第666話 黒い破片の探索


 そうして勝負形式で黒い進化記憶の結晶の破片を探す事になり、しばらく探し続けている。今の時点で、俺とサヤとハーレさんと斬雨さんが1個ずつ見つけた状態か。そこまではサクサクと見つかったものの、その後が中々見つからないんだよね。


「ケイ、その辺は無さそうだから、もうちょいこっちの方を照らしてくれ」

「ほいよっと」


 アルからの要望を受けて、そちらの方へと光の収束させる向きを変えていく。さて、ハーレさんが思いっきり身を乗り出しながらその方向を見ている。

 サヤとヨッシさんは、ヨッシさんの火魔法を光源にして、焼けたものの崩れ落ちてはいない高めの木を飛んで探しているけど、そちらも発見には至っていない。うーん、俺も自分の周囲の地面とか見てはいるんだけど、全然駄目だな……。


「んー、この辺にもなさそうー?」

「ハーレさんでも見つけられないのか?」

「無ければどうやっても見つけられません!」

「……そりゃそうだ」


 いくらハーレさんがこういうのを見つけるのが得意とはいっても、そもそも無ければ見つけようもないのも当然だ。……それにしても、ほんとに見つからないな。うーん、これはもう近場にはない感じか?


「斬雨、そちらはありましたか?」

「いや、ねぇな。……流石にもう焼け野原の部分には残ってねぇんじゃねぇか?」

「……まぁ全方位に飛び散るものですし、これ以上は無駄な気もしますね。ケイさん、まだ無事なこの先の森の方に散っている可能性もありますので、移動しながら探すという方向性に切り替えるのはどうでしょうか?」


 あー、確かにいつまでもこの焼け野原で止まっていても仕方ないし、探し始めて結構経ってるからその方が良いかもしれないね。うん、その方向で良いとは思うけど、とりあえずみんなに確認だな。


「その方が良い気がしてきたけど、みんなはどう?」

「賛成です!」

「ま、こうも見つからないんじゃそれも仕方ないか」

「それもそうだよね。サヤもいい?」

「あ、うん、それで良いかな」


 上の方で捜索していたサヤとヨッシさんも降りてきて、みんなの同意が得られたね。さて、それじゃ期待した程の成果はなかったけど、そろそろ氷樹の森を抜ける為に出発しますか。


「って事で、移動に決定! えーと、敵はあんまり出てこないって話だけど、地面と空中のどっちを行く?」

「あー、そうか。今からなら空中からでもいけるんだな」

「……確かに黒い破片が木の上の方に引っかかっている可能性もありますし、地面に落ちている可能性もありますので、その辺りは悩みどころですね……。どうしましょうか?」

「……それは悩みどころかな」

「なら、単純にそれぞれの希望者で分けるってのはどうよ? 敵の心配をしなくていいなら、それでも問題ないだろ?」

「お、斬雨さん、それはナイスアイデア!」


 誰がどう希望するかにもよるけど、基本的には全員が飛べるしPT会話もあるから意思疎通にも問題はない。多分、今日中には青の群集の森林エリアまで辿り着くのは無理だけど、この氷樹の森さえ抜ければ後はアルに乗って高速移動という手もある。

 それなら散らばったばかりで、まだ取られていない可能性が高い黒い破片を集めながら進むというのも悪くはないだろう。ま、見つけられるかは運次第だけど……。


「それじゃ希望を取るぞー! まずは地上が良い人!」

「私は地上が良いかな!」

「同じく私も」

「それなら私も地上なのさー!」

「えーと、サヤとヨッシさんとハーレさんが地上だな。って事はアルとジェイさんと斬雨さんは空中でいい?」

「おう、良いぜ」

「森の中は確認する場所が増えますから、上空から分かりやすい範囲でやりますよ」

「俺はジェイとコンビだからな! で、ケイさんはどうすんの?」

「あー、俺か」


 ふむ、みんなに聞く事を優先していたから考えてなかったけど、どうしよう? うーん、光源についてはジェイさんが空中組にいるし、俺は地上組で光源役でもやろうかな。うん、地上の方はその方が分かりやすいだろうし、そうしよっと。


「んじゃ俺は地上組で!」

「お、ケイは地上組か」

「それではしばらく別行動ですね。……ふむ、やはり光の操作があった方が便利そうですし、取得しましょうか」

「あー、まぁそれについてはジェイの判断に任せるぜ。……攻撃以外にあれだけ使えるなら、止める理由もねぇしな」

「おし、それじゃジェイさん、斬雨さん、一緒に頑張ろうぜ」

「……アルマースさん、勝負はまだ続いてますからね?」

「そうだぜ、アルマースさん」

「……まだ続けるのか。って、いつ終わるんだよ、これ!?」


 そういや終了の条件を決めていなかったっけ。うーん、流石に無制限でいつまでもって訳にもいかないよな。かといって、必ずしも全員が手に入るとも限らないからそれを終了条件にも出来ないか。そうなると……。


「よし、それじゃ氷樹の森を抜けるまでで! それまでに全員が1個ずつ手に入れた上でそれ以上見つけた場合に優先して取得するのと、抜けるまでにそれが出来なかったら勝負はお流れって事で!」

「異議無しです!」

「まぁその辺りが妥当なとこか」

「アルマースさんに同意だな。だけど、勝つつもりでやるぜ、ジェイ!」

「えぇ、やりますよ、斬雨!」

「あはは、負けないかな!」

「というか、サヤと斬雨さんはもう勝ち抜けてるよね?」

「それならヨッシのフォローをするかな!」

「あはは、ありがと」


 うん、ハーレさんと俺については勝負を始める前に手に入れたからカウント外だけど、サヤと斬雨さんについては勝負が始まってから手に入れてるからね。

 1番がサヤで、2番が斬雨さんだな。正直これ以上の順番は意味なさそうだけど、まぁ楽しければそれで良いか!


「おし、俺もジェイのフォローをすっか!」

「あまり期待せずに、期待しておきますね」

「どっちだよ!?」

「……一応期待はしていますよ」

「……何か俺はやりにくくねぇか、これ?」

「アル、頑張ってくれ!」

「……おう」


 ジェイさんと斬雨さんのコンビの中にアルだけという形になるから、やりにくくはあるだろうね。ま、そういう組分けになった以上は、アルには仕方ないと諦めてもらおう。


「それじゃ開始しますか!」

「「「「おー!」」」」

「えぇ」

「おうよ!」

「あ、ジェイさん、ここからなら方角はどっちに行けばいい?」

「えーと、ここからですと少し西寄りに南に進めば良いですよ」

「ほいよっと。各自、準備が出来たら開始って事で!」


 そうして氷樹の森の残り部分を通り抜けていく算段が立ったね。ま、楽しくやっていこうっと。さて、それじゃ準備をしていくとして……。


「おし、上空に行くなら小型化解除っと。んでもって『略:空中浮遊』!」

「アルマースさん、乗せてもらってもよろしいですか?」

「おう、良いぞ。その代わり明かりは頼むぜ、ジェイさん」

「交換条件ですね。良いでしょう。『光の操作』!」

「ならそれで決定だな。破片そ見つけた場合は早いもの勝ちって事でいいか?」

「俺はそれで良いぜ」

「えぇ、私もそれで構いません」


 アル達の空中組は準備が済んだようで、アルのクジラの上にジェイさんと斬雨さんが乗っているね。早いもの勝ちとは言ってるけど、アルは根で取るんだろうな。

 ジェイさんは……岩の操作か土の操作辺りでやりそうな気がする。てか、ジェイさん、光の操作を取ったんだ。まぁ何だかんだで便利だもんね、光の操作。


「俺らの方はどうする?」

「私はケイさんの上に乗ってます!」

「あー、まぁ良いけど……」


 なんかさっきから俺のロブスターの上に展開している傘型の岩の上が気に入ったのか、ハーレさんは降りる気配がないね。まぁ別に困らないから良いけどさ。


「とりあえず私とヨッシは普通に移動しながらかな?」

「少し探す向きを変えながら、それが良いかもね」

「って事はいつも通りだな」


 ふむふむ、それなら俺もいつもとは違う飛行鎧の形態ではあるけど問題なく飛べるから、サヤとヨッシさんの探索範囲に合わせて光の操作を調整していくとしよう。それで、俺は俺でサヤやヨッシさんが見落としそうな位置をチェックしていけばいい。


「それじゃ地上組も出発!」

「「「おー!」」」


 そうして氷樹の森を抜けるまでの間の黒い破片探し勝負の第2部が始まった。さて、上手く見つかれば良いんだけど、どうだろうね。




 それからしばらく氷樹の森を進んでいく。当たり前といえば当たり前だけど、この辺は普通に雪に覆われた森だな。まぁさっきまでいた場所は俺らが破壊し過ぎただけとも言うけど。

 それにジェイさんが言っていたように、今は空中組と地上組のどちらも敵が全然襲ってくる気配はない。ふむふむ、1ヶ所のエリアで一定数以上の敵を倒すと狙われにくくなるというジェイさんの話は正しかったようだね。


「おし、見つけた! 『根の操作』!」

「くっ、どこですか!?」

「あれか! ジェイ、今、光を当ててる左下の方……遅かったか」

「……取られてしまいましたか。次は負けませんよ!」

「あー、次に見つけたら譲るぞ……?」

「……あぁ、今はそうなるのでしたか」


 お、どうやら上空の方ではアルが黒い破片を見つけて確保したっぽいね。ふむふむ、この辺にも黒い破片が散らばっているというのは確定みたいだな。よし、それなら俺らの方も頑張って探して……ん? そこの木の幹に黒い何かがあったぞ。


「ヨッシさん、あの木の幹にそれっぽいのがあるぞ!」

「え、ホント!?」

「あ、ケイさん、それは違うのさー!?」

「……え?」

「ハーレ、どういう事かな?」

「……これ、ただ焼け焦げてる……竹串?」

「多分、誰かの投擲で突き刺さって、魔法か何かで燃やされたやつだと思います!」

「よく分かるな、ハーレさん」

「えっへん!」


 俺にはそれは全然見分けがつかなかったぞ。うーん、ちょっと黒い破片をインベントリから取り出してみて見比べてみたら……あー、並べて見ると確かに違うな。黒く焦げた竹串の方は、完全に光を吸収して真っ暗って事もなかった。光の角度を変えたら、色の違いが出るんだな。

 ふむふむ、それに比べて黒い破片の方はどの角度から光を当てても、同じように真っ暗に見えるんだね。この辺が見分け方の違いか。……っていうか、竹串が木の幹に突き刺さった上で燃えて焦げているのがあったのが紛らわしいだけだよ! 原型が残っていないほど燃やしたの誰…って俺らだな。……それにしてもこんなピンポイントで見間違うようなものがあるとは思わなかった!


「そして、多分そっちの木の枝に刺さっているのが本物なのさー!」

「え、ハーレ、どこ?」

「……どれかわからないかな」


 ハーレさんが俺の岩の傘の上で指差しているんだろうけど、位置関係的に見えんがな! あ、それに気付いたのか、ハーレさんがロブスターの背中の方に降りてきた。ふむふむ、あの辺か。んー、そこって俺の灯りもあまり届いてない位置なんだけど……。


「……ハーレさん、どうやって見つけた?」

「さっきあの位置をジェイさんの光が照らしていたのさー! 短時間だったから、あくまでも多分だけどねー!」

「……相変わらず凄い観察力をしてるな」

「えっへん!」


 ハーレさんの誇らしげな声が聞こえてくるけど、まぁこれに関しては本当に誇って良い事なんだろうね。ほんとによく見つけたもんだ。


「そちらの方にあるのですね!? 『移動操作制御』!」

「あ、ジェイさんが動き出したかな」


 おっと、早いもの勝ちというのは俺ら地上組も含まれるって訳か。ま、見つけたきっかけがジェイさんの光源だというのなら、流石に駄目という気はしないから問題ないけどね。


「ハーレ、正確な位置を教えて!」

「えっと、ちょっと待ってねー! ケイさん、投擲するからその近くを照らしてー!」

「ほいよ、任せとけ」

「えいや! 『投擲』!」


 ハーレさんの投げた小石が杉の木の幹に当たったね。ふむ、あの辺か。とりあえずその辺りに光を当てていけば……お、あれか。光を当てれば分かりやすいな。


「あれですか! 『アースクリエイト』『土の操作』!」

「させないよ! 『アイスクリエイト』『氷の操作』!」

「取りましたよ!」

「あ、少しの差で!?」


 あらま、ジェイさんの方が少し早くて取られてしまったっぽいね。まー、早いもの勝ちではあるから仕方ないけどなー。……てか、地味に負けず嫌いな感じのジェイさんだったけど、ちょっと忘れてる事があるよね。


「あー、ジェイ。勝ち誇ってるとこ悪いが、それってハーレさんの得点だよな?」

「……あ、そうでした……」

「……まぁ、そういう事もあるよな! 元気出せよ、ジェイ!」

「そう……ですね。私がもう1つ見つければ良いだけ――」

「おーい、ヨッシさん! こっちに1個あるぞ」

「え、アルさんホント?」

「な……ん……です……と?」


 そうしてアルに呼ばれたヨッシさんが空中へと飛んでいき、木の上にあった黒い破片を抱えて降りてきた。さっきジェイさんと共に斬雨さんが降りてきたし、それに合わせてアルも降りてきたか。


「アルさん、教えてくれてありがとね」

「なに、良いってことよ!」

「これでみんな1個は確保出来たかな?」

「そうなるのさー!」

「だなー」

「……私が最下位ですか」

「……ま、そういう事もあるって! 気にすんなよ、ジェイ!」


 うんうん、勝負というものには勝敗が付いて回るし、それを気にし過ぎても仕方ない。それに今回はお遊びだったし、そこまで気にする必要も――


「あれ? でも、ケイもまだ見つけてないんじゃないかな?」

「……え? あー!?」


 そういや俺は見つけたと思ったら別のものだったんだ!? だからこの勝負としては見つけてもいないし、獲得もしていない!? 


「……という事は、私は最下位ではないという事ですね!」

「え、それってありなのか!?」


 ちょっと待って、ジェイさん自身も1個も見つけてないよな!? あ、でもそれを言ったらヨッシさんも自分では見つけてないのか。……となると、今回は俺の負けかー。

 まぁ特に罰ゲームがある訳でもないお遊びだから別に良いけど……ちょっとジェイさん、ホッとし過ぎじゃない!? 地味に負けず嫌いなとこがあるよね、ジェイさん!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る