良いけど、どうしたものか。……よし、これで行くか。


「ハーレさん、砂で拡散投擲! その後散弾投擲を連発! 打ち漏らしは俺が殺る!」

「了解です!」

「え、ケイさん、いいの?」

「流石に何もなしってのも気が引けるから、これくらいはさせてくれ」

「そっか、そういう事ならハーレとケイさんに任せるねー!」

「いっくよー! 『拡散投擲』!」


 おー、銀光を帯びた砂が虫に当たる度にどんどん銀光が強くなっていきつつ広がっていく。へぇ、曇り空で普段より暗めな状況で見ると、これはこれで不思議な感じだね。

 っと、いつまでも見てても仕方ないか。……出来るだけ行動値は消費しないようにして、効率的に仕留めて……いや、経験値は微妙だし別に仕留めなくてもいいか。ならこれでいこう。


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 51/77(上限値使用:1): 魔力値 210/216


 石のナイフで切っていこうかと思ったけど、仕留めなくても良いなら水で地面に叩きつけていってやる。この攻撃手段の水バージョンも試しておきたかったんだよねー。

 まぁ水でこれをやるなら、ある意味原点に帰ってきたって感じだけど。最初期はこれが一番の主力スキルだったけど、スキルLvが上がり色々とパワーアップはしてるから全く同じものでもないよな。


「『散弾投擲』『散弾投擲』『散弾投擲』!」


 拡散投擲に当たった虫はあっという間にポリゴンになって砕け散っていったけど、砂を使った散弾投擲では威力が分散し過ぎてLv差があっても微妙か。……まぁ砂は万能な弾って訳じゃなく、目潰しや拡散投擲向けって感じだね。

 さて、ハーレさんが仕留め損なった敵の処理をしていくか。正確な敵の位置も把握したいから、獲物察知と併用していこう。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を4消費して『獲物察知Lv4』は並列発動の待機になります>  行動値 47/77(上限値使用:1)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『水の操作Lv6』は並列発動の待機になります>  行動値 41/77(上限値使用:1)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 よし、これで水球を3つ操作して、それと同時に敵の位置も獲物察知による矢印で正確に把握が出来る。今はダイクさんの水のカーペットの上で固定してないからそこまで速度は出てないんだけど、ここで引き離せば確実に逃げ切れるぞ!


「『散弾投擲』!」

「そこだ! おら!」

「あ、ケイさん、倒すんじゃなくて吹っ飛ばす方向性にしたんだねー?」

「まぁ、経験値も微妙だし、今はそれで良いよな?」

「うん、問題ないよー!」

「それなら僕も叩き落とすのを――」

「あ、ソラさんは進行方向を確認してくれ! そっちにも少しは敵がいる!」

「『鷹の目』! ……どうやらそうみたいだね。『ウィンドボム』!」


 ふー、俺は進行方向に対して後ろ向きに攻撃はしてるけど、進行方向にも少し黒い矢印があったからね。そっちに関してはソラさんに任せしまっていいだろう。後はひたすら近付いてくる虫を叩き落とす対応をしていくまでだ!



 それからそれほど時間は経ってはいないけども、もう追いかけてきている虫はほぼいなくなってきた。1体ずつは雑魚だけど数が多いわ!


「これで終わり!」


 よし、今の……多分カブトムシに上から水球を叩きつけたので始末は終了っと。長めの時間で継続して使う為に水の操作の勢いは抑えめに、威力よりは反発力を利用して吹き飛ばす方向性でやってみたけど、これはこれでありだね。

 この魔法産の水の特徴である反発性を上手く組み込めば、石のナイフの加速にも使えるか……? 石のナイフを土の操作のみで加速させるより、他の手段での加速を組み合わせて威力を上げるのもありだよね。


 何はともあれ無事に林は抜けられたか。……俺が倒さずに叩き落としたのがどうかは分からないけど、見事に倒したのは残滓しか居なかったなー。多分、ここはLv上げに使う人いたりして、黒の暴走種や瘴気強化種は倒されて少ないんだろうね。

 それにしても進化ポイントの収穫すらなしとか、かなり無駄な戦闘だった……。うん、時にはこういう失敗もあるという事を肝に銘じておこう。


「みんな、お疲れ様ー!」

「……あはは、見事なほどのほぼ成果なしの戦闘だったね。ねぇ、紅焔?」

「うっ!? 今回は俺が悪かった……」

「ソラさん、そこまで! みんなが失念してたんだから、責めるのは無しだよー!」

「……それもそうだね。紅焔、今のはごめん」

「あー、別に気にしてないから良いって!」

「……レナさんが、仲裁をした……だと!?」

「ダーイークー? それはどういう意味かなー?」

「いえ、何でもないです!」


 なんだかんだで騒々しくも楽しい雰囲気ではあるし、これはこれで良いもんか。さて、それじゃ改めてネス湖に向けて移動していこう!

 ここから先、ネス湖までは特に変わった場所はないからスムーズに行けるはず。あ、そういや俺が光る進化記憶の結晶を見つけたデンキウナギのいる小さな湖はあったっけ。あれはどうしようかな?

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