第628話 土属性のドラゴンと対決 その1
ドラゴンに土属性の付与をされて、ヤドカリの貝殻に紋様が浮かび上がっている十六夜さんだけど、ここからどうなっていくんだろうか?
「……ベスタ、あの付与魔法ってもしかして……?」
「……あぁ、俺も付与された。今考えるとよく分かるが、ああやって付与されるとスキルに土属性の効果がかかって、無属性の時よりダメージ減衰が少なからず発生していた。だが、十六夜の場合は……」
「あの紋様って、元々持ってる属性に更に付与された場合なんだよねー!? どうなるのー!?」
「……十六夜さんの土属性の攻撃の威力が増加かな?」
「多分そうだろうけど、どの程度強化されるのかが気になるね」
それは気になるところではあるけども、さっきの十六夜さんの言葉が気になるね。っていうか、十六夜さんの回避がすごいな!? 尻尾を振り回すドラゴンの攻撃を飛行しながら回避し続けている。
「『暴発』『並列制御』『岩の操作』『岩の操作』『岩の操作』!」
十六夜さんが崖にぶつかるぎりぎりの所を飛んでいき、ドラゴンの尾が崖へと叩きつけられていく。その隙を狙って、十六夜さんはドラゴンの腹部に向けてその辺にある岩を2発、背中へ1発ほどぶつけていた。
腹部への1発は暴発してドラゴンと十六夜さん自身にもダメージを与えているけど、暴発ではHPは0にはならないからって十六夜さんは無茶な運用をしてるね!?
今ので付与された紋様は使い切ったみたいだけど……どうやら、あんまり効いている様子はない。……元々の魔法への耐性が高そうだし、同属性では付与魔法で増幅されても大して効果はないのか……。
「『コイルルート』! ちっ、ここで不発か……」
そこからドラゴンの爪が銀光を放ち出し、それを妨害しようとしたみたいだけど運悪く不発だったようである。あー、暴発ってそれがあるからなぁ……。
そこで大きな隙が出来てしまった十六夜さんにドラゴンの爪での連撃が迫っていき、必死に回避をするものの、流石に無理があったようだ。……その連撃は回避し切れずにほぼ残っていないHPを全て削られてしまった。
「くっ、ここまでだな。……俺は存分に戦ったから、後は任せる」
「あぁ、任せておけ」
「ふっ……」
その言葉を残して、十六夜さんのヤドカリはポリゴンとなって砕け散っていった。……まだヨモギの方はほんの少しだけHPが残っていたけど、それでも死亡したという事はヤドカリの方でログインしてたんだろうね。同調はログイン側が死ねば終わりだしさ……。
「あ、ドラゴンが逃げていくかな!?」
「あー!? 岩山を乗り越えていく気だー!?」
「予想外の動きだね?」
「くそ、そういう行動パターンかよ! アル!」
「悪いが俺らは先に追撃に行く。アルマース、絶対に逃がすな!」
「あぁ、分かっている。『自己強化』『高速遊泳』『アクアクリエイト』『水流の操作』! ケイ、風除けを頼むぜ!」
「おう!」
他のみんなからの声も聞こえてはいるけど、後から追いかけるというような内容である。勝負で優先権を手に入れて、先に戦っていた十六夜さんが殺られたから、俺らのPTの獲物になった訳だ。
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 72/73(上限値使用:1): 魔力値 205/208
<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します> 行動値 69/73(上限値使用:1)
逃げていくドラゴンのこの先の行動パターンが分からないから、移動操作制御ではなく手動発動で水の風除けを作っていく。ここまでやってきて、十六夜さんがかなり弱らせたドラゴンだ! このまま逃してたまるか!
ちょっとアルの角度が水平ではなく垂直に近い角度になっていて、下から水流で押し上げるような変則的な形にはなっているけど、そこは気にしている場合じゃない。
一応、みんなが落ちないように水を全部弾性は持たせているから大丈夫だとは思うし、みんなもアルの木の上に上手く乗っているので問題はないはず。
「ケイとアルマースはそのまま追いかける事に専念しろ。ハーレ、威力はどっちでもいいが、この距離から狙えるか?」
「1番長距離が狙えるのは貫通狙撃だから、チャージの時間が欲しいです! それなら届くはずなのさー!」
「よし、ならばそれを頼む」
「了解です! それじゃ速度も追加していくねー! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『貫通狙撃・風』!」
「ケイ、ここからの指揮は任せるぞ」
「ほいよ!」
さて、ここからは俺が指揮をしていけばいいんだな。とりあえずハーレさんが風属性にした貫通狙撃でドラゴンを攻撃をするまでの間は引き離されないようにするしかないか。
今のドラゴンは完全に逃亡の行動パターンになっているから、まずはそれを止めないといけない。ま、それは既に対応中だから、少し待つしかないな。……とりあえずドラゴンまでの距離は追いつけてはいないけど、離されてもいないのでなんとかなるだろう。
出来れば完全に岩山を超えてまだ知らない地形に行く前に戦闘状態に入りたいけど、厳しそうだよなぁ……。
「ねぇベスタさん、ドラゴンはなんで逃げているのかな?」
「敵と認定していた十六夜を仕留め終えたからだろうな。……全滅した直後に目撃されるという条件になるからあまり数は確認されていないが、そういう行動パターンの敵は少なからず存在する」
「……そっか。そのままだと連戦はしてくれない敵って事なんだね」
「それは厄介かな……」
「……その性質だからこそ、ここまで成長したんじゃねぇか?」
「あー、アル、それはあり得そう。このドラゴンって結構挑みに来た人はいるんだよな? その時からこういう行動パターン?」
「……いや、違う。全滅したPTが出た後に即座に追撃というパターンは何度かあったそうだが、その頃には逃亡するという特徴は無かった筈だ。……適応進化でも発生して特性が増えたか?」
「え、そんな事あんの!?」
「いや、分からん。……接敵し次第、識別をしてみるしかないか」
うーん、何度も他のPTからの追撃を受けた事が原因となって適応進化が発生して、特性が増えている可能性か……。他の敵と比べて異常な程に成長したフィールドボスという事も考えると、そういう特殊な状況になっている可能性もありか。
「……ベスタ、確か魔法寄りのバランス型って言ってたよな?」
「あぁ、そうだな」
「それじゃ有効なのは魔法よりは物理だろうし、今回のメインは予定通り風属性を付与した物理攻撃メインでよろしく! 識別は俺の方でやるから、サヤとベスタはハーレさんの貫通狙撃が決まったら速攻で動いてくれ」
「分かったかな! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」
「あぁ、了解だ。『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」
「了解です!」
よし、サヤもベスタもこれで緑色のオーラを纏っているので風属性攻撃の用意は出来た。魔法寄りのバランス型だという話だから、メインは土属性の弱点属性となる風属性にした物理攻撃でいくのが良いだろう。威力の高い風魔法は今のメンバーは持ってないしね。
「ヨッシさんは溶解毒と氷魔法で行動阻害を狙ってくれ」
「うん、了解! でも魔法で大丈夫?」
「あー、氷は魔法でしか無理だけど、毒は魔法の毒より物理の毒が良いか。……ヨッシさん、参考までに聞くけど、ウニのスキルに毒を乗せるのは可能?」
「……それはちょっと無理だね。そっか、私のハチで物理の遠距離に使えるのは同族統率だけなんだ」
「あ、そうなるのか。それなら同族統率のハチが残ってる間はそれでやって、使えなくなったら魔法で対応って事で」
「うん、分かった。……その辺も少し手段を増やした方が良さそうだね」
ま、確かに物理毒での遠距離……というよりは中距離くらいな気はするけど、その手段は欲しいところではあるね。ウニの方で棘を伸ばしたり射出したりは出来ているので、合成進化になればその辺も使えるようになるはず。
そういやヨッシさんのウニはハチと合成進化にするとは言ってるけど、融合進化の方は選択肢として出てくる可能性はあるんだろうか? ……気にはなるけど、今考えてる場合じゃないか。
「アルは俺と一緒に防御と拘束を優先するぞ!」
「おう! 付与魔法も頼むぜケイ!」
「おうよ!」
さてと、これで指示出しは完了! 元々ベスタが俺らを誘うと判断した手段をそのまま採用した作戦だけど、それが有効だと思うし、ひとまずはこれで良いだろう。……少し気になる点もあるけど、そこは実際に戦闘中に確かめてみるしかない。
「ケイさん、チャージ完了です!」
「よし、そのままぶっ放せ、ハーレさん!」
「了解です! いっけー!」
ドラゴンが岩山の頂上へと辿り着いた瞬間、チャージを終えた緑色を帯びた銀光を放つハーレさんの投擲がドラゴンの腹部に突き刺さっていた。……あれ、ちょっと待って。思った以上にダメージが入っているんだけど……?
「……ハーレさん、今何を投げた?」
「小石だと効果が薄そうな気がしたので、これを投げました!」
「……これって、先を尖らせた竹の串か!?」
「正解なのさー!」
あー、いつもは小石をメインの弾に使っているけど、こういうのもありなのか。……何というか、地味に岩っぽい鱗の隙間に見事に突き刺さっている……っていうか、刺さった部分って鱗が剥がれているっぽい? あ、十六夜さんがつけた傷みたいだね。
「これって、サヤなら竹槍でも用意したら大型砲撃と組み合わせて槍投げが出来る……?」
「あ、それは出来そうな気はするかな?」
「それは反対です! それをするなら、私が大型化して大型砲撃を使うのさー!」
「その辺の話は後にしろ! 来るぞ!」
「だな! ハーレさん、その辺は後でな!」
「了解です!」
ハーレさんの攻撃を受けて、逃亡行動を中断して俺らの方へと向き直ってくるドラゴンを相手にしつつのんびり話している訳にもいかないもんな。
「行くぞ、サヤ! 『飛将疾走』『爪刃双閃舞・風』!」
「分かったかな! 『上限発動指示:登録1』『爪刃双閃舞・風』!」
そしてアルがドラゴンより少し高度は低いものの、かなり距離が近付いた段階でベスタは空を駆け、サヤは大型化した竜に乗り攻撃に移っていく。ここまでくれば水の風除けも邪魔なだけなので解除してっと。
お、何か睨みつけて攻撃をしようとしてるな。……ドラゴンの爪が銀光を放ち出したけど、これは連撃とチャージのどっちだ?
「ベスタ!」
「分かっている!」
ベスタとドラゴンが一撃ずつ打ち合って、互いに銀光が強まっていった。って事は……。
「よし、連撃か! ハーレさん、並列制御で連投擲、発動はLv1でいい!」
「了解です! 『並列制御』『連投擲』『連投擲』!」
連撃を潰すには、すべての連撃を使い切らせればいい。サヤとベスタの2人でもそれは可能だけど、応用スキルでそれをするのは勿体無いからね。そういう意味では通常スキルで遠距離連撃の可能なハーレさんが適任だ。
「アル、守勢付与をかけるから、サヤとベスタの攻撃が終わったら拘束魔法!」
「おう! だけど、その前に岩山の上に乗らせてもらうぞ。水流の操作が解除出来ん!」
「あー!? そういやそうだった!」
水流の操作を切れば、アルの空中浮遊だけでは浮かんでおけない高度である。岩山の上に乗って、その辺の落下防止策を取るのは必須か。……水のカーペットで対応してもいいけど、あれは激戦にの最中だと不意の解除が怖いからな。
とりあえずアルが岩山の頂上に移動しているので、今のうちに守勢付与をかけておこう。
<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 62/73(上限値使用:1): 魔力値 184/208
よし、アルの木の周囲に水の球が3つ漂い出したから、守勢付与は完了。そしてサヤとベスタが常に挟撃になるように位置取りを変えながら、ドラゴンを鋭い連撃で斬り刻んでいく。ふむ、土属性のドラゴンには風属性攻撃はやっぱり有効だね。
「はっ!? ベスタさんが何かよく分かんないけど狙われてます!」
「……何? くっ、そういう事か!」
「げっ、土属性の付与をされたのか……。しかも操作属性付与を上書き!?」
これはちょっと想定外だったぞ……。ベスタの周囲に土の球が漂い始めたと同時に、1つの球が消えて風属性で緑色になっていたはずの魔力集中のオーラの色が土属性の茶色へと変化している。付与魔法にこんな効果があったのかよ!
「ベスタ、それは再上書きは可能か!?」
「この状況は初めてだが、やってみよう。『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」
「お、上書き出来……あ、また上書きされた……」
操作属性付与で上書きは成功したものの、付与された土の球を消費して再び土属性へと上書きをされた。……くそ、操作属性付与での属性変更をすると上限値の使用量がどんどん増えていくから、地味に厄介だぞ。
「……くっ、地味に面倒な。ならば、これでどうだ!」
「あ、その手があったか!」
あえてベスタがドラゴンの頭にぶつかってわざとダメージを受けて、付与された土の球を消滅させてしまえばいいっぽいね。付与された球を消す条件は属性の上書きに消費させるか、自身がダメージを受ける事か。
……操作属性付与で弱点属性にしていても強制的に上書きをされるのは厄介だし、ダメージが受けなければ付与された球が減らないというのも厄介だな。ただ、幸いな事に危機察知での事前察知は可能っぽいんだよね。
「とりあえずアル、拘束魔法!」
「おうよ! 『アクアプリズン』!」
アルに付与した守勢付与の水球を3つとも消費して補修用の1つの水球に変わり、ドラゴンを水の牢獄の中に閉じ込める事は成功した。これで二度閉じ込めたのと同じ効果にはなるから、少しの時間稼ぎにはなる。
とはいえ、それほど強度がある訳じゃないから、少しの時間の猶予を作る事しか出来ないけども……。あー、やっぱり水の中で暴れてるし、魔力集中もかかったままだから……って、効果が切れたっぽい? お、これは地味にラッキーか。
よし、短い時間とはいえ少しだけ考える猶予は出来た。その間に色々と確認をしていこう。
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