第663話 まとめて殲滅


 新たな加速手段を得たアルのクジラと木に俺とジェイさんで手分けをしてみんなを岩で固定して、猛烈な勢いで雪に覆われた森の中を突っ切っていく。ふむふむ、根で引っ張りつつ、クジラを浮かせて泳ぐ事で着地せずに超低空飛行になってんのか、これ。

 って、うわ!? アルが目の前にあった杉の木が動きを出した!? くっ、今俺は魔力値を回復させる為に干した魚を食べてるとこなんだけど!?


「ヨッシさん、アイスウォールを頼めるか!?」

「魔力値はもうぎりぎりだけど、1発ならなんとか……アルさん、それでいける?」

「それじゃ正面の杉の木前に左に傾けた状態で発動を頼んだ!」

「了解! 『アイスウォール』!」

「見様見真似だが、これどうだ!?」


 おっ、アルが根で生成している小石を掴んで、それを支えにしてヨッシさんの生成した氷の防壁の表面を滑るようにして向きを変えていく。へぇ、使ってるスキルこそ違うけど、手法としては俺との対戦中にアーサーがやってたやつと同じ感じだな。


「……へぇ、やりますね、アルマースさん」

「そりゃどうも! で、ちょっと方向がズレたんだが、その辺は大丈夫か、ジェイさん」

「……これは、どこかで一度止まって方向を戻す必要がありそうですね。真っ直ぐ来ていたとは思っていましたが移動している間に少し方角がズレていたようですし、今ので盛大に狂いました」

「あー、そんな気はしてたがやっぱりか」

「いえ、流石に初見のエリアでマップ情報も無しに、あの速度での移動では仕方ないと思いますよ。……それに、そろそろ後ろのあれらも多少は減らしませんとね」


 まぁ思いっきり現在進行形で大量の敵を引き連れて、見通しの悪い森の中をかなりの速度で移動してきたもんな。近くに来た敵や遠距離攻撃とかは俺とジェイさん以外で迎撃していたけど、それでも10体以上は追いかけて来ている。

 幸い……なのかは微妙なとこだけど、残滓の方が多そうなのが助かるとこか。上空を飛んでいたらもっとヤバかったかもしれないけど……。いやー、現状でも結構な無茶はしてるけど、飛ぶともっとヤバいんなら途中で止めといて正解だったね。


「『連刺突・風』! おい、もう行動値が底をつくぞ!」

「『共生指示:登録2』! 私も限界かな!」

「同じくです! 『散弾投擲』!」


 あー、行動値もそろそろやばいみたいだな。サヤに至っては、竜のエレクトロボールを呼び出して使ってるし……。それに全員、守勢付与は使い切っている。

 さてと、みんなが頑張ってくれている間に何とか魔力値の回復も出来たし、一旦殲滅すべきだな。


「アル、一度ストップ! それと同時に一気に殲滅するぞ、ジェイさん!」

「えぇ、分かりました」

「おうよ! おら! 『略:旋回』!」

「行きますよ、ケイさん! 『略:ファイアクリエイト』!」

「ほいよ!」


 アルが旋回でこれまで進んでいた向きとは逆方向にして、襲いかかってくる敵の群れの方へと向き合っていく。さーて、何だかんだで迎撃をしながらみんながそれなりに攻撃はしてくれているから、個体ごとにバラつきはあってもHPはそれなりに減っている。

 相手のLvが分からないから何とも言えないんだけど、2人での発動の昇華魔法なら半分くらいは消し飛ばせるんじゃないかな。って事で、ぶっ殺す!


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 65/66(上限値使用:10): 魔力値 209/212


<『昇華魔法:スチームエクスプロージョン』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/212


 群がっている敵のど真ん中で、激しい爆音と爆風を伴って水蒸気爆発が炸裂していく。おー、一気に7割くらいの敵が殲滅出来たか。


<ケイが成長体・瘴気強化種を討伐しました>

<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>


<ケイ2ndが成長体・瘴気強化種を討伐しました>

<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>


 お、瘴気強化種が2体混ざってたっぽいね。って、片方は成長体じゃん!? うわー、状況的に仕方ないとはいえ、これは勿体無い……。いや、どうしようもないけどさ。

 さっき同じ事をした時にはあまり気に留めていなかったけど、Lvが上がって魔力値の総量が前より増えているから、劇的ではないにしても昇華魔法の威力が上がってる気もするね。……っていうか、周囲の木々もなぎ倒した上に、雪が無くなって土が剥き出しになってるなー。


「おし、アルはまだ行動値は残ってるよな!?」

「あぁ、それについては大丈夫だ。ケイ、どうする気だ?」

「アルは水流の操作を使って、みんなの行動値の回復の時間を稼いでくれ。俺は、突っ込んで敵の数を減らしてくる!」

「おいおい、ケイが単独で近接って大丈夫か!?」

「ふっふっふ、甘く見るなよ、アル!」

「……まぁ、そういうなら任せるか」

「おう、任せとけ! ジェイさんはまた魔力値を回復させといてくれ!」

「えぇ、分かりました」


 さてと、俺の魔力値は昇華魔法の発動で尽きているけど、それで手段が無くなった訳ではない。……出来れば昼間の日の方がやりやすかったけど、それは言っても仕方ないか。


「ハーレ、サヤ、厳しい場合は共生指示で対応していくよ」

「うん、分かったかな!」

「あっちなら、行動値も魔力値も消費しないもんねー!」

「そういやその手があったか。……俺は水流の操作を発動するから、その辺は任せたぞ!」

「任されました!」

「頑張るかな!」

「それじゃ、頑張っていこうね!」


 そうしてみんなも行動値の回復を優先させつつも、共生進化の特徴を上手く使っていく様子である。ま、共生指示で呼び出したら再使用時間が発生する代わりに行動値も魔力値も消費しない仕様だしね。

 とはいえ、完全に戦闘行為をやめた方が行動値の回復は早いんだけど、まぁそうも言ってられないか。


「……ふむ、そういう手段も……いえ、それならばもしかすると……やってみる価値はありますね」

「おーい、ジェイ、どうしたよ?」

「……少し考え事を……いえ、それは後で構いません。私は魔力値の回復に専念しますので、斬雨はその間お願いしますよ」

「……ま、行動値がキツいが、通常攻撃で凌いでやるよ!」


 ふむ、ジェイさんが何かを思いついた感じではあるけど、あんまりそっちに気を取られ過ぎると危険だな。スチームエクスプロージョンで生き残った敵は爆風で少し距離を離せていたとはいえ、徐々に近付いて来てるしね。


「よし、それじゃ全員、行動開始!」

「「「おー!」」」

「いくぜ! 『アクアクリエイト』『水流の操作』!」


 アルが向かってくる敵の群れからみんなを守るような形で水流を生成していき、ジェイさんは魔力値の回復に専念し、他のみんなは今は微動だにせずに行動値の回復をしていく。

 この状況だと岩でみんなを固定しているのは邪魔になるから、形状はいつもの飛行鎧に戻してっと……。


「あ、ケイさん! 狙われてます!」

「お、マジか!」

「ケイ、防御は任せろ!」

「サンキュー、アル!」


 ハーレさんの危機察知によって俺が狙われているのが分かって、アルが飛んできていた氷の弾を水流で叩き落としていく。それと同時に氷の弾が爆発していたから、今のはアイスボムか。……狙ってきたのは、方向的に氷っぽい表皮のウツボだな。

 うーん、魔力値がない現状で広範囲攻撃となると……あー、ちょっとこれを試してみるか。


<行動値上限を1使用して『群体塊Lv1』を発動します>  行動値 65/66 → 65/65(上限値使用:11)

<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 64/65(上限値使用:11)


 飛行鎧をついでに砲塔型に岩の形状を変えて、右のハサミに展開! 飛行鎧の発動時のコケは岩の内部に群体塊で移動させて、そこから更にコロコロと移動させて砲塔の内部へと移動完了。……多分この部分のコケは移動操作制御のものじゃないから大丈夫だよね?


「……ジャック達の言っていた岩のロブスター型の戦車というのはこういう事ですか」

「でも聞いてたのとは形状が違わねぇか? 砲塔は背中だったろ?」

「……あれは岩の生成でしょうから、形状はどうとでもなりますよ」


 あ、やっぱり昨日ジャックさん達に見せた手段だから既に情報は伝わっていたか。ま、それは想定済みだから問題なし! っていうか、現状で俺に可能な遠距離攻撃ってそんなにないんだよね!?


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『光の操作Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 45/65(上限値使用:11)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『閃光Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 39/65(上限値使用:11)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 あまり高く飛ぶとまた敵が集まってくるので低空飛行をしながら、一気に光のレーザーを放つ! スチームエクスプロージョンで木々はなぎ倒されているおかげで、攻撃はしやすいね。ただし、ちゃんとアルの水流は避ける必要はあったけど。


 ついでに今回は右のハサミを砲塔代わりにしたので、左から右にハサミを勢いよく振る感じで短時間の光のレーザーでなぎ払う事も出来た。……流石に時間が短過ぎて途中までだったのは残念……。

 うん、ダメ元でやってみたけど、効果時間の短さが欠点だけど操作のイメージがしっかりしてればこういう事も可能なんだな。


「ほう、そういうのもありか」

「なぎ払えるかは一か八かだったけどなー。とりあえず、これで何体か減っただろ」

「えぇ、そうですね。……ですが――」

「あー!? ケイさんが狙われまくってます!」

「マジ!?」


 あ、やばい。複数の方向から雪の弾が飛んでくるのが見えてるけど、これ、数が多過ぎる! ってか、また敵の数が増えてません!? いや、ともかく今は徹底的に避けるしかないか。


「おっ、よっ、ほっ! あ、やべ!?」

「ケイ! 『共生指示:登録2』!」

「サヤ、助かった!」


 回避し切れそうになかった攻撃を殴って相殺しようかと思ったら、サヤの竜のエレクトロボールで相殺してくれていた。あー、助かった。でも、やっぱり数が増えてきてるな……。そもそも今はこの氷樹の森のどの辺だ?


「ジェイさん、今って氷樹の森のどの辺!?」

「中央部を少し通り過ぎた辺りです! 一番苛烈な場所は抜けましたが、ここを乗り切れば後はもっと楽かと!」

「うへー、マジか……」


 一番苛烈な場所は抜けたと言っても、その場所の敵を全て倒して来たわけではない。というか、今まさに引き連れているのが、その場所の敵だよなー。

 ここさえ切り抜ければ後は楽なのは良いけど、今が一番大変って事か。……さて、頑張りますか! この状況なら距離を取りつつ、岩を生成して岩の操作で殴っていくのがいいかもね。


「……少し実験も兼ねて、無茶をさせてもらいましょうか。ケイさん、少し提案があります!」

「ん? ジェイさん、どんな提案?」

「ぶっつけ本番ではあるんですが少し試したい事がありまして、皆さんで敵を1ヶ所に集めてもらえませんか?」

「あー、それは別に良いけど……みんなはいける?」


 俺はまだ行動値が残っているから何とかなるけど、他のみんなはどうなんだろう? そんなに時間は稼げてないから、良くて応用スキルを1発くらいが限界なんじゃ……?


「ジェイさん、それって私達の威力は必要かな?」

「いえ、上手くいけば必要はありません。……失敗すれば危険にはなりますが」

「そういうのならいつもの事なのさー!」

「ま、それもそうだね」

「おし、ジェイさん、その提案に乗るぞ!」

「皆さん、躊躇がありませんね。……それこそ灰の群集の強みなんでしょうが」

「あー、それは今考えても仕方ねぇだろ、ジェイ! とりあえず俺らはそれぞれに敵を引きつければ良いんだな?」

「えぇ、それでお願いします」


 ふむふむ、ジェイさんが何をするつもりか分からないけど、さっき思いついていたっぽいやつかな? ま、ここはジェイさんの思いつきに賭けてみようじゃないか!


「よし、それじゃ各自分散して、1ヶ所に敵を集めていくぞ!」

「「「「おー!」」」」

「おうよ!」

「お任せしますよ、皆さん!」


 さて、それじゃジェイさんの要望通りに敵を固めていきますか! どんな風な内容を思いついたのかも気になるしさ。

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