第673話 慌ただしい様子
情報共有板を見るのを切り上げたし、とりあえず桜花さんのログイン状態を確認しておくか。それにみんながログインしたかどうかのチェックも――
「なんだ、ケイ。ここに居たのか」
「お、ケイさん、おっす!」
「あ、ベスタと蒼弦さんか。これから模擬戦をするなら、そりゃここに居るよなー」
俺はログインしてすぐにエンの近くのここから情報共有板を見ていたし、これから模擬戦をしようというベスタと蒼弦さんがここにいるには当然だよな。わざわざエン以外の他の群集拠点種に行く理由もないだろうしさ。
「リーダー、今回は勝つ気で行かせてもらうぜ!」
「初期の頃よりは相当腕は上がっているが、勝つ気もなく俺と戦うつもりだったのか?」
「あの時の事は無しで! ちょっと今考えると恥ずかしいからよ!?」
「ふっ、それならその成果を見せてみろ」
「おうよ!」
「あー、そういや蒼弦さんって、氷狼戦でボロ負けになってたんだっけ?」
「なんで知ってんだよ、ケイさん!?」
「え、思いっきり見てたし……」
「え、マジで!?」
「……そういえばケイとの初遭遇は蒼弦達が全滅した後だったな」
「まぁそうなるな」
「……衝撃の事実なんだが!?」
「そう言われてもなぁ……」
ヒノノコとの初戦でボロ負けしてランダムリスポーンした先から移動した際に、全滅間際のオオカミ集団を目撃しただけだもんな。ベスタ以外が全滅してからベスタが話しかけてきたから、その前に死んだ蒼弦さんは知らなくても仕方ないか。
あの氷狼戦の時や、その次に見かけた競争クエストの時には頼りなさもあったけど、そんな蒼弦さんも今は色んなとこに頼られるなんでも屋のオオカミ組のボスだもんな。変われば変わるもんだよね。
「あれ、ケイさん? ベスタさんと蒼弦さんと一緒でどうしたの?」
「あ、ヨッシさんか。さっき遭遇したとこなんだよ」
「そうなんだ?」
「それでこれからベスタと蒼弦さんで模擬戦を……って、時間大丈夫か!?」
「まだ10分はあるから大丈夫だ」
「だな!」
「あ、マジだ」
慌てて現在時刻を確認してみれば、4時20分だからまだ10分の余裕がある。……ベスタと蒼弦さんにとっては余裕がある時間だけど、これから実況を見る場所を探す俺からしたら微妙な時間ー!?
「ベスタさんと蒼弦さんの対決は見てみたいね。ケイさん、中継で見れるとこの確保は?」
「それについては今から。ところでサヤは? ハーレさんは少し遅れるとは聞いてるけど」
「私はちょっと用事があって少し後ろにズレたけど、2人ともそろそろログインしてくると思うよ。ハーレは思ったほど遅れなかったって言ってたしね」
「あー、なるほどね」
ふむふむ、ヨッシさんがそう言うのであればサヤもハーレさんも、それほど時間もかからずにログインしてきそうだね。……多少間に合わない可能性もあるにはあるけど、まぁ突発的なものだからある程度は仕方ないか。
「てか、当たり前のようにベスタと蒼弦さんの模擬戦を見る事になってるけど、ヨッシさんはそれで良いのか?」
「うん、良いよ。間違いなくハーレは見たがるだろうし、サヤも興味はあると思うしね」
「……それもそうだな」
うん、その辺については疑いの余地はない。ただ、時間帯が時間帯なので夜よりはギャラリーは少なそうだよな。ま、その辺は蒼弦さんのリアルの都合みたいだから仕方ないけど。
「それじゃベスタ、蒼弦さん、俺らは見れる中継先を探しに行くけど、模擬戦を頑張ってくれ!」
「おう! 応援をよろしくな、ケイさん!」
「……ほう? ケイは蒼弦を応援するのか?」
「はい!?」
いやいや、なんでベスタはそこで声を低くしてそんな事を言い出すんだよ!? 確かにどっちを応援するのかと言われれば悩むとこだし、特別どっちかだけど応援しようという気も無かったんだけどな……。
うっ、蒼弦さんからの視線も地味に痛い。何がどうしてそうなった! って、完全に悪ふざけだよね、これ!
「……よし、ベスタは俺が倒すから蒼弦さんには死力を尽くしてもらって、ベスタの手の内を暴いてもらおう!」
「俺ってそういう扱いかー!?」
「悪ふざけの仕返しだっての」
「……ですよねー」
「ふっ、蒼弦が俺の手の内をどこまで引き出せるかを楽しみにさせてもらおうか」
「お、言ったな、リーダー! おっし、そういう事なら全身全霊でやるまでだ!」
おー、何だか強気のベスタの挑発とそれに乗った蒼弦さんって感じだね。まぁ半分くらいは焚き付けた俺が原因な気もするけど。
てか、こうして時間を無駄にしてる場合じゃないや。すぐに桜花さんのログイン状態を確認して、ログインしてたら連絡を取って、もし駄目なら灰のサファリ同盟の不動種の人や他に中継をしている不動種の人を……って、あれ? なんかヨッシさんが誰かと喋ってるというか、ヨッシさんの声だけだからフレンドコールをしてるっぽい?
「――ますか? あ、はい。はい、はい、それじゃこれから行きますね」
「あー、ヨッシさん? もしかして……」
「今の間に桜花さんと話はついたよ。大型種族が大人数は無理だけど、サヤと小型な私とケイさんとハーレなら入れる余地はあるって」
「……ヨッシさん、見事な手際だな」
「時間が無いんだから、そこは急がないとね?」
「それはごもっともで……」
うん、模擬戦の待機をしているベスタと蒼弦さんはともかく、俺がそこに盛大に混ざって少ない時間を浪費してたら意味がない。その間に手早く調整をしてくれたヨッシさんに感謝だな。
それじゃ俺とヨッシさんですぐにでも移動して、後からサヤとハーレさんが来れるようにしておくのが良いかも……って、見覚えのあるクマと竜がログインしてきたね。よし、それじゃサヤも連れて、桜花さんのとこに行こう!
「ヨッシ、ケイ? ここで話し込んでどうしたのかな?」
「時間に余裕がないから、先に移動で!」
「うん、それが良いね」
「え? え? どういう事かな!?」
「それは移動中に説明する! って事で、ベスタ、蒼弦さん、またな!」
「おうよ!」
「……ちゃんとサヤに説明はしてやれよ?」
ここから桜花さんの桜までは近いけど、これ以上の時間の浪費は模擬戦の開始に間に合わなくなる。ハーレさんがまだだけど、それについてはログインしたら桜花さんのとこに来るように共同体のチャットで伝えれば良い。
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 77/77 → 75/75(上限値使用:2)
って事で、サヤの足を掬うように水のカーペットを展開! ヨッシさんは素早くサヤの竜に止まっているね。あー、流石にサヤが慌てているけど……うん、ログイン早々にこの状態は混乱するよね。でもまぁ時間に余裕がないので、そのまま出発ー!
「ケイ!? ヨッシもこれってどういう事かな!?」
「サヤ、いきなりでごめんね。今から説明するよ」
「これから数分後にベスタと蒼弦さんの模擬戦が開始だから、初めから中継を見る為に大急ぎ中!」
「あ、だからベスタさんと蒼弦さんがいたのかな?」
「うん、そういう事。ただあの場で説明してたら間に合わなくなる可能性もあったから、こんな形になってごめんね」
「そういう事なら問題ないけど……ハーレはまだなのかな?」
「……多分ね」
出来ればハーレさんも一緒に連れて行きたかったけど、まだログインしている様子ではなかったから仕方ない。こればっかりは運が悪かったと諦めて貰うしか……。
そしてそれほど時間もかからずに桜花さんの桜に到着した。おー、樹洞の入り口から中を覗いてみると満員だな。流石は灰の群集のリーダーのベスタと、オオカミ組のボスの蒼弦さんとの模擬戦なだけはある。
既に対戦中のものを中継しているみたいで、成長体の丸まってる枯れた草……えーと、回転草ってやつか? それ同士の対戦が荒野エリアので行われているね。あ、お互いに火魔法を撃ち合って、共に燃え尽きて終わってる。いや、確かに見た目的に火が弱点なんだろうけど、それでいいのか!?
なんというか、確実にネタに走っている人が一定数はいるよね。まぁそれが悪いとは言わないけどさ。……それにしてもあの回転草ってどうやって進化するんだろ? 草花系から乾燥が理由で死にまくっての適応進化とかかな?
まぁとりあえずそれについてはいいや。意識を切り替えて樹洞の中をざっと見てみると、灰の群集の人しかいないから灰の群集の人のみに限定してるっぽいね。そして実況役の人はいないようである。……流石にこの時間帯では実況をやる人は確保出来なかったのかもしれない。
「お、ケイさん達が来たか。空いてるのは一番後ろになるが、構わねぇか?」
「おっす、桜花さん。それは問題なし!」
まぁ後から来たんだから、入れるスペースがあるだけマシってもんだろう。……あれ? でも意外と詰まってはいるけど、空中に浮いている人はいないね。って、普通に浮いてたら後ろにいる人の邪魔になるから自重してるだけか。
ふむ、空いているのが一番後ろなら浮いていても邪魔にはならないよな? ……流石に勝手にやるのはマズいから、桜花さんに確認を取っておこうっと。
「桜花さん、これって空中に座るとこを作ってそこで見てもいい?」
「あー、一番後ろだし、そこなら問題ねぇぜ」
「お、その手があったか!」
「ちょっと見え辛かったから、私もそっちに行くー!」
「土か水か氷の昇華を持ってて移動操作制御に組み込んでる奴がいたら、急いで空中に座る場所を作れー!」
「おっしゃ! 『移動操作制御』!」
「もうすぐ始まるから、急げー! 『移動操作制御』!」
「視界は遮んなよー!」
「分かってるって!」
あらら、思いつきで言ったもののみんなが慌てて真似をし始めたな。あ、後ろの方の木の人の上の方に岩水のカーペットを展開して、空中に座れる場所が次々と増えていくね。
それに合わせて手早く小型の種族の人が移動をしていって、床の方に空きスペースがいくらか出来た。ふむ、流石に灰の群集のみんなは対応が早いな。
「それじゃ俺らもだな。……このまま水のカーペットで持ち上げれば良いか」
「私はそれで問題ないかな」
「私もそれで良いよ」
「んじゃそうするか」
根本的水のカーペットに乗ったままだったので、そのまま上に持ち上げてしまえば良いだけだしね。って事で、そのまま中継画面が見えにくくならない程度の高さまで持ち上げて……よし、こんなもんだな。
「おし、中継の通知が来たから始めるぞ」
「待ってました!」
「蒼弦はどれだけリーダーに対抗出来るんだろうな?」
「どうだろな? 蒼弦も強いには強いけど、リーダーは別格だしな」
「ま、見てれば分かるんじゃない?」
「そりゃそうだ!」
「てか、誰か実況しねぇの?」
「……実況はともかく、リーダーのを解説出来るやつってここにいるのか?」
「え、それならさっき来た『グリーズ・リベルテ』なら出来るんじゃ?」
「でも、いつも実況してるハーレさんも、解説をしてるアルマースさんもいねぇぞ?」
「あ、ホントだ」
うーん、中継が始まって対戦開始までの準備期間のカウントダウンが進んでいっているけど、何やら俺らの方に注目が集まっているような……。
「ハーレもアルさんも今は居ないから実況は無理だよ。サヤはそういうのは苦手だし、私も解説は出来ないし……ケイさんはどうだろ?」
「いや、ベスタの戦いの解説とか無理だから。てか、アルって俺とベスタの対戦の時ってどうしてたんだ?」
「えっと、割と戸惑って解説も微妙な感じだったかな? どちらかというとレナさんがフォローしてたよ」
「あ、そうなのか」
ふむふむ、俺は実況されている立場だったから詳細は知らなかったけど、あの時はアルでも対応し切れなかったんだな。……それをフォロー出来るレナさんは流石としか言いようがないけどさ。
「出来る人がいないなら仕方ないかー」
「まぁ、それでも見るだけでも迫力はあるだろうしな」
「確かにそれは間違いないな」
「楽しみだねー!」
そういう風に無理なものは無理とみんなは諦めてくれたようである。……一応ベスタと蒼弦さんの戦い方の分析はするから中途半端でも良ければ解説が出来ない訳でもないけど、流石に1人でやる気はないしね。
そうしている内にカウントダンンが進んでいき、もう間もなくベスタと蒼弦さんの模擬戦が開始になろうとしている。
「なんとか到着なのさー!」
「あ、ハーレさん」
そこに駆け込んで来たのはハーレさんであった。……ログインしたら共同体のチャットで連絡しようと思ってたのに、さっきの流れですっかり忘れてたよ。
「あぅ、もう始まった!?」
「始まる寸前だから、大丈夫かな」
「ぎりぎりセーフ!? でも実況をするつもりだったのに、今からだと無理だよね……」
「あー、確かにそれはなぁ……」
もう後ほんの少しで開始という状況から実況の用意をするのも厳しいもんな。流石に今回は諦めて貰うしかないだろう。って、あれ? 共同体のチャットに誰かが書き込んでる訳でも無かったのに、なんでハーレさんはこの対決の事を知ってるんだ?
俺らの位置については共同体の機能で分かるようになっているし、それを見て来たと考えれば良いけど、この対決は俺は今日ログインするまで知らなかったぞ?
「ハーレさん、もしかして元々対戦があるのを知ってた?」
「ラックから学校で聞いていたのさー! 昨日、私達がログアウトした後に決まったって言ってたよー! でも具体的な時間までは聞いてなかったから、ログインしてすぐで焦ったー!」
「あー、なるほど、そういう事か」
ふむふむ、ラックさんとハーレさんは同じ学校の同級生なんだし、学校でその情報を得てた訳か。そこからログインして状況を把握して、俺らが桜花さんのとこに集まってるのを確認して大急ぎで移動してきたんだろうね。それこそ共同体のチャット機能で会話する時間を惜しんでまで……。
そういう事情だったなら、大雨の影響で電車に遅延が発生してなければ間に合ってたのかもな。……そこは運が悪かったか。
「おーい、ケイさん達! もう始まるから、中継に関係ない話は声を抑えめにな!」
「あ、悪い、桜花さん」
「すみませんでしたー!」
ふー、桜花さんに注意されてしまった。でもまぁ、もう対戦が始まるんだから桜花さんの言う事も尤もだね。中継に関係ある事ならともかく、それ以外の会話は控えておこう。
さて、それじゃベスタと蒼弦さんの模擬戦がどうなるか、それをじっくり見ていこうじゃないか。今回は実況も解説もなしだけどね。
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