第595話 グリースの検証
さてとスリップの上位に当たる新たなスキル『グリース』の滑らせる性能については後で手伝って回避性能を試してみるとして、まずは弱点になりうる可能性のある可燃性についての検証をしていこう。
えーと、サヤとの特訓の時に増殖させたコケはまだ残っているのでそれを利用していくか。あ、そういやさっきハーレさんに事情を説明してる間に自己強化は切れてたっけ。まぁ今は必要ないからいいや。
<行動値を1消費して『グリースLv1』を発動します> 行動値 72/73
ふむふむ、グリースは効果範囲を設定出来るという事は、ロブスターの部位にも設定は出来そうだね。でも今までのスリップと同じ感覚で使うなら、ハサミにあるコケを基準にするのが良さそうだ。お、指定してみたらちょっとコケの表面にヌメリ気が発生したね。
でもグリースの効果時間は数秒でそれほど長くはなく、連撃をすべて凌げるかどうか程度のものだな。とはいえ、スリップの連続発動で回避し続けるよりは有用ではありそう。……まぁまだ覚えたてでLv1だからスリップほど滑らせれるかは分からないけどね。
あ、何も深く考えずに通常発動したけど、一定時間の効果を及ぼすタイプの行動値の消費型のスキルなら、このまま次のスキルを発動しても大丈夫かな? とりあえずやってみよ。
<行動値1と魔力値4消費して『火魔法Lv1:ファイアクリエイト』を発動します> 行動値 70/73 : 魔力値 202/206
お、問題なく火魔法が発動出来た。うん、この仕様はありがたい。そして肝心の可燃性があるかどうかを確認するために火を生成して、ヌメリ気のあるハサミのコケの上に火種を落としていく。……さて、これでどうなるか。
「あ、やっぱり燃えたか」
「おー、マジだな」
「ホントだねー!? ケイさん、ダメージは大丈夫!?」
「……コケの群体数も、ロブスターのHPも減る様子はないな。……へぇ、この仕様は面白いかも?」
「……これはケイが何か思いついたな?」
「それでこそケイさんなのさー!」
なんか言われてるけど、思いついたのは事実ではあるので否定は出来ないか。もう少しグリースの効果時間を伸ばした状態で自分で火を着ければ、燃えるコケの生えたハサミで殴るという事も出来そうだ。
ただ、簡単に予想は出来るけど、敵に火を着けられるとかなり危険になる可能性が高い。コケが水属性持ちだから多少は火には強めだけど、コケという種族として火にはかなり弱いからね。……これを運用する時にはその点が要注意だな。
さてと続けてグリース自体の滑らせる事による回避性能の検証をしていきますか。あとLv4になったスリップもだな。場合によってはベスタとの対戦の時の新たな切り札になるかもしれないしね。
「……って、ちょっと待て。これって、どうやって火を消せばいい!?」
「……普通に水魔法をぶっかければ良いんじゃね」
「あ、それもそうだった……」
明らかにグリースの効果が出ているコケの表面に火が着いていて火だるま状態で少し焦ったけども、アルの言うように水で消火すれば良いだけだよな。
あ、そうしている内にグリースの効果が切れて、それと同時に火も消えた。……ふむふむ、そういう挙動になるのか。ふーん、面白いね。
「放っておけば勝手に消えるみたいだね!?」
「みたいだなー。……これはもしかすると……」
「まーた、何か思いついたな?」
「うん、まぁちょっとな。ハーレさん、後でちょっと実験を手伝ってくれない?」
「もちろんさー! でもなんで後で!?」
「……肝心の基本的なスキルの性能確認を忘れそうだからだな」
「はっ!? 確かにそれは駄目なやつ!?」
「って事で、先にグリースの性能確認とLv4になったスリップの性能確認だな」
「おー!」
「おうよ」
応用方法は思いついたけども、応用に入る前に基本的な情報からしっかり確認をしておかないとね。……敵に火を着けられた場合も確認はしたいけど、今は出来ないから仕方ない。でもまぁ今思いついた事が可能なら場合によっては炎の操作も使えるね。
さてと応用方法は後回しにして、今はスリップLv4とグリースをどちらから試すかだけど……よし、新スキルのグリースからでいいか。出来れば連撃系で確認したいし、物理と魔法でも確認したいとこだね。
「ハーレさん、散弾投擲と連投擲を頼んでいい?」
「勿論です! 魔力集中はあった方が良いですか!?」
「あー、基本的にそれが基準になるだろうし、それでよろしく」
「了解です!」
「なるほど、散弾投擲や連投擲をどれだけ滑らせれるかの確認か」
「そういう事。アルには後で水魔法を試してもらいたいんだけどいい?」
「おう、それは別に構わんが海水魔法でもいいか?」
「それについては多分問題なし!」
「よし、それなら了解だ」
昇華まで行くと水の下位互換になるって話だけど、そこまで育つまでは多分極端には変わらないはず。俺自身は水にも海水にも適応してるから、そこで影響が出てくる事もないはずだしね。
さーて、これで試す項目は用意出来た。次は実際にやっていくまでだな!
<行動値を1消費して『グリースLv1』を発動します> 行動値 72/73
よし、これでさっきと同じようにロブスターの右のハサミの表面にあるコケの表面にヌメリ気が出てきた。ここで受ければ、多分滑って回避になっていくはず。
「それじゃいくよー! 『魔力集中』『散弾投擲』!」
「おっし、来いや!」
「……どうもこれはイマイチっぽいな」
右のハサミの表面を盾にする様にして、散らばって飛んでくる多数の小石を受けていく。……ふむ、垂直に当たらない限り、基本的には滑って回避は出来ている。でも、滑らせた後の軌道によってはロブスターの他の部分に当たることもあるから、アルの言うようにイマイチだな。
当たり前といえば当たり前だけど、滑らせる方向は考えないといけないみたいだね。散弾投擲みたいな面攻撃への防御には向かないから、その辺は防壁魔法の出番か。
「ケイさん、次行ってもいいー!?」
「おう、よろしく!」
「了解です! 『連投擲』!」
「おっと!? こうか? ほっ! それ! ほいよっと!」
「おー!? ケイさんお見事!」
「こっちはありっぽいな」
「だな。まだ滑り度合いは甘いけど、ロブスターのハサミの動きと連動させれば結構ありだ」
ふむふむ、1発目は滑らせきれずに当たっていたけども、タイミングと角度を見計らっていけば滑らせれば回避自体は可能だね。でもスキルLvがまだ低いから、これ以上の高威力になると滑らせるのは不可能っぽい。あと、角度が垂直だと流石に意味はないようだ。……これについては当たり前だけど。
とりあえず少しLvを上げれば、ある程度の物理の連撃についてはこれで回避は可能みたいだね。単発だと威力が高いから厳しい気はするけど……。って、効果が切れたか。効果の持続時間もまだ短過ぎるな。
<行動値を1消費して『グリースLv1』を発動します> 行動値 71/73
という事でもう一度発動っと。さて、次はアルに魔法を試してもらうか。……方向を自由に操れる手動操作だとこの回避は意味がないのは分かりきってるから、単発で発動してもらわないと。
「アル、とりあえず海水の射出魔法のみで頼む」
「おうよ。『シーウォーターボール』!」
そしてアルが海水の弾を撃ち出してくれたものの、1発を軽く滑らせるだけで終わってしまった。……うん、さっき取ったばっかだからこれは仕方ないよね?
「あー、これなら普通に対処出来るけど、1発じゃ分かりにくいな……」
「流石にスキルLvが2だと1発しか撃てないし、こうなるか。……ケイ、俺に攻勢付与をかけろ。水の射出魔法の6発同時でやってやる」
「お、それはありだな。それでやってみるか」
「おー! 付与魔法が見れるんだー!」
「そういやまだハーレさんには実物は見せてなかったっけ」
「そうなのです!」
「ま、全種類は流石に今からは試せないから1種類だけな」
「了解です! わくわく!」
わざわざ口で言わんでよろしい。ま、全然見ていない新たな魔法を見る訳だから気持ち自体は分かるけどね。それじゃサクッとアルに攻勢付与をかけていこう。
<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 64/73 : 魔力値 85/206
えーと、アルの木が持ってる水魔法で使うんだから付与対象は木の方だな。攻勢付与にしてアルの木にアクアエンチャントを発動! ……よし、アルの木の周囲に水球が3つ漂っているので付与は成功だ。
「おー! こんな風になるんだねー!? ちょっと触ってみていい!?」
「……ケイ、これって触っても大丈夫なのか?」
「……さぁ? ハーレさん、どうなっても良いなら触ってくれて構わんぞ」
「やったー! あ、普通に触れるし、乗れるんだー!?」
「……乗れるとは思わなかった」
「……同じく」
「意外と乗り心地いいよー!」
うん、それは良かったよ。……そっかー、付与魔法で付与した水球に乗る事は可能なんだね。流石にそれは試すという発想自体が無かったよ。
でも付与魔法自体は回数制で時間経過での消滅は無さそうだし、乗るのはありといえばあり? 守勢付与で自動防御になった時に、敵へと急接近するという使い方も考えられるか。ハーレさんは遠距離攻撃だからそれには向かないけど、近接の小動物系……それこそレナさんとかならありかもしれない? ふむ、後でまとめに上げとくか。
って、またグリースの効果が切れてるし……。効果時間が短いけど、まぁ覚えたてだから仕方ないと割り切ろう。
<行動値を1消費して『グリースLv1』を発動します> 行動値 63/73
グリースの再発動は完了っと。さて、これでアルの6発同時のアクアボールを防御しきれるかを確認だな。っと、その前にハーレさんには降りてもらわないとね。
「ハーレさん、実験を始めるから降りてくれー!」
「はーい!」
「よし、それじゃアル、頼む!」
「おう。いくぜ! 『アクアボール』!」
「おー! 水球が6発になったー!?」
素直に付与した水球から降りたハーレさんが、攻勢付与の効果によって付与した水球が変化して、6発まで同時射出数が増えたアクアボールが射出されていき、それを見たハーレさんのテンションが上がってるね。
それは良いんだけど、流石に6方向からの水球を捌ききれるか……? 俺から見て右方向に3発、左方向に2発、上部から1発か。こりゃ右のハサミ1ヶ所だけだと厳しい気はするけど、別に核がある場所という制限はないんだよな。って事で、これだ!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を1消費して『グリースLv1』は並列発動の待機になります> 行動値 62/73
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を2消費して『グリースLv1』は並列発動の待機になります> 行動値 60/73
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
ふっふっふ、一旦背中のコケに核を移動して部位指定の為に視界に入れて、左のハサミの表面のコケと、頭部にあるコケにもグリースの効果を発揮させた! そしてロブスターへと視点を戻して回避だ!
右側からの水球は右のハサミで角度を調整し、左側も同様に調整していく。……上からの水球は真正面にはならないようにして頭突きをする感じで逸らせばいい……って言うのは簡単だけど、同時にする事が多すぎ!?
くっ、左右で1発ずつは滑らせて逸らしたけども、残り4発は無理だった……。攻勢付与のアクアボールは威力が高過ぎて無理! 自分の魔法なんだけどね!
「……流石に凌ぎ切るのは無理だったか」
「……うん、これは難易度高過ぎ。同時攻撃は素直に防壁魔法でいいや……」
「って事は、破るには同時攻撃が有効なんだねー!」
「まぁそうなるな……。ハーレさんなら散弾投擲とか爆散投擲が有効かもな。あ、あと単発でも威力が高いやつを垂直に撃ち込めば効果はありそうだぞ。垂直だと滑らせられてなかったし」
「そうなんだー!? 覚えておきます!」
「ケイ、そういう事ならLv6の衝撃魔法や、Lv4の爆発魔法も有効か?」
「あー、多分な」
こりゃ万能の回避性能を持ったスキルって訳じゃないな。性質としては対連撃系スキル用って感じがするね。……そうなってくると、スリップは単発攻撃向きか?
「……ハーレさん、次の実験を頼んでいいか?」
「もちろんさー! 何をすればいい!?」
「チャージ済みの貫通狙撃を頼む」
「了解です! 『貫通狙撃』!」
「お、次はスリップの実験か?」
「ま、そんなとこ」
とりあえずハーレさんのチャージが終わってからでないと試せないので少しの間は待機である。……ふむ、時間的にはこれは終われば6時10分ってとこか。切りもいいから、これが済んで急ぎでやる事がなければ一旦ログアウトかな。
お、そうしている内にハーレさんのチャージは完了したっぽいね。
「それじゃいくよー!」
「おうよ!」
さて、グリースの効果はもう切れているから、今回のはLv4になったスリップの効果を確かめていこうじゃないか!
<行動値を4消費して『スリップLv4』を発動します> 行動値 63/73
行動値が少し回復してたけど、まぁそれは特に問題ないから別にいいや。さて、かなりの速度で投げ放たれたハーレさんの銀光を放つ貫通狙撃だけど、タイミングをミスれば意味はない。……よし、ここだ!
「おっ、結構逸れたな」
「ケイさん、凄いね!」
「……いや、そうでもないぞ。確かに滑らせれたけど、この有様だ……」
「……ロブスターの表面のコケが抉れてるな」
「でも滑らせて回避は出来てたよね!?」
「まぁな。……でも、まだLvが足りてないな、これは」
まぁ応用スキルを通常スキルで回避しようということ自体がちょっと無理があるもんな。それでも、多少コケが抉れるのを前提とすれば回避できない訳じゃないのは分かった。……そもそも前に羅刹の一撃を凌いだ時はコケは全滅してたから、かなりマシになった方だね。
これは相手が大技を使おうとした時に多少のダメージを覚悟した上で、カウンターの為の隙を作る為に使うのが正解だろう。
あ、それ以前にこれらのスキルって相手の足場のコケで滑らせて、動きを制限する使い方があったんだった。っていうか、防御用じゃなくてそっちが本命の使い方だよね、これ!? ……まぁいいか、使い方が決められている訳でもないしさ。
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