第665話 ジェイの使った手段
焼け野原と化した雪の森の一部で、ハーレさんが黒い方の進化記憶の結晶を見つけた事で予定が変わった。俺は自分の目の前に飛んできた破片を手に入れたし、発見者となったハーレさんも破片は手に入れている状態だね。
「俺とハーレさんは既に1個は手に入れたから、補助に回る! ハーレさん、それで良いか?」
「もちろんなのさー! ケイさん、灯りー!」
「ほいよっと」
よし、とりあえずハーレさんもそれで良いようなので、そういう方向でやっていこう。それじゃ灯りを……って、光の操作は指定せずに不発にしてたから使えんがな!
仕方ない、飛行鎧を再発動していくか。……そもそも今回は鎧型ではなく、ハサミを覆う砲塔型になってるしね。
<『群体塊Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 40/66 → 40/67(上限値使用:10)
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 40/67 → 40/73(上限値使用:4)
とりあえず、群体塊と砲塔型の岩は解除っと。ふむ、移動操作制御で増殖させていたコケについてはここで同時に消えるんだな。……アーサーの戦闘方法を見て思ったけど、ダメージにならないように慎重に扱う必要はあるとはいえ、増殖させたコケを岩の表面に置いてグリースを発動させて地面を滑っていくというのもありか?
あー、でも飛行鎧で飛べるんだし、あんまりそのメリットもないか。風魔法で初速を加速させて……いや、これもどっちみち飛んでたら意味ないや。うーん、流石に何でもは応用させられないね。
「おーい、ケイさーん?」
「あ、悪い、悪い」
ちょっと考え事をしてしまって、灯りを用意するのがすっ飛んでいた。ふー、その辺を考えるのはまた今度だな。大体の見当はついているとはいえ、まだジェイさんからさっきの火の昇華魔法の威力についての話も聞けてないしね。
……てか、灯りを用意するなら暗視も完全にいらないし、これも解除しとくか。
<『暗視』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 40/73 → 40/76(上限値使用:1)
<行動値上限を5使用して『発光Lv5』を発動します> 行動値 40/76 → 40/71(上限値使用:6)
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 40/71 → 40/65(上限値使用:12)
さて、今回はちょっと趣向を変えまして、ロブスターの背中の上に傘みたいな形状の岩を生成して、増殖するコケは傘の内側の方へ! 岩の生成の動きに合わせれば、増殖させていく方向性をある程度絞れるのもいいよね。
そんでもって、結構眩しい発光を光の操作で全方位に拡散させていく! 後は飛ぶのに必要なだけの岩も生成しておけば完成だ。
「おー! 何かすごい灯りになったー!?」
「……無駄に器用な岩の操作をしますね、ケイさん」
「ふふん、どうだ、ジェイさん!」
「このくらいなら私でも出来ますよ! 『移動操作制御』『発光』!」
「……ジェイ、光の向きが全然違うぞ?」
「あ、これは光の操作も必要なのですか!?」
「あー、うん、それが正解」
飛行鎧用の移動操作制御には光の操作を組み込んではいるけど、いつでも光の操作を使う訳じゃないから飛行鎧そのものに組み込んでいたのは地味に気付かれてなかったのか。
まぁ光の操作についてはさっきも使ったし、その前にも盛大に使った事はあるから持ってる事がバレても問題ないけどね。そもそも飛行鎧に組み込んでるのは攻撃用ではなく灯り用だし。
「……くっ、やはり私も光の操作の取得を!」
「おいおい、ケイさんと違った方向性で勝つんじゃなかったのか?」
「……それもそうでした。まさか斬雨に諭されるとは……」
「なぁ、ジェイ!? 時々思うんだが、俺のこういう面での評価低くねぇ!?」
「……えぇ、考えなしで突っ走る事が多かったですからね。何度止めるのに苦労した事やら……」
「……結構前の話だが、そう言われると反論の余地もねぇな」
なんだかんだでこの2人も色々とあるっぽいなー。初めてあった時は斬雨さんは独断専行気味だったんだよね。それを考えると、今の斬雨さんはかなり冷静に落ち着いて戦っている感じはするもんな。
まぁそれは良いとして、今は破片探しが優先だな。黒い破片の方は、明るく照らせば分かる筈だからこうやって周囲を照らす感じでやっていけばいいはず。光源は違うけど前に川で見つけた時と同じやり方だな。
ただ、照らしていく範囲は少し絞っていった方がいいか。全体に照らすのだと探す方も範囲が広がって大変だしね。
「とりあえず今の感じで全体的に照らしてはいくけど、一部だけ軽く光を収束させて動かしていくから、そこを優先的によろしく!」
「分かったかな!」
「了解!」
「おうよ、任せたぜ、ケイ」
「よいしょっと」
「……なんで乗ってくる、ハーレさん?」
サヤ達は焼け野原になっている方に向かって移動を始めたけど、ハーレさんは俺の生成した岩の傘の上に登って座っていた。……いや、補助に回るとは言ったけど、そこに登るんだ。別に良いけどさ。
「方向の指揮は私が取るのさー! 良いよね、ケイさん!?」
「あー、うん、了解っと」
「それじゃ焼け野原になってる、私から見て左の方から捜索開始です!」
「ほいよっと。って事で、みんなよろしく」
「うん、了解。折角だし、誰が一番先に見つけるか勝負でもする?」
「あ、それは楽しそうかな!」
「おし、乗った!」
「あー!? それは私も参加したいです!」
ふむ、確かにそういう事をするのであればハーレさんも参加したいとこだろうね。ふむ、破片が後からトレードが出来るなら誰が取るかは気にしなくても良いんだけど、あれってトレード不可だもんな……。
「それなら、見つけるまではハーレさんがやって、取るのは他の人にしたらどうだ?」
「おー! ケイさん、それはナイスアイデアです!」
「それは私達も参加しても構いませんか?」
「だな。ジェイと2人で勝負してもいいが、折角だし混ぜてくれや」
今はこうやって一緒に行動してるんだし、ジェイさんも斬雨さんもそういう反応にはなるよね。進化記憶の結晶については砕け散った後ならそれほど他の群集と競い合う必要も……あるにはあるのか。地味にレアな経験値増加のアイテムだしな。
ま、見知らぬ仲でもないし、ここであえて拒む必要もないか。どっちにしても誰が真っ先に見つけるかは運の要素も強いから、ここは恨みっこなしでやればいい。
「俺は別に問題ないけど、みんなはどうだ?」
「俺も問題ないぜ」
「私も大丈夫かな」
「同じくです!」
「私も大丈夫だよ」
「だそうだぞ、ジェイさん、斬雨さん」
「それはありがとうございます。些細な勝負ではありますが勝ちますよ、斬雨!」
「おうよ! 俺らは違う方向を探そうぜ、ジェイ」
「……それもそうですね。そうしましょうか」
そう言いながらジェイさんと斬雨さんは、サヤ達のいる側とは反対側の焼け野原の端へと移動していた。ま、ジェイさん自身もカニの背中のコケを発光させているし、光源は別々で問題ないか。……ちょっとだけジェイさん達の方の光は弱めておこうっと。
「そういえばケイさんはどうするのー!?」
「んー、俺は1個拾ったし今回は支援に徹するよ」
「それじゃ私もここから見つけるだけにするのさー!」
「ほいよっと」
今回は既に手に入れている俺とハーレさんは、支援はするけども自分で手に入れるのはなしの方向で。そもそもこの周辺に何個散らばってるかも分からないからね。
まぁ具体的な個数は分からないけど飛び散ったエリアの近くには割とあるっぽい感じもするから、人数分くらいは手に入ればいいんだけど……。あ、そうだ。折角だし、少し妨害も兼ねて……。
「ジェイさん、さっきの話の続きをしながらでもいい?」
「えぇ、構いませんよ」
「よし、それじゃその話をしながらって事で。みんなはそれぞれに破片を探してくれ!」
「雑談しながら、宝探しって事か」
「頑張って見つけるかな!」
「ところで勝敗の結果が出たらどうするの?」
「それでしたら、1人1個以上になった際の見つけた順に取得優先権を得るというのでどうでしょうか?」
「ちょっと待った、ジェイさん! それだと俺が圧倒的に損なんだけど!?」
支援に徹すると宣言はしたものの、それはあくまでみんなに同じ個数が行き渡るようにという配慮のつもりであって、2個目の入手順が関わってくるならそれを放棄する気まではないぞ!?
「それならケイさんもハーレさんと同じように見つけるのでいかがです? 雑談で私の妨害を狙っているでしょうし、それくらいは出来ますよね。さっきから地味に私達の方の光量も減らしているようですし」
「思いっきり狙いがバレてるし!?」
「……カマをかけたつもりでしたが、やはりでしたか」
「あっ……」
しまった、つい迂闊に反応してしまった……。くっ、流石にこういう交渉事ではジェイさんは侮れないな。
「……まぁ、私もそれくらいは普通にやりますし、卑怯とも思いませんよ。ですので、こちらもそれ相応の結果をですね?」
「あー、分かった。勝った時の条件はそれで良いよ。ただし、支援のみってのは撤回して俺も参加するからな」
「えぇ、望むところです」
おし、何かジェイさんに主導権を握られた感じもするけど、このくらいの勝負なら問題ないだろ。ちょっとした軽いお遊びみたいなもんだし、そもそも1順して2個目が手に入るとも限らないしね。
「あ、あったかな」
「って、もう見つけたんかい!」
「あはは、早いね、サヤ」
「流石はサヤなのさー!」
ジェイさんとやり合ってる間に俺が照らしていた焼け野原を黙々と探していたサヤが早くも破片を見つけていた。ハーレさんも言ってるけど、流石はハーレさんと同等に観察力のあるサヤだね。
「……ま、いいや。んで、ジェイさん、話は戻すんだけどさ」
「あぁ、私が使った昇華魔法の事ですね」
「うん、それ。あれって、共生指示と簡略指示を並列制御を使って発動してたよな? どっちもファイアクリエイト?」
「えぇ、そうですよ」
まぁこの辺は普通に発声で発動してたから、共生指示での登録内容の確認をしたかっただけではある。でも、これで大体の内容は把握した。……どう考えても俺には真似出来ないやつだなー。
「それでなんであんな威力になるのー!?」
「ハーレさん、それは単純にスキルの仕様の違いを利用してるからだ。だよな、ジェイさん?」
「えぇ、そうなりますね。共生指示で呼び出して昇華魔法の発動に利用した場合は消費魔力値の分の妙数が再使用時間に加算され、簡略指示で昇華魔法の発動に利用すれば呼び出した側の魔力値の全てを消費しますからね。両立は不可能な可能性も考えましたが、可能だったようです」
「あー、そういう事か。1人で発動した事にはなるが魔力値の消費手段が異なるから、それらが合算されて2人で発動したのと同等の威力になるって訳か」
「おー! なるほど、そういう事なんだー!」
うん、やっぱり想像してた通りの内容ではあったね。共生進化ではない俺にとっては全く思いつかなかった手段なんだよな。ただ、これって俺の想像通りなら実用性はかなり低いはず。……実用性を上げるには、この条件が必須だろう。
「……ジェイさん、単刀直入に聞くけど、そのカニって火属性メインの魔法型になってるよな?」
「……まぁ気付かれるとは思っていましたよ。えぇ、ケイさんの言う通り、このカニは火の進化の輝石を合成して火属性の魔法型に進化させました」
「やっぱりかー! カニもコケも魔力値は同等で、あえて属性を分けて魔法を覚えさせてるって感じか?」
「……流石にそこまではお答えしかねますね」
ふむ、流石にそこまでは教えてはくれないか。でもまぁジェイさんは近接は得意そうじゃないし、近接に強い斬雨さんという相棒がいるから、2キャラを両方とも魔法に特化させたと判断しても間違いではなさそうだ。
というか、そうでなければあの火の昇華魔法の威力の説明がつかないしね。共生指示では共生相手の魔力値を参照して再使用時間が加算されるはずだし、簡略指示では操作しているキャラ……ジェイさんの場合だとコケの魔力値を消費しているはず。
その2つの魔力値の消費量を合算したものが昇華魔法の威力になっているはずだから、あの威力を出すには結構な魔力値の消費が必要だろう。そこから考えれば、自ずと答えは出てくるからね。
「ま、面白い使い方を見せてもらったもんだ」
「そだねー! 共生進化って特徴の違うのを組み合わせるものだと思ってたー!」
「……元々は私もそのつもりだったんですけどね」
「ジェイのやつ、結構特訓はしたんだが近接がからっきしでなー!」
「……魔法がさっぱりな斬雨には言われたくないんですが!?」
「俺は近接が好きだからこれで良いんだよ!」
「私も魔法の方が得意ですし、好きだからこれで良いんですよ!」
あらま、何やら軽い喧嘩みたいになっちゃった。……とはいえ、お互いに本気で怒ってる感じもしないから大丈夫そうだ。そっか、近接特化と魔法特化のコンビかー。お互いに足りないものを補え合えるってのも良いものだね。
それにしても、共生進化で属性の違う魔法を撃ち分けられるようにするというのも面白い発想だよな。とはいえ、俺らの共同体のメンバーでは簡単に真似できそうにもないけどさ。……少なくとも共生進化とは別系統の進化の俺には真似出来ない手段だしね。
「っ!? 斬雨、左の焼け残った木の幹を確認してください!」
「お、この辺か……? おし、あったぞ、ジェイ!」
そんな風にジェイさんの単独では強過ぎた火の昇華魔法の威力の謎も解けつつ、新たに黒い破片が見つかっていく。さーて、もう2順目になった際の順番は2番目までは決まってしまったけど、俺もしっかりと探していきますか。
これでまた脱線してる感じもあるけど、時間はまだ10時くらいだしまだなんとかなるだろう。この氷樹の森が今回の移動の最難関って言ってたし、抜けた後はもっと早く移動出来るだろうしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます