第662話 増えていく敵


 6体の敵に囲まれてから、とりあえず半分は仕留め終わった。Lv差もあるし、ボスという訳ではないから1体ずつはそんなに強くはないけど、数が多いのは面倒だな……。


「はっ!? 『略:触手流し』! あー!?」

「……守勢付与で充分だったかな?」

「あぅ……スキル選択を間違えた……。でも、落ち込んでる場合じゃないのさー! なんで敵がいない後ろから攻撃が来るのー!?」

「……そういえばそうだね?」

「ケイさん、もう一度獲物察知をお願いします」

「確かにその方が良さそうだな……」


 無警戒というほどではなかったけど予想をしていた方向とは違う所から攻撃があったなら、敵の追加の可能性が出てくるしな。ジェイさんの言うように、ここはもう一度獲物察知を使って敵の状況の確認をすべきだ。


<行動値を4消費して『獲物察知Lv4』を発動します>  行動値 36/72(上限値使用:4)


 げっ!? 後ろから近付いてくる黒い矢印が3本に、前からも新たに3本ほど増えている……。これはちょっと想像してた以上に厄介な敵の増加速度だな。……俺らが今7人で、敵が6体追加で合計9体か。


「おらぁ! 『並列制御』『返しの太刀』『乱斬り・風』! おし、これでオオカミ2匹も完了だぜ!」

「斬雨さん、ナイス! だけど、敵の追加ありだ! 後方から3体、前方から3体!」

「げっ、まだ松が残ってんのに次がくるのかよ!? いくらなんでもこの勢いで来られると行動値が足りねぇぞ!」

「……予想以上に飛行行為に対する攻撃性が高いですね」


 ふむ、今の斬雨さんの連続斬りでオオカミ2体は倒し終えた事で、元々いたのは氷属性っぽい松だけにはなったけど、そこに6体ほど近付いてきているから1人1体ずつ相手する感じか……。

 うん、ちょっと作戦変更。これは1体ずつ相手にしていたらどうしようもないから、一気に殲滅する方向でいこう。下手すればモンスタートレインにはなるけど、近くにプレイヤーの反応は無かったし迷惑にはならない範囲だろう。


「みんな、作戦変更! 一旦攻撃を中断で、アルにしがみつけ! アル、合図をしたら水流に乗って今より高度と速度を上げてそのまま進んでくれ!」

「おう!」

「サヤと斬雨さんは前方の敵を近付けさせないようにアルの後方に吹っ飛ばす感じで!」

「うん、分かったかな!」

「良いぜ! この状況で真正面から強行突破ってのは面白いじゃねぇか!」

「それでジェイさんは――」

「……何となく何をしようとしているのか、想像がつきましたよ。はぁ、見た目が大きく変わっているから予測されている可能性は考慮していましたが、私にカニで火の昇華を使えという事ですね?」

「あ、やっぱり火の昇華はカニで持ってるんだ。んじゃ、ジェイさんは俺と一緒にスチームエクスプロージョンな!」

「……今回はその案に乗りますよ」

「おし、そうこなくちゃな!」


 ふっふっふ、どうやってジェイさんのカニが火の昇華を持っているかどうかを確認しようかと思ってたけど、良い状況になってくれたものである。さーて、それじゃ敵を引きつけながら逃げ回り、まとめて爆殺作戦を開始していきますか!


「アル!」

「おうよ! 『自己強化』『高速遊泳』『アクアクリエイト』『水流の操作』!」

「あ、正面からタカが2羽が飛び上がって来たよー!?」

「行くぜ、サヤさん! 『連斬撃・風』!」

「うん! 『双爪撃・火』!」


 よし、突撃をしてきた2羽のタカは行動値を節約する為か通常スキルでサヤと斬雨さんに羽を斬られ、森の方へと落ちていく。

 その様子を確認していると、後方から成熟体のモモンガがなぎ倒していった木々を乗り越えるように進んでくる氷属性の杉の木が3体、根で歩いて……いや、ちょっと走ってるな、あれ。ルストさんみたいな異常な挙動はしてないけどね。


「……ジェイさん、ここの『氷樹の森』って名前の由来って、氷属性の木が多い事だったりする?」

「えぇ、まぁどうやらそのようですよ。私はここの命名クエストには参加していませんでしたから、他の選択肢は知りませんが」

「まぁどこでも知ってる訳じゃないか」


 知らない間に命名クエストが終わっているエリアとかいくつも見てきているし、あれについては偶然居合わせれるかという運の要素が強いもんな。ま、そのエリアの特徴を表す選択肢もあるから、ここの森については非常に分かりやすいな。


「……ねぇ、ケイさん。目に見えて敵の数が増えているような気もするんだけど……」

「あー、うん、思った以上にどんどん増えてるな……」


 オオカミやウサギはまぁいてもおかしくはない種族だけど、空を泳ぐ青白いウツボとかタコとか妙なのも紛れてるな。そういう変なのも今更といえば今更だけど。


「ハーレさん、ヨッシさん、空中にいる敵は可能な限り地面に叩き落としてくれ。無理そうなら後方に吹き飛ばすだけでもいい!」

「了解です! 『散弾投擲』『散弾投擲』『散弾投擲』!」

「こうなるなら、氷塊をもらってくれば良かったね。麻痺毒で『ポイズンクリエイト』『同族統率』! いけ、ハチ1〜3号! あ、やった! 麻痺毒で『ポイズンインパクト』!」

「おー! ヨッシ、もしかして今ポイズンインパクトを取得したのー!?」

「うん、丁度Lvが上がってね」


 ほう、このタイミングで毒の衝撃魔法を取得はありがたいタイミングだね。ウツボとタコは元が海の生物って事もあって効きやすいのか、麻痺毒が効いて落下していき……って、それは電気魔法の場合だ! 今回のはただ単純に麻痺毒も効いたってだけだな。


 それはともかく、一連の行動である程度の数はこれでそれなりに引き離せたから、次をやっていくぞ。……その前に干した魚を取り出して、魔力値を全快させる為に食べておいてっと。お、ジェイさんはドライフルーツで同じように回復してるね。


「アル、合図をしたら集まってる敵の周りを飛ぶように調整してくれ。サヤと斬雨さんとハーレさんは敵を近付けさせないように頼んだ」

「了解です!」

「おう! だけど、もう行動値は厳しいぜ?」

「……確かに厳しそうかな?」

「それは承知の上だよ。無理なら、逃げ回りながら魔力値をアイテムで回復させつつ、強引に突破するまで!」

「相変わらずケイさんは無茶な事を考えますね。……ですが、地味にもう中央部に到達してしばらく経っていますので、不可能という訳でもないないでしょうか」

「……え、いつの間にそこまで進んでた?」


 アルの移動速度を上げて一気に進めてはいたけども、いつの間にやら中央部まで来てたようである。……ここの森に広さが分からないけど、思ってたよりは広くないのかも? まぁその辺は嬉しい誤算だし、まぁいいや。


「とりあえず魔力値は全快! ジェイさんは?」

「私も全快ですので、いつでも構いません!」

「おし、それじゃアルから振り落とされるなよ! アル、任せた!」

「おうよ!」


 そうして俺らを追いかけてきている敵の周囲を回っていくように水流の向きを変化させて、その水流に乗ってアルが泳いでいく。おっと、氷魔法が撃ち出されてきているか。


「ここは特訓の成果を見せる時なのさー! 『略:ウィンドウォール』!」

「ハーレさん、ナイス! いくぞ、ジェイさん!」

「えぇ、やりましょう! 『略:ファイアクリエイト』!」


 ハーレさんが夕方の特訓で使えるようになった風魔法が大活躍したね。みんなの手段が増えてきているから、これはやりごたえが出てくるな。

 それじゃとりあえず今、俺らの攻撃範囲にいる敵の殲滅を開始する! さーて、仕留めきれるかどうかが問題だけど、無理なら無理で逃げるまで!


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 40/72(上限値使用:4): 魔力値 209/212


 ちょっとだけ行動値も回復してたけど、昇華魔法には殆ど行動値は関係ないからスルーで。とりあえずジェイさんが敵の一番集中している辺りに生成した火に重ねるように、俺も水を生成していく。


<『昇華魔法:スチームエクスプロージョン』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/212


 そして轟音を伴う水蒸気爆発によって、集まっていた敵の約半数くらいHPが全て無くなってポリゴンとなって砕け散っていった。


<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『雪の森を荒らすモノ』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>


<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『雪の森を荒らすモノ』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>


 ……あはは、そりゃ今のなら荒らすモノの称号は手に入るよね。それにしてももっと数は倒したと思うけど、殆どは残滓だったんだな。まぁ今は残滓以外はそれほど多くはないって話だから、少しでも瘴気強化種がいただけ良しとしようか。


「さーて、みんな逃げるぞー! アル、悪いけど地上に降りてくれ。これ以上、空中で数を増やすのは勘弁!」

「……ま、そうなるよな! 水流の操作は解除で『略:小型化』『根脚移動』!」

「俺が岩で固定するから、サヤは俺の近く、ハーレさんとヨッシさんは後方の警戒を出来るように頼む!」

「分かったかな!」

「確かに逃げに徹するならそれがいいかもね」

「ケイさん、私は巣ごと固定でお願いします!」

「ほいよっと!」


 結構倒して経験値もそれなりに入ったけども、流石に数が多過ぎて倒し切れなかった敵もいるのは仕方ない。ま、魔力値の回復アイテムはまだあるし、たまには思いっきり使っても問題ないだろ。

 可能であればヨッシさんとアルの2人でのヘイルストームの発動もして欲しかったとこではあるんだけど、それをするとアルの移動絡みを解除する必要があったからね。ヨッシさんも結構魔力値は使ってただろうし……。


「ケイさん、一体何を……?」

「岩で固定って言ってるし、俺らの普段の移動の応用じゃねぇの?」

「……なるほど、確かに岩の操作ではかなり形状の自由は効きますか。そういう事でしたら私達は自分達で行います」

「お、そういう事なら任せる。んじゃ2人は前方の警戒を頼んだ!」

「分かりました。それではやりますよ、斬雨。『移動操作制御Ⅰ』!」

「おうよ!」


 ふむふむ、ジェイさんは岩の操作に関しては俺と同じ事が出来る訳だし、不意の解除に備えて分散しておくというのもありだな。さてと、それじゃ俺らの方も戦略的撤退の為に準備をしていかないとね。


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 40/72 → 40/66(上限値使用:10)


 よし、これでみんなをアルの木やクジラと一緒に岩で固める事が出来た。サヤと俺はアルのクジラの背中の中央付近、ハーレさんは巣ごと、ヨッシさんはアルの木の枝となっている。そしてジェイさんと斬雨さんがアルのクジラの頭部付近となった。

 とりあえず固定はしたけども、動きを阻害しない程度にお腹周りに岩を巻きつけるような感じだね。基本的には後方への警戒はハーレさんとヨッシさんに任せるって事で。


「アル、思いっきり駆けていけ!」

「おう、任せとけ! 『アースクリエイト』『並列制御』『土の操作』『根の操作』!」

「わっ!? アルさんの地上移動がパワーアップしたー!?」

「これって、昨日ルストさんがやってた移動方法に似てるかな!?」

「……あはは、アルさんも色々やるね」

「……固定しといて正解だったっぽいな」


 これは生成した3つの小石を操作して先行させ、そこに根の操作で根を巻き付けて引っ張っていく形でクジラの推進力を強化していた。……しかも木々の間を上手く避けて、時には周囲の木々に根を巻きつける形でも移動しているね。やるな、アル!


「これはまた面白い移動方法ではありますね」

「ははっ、確かにそうだな! さてと、ここまで色々やってくれてるからには俺らの方も頑張ろうぜ、ジェイ」

「……そうですね。ひとまずは回復を優先しますが、大量爆殺には最後まで付き合いましょうか!」


 おっと、斬雨さんもジェイさんもかなり乗り気になってきたようである。ま、スチームエクスプロージョンに関しては俺らだけでは発動出来ないもんな。ここはジェイさんの手伝いは必須になってくるからね。


「とりあえず俺とジェイさんは昇華魔法の発動準備に専念!」

「えぇ、分かりました」

「斬雨さんは前方から来た敵の対処で、サヤは側面からの敵への対処を任せた!」

「おう、任せとけ!」

「うん、任せてかな!」

「ハーレさんとヨッシさんは後方からの攻撃の防御で!」

「はーい!」

「了解!」

「アルはそのまま森を抜けるまで突っ走れ! 殲滅は俺とジェイさんでやる!」

「おうよ!」


 さーて、これでこの氷樹の森を無事に抜けられたら良いんだけどね。ジェイさんが言うにはもう中央部には来ているという事だから、このまま逃げつつ昇華魔法をぶっ放していけばなんとかいけそうかな。

 また追いかけて来ている敵の数が少し増えてきているけど、やれるだけやるまでだ! ……まぁあのまま空中を飛んでいくよりかは、今の方が多少マシなはずだよね。

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