第710話 次の日の予定


 そこからジェイさん達や弥生さん達やレナさんとは解散して、今度は川を下っていき『涙の溢れた地』への切り替え地点の目前までやってきた。まぁ単純に言えば滝の真上なんだけど、改めて見てみても広い湿地だな。


 それに夜の11時半という事もあって、ゲーム内での昼間が終わり夜へと変わっていく夕焼け空にもなっている。

 うーん、夕日が水面に映り込むのは良いんだけど、何か手前の方が暗くなっててバランスが良くない雰囲気だな。いや、景色としては決して悪くないんだけど、もうかなり日が落ちてきているから、位置的に森の木の影が邪魔な感じ。もうちょい早ければ良かったかもなー。


「夕焼けに染まる湿原だー! でも、もう日が落ち過ぎて全体的に見ると微妙なのさー!」

「だなー。あ、そういや朝日が昇る時のここからのスクショ聞きそびれたな……」

「ふっふっふ! 転移の種をここで登録していくのなら、自分で撮るから問題なしなのさー!」

「あはは、まぁそれがハーレらしいかな?」

「そだね。その為にもちゃんと転移の種の登録をしておかないとね」


 うんうん、結果としてはここで転移の種の登録を上書きして行く事になったし、明日の夜のこの時間帯にでも転移をしてくればそれだけで朝日が昇る湿地帯という光景も撮れるだろう。

 という事で、ヨッシさんも言ってたけどちゃんと登録をしておかないと駄目だよな。えーと、ここは青の群集の影響が大きいエリアだから、下手な場所で登録すれば邪魔になりかねないからそこら辺は気を付けなければ……。


「アル、湿地のどの辺に登録しとくのが安全だと思う?」

「あー、どこでも良いって訳じゃないしな。滝からそれなりに離れた崖寄りのエリアの隅が良いんじゃねぇか?」

「ま、そんなもんか。そんじゃ、その辺りまで移動よろしく!」

「おうよ!」


 エリア的に転移してきて早々に青の群集の人が使った昇華魔法の巻き添えとか可能性は否定できないし、そうなるとダメージは確実に受けるからね。巻き込まれるのが仕様みたいなもんだけど、他の群集が絡む時は気遣いは大事だよな!



 そうしてアルが空中を泳ぎながら、背後から照らしてくる夕日が反射する水面を眺めつつ、崖の下へと降りていく。


<『始まりの森林・青の群集エリア1』から『涙の溢れた地』に移動しました>


 よし、当たり前だけどエリアの移動はこれで完了っと。このまま崖に沿って下に降りていって、適度な距離を取ったところに行けばいいな。


 アルもそのつもりのようで、崖に沿って徐々に……って、おわ!? 急に高度が下がったんだけど、何が……って、そうか。そういやこの崖の高度は今のアルの空中浮遊だけじゃ飛べない高さか。


「アル、降りるのに水のカーペットとかで補助はいるかー?」

「いや、自分でやるから問題ねぇ。『アクアクリエイト』『水の操作』!」

「ほいよっと。……結構、空飛ぶクジラ計画は進んだけど、まだ欠点はあるにはあるんだなー」

「そりゃそうだろうよ。まだ未成体だぞ?」

「……そりゃごもっともで」


 徐々に成熟体への進化は見えてきたけども、成熟体ですら進化の途中過程でしかないもんな。オフライン版と同じとも限らないけど、少なくともオフライン版では成熟体の上には完全体と、最終的な人化になる超越体への進化階位があるんだしね。

 進化階位が上がれば次の進化階位までの必要Lvも上がるし、ゲームとしてはまだまだ先があるんだよなー。


 さてと今後の進化についても気にはなるけど、今のうちに決めておいた方が良さそうな事もあるし、その辺を今のうちに決めていこうっと。


「えっと、話は変わるんだけど、明日ってサヤとヨッシさんは夕方は無理なんだよな?」

「うん、多分帰ったら6時前くらいだろうから、そのままご飯を食べてからログインするつもりかな」

「それがどうしたの、ケイさん?」

「あー、明日は海エリアに行くって話をしてたじゃん? でも、今は手持ちにネス湖の進化記憶の結晶がある訳で……」

「……それなら俺がこの後に運んでおいても良いが、ケイは『水属性強化Ⅰ』も取りたいんだろ?」

「分かってるじゃん、アル! って事で、明日の夜の合流地点はネス湖にしとかない? 各自で予め移動しとくって事でさ」


 それならネス湖までの移動はバラバラにはなるけども、夜に合流した際にスムーズに活動が出来る。……ただ、成長体の確保だけが問題なんだけど、それは運に任せるしかないな。


「なるほどな。よし、それなら俺は今日の内にネス湖でログアウト出来るようにしておくか。その上で明日、ログインしてから俺の方で成長体の確保の依頼を出しておくってのでどうだ?」

「え、アル、いいのか?」

「おう、いいぞ。ただ、そうだな……進化記憶の結晶は早めに戻しておいた方が良いだろうから、そこは悪いんだが俺にやらせといてくれ。野良PTでも組んで運んで戻しておくからよ」

「あー、確かにそりゃそうだな……」


 これについてはみんなで揃って戻しに行きたいという気持ちはあるけども、光る方の進化記憶の結晶で経験値増加のアイテムを手に入れるには時間がかかるからなー。既にまとめにこれの位置情報も報告しているからには、早めに戻しておくのが得策か。


「ちょっと残念な気もするけど、みんなはアルに任せるので良いか?」

「残念ではあるけど、アルさんに任せるのです!」

「流石に明日の夜まで持ったままは申し訳ないしね」

「私もちょっと残念ではあるけど、ここはアルに任せるかな!」


 みんなも少なからず残念には思っているみたいだけど、それでも無理に我儘を通す必要もないか。それに今のうちに戻しておけば、運が良ければ明日ネス湖に行った際に経験値増加のアイテム手に入れられる可能性もあるだろうしね。

 

「よし、それじゃ進化記憶の結晶はアルに任せた!」

「おう、任されたぜ」


 そうして俺が持っていた光る進化記憶の結晶はアルに預けていく。よし、これでこれについては問題はないだろう!


「あ、そうだ。アル、依頼を出すとは言ってたけど、報酬は何にするんだ?」

「それについては全員が揃ってるなら、持ってる瘴気石が使えるだろ? それでフィールドボスを誕生させて、参戦で手に入った瘴気石を報酬にするつもりだ。PT単位で依頼を出して、1PT6個の瘴気石なら好条件だろ」

「あー、なるほどね。フィールドボスの誕生には、アルがいるなら持ってるやつが使えるしな」


 今、俺らの瘴気石の手持ちはキノコとタケノコの対立のスクショの演出を手伝った際に手に入れた+10と、その時にベスタと交換した+7の瘴気石が1個ずつあるからね。明日はネス湖に行ってフィールドボスを誕生をさせる必要があるんだし、『水属性強化Ⅰ』も手に入れられるだろうから使うべき時がきたという事だ。

 それにこの間、ケンローさんから聞いたトレードの相場は成長体1体につき瘴気石が3個だったはず。多少の変動はあるかもしれないけど、応募してくるのが6人のフルPTとも限らないけど条件としてかなり良いとは思うけども……。


「そういう事なら、私とヨッシで晩御飯を食べ終わってから成長体を探しながらネス湖まで移動かな?」

「そだね、そうしよっか」

「それなら私とケイさんは6時台にネス湖までいどうしておくのさー!」

「ま、それが無難なとこだろうな」


 俺はハーレさんと一緒に移動して、サヤとヨッシさんもまた別行動でネス湖まで移動だな。そしてアルはこの後に単独でネス湖まで移動という事になる訳だ。……いや、アルなら普通に野良PTでも組んで行くのかもしれないけどね。

 まぁネス湖までの経路にもよるんだろうけど、前に行った時の経路なら俺らが少人数で苦戦する事はないだろうし、多分大丈夫だろ。


「それじゃ明日の全員の集合場所はネス湖って事で!」

「「「「おー!」」」


 これで明日の夜の予定、第1弾は確定だね。その後に海エリアに行く為に、明日の晩飯までの間に経験値の良さそうなエリアや、楽しそうなエリアの情報を探っておかないとな。


 おっと、そんな事を考えてる内にもう少しで崖下に辿り着きそうだ。……それにしてもここの崖は湿気が多いからか、蔦やらコケやらが崖の表面にかなり生えているんだな。これってハーレさんとかなら普通によじ登れそうな気もするね。

 蔦のよじ乗りレースとかっていうのもあり……? いや、種族も限られるし、それは流石に無しか。


「おし、この辺で良いだろ。水のカーペットは解除してっと」


 そう言いながらアルが湿地帯の水面……いや、ここは普通に地面の場所か。ふむふむ、崖の上から木が迫り出しているのもあって他より薄暗くて目立ちにくいね。それに滝からもそれなりに離れているし、転移の種を登録する場所としては良いかもしれないね。


「それじゃ各自、転移の種の登録の上書きをしていくぞー!」

「「「「おー!」」」」


 そうして、それに転移の種を使用してこの場所に上書き登録をしていく。……うん、地面に5人分の灰色の種の形をしたカーソルが表示されているから、これで登録は完了っと。


「さてと、それじゃ森林深部に戻って今日は終わりにするか。あ、アルはネス湖に行くのはどう行くんだ?」

「ここからの経路で行ってみたい気もするが、道中にはみんなで行ってないエリアもあるだろうからな。俺も一度森林深部に戻ってから、野良PTでも組んでネス湖まで行ってくるわ」

「あー、そりゃそうなるか。とりあえずアルの方針は了解っと」

「アルさん、どこかの機会でここからネス湖に行ってみるのさー!」

「あ、それも良さそうかな!」

「どうせなら、ネス湖の方からもっと東の方に行ってみるのも良いかもね?」

「お、ヨッシさん、それも良いな。ここから東っていうと……海へ繋がってるのか?」

「まぁ川を下り続けたら、そのうち海岸には出るよな」

「……当たり前過ぎる話ではあるか。ま、それはまた今度だな」

「だなー。もしかしたら明日の下調べでこの先に良い場所があるかもしれないけど、まぁその時はその時って事で!」


 とりあえずそれについては調べてみないとなんとも言えないので、そこは明日やっていこう。まぁどこかの海岸沿いのエリアとかも楽しそうだし、砂浜とかもどこかにはありそうだよね。

 まぁともかくまだまだ楽しめる場所はあるという事だし、これからもキャラを育てながら色んなエリアを巡って行こうじゃないか! 


「ま、とりあえず今日は戻るか」

「「「「おー!」」」」


 という事で、今日の探索はこれにて終わり! とりあえずサクッと帰還の実を使って森林深部へ戻っていこうっと。


<『涙の溢れた地』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 そして、戻ってきました、森林深部! あ、こっちは曇りでもう既に暗くなってるみたいだね。まぁ雨は降ってないみたいだし、俺はもうログアウトの予定だから問題ないか。

 おっと、忘れない内に新しい帰還の実をもらっておかないとね。人が多くてエンに直接話しかけられる状況じゃないからメニュー画面からやって……よし、受け取り完了っと。


「おい、まだ海エリアの例のフィールドボスが倒されてないってよ」

「え、リーダーを筆頭に結構な人数が増援に行ったよな!?」

「それがどうも逃げるだけじゃなく、擬態とかもするみたいでさ。イカ墨で目くらましされて、すぐに擬態か逃亡を繰り返すし、どうもフィールドボスになってる事でその辺の効果が強化されてるっぽいよ」

「うっわ、面倒くせぇ!?」

「特性の豪傑って、ステータスが大幅な強化がされてるって予測だったっけ? あれって他の特性にも効果あんの?」

「どうなんだろ? でも特性の逃亡とか擬態は、ステータスの俊敏とか器用の値が影響するらしいからステータスが増えたら影響はあるのかも?」

「擬態はともかく、逃亡持ちはフィールドボスにはするなってとこか……」

「多分、そうなんだろうねー」


 えーと、何気なく近くで話していたタチウオの人とサソリの人と木の枝……じゃない、ヘビの人の会話が聞こえてきたけど……海エリアで誕生したイカのフィールドボスは随分と厄介な事になってるんだな。

 そういやレナさんが海エリアが忙しいみたいな事を言ってた気もするけど、その具体的な内容が今の会話ということなんだろう。


「海エリアが大変そうなのさー!?」

「……あはは、フィールドボスは進化元を選ぶのも重要そうかな?」

「そうみたいだね。まだ倒されてなかったとは思わなかったよ……」


 うん、俺ももう逃げたフィールドボスのイカはとっくに仕留められているものだと思っていた。ベスタが増援に行ってたし、他にも結構な人数が参戦してた筈なんだけどね。

 まぁベスタは戦力としては凄いけど、捕獲に向いた構成にはなってないのも原因かも? 海エリア以外の人では、やっぱり海エリアでは勝手が違うってのもありそうだよね。


「……アル、ネス湖に行く野良PTは集まると思う?」

「……少し不安にはなったが、まぁ海エリアに行ってない奴もそれなりにいるだろうから大丈夫だろ」

「……それもそうか」


 周囲を見てみれば普通にプレイヤーは結構いる訳だし、その心配についてはただの杞憂に過ぎないか。ま、どっちにしてもアル以外の俺らは今日はもう終了だし、今は気にしても何も出来ないしね。


「ま、とにかくネス湖の方は任せたぞ、アル!」

「おう、任せとけ!」

「それじゃ今日はこれにて解散!」


 そうして今日は終了である。さて、ログアウトして色々片付けてから寝ますかね。



 ◇ ◇ ◇



 そしていつものようにいったんの場所にやってきた。えーと、今回の胴体部分は『あー、不具合対応が終わってホッとしたー。さて、開発中のバグの取り除きも頑張るか』となっている。……うん、運営の人達、ご苦労さまです。


「いったん、進化先についての不具合は一段落した感じ?」

「うん、そうなるね〜。でもその分だけちょっとスクショの処理に時間がかかっております〜」

「あー、そうなんだ? 全く見れない感じ?」

「えっと、処理が中途半端になってるから、今はまともに見れないかな〜? 誰の承諾が必要なのかのチェックが終わってないんだよね〜」

「なるほど、そういう感じか」


 ふむ、スクショに写っている承諾が必要な該当者の判別がちゃんとし切れていないというところなんだね。まぁいったんのリソースを不具合の対象者の精査に割り当てられてたんだし、そこでこういう遅延が起きるのも仕方ないか。


「よし、それならスクショのチェックは明日にしとくよ」

「そうしてもらえると助かります〜。明日の朝までには正常に戻ってるとは思うからね〜」

「おうよ。あ、そういや何かお知らせってある?」

「今は特にないよ〜」

「ほいよっと。それじゃ今日はログアウトで!」

「はいはい〜。またのログインをお待ちしております〜」


 そうしていったんに見送られながらログアウトをしていった。ふー、今日は激戦みたい事はなかったけど、それでも色々あったもんだな。でも、ようやく目的地まで辿り着いて一息つけたね。

 明日は海エリアへ遊びに行く予定にもなったし、それはそれで楽しみだ。ま、他にもやる事はあるけど、楽しみなのは間違いない!

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