第585話 コケの群体塊


 遠隔同調で離れたところにある群体化したコケに移動して、群体塊によって球状のコケの塊にする事には成功した。えっと、いくつかスキルを試してみたいんだけどコケの様子を見渡せる様にロブスターの視点をメインにしようか。……よし、切り替え完了。


「それでケイは何をやるのかな?」

「とりあえず遠隔同調中じゃないと出来ない事だな。まずはこの状況で増殖!」

「この場合だとどう増えるんだ?」

「分からないから試すんだよ」

「……そりゃそうだ」


 さて、それじゃ手早くやっていこう。遠隔同調は効果時間が5分だから、あんまりのんびりしてるとすぐに効果が切れちゃうからね。


<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します>  行動値 9/53(上限値使用:20)


 これで群体塊になっているコケの増殖はどんな風になっていくんだろ……? お、今コケの核がある方のコケの塊が大きくなっていってるね。ふむふむ、周囲に増殖していく訳ではなくて、塊が大きくなっていくんだな。

 ある程度のサイズまで大きくなれば、残りのコケは触れている地面へと普通に増殖していくのか。塊の大きさとしては20センチもないくらいだね。……ふむ、群体数が上限まで行ったから増殖も止まったか。


「……なんつーか、こうなってくるとコケに見えなくなってきたな」

「確かにそれは同感かな。なんて言えばいいんだろ?」

「……コケに覆われた岩というか石っぽいよね」

「ま、中身も全部コケのはずだから石でも岩でもないけどな。サヤ、ちょっと軽くで良いから斬ってみてくれない?」

「……斬ったらどうなるのかな?」

「それを確認したいからよろしく!」

「うん、分かったかな。遠隔同調で時間はかけられないからこれで! 『連閃』!」

「ちょ!? そこまでの威力は要らないんだけど!?」


 そうは言ってももう既に遅く、どんどん強くなる銀光を放つサヤの爪で俺のコケの塊が斬り刻まれていった。あー、味方だと斬れないという可能性も考えていたけども、そういう仕様ではないらしい。……ふむ、群体数に減少はないのか。


「見事にバラバラになったな……。これでどうすんだ、ケイ?」

「とりあえず群体塊の仕様確認だな」


 サヤに斬り刻まれてバラバラになって地面に散らばったコケの塊たちだけど、核がある部分を転がす事が出来るので転がしていく。お、バラバラになっても群体化しているコケに触れればまた球体へと戻っていくのか。あー、地味に些細な地形の傾斜の影響は受けるから扱いにくいね……。これは慣れが必要かもしれない。

 とりあえず遠隔同調は必須になるだろうけど、ハーレさんとの連携で面白い事が出来そうな気がしてきたぞ。


「……元の塊に戻ったかな? 相変わらずコケのダメージの受けなさは凄いね」

「でも同じ群集でダメージの影響がないからじゃない?」

「多分なー。あっ……」

「……今度はなんだ、ケイ?」

「いや、ちょっと付与魔法で試してなかった可能性をね……?」

「……この状況でか? あ、もしかして遠隔同調の使用状態での自分への付与魔法の使用か?」

「お、アル、大当たり! 試し忘れてたやつだ」


 まだ群体塊の仕様確認は済んでいないけど、遠隔同調の効果は長くない。……というかバラバラになったコケを集め直すのに地味に時間がかかった。あれは地味に慣れが必要かもしれないね。

 それはとにかく付与魔法がただの支配進化ではなく、同調化した場合ならどうなのかは試しておきたい。うーん、なんでこれを失念してたかな……。


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 2/53(上限値使用:20): 魔力値 185/206


 さて、これでどうなるかな……? えーと、付与の指定が可能なのはサヤのクマと竜、アルの木とクジラ、ヨッシさんのハチとウニ……お、俺のロブスターも指定が可能になってる!?

 コケは変わらず指定は不可だけど、遠隔同調ならログインしてない側への付与は可能なんだな。よし、ロブスターへ攻勢付与をしてみよう。


「お、成功みたいじゃねぇか、ケイ」

「そうなるな! 遠隔同調は扱いが難しいけど、色々と可能性があるっぽい!」


 しっかりとロブスターの周囲を漂う水球が3つ付与出来ているし、これについては検証漏れの内容だったから追加報告をしておかないとね。


<『遠隔同調Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 2/53 → 2/68(上限値使用:5)

<『遠隔同調』の効果による視界を分割表示を終了します>


 あ、もう遠隔同調の効果時間切れ……。くっ、もうちょい試したい事があったけど、強制的にロブスターの背中のコケへと核が戻されたか。……コケの視点がいつもより高い気がするから、ロブスターの背の上でまた塊になってるんだろうね。


「ケイ、遠隔同調の時間切れかな?」

「大当たりっと。まぁ今の状況だったら見ればすぐ分かるか」

「まぁ、森の方のコケの塊が元に戻ったしね」

「一目瞭然だな。……ケイ、その群体塊って本当に使えるのか?」

「……遠隔同調を使った状態で、ハーレさんに投げてもらうのには有効かとは思ってる」

「……本体のコケが突っ込んで行くって事だから割と危険じゃねぇか、その戦法?」

「あー、一応ロブスターの背中にコケは残るから基本的には大丈夫だと思うぞ。……まぁロブスターの操作が盛大に怪しくはなるけど……」

「その辺りは私達の方でフォローが必須って感じかな?」

「色々試してみるけど、そうなるだろうなー」


 さっきの群体塊のバラバラになっても大丈夫な仕様なら、ハーレさんに投げられてから自分にアクアボムでもぶつけて、上空から敢えてバラバラにコケを散らばせていく感じになりそうではある。

 まぁそんな戦法をいつ使うかっていう問題もあるけどね。あー、でも競争クエストみたいな対人集団戦なら奇襲狙いでありか。


「ま、そっちは追々考えるからいいや。とりあえず行動値がほぼ尽きたから休憩ー!」

「行動値がないと特訓は出来ないもんね。……ところでケイさん、今の戦法って基本的に奇襲だよね?」

「まぁそうなるな。……ヨッシさん、何か案でもある?」

「案もあるんだけど、今の手段ならジェイさんの警戒をしておいた方が良いんじゃない? 斬雨さんを投げ飛ばしての奇襲を考えたのって、確かジェイさんだよね?」

「あっ、確かにそれは危険かな……」

「……ジェイさんならやりかねないな」

「……その可能性は考えてなかった」


 ヨッシさんの危惧する可能性だけど、あのジェイさんなら今の奇襲方法を採用してくる可能性はかなり高いか。……ふむ、自分で奇襲に使う方法を考えるのも重要だけど、それを防ぐ方法も考えておいた方が良さそうだな。


「迎撃案がある人、いる?」

「……散らばる前に焼き払うのはどうかな?」

「あー、その場合って使うのはサヤになる可能性も結構あるけど大丈夫か?」

「……まだその自信はないかな」

「……よし、今すぐにって訳でもないからサヤは今以上に精度を上げるのが目標だな」

「うん、頑張るかな!」


 俺が火魔法や炎の操作を強化するって手段もあるにはあるんだけど、水属性を持ってるから火属性攻撃は微妙なんだよな。


「アルさんが海水の昇華の予定だし、私の腐食毒か溶解毒も有効じゃない?」

「ヨッシさんの毒を使ったポイズンミストがかなり有効だろう。俺とケイのどっちでも水の昇華での複合魔法には出来るな」

「うーん、まぁ普通の相手なら充分その辺りで有効なんだろうけど、あのジェイさんからの奇襲と想定するとそれじゃ足りない気もしてくる……」

「それは……同感かな」

「あはは、確かにね」

「……それもそうだな。確かにそれで防ぎ切れる気はしないか」


 今はまだ考えても仕方ないような気もするんだけど、ジェイさんが油断ならないのは間違いない。今のところは勝ち越してはいるけども、油断していい相手でもないんだよね。コケの特殊性をよく知っているからこそ、警戒は必要である。うーん、コケ封じの手段か。


「……いっそコケを全滅させるんじゃなくて、岩の操作辺りで閉じ込めて増殖や群体内移動を封じる方がありか?」

「あー、そういう手もありか! ……でも、それが出来るのケイだけじゃね?」

「問題はそこなんだよなー」

「……ねぇケイさん、コケの群体内移動って見えてさえいれば遮蔽物があっても出来るの?」

「……あ、どうなんだ? それは試した事がないから分からないな……?」


 言われてみて気付いたけども、ヨッシさんの氷に閉じ込められた場合に群体内移動でどうにか出来るかは全く不明だな……。俺の場合はロブスターと離れられないから殆ど意味はないから気にした事もなかったけど、氷で閉じ込めるのは有効な可能性はある。


「……よし、ちょっと試してみるか」

「うん、その方が良いよね」

「確かにこれは確かめる価値はあるな」

「コケのケイが、コケ封じの手段を考えるのも変な感じもするけどね」

「コケだからこそやるんだぞ、サヤ。場合によっては俺の弱点にもなり得るんだしさ」

「あ、それもそうだったかな」


 まぁロブスターのおかげもあるから、単純なコケのみよりはその辺は対抗しやすいだろうけどね。それでも弱点は間違いなく存在はするから、対抗策を考えるのは重要だよな。

 さて、もう一度遠隔同調を使って……って、あれ? あー、遠隔同調って再使用時間が設定されてるタイプのスキルだったか。連発が出来たら使用時間が決まっている意味もないスキルだから、当然といえば当然だよね。


「ケイさん、試すんじゃないの?」

「……そのつもりだったんだけど遠隔同調が再使用時間の待機中でまだ無理だった」

「あ、そうなんだ。……それは流石に仕方ないね」

「まぁ再使用時間が過ぎてから試してみるって事でいい?」

「うん、まだ時間はあるし問題ないよ」

「それじゃもうちょい休憩で。どっちにしてもまだ行動値の回復がまだまだだった……」

「あー、そういやそもそもそんなに時間が経ってなかったな」

「ケイは慌て過ぎかな」

「まぁ今のはちょっと慌て過ぎたのは間違いないな」


 行動値の回復も不充分な状態で、遠隔同調の再使用もまだ出来ないのに試そうとするのは流石に焦り過ぎだもんな。その辺はしっかりと回復させてからやらないとね。


<熟練度が規定値に到達したため、スキル『発光Lv4』が『発光Lv5』になりました>


「……あっ」

「おい、今度は何の『あっ』だよ!?」

「あー、シンプルに発光がLv5に上がったんだよ」

「……なるほど、そういう意味での『あっ』か」

「発光Lv5ならどの位の明るさになるのかな……?」

「ん? それなら行動値の消費は無いからすぐに試せるから、試してみようか?」

「お願いできるかな」

「ほいよっと」

「あ、ケイさん、その前に周辺のコケの群体化を解除してもらってもいい? 流石に眩しそうな気がする」

「……確かにそれもそうだ。それくらいの行動値は回復したから、邪魔な分は解除しとくよ」


 発光の明るさの確認だけなら、ロブスターと離れる事が出来ないコケだけあれば充分だもんな。あ、そういえば今の群体塊の状態でコケをロブスターの背中で動かす事って出来るのかな?


 えーと、さっきバラバラになったコケを集めた時みたいに転がるように移動が出来るはずだから塊になったコケに視点を変えて、ロブスターの右ハサミの部分に向けて転がるように移動させてみよう。うん、問題なし……というか地面で転がった時より簡単なんだけど、これはあれか。ロブスターの何処かには必ず引っ付くみたいだから、地形の傾斜影響みたいなのがないようだ。


「……ケイ、それって動かせたのかな?」

「これって元々コケが転がって移動する為のスキルだしな」

「あっ、そういえばそうだったかな」

「まぁ俺も忘れそうにはなるから、気持ちは分かる」


 っていうか、そもそも物理型に育てたいというフーリエさんにアドバイスをする為に確認するまで存在すら知らなかったからね。あの時は確か空中浮遊と組み合わせたらいいってアドバイスしたんだったよな。

 まぁ俺には他の移動手段があるけど、何か活用方法がないかと思って取ってみたら意外と用途はありそうなんだよね。うん、こういうスキルの活用方法を考えるのは楽しいもんだ。さて、右のハサミの表面に丸いコケの塊の移動は完了したし、邪魔な群体化しているコケの解除をしていこう。


<行動値を3消費して『群体化解除Lv3』を発動します>  行動値 15/68(上限値使用:5)

<行動値を3消費して『群体化解除Lv3』を発動します>  行動値 12/68(上限値使用:5)

<行動値を3消費して『群体化解除Lv3』を発動します>  行動値 9/68(上限値使用:5)


 よし、これで森の方の群体化していたコケの解除は完了。……それにしても視界に入るハサミに引っ付いている少し眩しく光るコケの塊は地味に鬱陶しいな。

 あ、これって飛行鎧と組み合わせて、懐中電灯モドキの効果を増すのもありか? 背中のコケを塊にする事でロブスターの表面上なら移動は可能になった訳だし、ロブスターの背中で発光するコケの調整が可能にはなったんだよな。


 それについては後で試すとして、Lv5になった発光を試していこう! さて、どのくらいの明るさになるのかなー?

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