第541話 午後からの強化


 午後もスキルの強化をするとは決まったものの、具体的にどんな形で強化していくのかを決めないといけないな。午前中は薪割りでやったけど、今回も都合よく薪割りが出来るとも限らないし。……その前に今思い出した事を確認しておくか。


「アル、昨日の最後に頼んだのってどうなった?」

「ん? あぁ、『進化記憶の結晶』か。あれならあの直後にレナさんに見つかって、あの場で手が空いてた連中とPTを組んで一緒に戻しに行ったぜ」

「あー、大体想像通りか」

「ま、あの状況だと予想は出来る状況だったがな」

「確かにそりゃそうだ」


 昨日のクジラや魚類集団のスクショの撮影をしてた人は俺の報告をリアルタイムでは見てないだろうけど、情報共有板とかその系統のチャット形式のやつなら少しの時間は書き込みログが残ってるから遡って見れるしね。

 スクショを撮り終えてから内容を確認して、近場にいたアルに話しかけに行っても何も不思議ではない。特にレナさんは。


「そういえばスキル強化は良いんだけど、昼からはどうやってやるかな?」

「軽く薪割り依頼を探してみたけど、聞いてた通りに人気みたいで駄目そうだね」

「あー、マジか……」


 どうやら薪割り依頼の空きはやっぱりないようである……。ま、それはある程度は分かっていたから仕方ないか。

 さて、そうなってくるとどうしよう。ただ単調にスキルを使いまくって、熟練度を稼ぐというのもありだけど、それだと面白味に欠けるんだよね。やっぱりここはみんなで勝負をしながらというのが良いのかな。


「今日は大人しくスキルを強化していくんでいいんじゃねぇか?」

「それもそだな。……とりあえずさっさと凝縮破壊Ⅰを取るか」

「ま、俺もケイも実戦の中で近接物理を使う事はそう多くもないからな。どっかで鍛えとく必要もあるのは間違いねぇ」

「あはは、近接は私がメインだしね」

「サヤは苦手な操作系スキルを頑張らないとね」

「うん、そのつもりかな!」


 普段の戦闘では俺は基本的に魔法での後衛だし、アルもクジラでの攻撃は場所や相手の大きさに左右される要素が多いもんな。それだけ上げにくいという事もあるから、こうしてみんなの都合が合わない時にスキルを鍛えておかないとね。

 サヤも少しずつ竜の魔法を使う頻度は上がってきたものの、実戦では物理攻撃のほうが圧倒的に多いから苦手な操作系スキルの強化に時間を割くのも必要ではある。ヨッシさんはウニの運用も始めるって事だから、それの強化も重要だ。……まぁハーレさんもクラゲで風の昇華を目指したいとは言ってたから、どこかで時間は確保したいけどね。


「よし、丁度いい依頼がないなら対戦式で特訓していくか!」

「それは別にいいが、どういう組み合わせでやるんだ?」

「組み合わせか……」


 うーん、サヤの操作系スキルの特訓については誰が相手でも問題はない。ヨッシさんのウニは……サヤと組み合わせてやる方がいいかな? 俺やアルの強化しようとしているスキルとは特訓する上で微妙な相性な気はするし……。


「とりあえず、サヤとヨッシさんが一緒が良いか。相性的な問題で」

「私の操作をヨッシが攻撃する感じかな?」

「それで私の攻撃はウニ限定って感じ?」

「まぁ、そんな感じ」

「確かに今日はサヤとが良いかも。私もウニの攻撃操作に慣れているわけじゃないしね」

「私もそれで良いかな」


 よし、なんだかんだで俺とアルだとヨッシさんの相手が組み合わせ的に微妙にはなるからね。まぁこの場合って大きなアルの近接の相手っていうのが一番問題になる組み合わせなんだけど……。

 サヤやヨッシさんはまだ不慣れなスキルの強化になるから普通に慣らすとこからやるべきだろうけど、俺とアルだと普通にスキルの強化をやっても面白くないな。やっぱりここは対戦だろう。


「アル、今回は近接で勝負といこうじゃないか」

「おう、良いぜ! で、具体的にどうやるんだ?」

「……スキルの使用は何でもありだけど、有効打判定は鍛えてるスキルだけってのはどう? それで先に当てた方が勝ちって事で」

「ほう、そりゃ面白そうだな。そういう事なら予め有効判定のスキルを提示しとくべきか?」

「あ、それもそうだな。よし、それじゃお互い3つまで選ぶってのでどうだ?」

「おう、良いぜ。それなら俺は『重突撃』と『強頭突き』と『硬頭突き』の3つにしておく。どれもLv4だからな」

「ほいよっと。それじゃ俺は――」


 えーと、『はさむ』はもうLv5になったから除外で良いとして、斬撃からの凝縮破壊Ⅰを狙ってるからLv4の『鋏切断』と『鋏鋭断』が本命だな。それほど深く考えずに3つにしたけど、2つで良かった気もする……。

 いや、この際それはいいや。もう1つはLv3だけど『鋏衝打』にしておこうかな。打撃は打撃で鍛えておきたいとこではあるしね。


「よし、俺は『鋏切断』と『鋏鋭断』と『鋏衝打』の3つで。当てるのは、どっちのキャラでもありにする?」

「いや、それだと俺が不利すぎるからな。今回はクジラに限定にさせてくれ」

「ほいよっと。流石に俺のコケは有利過ぎるから、ロブスターにしとくわ」

「……別にコケでも良いぜ?」

「いやいや、何か嫌な予感がするからやめとくよ」


 それにコケはスリップで回避に使えるんだから、ここでコケを対象にするのは愚策だな。……俺ならロブスターを拘束してから表面のコケが逃げられないようにして、そこを狙うしね。

 アルも木を対象から外して来たということは、根の操作で拘束を狙ってきそうだもんな。あの根も一応はアルの木の一部にはなるから、対象に入れてくれれば楽だったんだけどね。そう甘くはないか。


「大体ルールは決まったな。俺はケイのロブスターに『重突撃』と『強頭突き』と『硬頭突き』のどれかを当てれば勝ち。ケイは俺のクジラに『鋏切断』と『鋏鋭断』と『鋏衝打』のどれかを当てれば勝ち。それ以外のスキルの使用も自由で良いな?」

「おう、問題ないぞ」

「これは見応えありそうかな?」

「こら、サヤ。気持ちは分かるけど練習も忘れないようにね」

「それはそうなんだけど、1戦だけでも見るのは駄目かな?」

「まぁ1戦くらいなら……私も気にはなるし」

「あ、やっぱりヨッシも気になったのかな?」

「そりゃ、やっぱりね?」


 どうやらサヤとヨッシさんは1戦は見学していくつもりのようである。まぁ今は1時だし時間はたっぷりあるし、確実に1戦だけでは終わらないだろうからね。俺とアルの1戦を見てからでも充分な時間はある。


「さてと、ルールは決まったって事で少し場所を移動するか」

「あー、それもそうだな。確かにここだと邪魔になりかねないか」


 現在地はミズキの森林の湖の畔から少し離れた程度のところ。『モンスターズ・サバイバル』のメンバーが行っているバーベキューも見える位置だし、ここで大きなアルのクジラと対戦をしたら邪魔なのは間違いない。アルの言うように、邪魔にならない位置に移動するのが得策か。


「それじゃちょっと移動するか」

「それなら午前中に威力確認をしてた辺りが良さそうかな?」

「そだね。あそこはある程度拓けてたしね」

「それならそこに移動だな。……小型化中だが、乗ってくか?」

「自力で飛ぶから問題なし!」

「同じくかな」

「あはは、みんな飛ぶ手段をもってるもんね」

「……まぁ見事に全員が飛行手段を手に入れたもんだよな」

「探索中ならアルを頼りにするから気にすんなって!」

「……別に悪い事でもねぇから、それでいいか」

「アルさんも拗ねることはあるんだね?」

「別にそういう訳じゃないが……あー、とりあえず移動すんぞ!」


 おや、どうやらヨッシさんの一言は図星だったのかな? まぁ普段の探索中の移動に関しては本当に頼りにしてるから気にしなくても良いんだけどね。今はアルのクジラは小型化しているという事もあるから、少し遠慮したってだけだしね。さてと、それじゃ自力で飛んでいこう!


<行動値上限を8使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 71/71 → 63/63(上限値使用:9)


 え、なんで上限値8も使用してんの……? あ、電気の生成と水の生成を並列制御で組み込んだままだった!? しまった、ロブスター側のスキルの登録が出来るかを試して、再登録し直してないままか。

 くっ、これは仕方ない。とりあえず電気の球も同時に操作して、水のカーペットも作って移動しよう。移動し終わってから再登録しないといけないか。


「ん? ケイ、その電気の球はなんだ?」

「……ちょっと試した時のを元に戻すのを忘れた残骸……」

「へぇ、そうなのか? てっきり灯りを試してみてるのかと思ったぞ」

「流石にそれには光量が弱過ぎないか? これなら発光の方が何倍もいいし」

「ま、この光量ならそうなるか」


 もし発光を持っていなければ代用に出来そうな程度の明るさはあるけども、俺は発光は持ってるからな。この電気の球を光源代わりに使う事は多分ないね。それはともかく、移動だ、移動!



 そんな風に話している内に、午前中にサヤの強化された爪刃双閃舞の威力確認をした場所にやってきた。うん、周囲には他に人はいないみたいだし、アルのクジラを元の大きさにしても支障がない程度の広さはあるね。ここなら勝負をしても邪魔にはならないはず。


「さてと、それじゃやりますか」

「ケイ、待った。クジラでログインし直してくるわ」

「あ、そういや今は木でログイン中か。クジラを鍛えるなら切り替えた方がいいよな」

「まぁな。って事で少し待っててくれ」

「ほいよ」

「あ、それなら私もウニに切り替えてくるね」

「あー、ヨッシさんもその方が良いよな。んじゃ、アルとヨッシさんが戻ってきたら始めるか」

「それで頼むわ」

「うん、そうしてくれるとありがたいね」

「2人が戻ってくるまで待ってるかな」


 そうしてひとまずアルとヨッシさんが、それぞれにキャラを切り替える為にログアウトしていった。……よし、今の内に移動操作制御を元に戻しておこうっと。まずは発動解除!


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 63/63 → 63/71(上限値使用:1)


 解除完了っと。それじゃ改めて、水のカーペットに登録をし直しだ。……ロブスター側の移動操作制御については後で登録すればいいか。


<『移動操作制御Ⅰ』を登録モードで発動します。なお行動値の消費はありません>


 よし、登録モード発動完了。これでいつも通りの水のカーペットの登録に……いや、それも面白くないか? ふむ、あえてここはアルの意表をつく為に別のものを仕込んでおくか。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 71/72 : 魔力値 201/204


 ふふふ、これは1発限りの不意打ちではあるけども、さっきの電気の球付きの水のカーペットを見ていたアルの思考の外にある内容のはず! そもそもアルにはこの岩の突撃モードはまだ見せてなかったしね。……いや、普通にスクショバレてる気もしなくもないけども、そこは気にしないという事で!


<『並列制御』の登録は通常の倍の登録数として扱われます。ご注意ください>

<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 52/72

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値8と魔力値12消費して『土魔法Lv4:アースボム』は並列発動の待機になります> 行動値 44/72 : 魔力値 189/204

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 出来ればアースボムの指向性も操作したかったけど、並列制御の枠数が足りないからそれは仕方ない。そしてこれはあくまで自分のスキルだから、吹き飛ばされてもダメージ判定にはならないはず。検証してないから博打ではあるけど、とりあえずこれで登録は完了っと。


<移動に使用するスキルの登録を終了します>

登録内容:『土魔法Lv1』・『並列制御:岩の操作Lv3・土魔法Lv4』

使用上限値:5


 よし、後はどのタイミングでこれを使うかだけど、それは実際に勝負が始まってからだね。アルだって色々仕掛けてくるだろうし、決して油断は出来ないもんな。



 そして登録をし終えた頃にアルとヨッシさんが戻ってきた。ヨッシさんはすぐにウニを小型化して、ハチとのバランスを戻している。アルは空中浮遊も小型化も切れているので、地面に打ち上げられたような状態だね。

 ヨッシさんはいつもウニの小型化は無発声でやってるから、気付けばいつの間にか小さいウニになってるんだよね。効果が切れた時にはウニを背負う感じにして、アルの木の上とかにいる事も多いからなー。


「おう、戻ったぞ」

「みんな、ただいま」

「2人ともおかえりかな」

「おかえり。さてと、これで準備はOKだよな?」

「あ、空中浮遊だけは先に使ってていいか?」

「あー、確かにそれは必要だよな。それは別にいいぞ」

「おう、あんがとよ。『空中浮遊』!」


 よし、アルも浮かんだしこれで準備は完了だね。アルのクジラでもそれなり動けるくらいに拓けているし、上空もあるからな。ま、お互いに色々と強化はしてるから、その辺がどうなるかが重要だ。


「それじゃ早速始めますか。サヤかヨッシさん、合図をお願い出来る?」

「あ、うん、わかったかな。ヨッシ、私がしていい?」

「うん、いいよ」

「ヨッシ、ありがとね。それじゃ、アルとケイの勝負開始かな!」


 そうして俺とアルのスキル強化を兼ねた勝負が始まった。さて、行動値も魔力値も全快である。それに一応の仕込みはした。

 決して勝ち負けに拘る必要がある勝負ではないけど、前回の水流の操作と砂の操作での勝負の時は結構情けない感じになっていたからな。今回はしっかり勝たせてもらおうか!

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