第717話 トラブル発生?
何やら予想もしてなかったけど、ハーレさんとレナさんの模擬戦の実況で解説をやる事になってしまった。まぁちゃんと報酬も出るという事だし、どうもただの模擬戦ではないようなのでしっかりとやっていこう。
「さて、それではケイさん、紅焔さん、実況の準備を始めましょうか」
「おうよ!」
「ほいよっと」
という事で、桜花さんの樹洞の中へと移動して……って、かなり広くなってる!? そういやさっき桜花さんは『不動の支配Ⅱ』を取得したとか言ってたっけ。お、中継の画面も少し大きくなったか? 映っているのは、成長体のイノシシの突撃対決みたいな感じだな。
それにしてもハーレさんとレナさんの模擬戦……というか、実践講座を見に来た人が全員入ってきたけど、それでも全然余裕にようである。……ん? なんか樹洞の一角で騒いでいる集団がいるね。なんだろ?
「今回は投擲と蹴りの実戦での使い方か。……レナの蹴りって参考になるのかね?」
「あいつ、やってる事は簡単そうに言うけど、実際は無茶苦茶だもんな」
「だから桜花さんがハーレ……というかケイか。そっちに解説を頼んでたんじゃねぇの?」
「あー、そうかもな」
「でも魔法型なんだろ? 近接の蹴りの解説って出来んの?」
「案外知らない事が多いって言うし、無理なんじゃね? どうせ大したことないだろ」
「ま、解説なしよりは少しはマシなんじゃね? マシでしかないかもだがな!」
「少しでも解説出来たらだけどなー」
「確かにそりゃそうだ!」
「専用の報告欄まであるのに、出来なかったら赤っ恥だよな!」
「ちょ!? そこの4人組、やめないかい!?」
ほう、ソラさんが止めているけど、何か好き勝手な事を言ってくれてる4人組がいるな……? ふーん、リスとトカゲとオオカミと人参か。
まぁ確かに俺は魔法がメインではあるし、そりゃ知らない事だって色々あるけどさー? これでもそれなりに相手が何をしてるかの分析くらいは出来るんだぞ?
「おーい、お前ら……本人が目の前にいるからな?」
「「「「げっ!?」」」」
いや何が『げっ』だよ。声を揃えて驚いてんじゃねぇよ。ぶっちゃけ俺と紅焔さんがすぐに来るの分かってただろうし、俺らよりも状況は把握してただろうに、ふざけてんの? 無責任に好き勝手な事を言うだけ言っといて、その反応って何?
まぁレナさんが難しい事を軽々とやっているの間違いじゃないけど、こういう風に言われるとイラッとくるね。やっぱり解説はキャンセルして……いや、それはそれで今のを認めるようで気に入らないな。
「……ケイさん? あ、地味にキレてんな、これ」
「……あー、桜花さん?」
「ケイさん、悪い……。今のは俺が強制的にでも止めとくべきだったな。気分を害したなら、解説はキャンセルして――」
「いや、それはいい。言われっぱなしは気に入らないから、解説し切ってやろうじゃねぇか!」
「……そうか。まぁケイさんがそれで良いなら俺は良いが……お前ら、自分らが出来ない事に対して好き勝手言い過ぎじゃねぇか?」
「「「「す、すみませんでしたー!」」」」
「……ケイさん、とりあえず落ち着いてもらっていいかい? いや、気持ちは分かるんだけどね?」
あ、いかん、いかん。ちょっとイラッと来て、雰囲気を悪くしてしまっていた。とりあえずゲーム内では意味はないけど気分的に深呼吸をして……ふー、少し落ち着いた。
今まで灰の群集の中でこういう事を言われる光景に遭遇した事は無かったけど、知らないところでこういう風に言われたりはしてるのか。……まぁ、どこにでも好き勝手な事を言う奴は存在するって事なんだろうね。
「ちなみにてめぇら、依頼を出した俺とレナさんに対しても暴言を吐いてる自覚はあるんだろうな? 今後の取引については考えさせてもらうぜ」
「あぁ、確かにそういう事にはなるね。レナさんには僕から後で連絡しておくよ」
「「「「うげっ!?」」」」
あ、よく考えたらそういやそうなるのか。そもそも依頼で報酬を出すのは桜花さんとレナさんだから、この4人組はただのギャラリーでしかない。根本的に俺がちゃんと解説出来なかったとしても、文句を言う権利がある立場じゃないか。
てか、桜花さんから取引を制限されて、レナさんに悪印象を持たれるとか、結構悪い状況だよなー。ま、知った事じゃないけど。それに他のギャラリーからも白い目で見られて4人組は完全に萎縮してしまっている。あ、逃げ出す気か!?
「おや、逃げるのですか? 大口を叩いて好き勝手な事を言った割に、随分と小物なのですね?」
「おう、言ってやれ、琥珀さん!」
「こっちは参考に見に来てんだ、邪魔すんな!」
「こんなんで逃げるくらいなら、余計な事を言うんじゃねぇよ!」
「マナーを考えろよな!」
「何様のつもりだ、てめぇら!」
「楽しみにしてたのに台無しにする気かよ」
「お前らみたいなのが好き勝手言ってたら、解説してくれる人がいなくなるだろうが!」
「あ、こいつら覚えがあるぞ。確か赤の群集から移籍してきた奴らだ! この前、他の解説をしてた人に野次を飛ばしてたぞ!」
「あ、言われたらそうだ!? 確か出禁になった人達!」
「って事は、赤の群集での騒動時の連中か!」
あ、やばい。琥珀さんが4人組が逃げようとしたのを挑発的に止めたのをキッカケに、他の人からの不満が噴出してきた。……俺自身もキレたとはいえ、この状況は良くないね。
それにしてもあの4人組は赤の群集で便乗犯だった奴らなのか……。灰の群集に移籍してきて、移籍の証の白い線も消えてるのにこんな真似をするんだね。
「紅焔さん、昇華魔法を――」
「ケイさん、ストップ。ケイさんがやるのはやめた方がいいよ。紅焔もね。無関係の人じゃないと悪化しかねないし……」
「……ソラさん? でも流石にこのままって訳にも……」
確かに俺が止めるのも不適格だとは思うけど、このままだと乱闘にでもなってハーレさんとレナさんの模擬戦の実況や観戦どころではなくなってしまう。かと言って、この場を無事に収められる人となるとそうはいない――
「実践講座というものに興味を示して来てみれば、何の騒ぎなのだ、これは? なぁ、疾風の」
「今フレンドに聞いたが、どうもケイさんを筆頭に実況をする人達に対する陰口が原因でこの場にいた大多数で乱闘になりかけてるらしいぞ。迅雷の」
え、何か思いっきり風雷コンビが来たっぽいけど、完全に部外者だった実力者がこのタイミングでやってきたのはチャンスか!? でもいつもはトラブルを起こす側の風雷コンビに任せて大丈夫なのか……?
「……ふむ、ならば部外者の方が収めやすそうではないか」
「この状況ならそうだろうな」
「では、やるぞ。疾風の! 『エレクトロクリエイト』!」
「おうよ、迅雷の! 『エレクトロクリエイト』!」
「え、風雷コンビ!?」
「ぎゃー!?」
「ちょ!? 待っ!?」
おぉう、ダメージはないけど盛大に樹洞の中に雷鳴とともに落雷が多数発生し、流石に慌てたみんなは我に返っていた。……ふー、とりあえずショック療法は成功っぽいね。
「風雷コンビ、やってきたきて早々ありがとな」
「おう、気にする事はないぞ、ケイさん」
「具体的な内容は知らぬが、貴様ら少しは落ち着かぬか! 陰口を言ったものもそうだが、それに乗っかって乱闘騒ぎなど言語道断!」
あ、表情が分かる種族の人は何だか釈然としないという表情をしながら、言葉を発せないでいる。まぁ、トラブルメーカーの風雷コンビに説教をされれば複雑な心境になるのも仕方ないとは思うけど、迅雷さんが言ってる事が正しいもんな。
俺もちょっと怒りに任せてキレてしまったのもあるから、少し反省しておかないとね。って、あれ? レナさんからフレンドコールが来たって事は、普通に模擬戦の準備が終わったのかな? とりあえずフレンドコールに出ておいてっと。
「あ、ケイさん? 模擬戦準備は終わっったよ。でもそっちでちょっとトラブルになってるって聞いたけど、大丈夫?」
「あー、うん。まぁちょっとね。誰かから連絡が行った?」
「ついさっき紅焔さんからねー。……陰口に関しては、一部ではあるけどそういうのはあるのは把握してたんだけど先に対処出来なくてごめんね。やっぱりちゃんと引き継いでからするんだったよ……」
「……まぁそれはレナさんが悪い訳じゃないから気にしなくていいって」
「いやいや、それじゃわたしが納得いかないからさー。風雷コンビが収めてくれたみたいだけど、模擬戦は中断してそっちの後始末に戻るよ。あ、依頼はキャンセルになるけど、迷惑料として提示した報酬は渡すから、それは心配しなくて良いからね」
え、レナさんがそこまでする必要ってないよな!? 別にレナさんが迷惑行為をした訳じゃないんだし、それは逆に俺の方が申し訳なくなってしまう。それに解説しきってやると宣言したからには、それもやらなければスッキリしないしね。
「レナさん、それは待った! 俺はこのままやってくれて良いと思ってる」
「……え? でも、それで良いの?」
「ま、好き勝手に言われっぱなしも気に入らないし、他の人にも悪いからな」
「……そっか。まぁケイさんがそう言うなら、それでも良いけどさ」
「って事で、予定通りに進めてくれ。こっちはこっちで、ちゃんと実況が出来るように調整するからな」
「うん、分かった。それじゃ準備が終わったらわたしかハーレに連絡お願いね」
「ほいよっと」
とりあえずレナさんとは話がついたので一旦フレンドコールを切っておいて……さて、それじゃちゃんと実況が出来るように準備をしていこうか。
「ケイさん、普通に実況をやるのかい?」
「ま、そのつもりだな。桜花さん、それで良いか?」
「俺は別に構わねぇが……そこで縮こまってる4人はどうする? ここは俺の樹洞内だから、俺の権限で追い出せるが?」
「それは別に良いよ。俺が解説出来なきゃ、好きなだけ笑え。ただし、俺が解説し切ったら二度とこういう真似はしないと誓ってもらおうか。それが出来ないなら、灰の群集から出ていけ」
その俺の言葉に問題の4人組は何度も何度も頷いていた。ま、乱闘寸前まで行って何倍もの人数のプレイヤーから敵意を向けられたのは流石に堪えたようである。まったく反撃される覚悟がないなら、敵意を人に向けるなよ……。
「もう大丈夫ではあろうが、我らが逃げぬように見張っておこう。なぁ、疾風の」
「おう、そうするか。なぁ、迅雷の」
「んじゃ、その辺は風雷コンビに任せた」
「任せておけ」
「任せとけ!」
さて、問題の4人組は風雷コンビから逃げ切れるとは思えないから大丈夫だろう。……他のみんなはとりあえず沈静化して俺らの様子を確認しているってとこか。
「桜花さん、再開の宣言を任せていい?」
「あー、まぁそれで良いなら了解だ。お前ら、いつまでも妙な雰囲気は止めて、予定通りの中継に戻すぞ!」
「あ、普通に予定通りになるんだね」
「あー、一時はどうなるかと思った……」
「コケの人がキレてるのって初めて見たな」
「……とりあえずは一安心だね」
「コケの人、解説楽しみにしてるぞー!」
「参考にさせてもらうからねー!」
「おうよ! その辺は任せとけ!」
って、思いっきり返事をしたけど、地味に責任重大になっちゃったなー。まぁこうなった以上は俺の全身全霊を持ってやり遂げるのみ! 普通に解説を楽しみにしてたり、参考にするつもりでいる人もいるみたいだしね。
それにレナさんや桜花さんが信頼してくれての依頼だろうし、灰のサファリ同盟の琥珀さんも来ているんだからそっちからも期待はされているんだろう。あの問題の4人組の件は無くても、そこら辺の信頼には応えたいからね。
「あ、そういや聞いてなかったけど、琥珀さんと紅焔さんはこうなったけど大丈夫?」
「えぇ、何も問題ありませんよ。むしろやる気に満ち溢れているくらいですね」
「あぁ、俺もだぜ。舐められたままじゃいられねぇもんな」
「ははっ、そりゃそうだ! それじゃちょっと土台を作って、実況席でも作っていくか!」
「よろしくお願いしますね、ケイさん」
「任せたぜ、ケイさん!」
「おうよ!」
という事で、実況席を作っていこうじゃないか。えーと、紅焔さんは通常時の大きさに戻ってるし、琥珀さんのクジャクも羽を広げなければそれほど大きな場所を取ることもない。……ただ、今回は舐められた事もあるから簡素なものにはしたくないなー。
よし、俺と紅焔さんと琥珀さんをそれぞれに祀るような神殿的なのを岩で生成しよう。
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 76/77(上限値使用:1): 魔力値 213/216
<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します> 行動値 57/77(上限値使用:1)
<熟練度が規定値に到達したため、スキル『岩の操作Lv3』が『岩の操作Lv4』になりました>
おっと、岩の操作のLvが上がった! 最近岩の操作の使用頻度は高めだったし、そのお陰かな? まぁ今はそれはいい。
とりあえず中継画面の左側に俺と紅焔さんを少し前方の左右に低めの土台を作って、少し後ろに少し高くした琥珀さんの土台を生成。……ついでに土台のすぐ横に燭台っぽいのを1個ずつ用意してっと。
「琥珀さんは後ろ側の土台で雷纏いを、紅焔さんは左右のどっちでもいいけど火の操作を頼んだ!」
「大して意味はないですが、目立たせたいのですね。それではお付き合いしましょうか。『羽根広げ』『雷纏い』!」
「おし、俺は燭台に火を灯す感じだな。『ファイアクリエイト』『火の操作』!」
よし、ぶっちゃけ実況としては意味はないけど、みんながスキルを発動しつつそれぞれの土台の上に乗ったのでこれで用意は完了だ。
さて、レナさんにフレンドコールをして……よし、すぐに繋がった。
「レナさん、準備完了したぞ」
「分かったよー。それじゃ始めるから、フレンドコールは切るね」
「ほいよっと。桜花さん!」
「……よし、こっちも開始の通知が来たから映し出すぞ」
そうしてレナさんはすぐにフレンドコールを切り、桜花さんが中継の画面を表示していく。さて、それじゃハーレさんとレナさんの模擬戦と蹴りと投擲の実践的な活用方法の講座の開幕だな! おっし、全力で分析をしつつ解説をしていくぜ!
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