第607話 スクショの下準備 上


 偶然の通りすがりではあるけど、成り行きでキノコ軍団とタケノコ軍団のスクショの撮影に協力する事になった。ま、まだ8時半になったばかりくらいだし、ドラゴン戦の前の息抜きと考えれば良いかもね。


「それじゃ、キノコとタケノコの人はアルマースさんとサヤさんに乗って崖上まで移動ねー!」

「「「「「おう!」」」」

「流石にこの人数だと全員を一気には無理そうだな。適当に俺とサヤの竜に分かれて乗ってくれ」

「とりあえず私は大型化かな。『上限発動指示:登録1』!」


 ひとまずサヤが竜を大型化させて、何人かは乗れるようになっている。まぁアルのクジラと比べるとどうしても小さいので、無理に乗せて4、5人くらいか。


「私はサヤさんの方に行こうっと」

「あ、ズルい!? 竜に乗ってみたい!」

「俺はクジラだな。空飛ぶクジラは前々から乗ってみたかったけど、中々機会がなかったんだよな」

「確かに。うーん、これが終わったらキノコを消して氷属性の空飛ぶクジラでも作るか。それで雪山支部に常駐しよう」

「お前のキノコ愛はその程度なのか!?」

「あーうん。お菓子のきのこは好きだけど、リアルなきのこは苦手だし……」

「あ、そうなんだ。そりゃ失礼……」

「良いからとっとと登って行けよ!?」

「「「「黙ってろ、きのこ派のタケノコ!」」」」

「だからなんでそんなにそこで息が合って、攻撃的なんだよ!?」

「……まぁ大真面目に言うなら、育成が足りてないから登ろうにも登りにくかったり?」

「あ、なるほど」

「とりあえず私は先に行くかな」

「お先ー!」

「あっ!?」


 なんか騒々しい状態になってはいるけど、どうもアルの背の上に登りにくい状態のようである。……まぁキノコもタケノコも作ったばっかの人が多いそうだし、そういう状況にもなるか。


「ケイ、岩の操作で登りやすいように道を作ってくれ!」

「おう、任せとけ!」


 ま、尾びれの方から登っているタケノコの人もいるけど、キノコの人は苦戦気味の様子だしな。とりあえず岩の操作でアルの背に乗る為の足場を作るか。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 72/73 : 魔力値 203/206

<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します>  行動値 53/73


 よし、これで地面からアルの背の上まで通じる岩の橋が完成だな。……って、あれ? よく考えたら、これでみんなを運べば良いんじゃ……?


「……ラックさん、これでみんなを運べば良いんじゃね? 確かラックさんも土の昇華は持ってたよな?」

「はっ!? そっか、使える人がみんな居ないから選択肢から抜けてたけど、私は使えるんだった!?」

「……ま、忘れてたなら仕方ないか。よし、俺とケイとラックさんで分散して運んでいくぞ」

「俺はアルの背に乗せ終わってからやればいいか」

「そういう事だからみんな、よろしくねー!」


「あー、流石に写りたい方に人が集まり過ぎたんだな」

「確かに今は誰が何を使えるのか、全然把握出来てねぇわ!」

「灰のサファリ同盟だけって訳でもないもんな」

「はいはい、無駄に喋ってないでさっさと移動してねー! 私も用意するから、手早くね。『アースクリエイト』『岩の操作』!」

「はーい!」

「急げー!」


 よしよし、順調に動き出してきた。とりあえずこれで大量にいるキノコ軍団とタケノコ軍団を崖の上に移動させる事は可能だな。

 というか、本当に大人数だなー。それぞれに30人くらいはいそうだし、合計で60人とかの参加か。いやまぁ軍団同士の対立構造としてはこれくらいの人数がいる方が盛り上がるし、スクショの迫力も出るんだろうけどさ。


 あ、アルの背中に乗せ終わったので、次は地面に岩を置いてその上に乗せていこうじゃないか。とりあえず今はさっきほど騒ぐ気もないようで、黙々と移動をしていってるね。


 それにしてもタケノコは極端に違った形はいないけど、キノコは何種類かいるね。シイタケっぽいやつとか、エノキやシメジみたいに小さいというか細いのが集まってるやつとか、いかにも毒々しい赤い丸い傘のキノコとか……。

 一番最後のは高確率で毒持ちな気がする。まぁお菓子のきのこのイメージに近い形状は、最後のやつだけど。


 そうやっている内にサヤが降りてきた。あー、まぁ数人を崖上に運ぶだけならそんなに時間はかからないか。


「えっと、私はこれからどうすればいいのかな?」

「サヤは先に上で待機で良いだろう。ハーレとヨッシも一緒に上がっておけ」

「ベスタさん、了解です!」

「え、それでいいのかな?」

「サヤより一気に運べる人が3人もいるから大丈夫じゃない?」

「移動については俺達に任せとけ」

「何もないとは思うけど、もし敵が出てきたら3人で対処をよろしく!」

「……うん、分かったかな。ヨッシ、ハーレ、上に行こう?」

「はーい!」

「うん、了解」


 そうして先にサヤとヨッシさんとハーレさんは崖の上へと移動していった。ま、ここの崖上もまだミズキの森林だから、出てきても成長体までだろうし、キノコとタケノコの殆どが成長体でも大丈夫だとは思うけどね。


「さて俺も先に行くぞ」

「ほいよっと。俺とラックさんもみんなが乗り終わり次第、上に行くよ」

「私もそうなるねー」

「あー、アルマースはそのまま上にいても良いが、ラックとケイは戻ってこいよ」

「分かってるって。炎の操作もあるもんな」


 肉食獣さんが炎の操作を使う為の火を用意する為に薪を持ってきてくれるんだし、その辺は俺らの方で対応しないとね。それに今回の代表者はラックさんなんだから、対応はラックがすべきだろう。


「そだねー。あれ、もしかして薪を燃やすのって生成した岩の方でやった方が良かったりする……?」

「……崖上までは距離があるから、その方が良いかもしれんな」

「……あはは、今回は思い付きでまともに計画を立ててなかったから行き当たりばったり……。うん、次からはちゃんと予定を立てないと駄目だね」

「それについては次の機会に活かせばいいだろう」

「……うん、そうだね」


 やっぱり突発的に決まったスクショの撮影だと予定自体が微妙だったんだな。まぁ流石に普段なら演出や撮影の環境を整えるメンバーが2ndを作って動いてしまえばうまく行かないよな……。

 おっと、そうしている内にみんな乗り終わったみたいだし、崖上まで運んでいきますか。という事で、自分も平べったく広めに生成した岩の上に乗って一緒に崖を登っていき、ラックさんも俺と同じように岩の操作をしている。


「なぁ、ラックさん」

「ん? どうしたの、ケイさん?」

「いやさ、2ndでキノコとタケノコを作った人が多くて人員不足ってのは分かるんだけど、それでももっと他に人がいたんじゃないのか?」

「あー、その事なんだね。実は今、同時に別の撮影も動いててさー」

「お、そうなのか? どんなの?」

「雪山の中立地点で3群集合同のスクショの撮影会をしててね。大半はそっちに行ってるんだよ」

「あー、なるほどね」


 なんだかんだで行きそびれている例の雪山の中立地点でそんな状況になっているのか。って事は、赤のサファリ同盟や青のサファリ同盟もそっちに集まってそうだね。


「って事はこっちに集まってきてる人は、そっちは諦めた人か」

「……え、初耳なんだけど」

「あー、灰のサファリ同盟のメンバーじゃなければ知らない事もあるか」

「灰のサファリ同盟の共同体のページで募集はかけてたぞ?」

「……それは見てなかった」

「俺はこっちの内容に惹かれたから来た!」

「きのこ派には負けん!」

「そりゃこっちのセリフだ! たけのこ派に負けてたまるか!」

「みんな、ストーップ! 今回の撮影では喧嘩はなしって決めたでしょ?」

「「うぐ……」」

「……なんか大変そうだな、ラックさん」

「あはは、まぁみんなこだわりは強いからねー」


 そういや昼間も灰のサファリ同盟はこだわりがある人が多くて喧嘩が結構起こるとは言ってたっけ。……まぁ今回は灰のサファリ同盟のメンバー以外も結構参加しているみたいだから、それだけではないんだろうけどね。

 そんな話をしている内に崖の上へと辿り着いた。崖上にはアルとサヤが連れて上がった人達も待機しているし、参加者のほぼ全員がこれで崖上に到着した事になる。


 ふむ、前に来た時は気にもしていなかったけど、崖上の周囲って木に囲まれてて丘陵エリアの方はろくに見通せないんだよな。まぁ木々の隙間から拓けたような感じが少し見えてはいるけど、この木々を超えたら丘陵エリアなんだろうか?


「さてと、到着! それじゃ私達は肉食獣さんを待って準備をしてくるから、みんなは良い感じに配置を決めておいてねー。ライム、こっちの指揮はお願い!」

「ちょっと待って! 普段ならいいけど、今ここでは無理だって!?」

「大丈夫、大丈夫! 任せたからね!」

「ちょ、待ってー!?」


 きのこ派のタケノコを2ndに持つメジロのライムさんが、寄りによって今このスクショの撮影の配置の指揮を任されるとはね。……ま、灰のサファリ同盟に知り合いの多いハーレさんや、他のプレイヤーとの接点が多いアルもいるから多分大丈夫だろ。

 さて、ラックさんが岩に乗って崖下に戻っていくから、俺も追いかけて戻っていこうっと。下ではベスタも待ってるしね。


「ただいまっと。ベスタ、肉食獣さんは?」

「まだだが……いや、丁度来たところか」

「これは良いタイミングだったね」


 運が良かったのか、丁度肉食獣さんが戻ってきたタイミングだったみたいである。他に誰かを連れて来たとかがあるかと思ったけど、そうでもないみたいだね。


「おう、待たせたな。薪を持ってきたぜ」

「丁度いいタイミングか」

「そうなのか? まぁいい、とりあえず薪を出していくが、どこに出せば良い?」

「あ、岩の上に出して欲しいんだけど、ちょっと再発動するから待って貰える?」

「おう、良いぜ」

「ありがと。それじゃ一旦解除して……『アースクリエイト』『岩の操作』!」

「よし、この上に出せば良いんだな。ほい、ほい、ほい! 岩の操作で持ち上げるにはこの程度までが限界だろうから、残りはその辺に置いとくぞ」

「うん、ありがとねー!」


 肉食獣さんがインベントリから薪を取り出して生成した岩の上に結構な量を置き、途中からはその辺に適当に転がすようにしていた。てか、薪ってインベントリに入れられたのか……。


「……ケイ、モンスターズ・サバイバルの連中が外に薪を置いているのはあの場に来た誰でも扱えるようにする為だぞ」

「あ、なるほど!」


 俺の疑問にベスタがあっさりと理由を教えてくれたけど、また癖が出てた……? 今のは声は出てなかったと思うから、ハサミの動きの方かもしれない……。


「さて、用事は済ませたし俺は戻るぜ。薪が余ったら引き取るから、その時は持ってきてくれ」

「うん、了解。ありがとね、肉食獣さん!」

「何、良いって事よ。薪を始めとして消費アイテムが必要な時はお互いに融通し合うってのが共同体同士の約束だしな」

「へぇ、灰のサファリ同盟とモンスターズ・サバイバルってそういう約束になってるんだな」

「そだよー。共同体の実装までは一緒に活動してたし、方向性の違いで別の共同体にはなったけど仲は良いからねー!」

「ま、そういうこったな!」


 ふむふむ、前にも聞いてはいたけどもこの2つの共同体同士の関係性は良好なんだという事がよく分かった。俺らが通りすがってスクショの撮影の協力する事にならなければモンスターズ・サバイバルの方から人員を出してもらう様子だったし、お互いの共同体で足りない部分を補い合っているってとこなんだろうね。


「そんじゃ、スクショの撮影は頑張れよ!」

「うん、頑張るね!」

「お、それとベスタさん、成熟体のドラゴンが暴れたのを誘導してくれたのは助かったぜ。あれがなけりゃ、窯とかは全滅だったからな。おかげでほぼ無傷で済んだぜ」

「そうか、それならば良かった」

「ま、なぎ倒された木々を薪にするのに大忙しだけどな!」

「……それについては不可抗力だろう」

「あぁ、別に責める気はねぇって。丁度丸太の補充は必要だったしな」

「そうか」

「んじゃ、それだけだ! またな!」


 そうして肉食獣さんはやって来た方向へと戻っていった。……なんか丸太の補充の発言で俺を見てた気もするんだけど、昨日の薪割りでちょっと減らし過ぎてたかなー!? ……まぁ別に文句を言われた訳でもないし、そういう意図があったとも思えないから別にいいか。


「さて、上の状況はどうなっている?」

「あ、そだな。みんな、聞こえるかー?」

「おう、聞こえてるぞ」

「そっちはどうなってる?」

「えっと、ライムさんが中心にはなってるかな……?」

「……まぁ中心といえば中心だけど、何かこれは違う気がするよ」

「私もそう思います!」

「え、どういう状況になってんの?」

「よく分からんな?」


 うーん、PT会話だけではいまいち状況が分からない。ライムさんが中心になっているって事は、ちゃんと指揮が出来てキノコ軍団とタケノコ軍団の対立の構図が上手くいってるんじゃないのか? どうも聞いてる感じではそうではなさそうな様子だよな……?

 ふむ、ラックさんが今誰とどうPTを組んでいるかにもよるけど、ここはラックさんに聞いてみるか。


「ラックさん、状況は分かる?」

「あ、ごめん。私は今PTを組んでないから、PT会話での様子は分かんないんだ」

「あーそうなのか」

「……仕方ない。一度薪を上に持っていくと同時に状況を確認してくるか」

「え、薪を上まで持っていくのか?」

「あぁ、岩の操作だとどうしても時間制限があるからな。燃やす位置を変えるぞ」

「……ベスタさん、どこで燃やす気?」

「崖の端を少し削って薪を燃やすスペースを作る。俺が削って、その残骸の撤去に岩の操作持ちが2人もいれば可能だろう」

「なるほど、その手があったか」

「……あはは、結構無茶な事を考えるねー。でも出来そうではあるから、賛成だよ」

「よし、それじゃ一旦薪を崖上まで持っていきますか」


 ちょっと予定が変更にはなったけど、岩の操作で空中に浮かせた岩の上で薪を燃やして炎の操作を使うよりは、少し崖を削って燃やせる場所を確保した方が安定性はあるよね。

 多少の地形の変化は放っておけば勝手に元に戻るんだし、そのくらいの地形の加工は問題ないだろう。どっちにしても崖下から炎の操作をするには距離が遠いから、この手段が無難ではあるか。


 まぁ火の昇華を持ってる人がこの場にいればもっと簡単なんだろうけど、居ないものは仕方ない。……紅焔さん辺りが近くにいたら良かったんだけどね。

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