第715話 ケイと紅焔の対決 後編
紅焔さんとの一手目の攻防は殆ど周囲を焼け野原にされた代わりに、紅焔さんの龍の翼に少なからずダメージを与えたから割と成果はあったね。
それに昨日生成した岩の大剣と違って、今の石のナイフはまだ操作時間が残っている。まぁそれでも殆どの操作可能時間は消費してしまっているから、もうそれほどは保たないけどね。ふむ、これは素のスキルLvの違いとか、スキルそのものの仕様の違いかな? まぁ操作しているものの質量が全然違うからなー。
まぁとりあえず石のナイフは引き戻して、俺の周囲に漂わせておこう。今の時点では解除するよりもまだ残しておいた方が良さそうだしね。
「その複数の石のナイフって厄介なもんだな……」
「そうか? これって思ったほど威力は出ないぞ」
「って言いながら普通に飛ばしてくんなー!? 『爪刃乱舞』!」
あ、会話の不意を突いて一気に最高速度で撃ち出してみたけど、あっさり爪で斬り落とされて消滅したか。んー、耐久度もいまいちだから、これはもう少し用途の工夫が必要……あっ、連撃系の妨害や防御に使えるか? ……うん、俺の場合ならロブスターで連撃を打ち合うよりはそっち方が向いてるかもしれない。
「『高速飛翔』!」
おっと、一気に紅焔さんが上空へと飛んでいったけど、何かを仕掛けて来る気か? さっきの昇華魔法で魔力値は尽きてる筈だから、おそらく物理攻撃だとは思うけど……これは警戒した方が良さそうだな。
「行くぜ、ケイさん! 『発火』『並列制御』『爪刃双閃舞』『連強衝打』!」
「はい!?」
え、ちょっと待って!? 全身から発火した上に、爪と尾がそれぞれに銀光を放ちつつ突っ込んで来たよ。くっ、龍という事もあって空中での移動速度が速い!?
これは迂闊に近付かずに反撃もせずに逃げに徹するか……? 俺も飛行鎧で飛んでいるから、回避に専念していれば連撃数も稼がせずに待機時間が過ぎるまで――
「空中でドラゴンから逃げようってのは甘いぜ?」
「おわっ!?」
<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 60/72 → 60/78
紅焔さんがただ飛ぶだけじゃなく、宙返りのような飛び方をして銀光を放つ尾を叩きつけてきて、飛行鎧が強制解除になってしまった。
流石は空を飛べる種族って事か。操作系スキルを使って紛い物の飛び方をしている俺よりも機動性は上なんだろう……って、追撃が来るんだから呑気にしてる場合かー!?
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』は並列発動の待機になります> 行動値 53/78 : 魔力値 189/216
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値10と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 43/78 : 魔力値 174/216
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
飛行鎧は強制解除になったけど、そこまで高度は高くなかったから着地は自力でちゃんと出来た。でも逃げ切ってしまおうかと思ってたのに、防壁魔法を使わされたのは地味に痛手だね。
守勢付与で耐久度を高めたアクアウォールにしたけど、思いっきり紅焔さんの連撃数稼ぎに使われてるな。……凄い勢いで連撃数を稼がれて銀光は強まっているし、今は別のスキルの発動も出来ない。あー、こりゃ地味にきっついなぁ。
「おし、もらった!」
あ、紅焔さんがアクアウォールを破壊して、爪と尾の銀光が眩くなっている。って、すぐに手を打たないと仕留められかねないね!?
発火を使ってるからコケのスリップで受け流すのは危険なので却下。もう一度防壁魔法で……いや、紅焔さんなら爪か尾の片方は防げても、もう片方は迂回してでも当ててくるはず。
今は完全に後手に回ってしまっているから……それならカウンター狙いで行くまで! ただダミーで発声でスキルの発動もしとくか。
<行動値上限を1使用と魔力値2消費して『自己強化Lv1』を発動します> 行動値 43/78 → 43/77(上限値使用:1): 魔力値 170/216 :効果時間 10分
よし、とりあえずダミー用だからLv1での発動でいい。ぶっちゃけ自己強化って効果時間が違うだけで見た目はLvでは変化しないからね。
「おっ、受け止める気か、ケイさん!」
「さぁね!」
というか、ダミーではあるんだけど普通にやれば気付かれてしまうからね。ここは肉を斬らせて骨を断つ方向性でカウンターを仕込む! という事で、ここからは思考操作だな。
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 42/77(上限値使用:1): 魔力値 167/216
よし、紅焔さんは俺の手前に小石を生成した事に気付いた様子はない。でも、こっちはこっちで余裕はないけどね。
くっ、また宙返りをして眩い銀光を放つ尾を叩きつけるように振り下ろしてきた。爪かと思ったけど、こっちできたか! ……下手すりゃやばいけど、ここはロブスターの耐久性に賭けて両方のハサミで受け止めよう。
「うぉ!?」
「なんか企んでるな、ケイさん!」
いやいや、その通りではあるけどロブスターの両方のハサミが千切れ飛んだタイミングでそこを見抜いてくるか!? でも、ロブスターのハサミを代償にはしたけど仕込みは既に終えている!
<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します> 行動値 23/77(上限値使用:1)
よし、俺のロブスターのダメージも尋常ではないけども、ある意味では尾での攻撃を先にしてくれてありがたかったとこだな。尾の方が大振りになっていた分だけ体勢の立て直しに少し隙が出来ている。この僅かな隙がチャンスだ!
一気に地面から細めの円錐状の岩になるように追加生成をして……あ、紅焔さんに気付かれて躱された。いや、躱しきれずに翼の皮膜の穴に岩が通っているね。ふっふっふ、これはちょっとした誤算だけど、大チャンス!
「うおっ!? あっぶねー!?」
「甘いぜ、紅焔さん!」
「……え? うわっ、マジかよ!?」
よし、翼に突き刺さった状態の岩を更に追加生成して、昨日と同じように大剣を生成していく。
ふっふっふ、それに合わせて紅焔さんの翼の穴も広がっていき、まともに身動きが取れなくなっていた。そりゃ大型化してない時の紅焔さんの龍の翼はそれほど大きくないもんなー!
「あ、くっそ!? 地味に届かねぇ!?」
おっと、どうやら眩い銀光を放っている爪は背中の翼の方には届かないみたいだね。俺の生成した岩にも届いていないし、こりゃ俺としてはありがたい誤算である。しかもこのスキル発動中のタイミングなら大型化されて逃げられる心配もいらないか。
「んじゃ、その翼は斬り落とさせてもらう!」
「うわっ!? ぐへっ!」
その宣言と同時に生成した岩の大剣を乱雑に振り回し、皮膜をボロボロに斬り刻み、紅焔さんの本体ごと地面にも叩きつけ、翼から岩の大剣が抜けたタイミングで一気に最大まで加速させ、翼の根本を斬りつけていく。
……やっぱり岩の操作は最大速度で操作するとあっという間に時間切れか。ま、役目は終えたから良いか。
よし、1対の翼を両方斬り落とす事は流石に無理だったけど、片方を7割くらいの斬り込みは入れられたし、全体的にもダメージは大きくHPは半分を切っている。自己強化がない状況であれば片翼くらいは斬り落とせたかもしれないな。
「くっ、これじゃ飛べねぇ!? ……リスクは高いけど『脱皮』!」
「え、それをやって良いのか?」
「そりゃ狙っってくるよなぁー!?」
ふっふっふ、紅焔さんは思わぬ形で翼をボロボロにされて焦ったね。脱皮をして今まさしく翼は再生されているけど、これは大幅な防御の低下がある諸刃の剣! 再生しきって逃げられる前に仕留めるまでだ!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 22/77(上限値使用:1) : 魔力値 164/216
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値2と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 20/77(上限値使用:1) : 魔力値 161/216
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
翼が再生して飛び立とうとする紅焔さんの真上に水の生成が間に合った! そこそこ魔力値は消費しているけど、水の昇華魔法を食らえ!
<『昇華魔法:ウォーターフォール』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/216
「間に……合わなかった……か!?」
そうして紅焔さんはウォーターフォールの水量に押し潰され、HPがどんどん減っていく。火属性の紅焔さんにとっては弱点属性の昇華魔法だからね。
魔力値が減ってた分だけ規模は控えめとはいえ結構なダメージ量に……いや、この感じだと微妙に削り切れないか……? ちっ、そういやドラゴン系は種族として魔法に耐性があるんだったっけ。
「……いや、これならぎりぎり!」
「くっそ、防御が下がっててもHP全快からだときついか……」
明確に大ダメージは与えられてはいるけども、ほんの僅かに残りそうな予感がする。くっ、自己強化がかかってなければ確実に削りきれたのに!? こうなるとウォーターフォールの効果が切れて、紅焔さんが一度逃げるのが先か、俺がそれを阻止出来るかにかかっているな。
俺の方はHPは6割くらいまで減って、両方のハサミを失っている上に、飛行鎧が使えない。それに対して紅焔さんはボロボロにした翼はもう再生されたから飛んで逃げられたら追いつけないけど、その分防御が大幅に低下してHPはもう1割以下。……次の一手で勝負が決まるか、距離を取って仕切り直しかのどっちかだな。
そうしている内にウォーターフォールの効果が切れそうになってきた。魔力値は今の昇華魔法で無くなっているから、遠距離攻撃は不可能。あ、光の操作なら……いや、これは紅焔さんには読まれる可能性が高い。
でも少し紅焔さんとは距離があるから、他に止める手段は……あ、これなら行けるかも? よし、一か八かにはなるけど、これで行こう! あ、そう決めた瞬間にウォーターフォール効果が切れたね。
「とりあえず逃げさせてもらうぜ! 『高速飛翔』!」
「逃がすか!」
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 20/77 → 20/75(上限値使用:3)
<行動値上限を39使用して『大型化Lv1』を発動します> 行動値 20/75 → 20/36(上限値使用:43)
<行動値を3消費して『体当たりLv3』を発動します> 行動値 17/36(上限値使用:43)
よし、これで紅焔さんが進もうとした方向に水のカーペットを展開出来た! どうせすぐに破壊されるだろうけど、その間に距離を詰めないと。即座にロブスターの向きを反転してから、体当たりで紅焔さんに突っ込んでいく。地上での体当たり決してバランスが良いものではないけど、大型化と自己強化での力技でなんとかなる!
「うぉっ!? あ、これって移動操作制御か。おら!」
<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 17/36 → 17/38(上限値使用:41)
ここで破壊されるのは想定済み! それに急に目の前に展開された水のカーペットへの対処で紅焔さんの対応が少し遅れたな。
「この勝負、貰った!」
「って、おわ!?」
大型化した俺のロブスターで紅焔さんに激突し、飛び始めていた紅焔さんが再び地面へと落ちていった。まぁ俺ごとではあるんだけどね! さて、今ので倒し切れてて欲しかったんだけど、まだほんの僅かに残っている。
「くっ! 『大型化』!」
「あ、させるか!?」
ここから紅焔さんに大型化されてしまえば、ハサミのない今の状況だと抑えきれない。もう一発体当たりでも……いや、もっと確実な威力が欲しい。
だけどハサミがない今の状況だと……待てよ、今まで意識はしてなかったけど、紅焔さんが尾で打撃の応用スキルの連強衝打を使っていた。という事は、ひょっとして……? よし、それは試す価値はある!
<行動値を10消費して『連強衝打Lv1』を発動します> 行動値 7/38(上限値使用:41)
あ、やっぱりか! 今までハサミを使う事ばっかり意識してたから気付いてなかったけど、ロブスターの尾でも打撃スキルの発動は可能になっている。よし、それじゃトドメはこれで行くぜ!
「ちょ!? ロブスターの尻尾で連強衝打!?」
「いやー、試した事はなかったんだけど、さっきの紅焔さんのが参考になったわ!」
「発想の原因は俺かー!?」
「って事で、俺の勝ち!」
「くっそー!」
そこから大きくなった紅焔さんの龍の背中をロブスターの銀光を放つ尾を叩きつけていき、紅焔さんのHPは全て無くなりポリゴンとなって砕け散っていった。
<紅焔が生存不能になったため、模擬戦を終了します。勝者:ケイ>
その表示と共に俺のロブスターは元の大きさに戻り、無くなっていたハサミも元通りになっていく。そして目の前に紅焔さんも普段の状態で復活してきていた。
<模擬戦が終了しましたので、10秒後に外部へと転送されます>
「あー、負けた、負けたー! 迂闊に脱皮は使うもんじゃねぇなー」
「確かにあれはなー。まぁ俺としては絶好のチャンスだったけどさ」
「だろうな。俺も相手がやったら、確実にあれは狙うしさ」
「ま、ともかく今回は俺の勝ちって事で!」
「俺の自滅もあったし、しゃーないな。……また機会があったらやろうぜ!」
「おうよ!」
「次は勝つからな!」
「いやいや、勝たせないからな?」
紅焔さんとそんなやり取りをしつつ、今回の模擬戦は終了となった。紅焔さん自身も言ってたけど、自滅してた部分があったから今回は早めに決着はついたけど、あれがなければどうなってたんだろ?
そのうち再戦する事もあるだろうし、その時を楽しみにしておこう。まぁ負けるつもりはないけどね!
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