第703話 今度こそスイカを


 さてと、滝についての感想で脱線し過ぎても仕方ないし、予定通りにスイカを食べていこうじゃないか。さっきからハーレさんがそわそわしていて落ち着かないしね。


「それじゃスイカを食べていこっか」

「待ってましたー!」

「ヨッシ、一度スイカを預かったほうが良いかな?」

「あ、そだね。サヤ、お願い」

「任せてかな!」

「アイスプリズンは解除っと。それじゃ切っていくよ。『アイスクリエイト』『氷の操作』!」


 そうして一度、氷の檻の中に入れて持ち運んでいたスイカをサヤが持ち、ヨッシさんが氷で出来たまな板と切断用の氷のナイフを生成していく。


「サヤ、まな板の上で押さえててくれる?」

「うん、分かったかな」

「さてと、8分割以上だと効果が下がるけどどう分けよっか……?」


 スイカを食べようという段階になってきたけども、今度のは割れているスイカではないからアイテムとしての効果が気になっているところだね。まぁ5分割してしまうのが良いんだろうけど、スイカを5等分にするのはちょっと手間がかかりそうだよなー。

 うーん、どうするのが良い……あ、なんかこのスイカを全部食べきるつもりでいたけど、その必要性って無いのか!? となると……。


「ヨッシさん、全部食べずに残ったのは置いておくってのは? 無理に全部食べる必要もないよな?」

「あ、そういえばそうだね。……あはは、なんだか全部食べなきゃいけない気分になってたよ」

「確かにそんな気にはなってたな……。あれか、先に食べたスイカが割れてたやつだからか?」

「あー、確かにそれはあるかもなー」


 アルの言うように、一口食べて駄目になってしまったスイカは元々が割れていたからね。割れていた部分を避けて5等分していたというのもあるし、そもそもアイテムとしての質は大幅に落ちていたから残しておくという発想が無かった。

 でも今回のスイカは質が落ちていないちゃんとしたスイカだもんな。8分割までは質が変わらないって話だから、8分割した後に5つ食べて、残り3つはインベントリの中に保管しておけばいい。


「それじゃ8分割してから、残った3つは置いておくって事でいい?」

「問題なしなのさー!」

「私もそれで良いかな!」

「提案した俺も問題なし!」

「言い出したケイが反対するのはおかしいからそうなるよな。俺も賛成だぜ」

「アル、その一言って必要あった!?」

「いや別にねぇな?」

「あっさり認めたな!?」


 いやまぁ俺が逆の立場なら、同じようなツッコミを入れてた気もするしな……。特に悪意もない軽口でしかないだろうから、まぁいつもの事で気にする必要もないか。提案した俺が改めて賛成というのも、ぶっちゃけ意味ない発言ではあるしね。


「あはは! それじゃ8等分に切っていくよ。サヤ、そのままスイカを押さえててをくれる?」

「分かったかな」

「えっと、包丁で切るような操作のイメージで……」

「おー、真っ二つだー!」

「どんどん切っていくね」

「次はこうかな?」

「うん、それでお願い」


 そうしてスイカを押さえるサヤと、氷のナイフ……というか氷の包丁でスイカを切り分けていくヨッシさんであった。へー、完全に包丁で切っていくイメージで操作をしているんだな。


「ヨッシ、これなら魚は捌けるー!?」

「うーん、多分出来るとは思うけど、このゲームって捌く意味ってあるの……? 今までの焼き魚は内臓は取ってないし、そもそも魚はそのまま食べても問題ないし、刺し身の味になるし……?」

「……そういやそうだったっけ」

「そこは気分の問題なのさー!」

「……そういう問題なのか?」

「そういう問題なのさー!」


 ハーレさんが力強く思いっきり断言してますがな……。いやまぁ、その気持ちが全く分からないという訳ではないけどさ。

 でも、加工すればアイテムの効果が高くなったりもするんだし、やってみる価値はあるのかも? 今日の予定が片付けば海エリアに行くという予定にもなったし、捌く為の一般生物の捕獲をしていくのも良いかもね。


「はい、切り終わったよ。みんな、取っていってね」

「俺はこれにするか。『根の操作』!」

「どれにしようー!?」

「私はこれにしようかな」

「あー!? 迷ってる内に選択肢が減っていくよー!?」


 おー、ハーレさんがどれにするかを盛大に迷ってるな。ま、ここは早いもの勝ちって事で、俺もさっさと選んでしまおう。でも、スイカは持ちにくかったし、ちょっと工夫をしてみようっと。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 77/78 : 魔力値 213/216

<行動値を3消費して『土の操作Lv6』を発動します>  行動値 74/78


 ハサミで持つと持ちにくかったので、三日月みたいな形の石を2つ生成してスイカをその上に乗せるような感じで持ち上げていく。うん、これなら川で食べた時よりは食べやすいはず。


「あー!? ケイさん、ズルいんだー!?」

「いや、ハーレさんならクラゲの触手で支えながらでも食べれるだろ!?」

「はっ!? その手があったのさー!? えいや!」

「あはは、とりあえずみんなは大丈夫そうだね。……私はケイさんの真似をしようっと」


 おー、ヨッシさんは氷のナイフと氷のまな板の形状を変えて、俺と同じようにスイカを持ち上げている。ふむふむ、やっぱり土属性と氷属性ではこういうところは似てるよね。


「それじゃ月見団子ならぬ、滝見スイカの開始なのさー!」

「……なんじゃそりゃ?」

「ただの思いつきなのです!」


 まぁそんなとこだとは思ったけどさ。さて、それについては深く考えても全く意味はないのでこれ以上はスルーでいこう。


 スイカを持った状態で、改めて近くまでやってきた滝を眺めていく。大瀑布という訳じゃないけど、結構な水量もあるし、滝壺では盛大に水飛沫も上がってるな。


 てか、ちょいちょい滝に流されて盛大に落下してきている青の群集のプレイヤーがいるのは、ただ単純に遊んでるだけなのかな? イメージとしては紐なしバンジージャンプ的な感じなんだろうか?

 あ、さっきはクマの人が落ちてたけど、今はサボテンの人が落ちていったね。お、サルの人も落ちてきた。うん、どうやら完全に遊び場になってるっぽい。


「時間があったら、あの滝から落ちるのをやってみたいです! ヨッシは……苦手だろうから、サヤ、一緒にやろー!」

「え、あ、うん。時間があったらそれも良いかな」


 何もここでしなくても良いような気もするけど、他に滝があるという情報も特にないし、時間がある状況であれば問題もないか。これに限ってが必須なことではないから、ちゃんとこういうのが苦手なヨッシさんにも配慮してるしね。

 そう考えてみると、無茶な移動をしまくってきた俺らやアルの方がヨッシさんへの配慮が足りていなかったような気もしてくる……。速い移動には必要な事とはいえ、もう少しヨッシさんに配慮した方が良いのかも……。


「ケイさん、私に必要以上の配慮はいらないよ? 今みたいなのは流石にあれだけど、今までの移動に関しては変に遠慮される方が嫌だからね」

「……まぁヨッシさんがそう言うなら、良いけどさ」

「ただ、心構えは欲しいから予め言っておいてね? 特にアルさん」

「あー、ここで俺が名指しか……。心当たりがある以上、なんとも言えねぇな」

「ドンマイ、アル!」


 ま、アルに関しては常闇の洞窟の探索中に、独断で伸びてきたエンの根にしがみついたという前科があるからね。あれは俺でも驚いたから、ヨッシさんが釘を刺す気持ちはよく分かる。


「そういや滝の上へと行くルートってあるのか?」

「……俺の空中浮遊だけでは届きそうにないしな。水のカーペットを併用すれば問題はないが、それが出来るプレイヤーばかりじゃねぇ……って、ケイ、滝の北側だ!」

「北側……? あ、普通に登れそうな傾斜が用意されてるのか」

「さっき滝から飛び降りてた人が登って行ってるかな」

 

 サヤの言うようにさっき戻る道があるのかという心配は完全な杞憂でしかなかったみたいだね。ちょっと登るのには傾斜が厳しめな気はするけど、まぁ最低限成長体に進化していればこのくらいはなんて事ないか。


「さてと、それじゃスイカを食べていきますか!」

「いただきまーす!」

「「「いただきます」」」


 滝から、飛び降りるプレイヤーが見えるという予想してなかった光景もあるにあるけど、まぁこの滝が絶景なのは間違いない。


「あ、塩を忘れたよー!?」

「……今はインベントリから出せないや。サヤに少し塩は渡してたよね。お願い出来る?」

「うん、持ってるかな。……これ、ハーレには渡さない方がいいよね?」

「……食べる時に関してはそうだね」

「……そうだよね。ハーレ、スイカをこっちに出してくれるかな?」

「はーい! サヤ、ありがとー!」

「どういたしましてかな」


 そんな風にハーレさんはスイカにサヤから塩をかけてもらっていた。ま、ハーレさんに関しては食事絡みで大惨事が起こるのは共通認識だけど……この場合ってどういう事態が発生するんだろうか? まだ割と貴重な塩を水の中に落として台無しにするとか……? うん、それはありそうだな。


 さて、和気あいあいとしている女性陣もほどほどに、俺は俺でスイカを改めて食べていこうっと。今回は石で持ち上げているのもあって、少し食べやすい感じだね。ま、若干ハサミが邪魔ではあるけど……って、ハサミで掬って食べるというのもありだな。よし、それでやってみよう。

 うん、これはありだな! そして味も甘くて、しっかりと冷えていて、ちゃんとスイカだね。ちょっと減ってたロブスターのHPも全快したね。


「……クジラで食べたらあっという間だし、ちょっと試してみたいからやってみるか。『養分吸収』!」

「へ? なんで養分吸収? それってアイテムに効果あんの?」


 アルが根の操作で持っていたスイカを上に投げたかと思えば、根を突き刺して養分吸収を発動していた。え、それでどうする……あ、スイカが徐々に干からびて消滅していった。こうして変化があるって事は効果があるっぽい?


「ほうほう、小さな蜜柑とかだとそもそも当てにくいんだが、スイカだとそうでもないんだな」

「あー、確かに……。で、スイカに変化はあったけど実際はどうなんだ?」

「HPは全快してたから効果量は分からんが、回復自体はしてそうだぜ。……そもそも木だとそのままじゃ食べようもないしな」

「あー、確かにそりゃそうだ」


 俺のコケだって、どうやって色んなものを食べるのかは謎だもんな。いや待て、アルの木が養分吸収で食材系のアイテムを食べられる……? という事は俺も養分吸収は持っているし、それでコケが食べられる可能性も……。

 というか、この辺のスキルって前々からあるのになんで今まで試してなかったんだろ……。まぁ、思い至らない時もあるか。まとめを見たら普通に書いてそうな内容だけどね!


「……よし、俺もそれをやってみるか」

「そういやケイのコケも養分吸収は持ってた……って、地味にコケのは性質が違ってなかったか?」

「HPがそもそもないから、HPの回復性能はないな。ただその代わりに行動値の回復速度が上がるぞ」

「……うまく行けばかなり有用じゃねぇか、それ?」

「俺もそう思ってるとこだ」


 ふっふっふ、もしコケの養分吸収でアイテムからの行動値の回復速度を上げられるなら、相当有用だぞ! まぁ実際にやってみないとなんとも言えないけどさ。


「アルさん、ケイさん、さっきから何やってるのー!?」

「アルがアイテムに対して養分吸収が使えるかの実験をしてた」

「おうよ。ちなみに木の養分吸収は食べる代わりっぽいぞ」

「あ、そうなのかな?」

「そういえばその辺は確認してなかったもんね。アルさんの場合、自前の水で回復する事が殆どだったしさ」

「まぁな」

「アルさん、質問です! 味はどうなってますか!?」

「ん? 普通に食った時と同じ感じだな。ただ食感はねぇから、ジュースを飲んでるような感じか」

「おー、そうなんだー!?」


 ふむふむ、味についてはそのままで食感はなしか。状況にもよるんだろうけど、可能であれば普通に食べたいとこではあるね。

 まぁそれはそれとして、コケはコケで養分吸収を試してみるか。えーと、今の土の操作の発動中の状況じゃ新たにスキルは発動出来ないからアルがさっきの養分吸収で食べ終わってるから、スイカを持っていてもらおうっと。


「アル、俺も試したいからスイカを持っててくれるか?」

「おう、任せとけ。『根の操作』」

「あ、今度はケイがやるのかな?」

「どうなるのんだろ!?」

「……気になるところだね」


 俺もそこは非常に気になっているからこそ、試すのである! ……ただスイカを食べるという目的から、どうしてこうなった!? いや、まぁ別に良いか。

 うーん、でもこうなるんだったらロブスターのHPが減ってた方が都合は良かったかも……? その方がこの手段でロブスターのHPが回復するかも試せたんだけどなー。ま、コケの養分吸収はちょっと仕様が違ってHPの回復性能は無いから多分無意味なんだろうけどさ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る