第606話 昼間の騒動の続き


 現在、アルの樹洞の中でベスタと適当な雑談をしながら休憩中。ふー、そろそろ気分的には楽になってきた。さて、そろそろミズキの森林の西の端にある崖が見えてくる頃だとは思うけど……。


「はっ!? 前方にプレイヤーの集団を発見です!」

「ハーレさん、どういう集団だ?」

「キノコとタケノコの集団が、ミズキの森林の端の崖の前に集まってます! あ、ラックもいるー! 名前を知ってる灰のサファリ同盟の人も結構いるけど、ほぼ全員キノコかタケノコー!」

「なるほど、昼間のあれか」

「……ケイ、俺を見ながら言うな」

「……サヤとヨッシさん、無言で俺を見るのは止めてくれ」


 どうやら俺とサヤとヨッシさんの思った事は同じようだったみたいだね。アルとベスタがそれぞれの筆頭になって、珍しい光景が広がってたもんなー。


 おっと、そうしている内に樹洞投影にもその様子が映し出されてきた。おー、キノコもタケノコもそれぞれに30人以上はいるんじゃないか? 昼間のお菓子の派閥騒動からラックさんがスクショのアイデアへと発展させた。その撮影の現場に居合わせたという事になるんだろう。


 あ、俺らが近付いているのに気付いたラックさんが小走りにこっちへやってきたね。それに合わせてアルも移動速度と高度を下げていき、ハーレさんが地面へと飛び降りていった。


「ラック、こんばんはー!」

「あ、ハーレ。それにみんなはどうしてここに? スクショの撮影の参加希望?」

「ううん、違うよー! その崖の上の丘陵エリアに向かってるのさー!」

「あ、ここに来たのは偶然だったんだ。……いきなり不躾だし駄目元で聞くんだけど、ハーレ達の中に炎の操作を使える人っていない? 燃える炎を背景にして演出する予定が、ちょっと予定外になっちゃって……」

「え、どういう事ー!? 灰のサファリ同盟になら炎の操作を持ってる人は結構いるよね!?」

「……あはは、普段はそうなんだけどね。持ってる人が今、新しく作ったキノコかタケノコでさ……? 今、演出の協力の募集をかけようか相談してたとこなんだ」


 あー、なるほどね。炎の操作を持ってる人が2ndで写る側に行ってしまって、肝心の演出の方が人員不足に陥ってしまっているという訳か。……ふむ、炎の操作か。


「……実戦で使うには微妙だけど、演出だけなら俺でもいけるか? でも炎の操作はLv1だしな……」

「はっ!? そういやケイさんが炎の操作を持ってたー!?」

「え、ホント? そういう事なら時間的に余裕があれば、ちょっとお願いできない? 報酬は弾むよ?」

「ケイさん、どうするー!?」

 

 ふむ、このお菓子の派閥争いのスクショの撮影についてはちょっと興味はあるし、スクショの団体部門の参加数を増やしておくのも悪くはないか。……とはいえ、俺だけで決めるべき事ではないね。


「俺としてはちょっと参加したい気分だけど、みんなはどう?」

「あー、個人的にはこのスクショは見ていきたいとこではある」

「俺もアルマースに同意だ。それに炎の操作なら俺も持っている」

「アルもベスタさんも興味はあるみたいだし、ラックさんも困ってるみたいだし良いんじゃないかな?」

「まだ8時半くらいだし、みんなが良いなら私も良いよ」

「よし、それじゃスクショの撮影を手伝っていくって事で決まりだな」

「お、それは助かるよ! っていうか、ベスタさんの声が聞こえたけどみんなと一緒にいるの? ベスタさんも炎の操作持ち?」


 樹洞の中にいるままではあるけど、今は音声は遮断していないので普通に声は聞こえているんだよな。まぁラックさんからすると、ベスタが俺らと一緒にいるとは思ってなかったんだろうね。


「あぁ、俺ならここにいるぞ」

「おー、ホントにベスタさんがいたよ!?」


 そう言いながらベスタが樹洞の外へと飛び出して行った。俺も色々と解除してから外に出ようかな。


<『発光Lv5』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 61/61 → 61/66(上限値使用:7)

<『群体塊Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 61/66 → 61/67(上限値使用:6)

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 61/67 → 61/73


 よし、解除完了。えーと、とりあえずアルのクジラの背の上にいればいいか。そこからでも十分会話は出来るしね。……ベスタは地面に降りてるけど。


「昼間は少し迷惑をかけたからな。俺も手伝おう……と言いたいとこだが、俺の炎の操作はLv1なんだが問題ないか?」

「あ、俺もLv1だな」

「ベスタさんもケイさんもLv1の炎の操作なんだね。でもそれなら大丈夫だよ。元々制御し切れてない荒々しいLv1の炎の操作でやるつもりだったからねー!」

「ほう、そうなのか」


 ふむふむ、それなら俺やベスタでも問題はないね。……っていうか、ベスタも炎の操作を持ってるんだな。……まぁ俺と同じでLv1のようだけど。


「よし、それなら問題なしだな。スクショの撮影に参加していくぞ!」

「「「「おー!」」」」

「……相変わらず仲が良いな、お前ら」

「それじゃみんな、協力お願いします!」


 そうして予定外ではあったけど、キノコとタケノコのお菓子の派閥争いをモチーフにしたスクショの撮影に参加する事が決定した。ま、やれるだけの事をやっていこうじゃないか。


「ラック、私達は何かする事あるー?」

「えっと、そうだね……。ハーレは撮影の方をやる?」

「やるー!」

「それじゃハーレは撮影班ね。アルマースさんは、キノコの人とタケノコの人を崖上まで運んでもらえない? 折角だから予定変更して、崖上で撮影しよう!」

「お、出番なしかと思ったが一応役目はあるのか。それくらいなら任せとけ」


 元々はこの場で崖の前で撮る感じだったっぽいけど、そこを崖上から変更するのか。……っていうか、今回のこのキノコとタケノコのスクショの撮影ってかなり急で準備がちゃんと出来てない感じだね。


「おう、ラック、人員不足はどうなった? 目処が立ちそうにないなら俺らの方から人員を出すぜ?」

「あ、肉食獣さん。それについてはちょうど助っ人が決まったとこだよ」

「ほう、そりゃ良かったじゃねぇか。って、助っ人はリーダーとグリーズ・リベルテか! こりゃ頼もしい助っ人だな!」

「そうなんだよねー。そこでちょっとお願いなんだけど、薪をちょっと融通してもらえない? 炎の操作持ちは2人ほど協力してもらえるようになったんだけど、火の昇華持ちじゃないからさ」

「あー、そりゃ仕方ねぇな。よし、それじゃ薪を持ってくるから待ってろ」

「うん、よろしくね」


 おー、どうやら俺とベスタでは大規模な火の生成は出来ないから、演出用の火については薪を燃やして対応するつもりだね。

 あ、それなら紅焔さん達は予定が空いてたりはしないかな? ちょっとフレンドリストを見て……お、ログインはしてるけど、現在地はどっかの名無しの平原か。一応紅焔さんにフレンドコールをしてみて……あ、通じないって事は戦闘中か。なら仕方ないな……。


「なぁ、お前は火の昇華を持ってただろ。キャラを切り替えて来たらどうよ?」

「わざわざこのスクショの為に2ndを作ってきたのに、参加を止めろってか!? そんなのはお断りだ!」

「キノコの人員を減らす気か!」

「いや、そういうつもりじゃ……」

「そこのタケノコだって、1stで火の昇華は持ってただろ!」

「俺だって大急ぎで成長体まで育ててきたんだけど!? タケノコは幼生体じゃ木と一緒で動けないんだぞ!」

「いやいや、みんな落ち着いてくれって。リーダーや、コケの人が請け負ってくれたんだしさ?」

「「「「きのこ派のタケノコは黙ってろ!」」」」

「その言い草はひでぇ!? その辺は配慮してタケノコでログインせずに裏方に回ってるのに!?」

「はいはい、みんな言い争いしないの! それ以上揉めるなら、結構な強行スケジュールでやってるんだし今回のは無しにするよ?」

「「「「すみませんでした!」」」」


 なんか揉め始めたと思ったら、ラックさんの一声で沈静化した。ふーん、色々と不備があるみたいだけど、強行スケジュールでやってるのと、2ndで急いで作った人がいるのが原因にようである。

 まぁこのスクショを撮る為にわざわざキャラを作ったのなら、そりゃそっちで参加したいよな。うん、その気持ちはよく分かる。……きのこ派のタケノコの人は今は1stで桜花さんと同じメジロで、名前はライムさんか。あ、灰のサファリ同盟の森林支部の所属なんだ。


 っていうか、タケノコは幼生体じゃ動けないんだね。今はなんか、タケノコの下の方にある先が赤い根っこみたいなので歩いてるけど。


「さてと、それじゃ役割分担の続きだね。えっと、サヤさんとヨッシさんって電気魔法と電気の操作は使えるんだよね?」

「うん、それは大丈夫だよ」

「私も苦手だったけど結構特訓はしたから、ある程度は使えるかな!」

「そういえばハーレがサヤさんは操作系スキルが苦手だって言ってたっけ」

「何を話しているのかな、ハーレ!?」

「あぅ!? つい、バイトの休憩時間にメッセージのやり取りしてた時にポロッと……」

「あはは、言い触らしたりはしないから大丈夫だよ。それにサヤさんが特訓して、苦手を克服してるって聞いただけだからね」

「……そういう事なら、気にしないでおくかな」


 今のサヤの操作系スキルはまだぎこちなさは残っているけども、以前に比べればかなり良くなっているもんな。もう弱点と言えるほど極端な苦手な状況からは脱却している。

 それにしても電気魔法と電気の操作をどう使う気だ……? それも2人用意するとなると、ちょっと大掛かりになるような……。


「ラックさん、電気の操作をどう使う気だ?」

「あ、その説明もしないとね。えっと、ほら、睨み合いとかしている時に火花が散ってる演出とかあるじゃない? あれを再現しようかなーって思ってさ」

「……なるほど、あれか」


 ふむ、確かにキノコとタケノコの対立というテーマとしてはその演出はありだね。……でも、ヨッシさんはともかく、サヤの方が厳しくない……? 主にキャラの大きさ的な都合で……。いや、でも生成する位置を考えればそうでもないか?

 うーん、そういう事をするならキノコとタケノコの人に纏雷を使ってもらって、それぞれに発動していった方が良い気もする。あ、でもそうするとサヤとヨッシさんの出番が無くなりそうな……。


「ねぇ、ラック! それなら纏雷でやれば良いんじゃないでしょうか!?」

「……え、あ、そっか。その方がサヤさんとヨッシさんのやる事が無くなるよ……?」

「はっ!? それは考えてなかった!?」

「それについては気にしなくてもいいよ?」

「私はアルと一緒にみんなを崖の上に運ぶのでも良いかな?」

「お、それならサヤはそれで決定だな。問題はヨッシさんか」

「……うーん、ヨッシさんがこの場で出来る事か」


 まぁサヤについては竜を大型化させて、アルと手分けをしながらキノコの人達とタケノコの人達を運ぶのでも良いだろう。

 そうなると、ヨッシさんだけがする事がないんだよな。1人だけ協力者の登録が出来ないっていうのは流石に……。いくらなんでもヨッシさんには運ぶのは無理だろうから、何か良い演出でもないか……?


「そういう事なら、ヨッシとアルマースで上空に毒霧を発生させて少し日光を遮るのはどうだ? 誰かが風魔法で少し毒霧を散らせば、隙間から適度に光が差し込んで良い演出にはなるだろう」

「あ、それいいね。アルさん、それでやる?」

「俺は今のところ撮影時にする事もないから、それでいいぜ。風魔法ならサヤも出来るんじゃねぇか?」

「……多分出来るとは思うかな?」

「おー、ベスタさん、ナイスアイデア! それじゃ演出はそういう方向性で行こうー! ……なんか、ほぼ演出は任せっきりになってごめんね」

「ラック、それは気にしなくていいのさー!」


 そのハーレさんの言葉に合わせて俺らもみんなが頷いていく。まぁ偶然ではあるけど、このスクショの撮影は結構楽しそうではあるもんな。

 それ自体は良いんだけど、重要な事をまだ確認していない。流石にこれについては確認しておかないとね。


「ラックさん、これの協力報酬は何になるんだ?」

「あ、忘れてた!? えっと、それじゃ強化した瘴気石+10を2個でどう? 現時点ではかなり高めの強化具合だよ」

「え、ちょっとそれは貰い過ぎじゃない?」

「別に問題はないよー。数自体はどんどん増えてきてるけど、これを使って生み出したフィールドボスを倒せる人って少ないからねー」

「あー、なるほど」


 確かに+10の瘴気石を2つ使えばLv21のフィールドボスが誕生するんだもんな。Lv21のフィールドボスと言えば、前に青の群集のブルークリスタルという共同体に救援を頼まれて倒したワニと同じである。あの時は上手くハメ殺しが出来たけど、結構倒すのに時間がかかったし倒しにくくなってくるフィールドボスであるのは間違いない。

 まぁ無理に+10を両方使う必要もないし、他の機会で+6くらいの瘴気石を手に入れて自分達のLvに合ったフィールドボスを誕生させるのでもありかもね。


「よし、俺はその報酬でいいと思うけど、みんなはどうだ?」

「あー、それ自体は構わないんだけど、ベスタの分はどうすんだ?」

「……あ」

「俺は要らん……と言うとそれはそれで問題か。……よし、その+10の瘴気石2つの内、1つを俺の持ってる+7の瘴気石と交換でどうだ?」

「……ベスタがそれで良いなら問題ないか?」

「だな。俺はそれで良いぜ」

「私も賛成さー!」

「うん、良いと思うよ」

「私も賛成かな」

「それじゃそれで決定って事で。ラックさん、そういう事になったから、それでよろしく」

「うん、それは了解したよー。今は手持ちにないから後になるけどそれはいい?」

「あー、まぁ別に問題ないか?」


 みんなに確認するつもりで見てみれば頷いているので問題はなさそうだな。よし、これで報酬もやる事も確定になった。あとはモンスターズ・サバイバルの肉食獣さんが燃やす薪を持ってきてくれれば……って、その前に崖上にみんなを移動させるのが先か。


 さーて、崖上で対峙するキノコ軍団とタケノコ軍団の火花を散らす光景と、その演出として少し日光を遮っていくのと、背景として荒れ狂う炎を演出していけば良いんだな。うん、実際に撮ってみるのが楽しみになってきた。

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