第716話 レナの企み


<『模擬戦エリア』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 紅焔さんと模擬戦が終わって森林深部へと戻ってきた。あ、スキルの使用状況がリセットされてるから夜目が切れてるね。とりあえず再発動しとくか。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 78/78 → 77/77(上限値使用:1)


 明るいエンの近くだからまだ無くても問題はないけど、これで視界は良好になった。……そういや、模擬戦を始める前より少し人が増えてきた気がする。ふむ、時間的に考えれば帰宅した人が増えてきたってとこかな。

 あ、一発芸の取得大会は集まってた場所に人がいなくなっているから終了したみたいだね。まぁそんなに長時間でやり続けるようなものでもないか。


「おし、それじゃハーレさんやレナさんと交代しに行くか!」

「おうよ! あー、桜花さんのとこで良かったよな、ケイさん?」

「だなー」

「んじゃひとっ飛びしていきますか! あ、たまにはケイさんが俺に乗ってみるか?」

「お、いいの?」

「おう、いいぜ!」

「よし、それなら頼んだ! ……でもその大きさで俺が乗ったら潰れない?」

「そんなもんこうすりゃ問題ねぇよ! 『大型化』!」

「ま、そりゃそうだよなー」


 おー、普段の紅焔さんの龍は体長はサヤの竜より短いくらいだけど、大型化すれば俺のロブスターよりかなり大きくなるよね。とりあえず落ちないようにハサミでしっかりしがみついておこう。

 通常が体長5〜60センチくらいで、大型化したら1メートルちょいくらい? 西洋系のドラゴンだから体格はがっしりしてて、印象としてはもっと大きく見える気もする。まぁ進化が進めばドラゴンに関してはもっと大きくなっていくんだろう。


「それじゃ失礼してっと」

「んじゃ飛んでくぜ! 『高速飛翔』!」

「おうよ!」


 大型化した紅焔さんの頭というか首に乗るような感じになって、羽ばたきながら紅焔さんが森の上空へと飛び上がり、そこから一気に加速していく。おー、他にも飛んでいる人を避けつつ飛んでるね。

 これはアルの高速遊泳よりもちょっと速い感じってとこか。ふむふむ、俺の飛行鎧の方が少し早い気もするけど、あれの場合は自己強化とかを使って更なる加速は難しいからね。

 多分紅焔さんは大型化しなくてもこの速度は普通に出るだろうし、小回りは確実にこっちの方がいい。流石は元々飛べる種族の飛行性能は良さそうな感じか。……ふむ、3rdに飛行系の種族も良いなー。本当に3rdが作れるようになったら何を選ぼうかな?


 あれ、そんな事を考えてたら桜花さんの桜の木を通り過ぎたような気がするんだけど……って、おわっ!? 紅焔さんがグルンと縦方向へ急に高度を上げ……うわっ、逆さになってる!? 急にそんなをされたら落ち……って、何で地面に向かってんの!?


「ちょ、紅焔さん!?」

「ははっ! どんなもんよ、ドラゴンの飛行は?」

「いや、飛べる種族の飛行性能に感心してたけど、やるならやるって先に言ってくれ!?」

「悪い、悪い! ま、これで到着だぜ!」

「……あ、マジだ」


 あー、急な方向転換で焦ったけども、どうやら桜花さんの桜の木を少し通り越してから、グルンと縦に一回転して、そのまま垂直に降りてきたようである。紅焔さんめ、これをしたくてわざと桜花さんの所を通り過ぎたな?


「おし、到着だ!」

「少しびっくりはしたけど、まぁいいか」


 そして地面ぎりぎりまで速度を出したまま、直前で急激に速度を落として無事に着地になった。急なやるからびっくりはしたけども、これは元々空が飛べる種族の優位性ってとこなのかもね。

 俺らの中には純粋に飛べるのはいない……事もないな。ヨッシさんのハチとサヤの竜は標準で飛べるもんね。ハチであるヨッシさんはちょっと違う気はするけど、サヤの竜ならこういう挙動も可能かな? まぁクマがいるから何とも言えないか。


「おーい! ケイさん、紅焔さん、こっちだぞ」

「お、ダイクさん、今行くよ」


 桜花さんの桜の木の樹洞の中から顔……大根に顔……? まぁそこは気にしても仕方ないから置いといて、顔を出してきたダイクさんが呼んできたので素早く紅焔さんの首から降りたけども、紅焔さんが動く気配がなかった。


「紅焔さん、どうした?」

「あー、いや、ちょっとソラから共同体のチャットに不穏な言葉がな……?」

「何それ、怖いんだけど。……具体的な内容は?」

「『色々と諦めてね』だとよ……」

「冗談抜きで、一体何があった!?」


 ちょっと待って、今桜花さんの樹洞の中では一体何が起こってるんだ? え、あのソラさんがそんな不穏な内容を紅焔さんに送ってくるって一体……。何というか、このタイミングは俺も無関係ではないような気がしてきた。


「おーい、ケイさん、紅焔さん、どうしたよ?」


 ソラさんから紅焔さんに送られたメッセージを聞いた後で、そうやって呼んでくるダイクさんの声が微妙に怖く思えてくる。何故、ソラさんから紅焔さんに向けてのメッセージがあるのに、俺にはハーレさんからのメッセージがない……?

 なんだか今の樹洞の中に入ってはいけないという警戒心が強まってるんだけど……。でも、いつまでもこうしている訳にもいかないか。……ちょっと怖いんだけど、ハーレさんに確認しておこう。


 ケイ   : ハーレさん、何を企んでる……?

 ハーレ  : あー!? いきなり何かを企んでるって酷いんだー!?

 ケイ   : それじゃ何もないんだな?

 ハーレ  : 何もないって事はないのさー! この後は私とレナさんの模擬戦なのです!

 ケイ   : いや、それは分かってるけど……。

 ハーレ  : 心配はいらないのさー! ケイさんなら問題なく出来るのです!


 いやいや、ちょっと待て!? その言い方って確実に俺が樹洞の中で何かをやる事が確定してるよね。しかも紅焔さんも一緒に……って、何となく予想が出来てきたぞ。

 これからレナさんとハーレさんの模擬戦があって、ついさっきまでは確実に樹洞の中で実況をやっていた。そしてその2人が模擬戦で樹洞を離れるとなると……。


 ケイ   : 俺と紅焔さんに実況をやれって感じか?

 ハーレ  : 入ってくるまで内緒のつもりだったのにバレたー!?

 ケイ   : やっぱりか。……桜花さんもグルか?

 ハーレ  : グルというかレナさんと桜花さんからの共同依頼なのさー!


 あー、なるほど、その2人からの依頼になるのか。多分レナさんが主導で桜花さんを巻き込んだという可能性が高そうだけど、まぁ桜花さんとしては折角だから盛り上げようという意図は少なからずあるのかもしれないね。

 それにしても実況かー。まぁ条件次第では解説かゲストならやってもいいけど、その辺はどうなんだろ? おっと、レナさんとハーレさんが樹洞から出てきたか。


「はいはい、ダイクはちょっと退いといてねー!」

「え、レナさん、もう良いのか?」

「良いも何も、もうバレちゃったしさー」

「あー、サプライズ失敗かー!」

「バレたからには仕方ないのさー!」

「そうなんだよねー。まぁそうなっちゃったのは仕方ないから、普通に交渉をしていくよー」

「ほいよっと。それじゃ俺は下がっとく」


 あー、これは俺と紅焔さんが樹洞の中に入ってからサプライズ的な感じで頼むつもりだったっぽいね。……まぁ流れでそのまま俺らにやらせようという思惑もありそうな気はするから、そこでソラさんが気を遣った感じなのかもしれない。


「それでなんだけど、もう聞いたと思うけどケイさんと紅焔さんに依頼させてもらっていいー?」

「……レナさん、依頼って言うからには報酬はあるんだよな?」

「うん、それは当然だよねー。ケイさんにはわたしが灰のサファリ同盟に預けてるLv20の成長体を2体のつもりだよー。必要なんだよね、フィールドボスの誕生にさ」

「あー、そう来たか……」


 確かに夜にはネス湖でフィールドボス戦をする予定ではあるし、成長体を確保する為にアルが依頼を出す予定ではあるからね。その辺の予定はハーレさんから聞いて、報酬として提示した訳か。

 まぁ確実に成長体2体は必要だし、ハーレさんにサヤとヨッシさんへの伝言を頼めば運んでもらっておく事も可能だろう。……条件としては悪くはないか。


「よし、紅焔さん次第だけど、俺はそれで引き受けるぞ」

「え、ケイさん、やんの!?」

「まぁ報酬が今日の夜に必須なやつなんでなー」

「あー、そうなのか……。ところで俺の方の報酬は?」

「紅焔さんには、各群集のわたしの知ってるドラゴン好きのプレイヤーのドラゴンに関するスクショの詰め合わせ100枚ををプレゼントだねー!」

「よし、乗った!」


 ちょ!? びっくりするほど紅焔さんが即答してるんだけど!? っていうか、レナさんってドラゴンだけでもスクショをそんなに持ってるのか。しかも各群集って、また地味に凄い事を……。


「てか、それで良いのか、紅焔さん!?」

「何言ってんだよ、ケイさん! あのどこの誰とも分からない人とも普通に知り合ってるレナさんが持ってるプレイヤーのスクショを100枚だぞ!? しかもサファリ系プレイヤーなんだから、スクショの撮影技術は高いんだぞ!?」

「お、おう……」


 まぁ確かにそう言われればそうなんだけど……うん、どこでどう人脈を持っているのかが未知数なレナさんの秘蔵のスクショとなれば希少価値はあるかもしれない。しかもドラゴン好きの紅焔さんには魅力的なのかもね。


「それじゃケイさんと紅焔さんがわたしとハーレの模擬戦の実況を担当してくれるって事で決定ねー! あ、ちなみに桜花さんからは2人共にそれぞれ+8の瘴気石も進呈だよー!」

「「え、マジで!?」」

「うん、マジだねー!」


 ちょっとレナさんと桜花さん、太っ腹過ぎません? え、これって他に何か裏があったりはしないよね? 

 でもまぁ実況自体は人気はあるみたいだし、解説が出来る人っていうのもそれなりに限られてはいるみたいだし、その辺も考慮した上なのかな? 


「あ、桜の不動種の人ってここじゃない?」

「桜花さんって言ってたし、ここだよね」

「いやー、投擲の実践的な使い方講座をしてくれるとはなー」

「2ndで投擲をやってみたかったから、ちょうど良いタイミングだった」

「蹴りの使い方も見れるって言ってたしなー」

「レナさんの蹴り技を見れる機会はありがたいもんだな」


 えーと、何やらリスや、サルや、カンガルーや、イタチや、大根や、クマなどの投擲や蹴りが使えそうな種族の人が集まってきていた。……なるほど、レナさんと桜花さんからの大盤振る舞いの依頼の理由はこれか。


「桜花さん、聞こえるか?」

「おう、聞こえてるぜ、ケイさん」

「これって、灰のサファリ同盟のスキル活用方法の紹介も兼ねてるって認識で正解か?」

「あぁ、そうなるな。って事だから、可能であればハーレさんの手の内を知ってるケイさんに解説をやってもらいたくてな」

「……なるほどね。ところで桜花さん、この人数って樹洞の中に入れるのか?」


 確か不動種の樹洞の中に入れる人数は50人までだったと思うんだけど、これはさっきまでの中継を見てた人もいるだろうから入りきれるか微妙な気がする……。


「それなら大丈夫だ。昨日『不動の支配Ⅱ』を取得したから、『樹洞展開』で入れる人数は100人まで増えてるぜ」

「へぇ、強化されたんだ?」

「まぁな! 後は灰のサファリ同盟の方から、実況役が来る事になってるんだが……」

「あ、灰のサファリ同盟から実況役の人が来るのか。って事は、紅焔さんは自動的にゲスト枠?」

「お、一番気楽なとこじゃねぇか!」

「……だよなー」


 俺が解説役を頼まれていて、実況役は灰のサファリ同盟から来るのならそういう形にはなるよね。ま、それ相応の報酬を貰えるんだから文句はないけどさ。


「それじゃわたしとハーレは模擬戦の受け付けに行くから、後は桜花さんよろしくねー!」

「おう、その辺は頼まれたぜ!」

「ダイク、エンのとこまで送迎お願いー!」

「ダイクさん、よろしくです!」

「ま、そういう話だったもんな。おらよっと! 『移動操作制御』!」

「お邪魔しまーす!」

「さぁ、出発だよー! あ、模擬戦の開始前には連絡するからねー!」

「それは了解!」


 そうしてダイクさんが生成した水のカーペットに、ハーレさんとレナさんが乗ってエンの方に向かって飛んでいった。

 模擬戦の開始までは少し時間はあるだろうし、開始直前にはレナさんから連絡してくるようだね。……でもこの状況だと海エリアの現状についての情報収集は出来そうにないな。それについてはハーレさんとレナさんの模擬戦が終わってからにしようっと。


 おっと、そう考えていたら電気を纏ったキジ……じゃないな。これは前にも勘違いしたけど雷属性のクジャク……って、琥珀さんだね。このタイミングで琥珀さんが来たって事は、もしかするともしかする……?


「桜花さん、しばらく振りですね。今日はよろしくお願いします」

「おう、今日はよろしくな」

「それで他に実況に関わる方は……おや、ケイさんじゃないですか?」

「おっす、琥珀さん。今回の解説役をほぼ事後承諾で決められた俺だな」

「あ、前々から考えていたものではあったんですが、ケイさん達には急な話になってしまったんですね。それは申し訳ありません」


 あ、元々計画していた内容ではあったんだな。ふむ、急な開催になった理由は俺らのいつものメンバーが勢揃いしてなかったから、ちょうど良い機会だと判断したからなのかもしれない。ま、俺らにとっては得はある話だから別に良いけどね。


「灰のサファリ同盟で、雷属性のクジャクで琥珀さん……? あ、灰のサファリ同盟の草原支部のリーダーの人か!」

「えぇ、そうなりますね。えーと、火属性のドラゴンで有名な紅焔さんですよね?」

「おう、そうだぜ! 今回は俺がゲスト役だな」

「あ、そうなったのですか。それでは今回はよろしくお願いしますね、紅焔さん」

「俺の方こそよろしくな!」


 ちょっと予想してなかった流れにはなったけども、ハーレさんとレナさんの戦いを参考にするという解説目的の実況を行うメンバーがこれで揃った訳だな。

 さてと、講座も兼ねているという事はある程度控え気味の模擬戦になりそうではあるけど、しっかり解説はしていかないとね。……ま、どの程度の戦闘になるかは実際に見てみないと分からないけどさ。

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