第594話 夜に備えて
無事にハーレさんも合流した事だし、今日あった事をハーレさんに伝えていこうじゃないか。さっき新たに手に入れたスキルのチェックはその後でも良いはず。
「色々とみんながやってた事は気になるんだけど、その前に質問です!」
「……ん? なんかそんな急ぎで気になる事があったのか?」
「さっき、エンからこっちに転移する時に気になる光景があったのさー! みんなとの合流を優先したから話は聞かなかったんだけど、何か知らないですか!?」
「えーと、どういう光景かな?」
「ちょっとそれだけじゃ分からないよ?」
確かにハーレさんの気になる光景という言葉だけでは判断はし切れない。……なんかそんなに目を引くような光景になる要素ってあったっけ? 付与魔法辺りならまだ珍しい光景だとは思うけど、まだエンの近くで使う人もいない気はするけどな……。
「あ、それもそだね! ちゃんとスクショも撮ってきたから、見てみてー!」
<スクリーンショットが共有化されました。表示しますか?> はい・いいえ
どうやらハーレさんはしっかりとスクショを撮ってきたようで、その気になる光景を映したスクショを……って、この光景はあれかー!?
「……これはあれかな」
「……間違いなくあれだね」
「……確実にあれだな。なぁ、アル?」
「3人揃って納得しながら俺を見るな!?」
「心当たりはあるみたいだけど、どういう事ー!? アルさん、詳細お願いします!」
その俺らの反応に首を傾げて不思議そうにしているハーレさんと、思いっきりスクショから顔を背けているアルだった。
まぁスクショに写っている光景にはキノコの人とタケノコの人が沢山いるもんな。これはどう考えてもベスタとアルを筆頭にした例のお菓子の派閥争いを発端にして、ラックさんがキノコ対タケノコのスクショを撮ると提案した事によるものだろう。
「あー、それはだな……」
あれ、ちょっと待てよ。お菓子の派閥争いが発生したという内容ではあるけど、食い意地の凄まじいハーレさんにこれを言っても大丈夫なのか……? 俺はハーレさんがあのお菓子のどっちが好きかとか知らないぞ。
「ケイさん、なんで口ごもるのー!?」
「あ、ケイさん、ハーレにはあれは言っても大丈夫だよ」
「お、そうなのか。それじゃ説明するけど、まぁ単純にお菓子のきのこ派とたけのこ派で派閥争いが起きてだな……?」
「おー? そんな事が起きてたんだ!? え、でもなんで口ごもったの!?」
「いや、ハーレさんがこだわりそうなところな気がしてさ。……派閥争いの筆頭はアルとベスタだったんだよ。桜花さんが止めてくれたけど、危うく取引を停止されるとこだった……」
「え、そうなの!? アルさん!」
「……な、なんだ、ハーレさん?」
あれ、なんか珍しくハーレさんの声が強めというか、気迫が籠もっているような気がするぞ? 流石に取引の停止は痛手だから、ハーレさんでも怒るとこではあるのかもしれないね。
「あれはどっちも美味しいんだよ! 美味しいものに優劣をつけるために争うのは駄目なんだよ!」
「って、そっちかよ!」
「あはは、だから大丈夫だって言ったでしょ、ケイさん」
「……そもそもどっちが上とかの概念から外れてるんだな」
そりゃ派閥争いの心配はいらないよな。どっちかの派閥に属している訳じゃないんだし……って、なんでゲーム内でリアルのお菓子の話になってるんだろう……。
「アルさん、分かった!?」
「お、おう」
「ハーレの気迫が勝ったかな」
「……みたいだなー」
「ハーレ、それについては終わりね。本題に戻すよ」
「はーい!」
流石はヨッシさん、ハーレさんの扱いに慣れている。まぁ脱線していても仕方ないので、そのキノコとタケノコのプレイヤーの増加についての話に戻さないとな。
「えっとだな、まぁその時にラックさんが居合わせてな? ちょっとタイミングが悪くて制圧した際に巻き込んじゃったんだけど、その経緯を知ったラックさんがこれを題材にしたスクショを撮ろうって思いついたんだよ」
「それで実際にその為のキャラを作った人が多いんじゃないかな?」
「そういう事なんだー!? うーん、あのお菓子の派閥争いは好きじゃないけど、ゲームとしてのスクショでは面白そうだねー!」
「まぁ、それは確かにそうだな」
うん、リアルでもよく知られている派閥争いではあるから、スクショとして面白い題材というのは否定はしない。それにしてもこれは2ndで空きがあった人が悪ノリでキャラを作った感じもあるよね。今、スクショのコンテストが行われているのも原因の1つかもしれないけど……。
「あ、そうだ! ケイさんに伝える事があったのさー!」
「ん? 父さんか母さんからの伝言か?」
「えっとね、晩御飯を6時半には食べれるようにお願いしてきました! 一緒にやる時間を増やしたいのです!」
「あー、なるほど。了解っと」
「ほう、それなら俺もそのタイミングに合わせた方が良さそうだな」
「出来ればそれでお願いします!」
「ま、俺は自由が利くからな。……よし、7時半には再開できるように調整するか」
「ほいよっと。サヤとヨッシさんは時間的にあんまり関係なさそうだけど、それでいいか?」
「うん、問題ないかな」
「私も問題ないよ。一緒に出来る時間が増えるなら、むしろ大歓迎だね」
「そのつもりで計画していたのです!」
「なるほどなー」
流石に毎日晩飯の時間の前倒しは父さんと母さんの仕事の都合もあるから無理だろうけど、日曜でかつアルバイトを頑張ってた日くらいは母さんが対応してくれたんだろうね。
「それじゃ今日あった事を教えてくださいなー!」
「ほいよ」
それから今日の最重要項目の付与魔法と、見物したカステラさんと辛子さんの昆虫対決と、風雷コンビの対決についてを話していった。
「わー!? 付与魔法は私にはまだ全然使えないやつだから良いけど、模擬戦は見たかったよー!? うー、でも時間が合わないのはどうしようもないから仕方ないのさ……」
「あー、その代わりと言っちゃなんだけど、今回は思いっきり実況してもいいぞ。桜花さんからの依頼もあったしな」
「それについてはヨッシから聞いたよー! ケイさんとベスタさんの中継は絶対に実況します! アルさん、解説お願いねー!」
「おう、任せとけ」
「あはは、やっぱり中継はやるみたいかな」
「それでこそハーレだけどね」
「ま、確かにそうだな」
ここで大人しく見るだけにするというのはハーレさんらしくはないもんな。一時は半ば強引に実況をした時もあるけど、今はちゃんと確認は取ってきてるしね。……サヤには何度も却下されてるけど。
「ごめん、そろそろ6時だからご飯の時間かな」
「あ、ホントだね。一通り話し終わった後で良かったよ」
「サヤとヨッシはご飯だねー!」
「あ、これは言っておかないとね。ケイさんとベスタさんの対決の時間次第だけど、夜からはハーレのやりたい事を優先で良いからね」
「みんなでハーレが行きたいとこや、やりたい事に付き合うかな」
「え、良いの!?」
「それで良いよね、みんな」
「うん、それで良いかな」
「どこでも好きなとこに付き合うぞ」
「遠慮はいらないからな、ハーレさん」
「みんな、ありがとね! それじゃどこにしようかなー!?」
ここは変に遠慮される方が困るのも分かっているようで、ハーレさんは自分がやりたいと思う事を考え出したね。……これからはあれだな、何かしらの理由でログインが出来なかった人のやりたい事を優先していくのも良いかもしれないね。
「それじゃまた後でかな」
「ご飯、食べてくるね」
「はーい! また後でねー!」
そうしてサヤとヨッシさんは、食事の為に一度ログアウトをしていった。さて、ハーレさんが晩飯の時間を前倒しにしてくれたようなので、俺らもあと30分ってとこか。
「俺はケイとハーレさんに合わせてログアウトするけど、残り30分は何をする?」
「あ、さっきスリップから派生したスキルがあるんだけど、それを試してみていい?」
「おー、そういやさっきケイさんとサヤが近接で特訓してたよね!? 成果あったんだー!?」
「まぁな。まだどんなもんか確認出来てないけど……」
「……タイミングの問題か。ちなみになんてスキルだ?」
「えっと『グリース』ってスキル」
「……スリップからの派生で『グリース』って名前だと、それは潤滑油か?」
「多分そうだと思う」
「おー!? 潤滑油だと燃えそうだよねー!?」
「うっ、その可能性は確かにありそう……」
試してみないと分からないけど、潤滑油って油だもんな……。ハーレさんに言われるまで気にもしてなかったけど、下手すると引火する可能性は考慮しておくべきかもしれないね。……というか、まずスキルの内容を見てみるか。それで少しは傾向が見えてくるはず。
『グリースLv1』
一定時間の間、指定した部位に潤滑油を纏う事で実体のある攻撃を滑らせる事が出来る。
Lv上昇により効果時間と滑らせる効果の上昇。
ほうほう、これはスリップの効果時間が設定されているバージョンって感じだね。……でも思いっきり潤滑油って書いてるから、燃える可能性は充分ありそう。っていうか、なんでコケから油なんだよ!
……って、そういやスリップってコケの固有スキルじゃないんだった。ふむ、他の種族でも使えるから潤滑油なのか? このゲームには一発芸みたいにネタスキルがあったり、予想もしないとこに称号の条件があったりするから油断は出来ないな。そうなるとやる事は1つ……。
「……よし、燃えるどうか試してみるか」
「性能の確認の前にそっちの確認か。まぁ無視できない内容ではあるもんな」
「はい! 自分で燃やしても燃えるんですか!?」
「あー、どうなんだろな?」
自分自身へダメージを与える事は出来ないから、その辺は微妙なラインではある。燃やせるけどダメージを受けないのか、そもそも燃やせないのか、どっちだとしてもあり得るよな。……それを確認する意味でも検証はやっておくべきなんだろうね。
「それも確認するって事でやってみるぞ!」
「ま、そうなるか」
「早速検証さー! あ、でも見学しながら、私も特訓してようっと! 目指せ、風の昇華と付与魔法!」
「おー、頑張ってくれよ、ハーレさん!」
「うん、頑張るよー! 『略:ウィンドクリエイト』『略:風の操作』!」
さっきの説明の間で誰がどの付与魔法を目指すかは伝えているからね。とりあえず現状ではサヤが電気、ヨッシさんが氷、ハーレさんが風、俺が追加で土……って、あれ? アルがどうするかって決まってたっけ?
「……アルって付与魔法はどうすんの? 確かまだ明確に決めてなかったよな?」
「あー、それか。どうなるか分からんが樹木魔法でLv7にしてみようかと思ってるぜ。まぁ、取得前に何か情報が出たらその内容によって改めて考えるけどな。とりあえずは海水の昇華と樹木魔法と水魔法をLv6にしてから、海流の操作と枝の操作をLv3まで上げるって感じか」
「おー、改めて考えると盛り沢山だな」
「……まぁ支配進化ってのはどうしてもこうやって種類が増えていくんだろうよ」
「あー、それは確かに」
物理も魔法も両方を高水準で扱えるのが支配進化の最大の特徴ではあるから、それを十全に発揮させる為にはそれぞれにスキルの強化は必要になるもんな。俺だって実際にそうなってるし、支配進化の為の準備が必要なアルにやる事が多いのは当たり前か。
「……それはそうとしてさっき改めて確認して気付いたんだが、よく考えたら木の方で海水の操作も海水魔法も持ってねぇんだよな……」
「……え? あれ、持ってたから海水の昇華を狙ってたんじゃ……?」
「いや、木で持ってるのは海流の操作だけでな……? ……仕方ない、ポイントで取るか」
「あー、取りに行くのも面倒だしな……」
「たまにはそういう事もあるものさー!」
「思い込みってのもあるから、この辺は気をつけないとな」
まぁ取ってるものと思い込んでのミスをする時はあるもんな。それにぶっちゃけ取る事自体は難しくはないけども、海水の操作の取得の為に称号を使うのは勿体無いか。……あんまりスキル取得に重ねる為に気軽に使える称号も多くはないし、流石に空白の称号を使うのは勿体なさ過ぎる。
「おし、取得完了だ。……あー、常闇の洞窟の踏破の時に纏海で一時的に付与されたのでLv2からか」
「あ、そういやそうなるのか」
「ま、手早くLv3まで上げてしまうか。『シーウォータークリエイト』『海水の操作』!」
そうしてハーレさんとアルもそれぞれに特訓を始めたので、俺も検証をやっていこうじゃないか。さて、『グリース』とやらはどの程度の使い勝手だろうね?
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