第587話 桜花の所へ
検証中に突発的に違うスキルを使ってしまったら、サヤに全力でふっ飛ばされてしまった。まぁアルが水魔法で受け止めてくれたから、変なとこに飛んでいかずに済んだね。
「……とりあえず、サヤ。俺も途中で予定にない事をしたのは謝るけど、ふっ飛ばすのはやり過ぎじゃない?」
「……あはは? ごめんかな……」
「はい、それでその話は終わりね。それでこれからどうする? まだ時間は早いけど、桜花さんのとこに行く?」
「それもありかもな。もう少しで2時半だし、これから混雑する可能性も考えると早めに行っといても良いか」
「あ、いつの間にやら2時半になってたのか」
何だかんだでコケの群体塊の検証には意外と時間はかかってたんだな。ま、3時から風雷コンビの模擬戦機能での対戦って事だし、早めに場所を確保して見物するのもありだろう。……今更言うのもあれだけど桜花さんのとこは人気なんだよな。
「……アル、すっごい今更なんだけど今から行って桜花さんのとこって空きがあるの……?」
「あー、そういや言ってなかったか? 夜にハーレさんの実況と、ケイの1戦をやる事を条件に風雷コンビの対決の時の見学場所の確保はしておいた! まぁ今から行くなら多分必要なさそうだがな」
「おい、アル、ちょっと待て!? そんな事一言も聞いてないぞ!」
「まぁ今初めて言ったからな」
悪びれもなく堂々と言い放ったぞ、アルめ! ……相談はしてほしかったとこではあるけど、まぁ対戦自体はしてみたかったし、ハーレさんは普通に喜びそうだから別に良いけどさ。
そういやハーレさんの実況って地味に人気って話だったっけ。ふむ、桜花さんが盛り上げる為に人手を集めたかったのかもしれないね。……それと俺の対戦が条件になってるのも気になるところだな。
「……予め言っといて欲しかったけどそれでいいよ。それで俺の対戦相手って誰か決まってたりする?」
「おう、決まってるぜ。俺としても興味はあるし、ケイも嫌とは言わないと思う相手だぞ」
「……対戦相手って誰?」
「ベスタだな」
「はい!?」
「え、ベスタさんとケイが戦うのかな!?」
「あはは、これは見てみたいね」
ちょ、ちょっと待った。え、俺が夜にベスタと模擬戦やるの!? いや、確かにベスタとは戦ってみたいとは思うけど、いきなり過ぎません!?
ちょっと深呼吸しよう。ゲーム内だからほぼ意味はないんだけど、そこは気分的な問題で。……ふぅ、あのベスタと対戦か。うん、いきなり過ぎてびっくりはしたけども嫌ではないどころか、望むところだな。……正直なところ、一切勝てる気はしないけどね。
「……ケイ、嫌なら嫌と言ってくれていいぞ。無理に受ける必要はないからな?」
「今それを言うか!? ……よし、やってやろうじゃん、ベスタとの対決!」
「……そうか。それなら良かったぜ」
「夜が楽しみになってきたかな!」
「そだね。あ、ちょっとログアウトしてハーレにその事を連絡してきていい? 多分大喜びすると思うからね」
「お、それもそうだな。それじゃヨッシさんが戻ってきたら桜花さんのとこへ行くか」
「ほいよっと」
「分かったかな」
「了解。それじゃちょっと待っててね」
そう言ってヨッシさんが一度ログアウトしていった。まぁアルバイト中は携帯端末は業務用っぽいやつを持ってて、自分のは使ってなかったみたいだからアルバイトの邪魔になる事もないだろう。……多分、アルバイトが終わったら大急ぎで帰ってきそうな予感はするけどね。
「……今のうちにコケを元に戻しとこ」
「そうしとけ、ケイ」
「初期エリアであまり見られるのもよくは無さそうかな?」
<『群体塊Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 25/72 → 25/73
よし、これでいつも通り……というよりは増殖させた時のコケに戻った。ま、増殖させたコケについてはちょっと時間が経てば消えるので、そのうちいつも通りに戻るだろう。
「それじゃ俺は今から行くって桜花さんに連絡しとくぜ」
「お、アル、よろしく!」
「アル、ありがとかな!」
「おうよ! ……お、桜花さんか? おう、ちょっと区切りがついたからこれからそっちに行こうって事になってな。おう、おう、あ、そうなってんのか。あー、なるほど、ちょっとトラブってるのか。……テスト実装だし、ある意味仕方ねぇか。とりあえずそっちに向かうぞ。おう、それじゃまた後でな」
手早く桜花さんにフレンドコールをして連絡をしてくれていたけども、何やら少し不穏な会話が混ざっていたような気がする。テスト実装でトラブルって事は何かバグがあったっぽい?
「桜花さんは何だって? なんかトラブってるとか聞こえたけど」
「何かバグでもあったのかな?」
「あー、ランダムマッチングでバグだとよ。頻繁には発生はしてないらしいが、進化階位による組分けが狂う事があるんだそうだ」
「それって同じ進化階位同士じゃないと対戦出来ないのに、違う進化階位での対戦が発生するって事かな?」
「そうみたいだぜ。で、今はランダムマッチングの方はバグの修正の為に一時的にだが使用不可だそうだ」
「……そりゃそうなるか。それで相手を指定しての対戦の方は大丈夫なのか?」
「おう、そっちは問題ないみたいだぜ。ただランダムマッチングの方が人気だったらしくて、少し混雑は緩和中だとよ」
「へぇ、そうなのか」
「ランダムマッチングの方が人気なんだね。ちょっと意外だったかな?」
確かに戦いたい相手を指定する方が人気な気がしてたんだけど、実際にはランダムマッチングの方が人気なのは意外だね。あー、でも誰と戦うのか分からないというのも楽しそうではあるよな。
「みんな、ただいま。あれ、何の話?」
「お、戻ったか、ヨッシさん。さっきアルが桜花さんにこれから行くって連絡を取ったんだけど、なんかランダムマッチングで不具合が出てるらしくてさ」
「あ、そうなんだ? 急いでたから詳細は確認しなかったけど、確かにいったんが不具合情報は出してたね」
「ほう、いったんから情報は出てるのか。まぁヨッシさん、詳しい説明は移動しながらするから、まずは乗ってくれ」
「あ、うん。それもそだね」
「ケイもサヤもな」
「ほいよっと」
「分かったかな」
そんな風にしてアルのクジラの背にみんなで乗っていく。まぁ各自で飛んでも良いんだけど、これがやっぱり馴染みになってきたもんな。さて、みんな乗り終わった事だし森林深部の桜花さんの元へレッツゴー!
「模擬戦の見学に出発!」
「「「おー!」」」
アルに乗っての移動が開始である。……まぁ大した距離でもないからすぐに辿り着くんだけどね。さて、今のうちにヨッシさんにさっきまでしていた話の内容を伝えておかないとね。
そうしてヨッシさんに説明しつつ、アルのクジラに乗って森の上を飛んでいけばエリアの切り替えに近付いてきた。やっぱり移動が早くなったもんだなー。
<『ミズキの森林』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>
さて、森林深部へ戻ってきた。ん? 何か盛り上がってる声が聞こえたかと思ったら、近くで中継をしている不動種の人のとこに集まってる人達の声か。……ここからじゃ角度的に中継の映像は見えないけど、盛り上がりが凄いので実力者同士の対戦なのかもね。ちょっと見てみたいかも……?
「……盛り上がってるなー」
「ケイの見ていきたいって気持ちは分からんでもないが、下手すると風雷コンビのが見れなくなるぞ?」
「あー、それはそれで困る」
あまり余所見をし過ぎると時間がぎりぎりになってしまうか。アルが桜花さんと話をつけているとはいえ、割り込む形になるのは出来るだけ避けたいもんな。……今の桜花さんのとこでの見物人の集まり具合にもよるんだろうけどね。
「あ、そういえばヨッシ、ハーレはどうだったかな?」
「あ、うん。ちょうど休憩時間だったみたいで、通話してきたよ。夜の実況は喜んでたし、ケイさんベスタさんの対決の事を言ったらテンション上がってたね。ただ、気にしなくて良いとは言ってたけど、これからの風雷コンビの対戦についてはちょっとがっかりしてたね」
「あー、やっぱりか」
ハーレさんも風雷コンビの対戦は見たいだろうけど、流石にこればっかりはログインしてないとどうしようもないんだよな……。その辺は分かっているからこそ気にしなくて良いとは言ってるんだろうね。
「ま、こればっかりは仕方ないだろ。それともやっぱり俺らが見に行くのを止めとくか?」
「……それは多分駄目かな。それをしたら、ハーレは表面上には出さなくても相当気にするよね?」
「うん、それは間違いなくそう。……ハーレに対して私達が気を遣い過ぎる方が良くないね」
「……そういうもんか。まぁ確かに自分の都合に合わせてもらい過ぎるのは俺も気が引けるからな」
「確かにそうだよなー」
俺だって自分の都合でログイン出来ないからって、何もかもを無理に合わせる為に止められると居心地が悪く感じるだろうしな。それにハーレさんの事をよく分かっているヨッシさんが言うのであれば、無駄に気を遣い過ぎないようにした方が良いだろう。
ま、それでもみんなでやる事になってる探索だけは可能な限り時間は合わせるけどね。なんだかんだでスキルの強化も重要だというのは昨日と今日でよく実感はしたしな。
「よし、ハーレさんがいる時で次に予定が決まってない時は要望を優先って事で!」
「うん、それで良いと思うかな」
「私も賛成。それならハーレも喜ぶと思うしね」
「ま、それが良いだろうな」
そんな話をしている内に、桜花さんの桜の木が見えてきた。……あれ? 桜の木の周りには人がいないし、中継もやってない……? というか、桜花さんの桜の木が禍々しくなってるから纏瘴の使用中っぽい?
「……アル? 桜花さんって中継をやってたんじゃ?」
「ん? 俺、そんな事言ったか?」
「……え、それじゃランダムマッチングの話ってなんだったんだ……?」
「あー、それは不動種仲間から聞いたって言ってたぞ。それに桜花さんは3時までは瘴気石の強化をしてるって言ってたぞ」
「……なるほどね」
そういやアルは桜花さんが3時から風雷コンビの中継をするとは言ってたけども、今は中継の最中とは言ってなかったよなー。
桜花さんは商人プレイヤーなんだから、結構重要な瘴気石の強化を先にやっているのは不思議でも何でもないんだよね。纏瘴や纏浄については使用制限があるんだし、模擬戦が実装されたからといってそればっかりしている訳にもいかないもんな。……思い込みって怖いもんだ。
とりあえず妙な情報の食い違いはあったものの、事情自体は把握出来た。今は混雑していないけども、3時からの風雷コンビの対決の中継を見にこれから混雑し始めるって状況なんだな。
「よし、到着したし、みんな降りてくれ」
「うん、分かったかな」
「了解」
「ほいよっと」
「よし、それじゃ『上限発動指示:登録2』!」
そうして纏瘴で瘴気石の強化をしている桜花さんの前にみんなが降りていき、アルはクジラを小型化して牽引状態へと変化させていた。ま、アルのクジラが森の中に降りるには小型化が必須だもんな。
「お、ケイさん達、来たか!」
「桜花さん、今日はよろしくな」
「おうよ、アルマースさん。夜は期待してるぜ?」
「だとよ、ケイ」
「ベスタとの一戦だろ。ま、全力でやるだけだって」
「そうか。それなら俺も楽しみにさせてもらおうか」
「ベスタ!?」
桜花さんへと軽く意気込みを答えたつもりが、桜花さんの桜の木の樹洞からベスタが出てきたよ。あーそういや風雷コンビの対戦の仕込みはベスタだって話だったし、桜花さんとアルが見物場所の確保の条件としてベスタが加わっているんだし、ここに居ても不思議ではないのか。
……あれ? そういやアルとベスタっていつの間に俺との対戦の組み合わせを決定してたんだ? アルが桜花さんと話をつけたのは、多分桜花さんがログインしてフレンドコールで話をした時だとは思うけど……。
「あー、ベスタ、ちょっと確認いい?」
「ん? なんだ?」
「いつの間にアルと話がついてたの?」
「……何? アルマース、言ってなかったのか?」
「あー、今の4人が揃ったら言おうと思ってたら他の話になって、その後に桜花さんに話した事で言ったつもりになって、そのまま忘れててな……。伝えたのはついさっきなんだよ」
「……つまりど忘れしてた訳か。ケイの同意は得たんだろうな?」
「あぁ、それについては問題ない」
なんで言ってくれてないのかと思ったけど、色々と違う事のタイミングが重なってて忘れてただけなのか。……なんだ、別にわざと言わずに驚かせようとか、無断で話を進めようとしてた訳じゃないんだな。
「……アルが言い忘れてたのは仕方ないとして、俺はベスタとの対戦はやるぞ」
「ならいい。一度、ケイとは戦ってみたかったからな」
「……私とはそうでもないのかな?」
「いや、サヤを筆頭にグリーズ・リベルテの全員と戦ってみたくはあるぞ。だが、流石にお前ら相手だと連戦は疲れるからな。日を改めて、同意を得られるのならだな」
あー、ベスタにとっては俺らと5連戦は楽ではないのか。……こりゃかなりの高評価をされているみたいだね。まぁあのベスタにそう評価されるのはどことなく嬉しくはある。
「……そういう事ならいつでも受けて立つかな!」
「ま、元々そういう話だったしな。俺もそれでいいぜ」
「あはは、私はあんまり自信ないけどね……」
「まぁ無理にとは言わんから、そこは気にするな」
「……うん、少し考えさせてもらうね。ところで、アルさんとベスタさんは結局いつこの話をしたの?」
あ、元々それが聞きたかったんだ。……でも何となくどのタイミングかは予想は出来たよ。
「それなら臨時メンテが明けてログイン障害を抜けてログインしてすぐだな」
「ログインしたらすぐにベスタからフレンドコールがあってだな。ま、サヤとヨッシさんがログインしてくるまでの間だな」
「なるほどね」
うん、大体予想通りのタイミングだった。っていうより、そのタイミングくらいしか俺らの知らない時間帯がないもんな。
さてと夜にベスタとの対戦がこれで完全に確定したけども、その前に風雷コンビの対戦の見学だね。あの風雷コンビがどう戦うのか、結構楽しみだ。
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