第522話 破片を探して


 ハーレさんがさっき沈んだ時に黒い例の破片を見たという事なので、下っていた川を少し遡りそれっぽい場所にはやってきた。さてと、それじゃ経験値増加用のアイテムの捜索開始である。


「そういやここって水深はどんなもん? あと、流れの速さもか」

「さっき沈められた感じでは1メートル以上はあると思います! でも2メートルはない気がするよー! 流れの速さはわかりません!」

「それなら私は足が着きそうかな? 動きやすいかは微妙な気もするけど……」

「サヤのクマなら大丈夫そうではあるけど、サヤの場合は探すのって竜でした方が安全じゃない?」

「あ、確かにそれはそうかも。クマの腕に竜巻き付けて、竜に視点を変えて探そうかな?」

「おー! サヤはその手があったー!」


 ふむふむ、確かにクマで水の中に潜るのでもありだろうけど、共生進化の視点の切り替えという機能を上手く使うのは良いかもね。

 そして川の流れの速さは不明か。まぁ川の中でも場所によって違うだろうし、この辺は実際に潜ってみるしかないな。……あまり流れの速いとこはハーレさんやヨッシさんには任せない方がいいだろうしね。多分軽いからあっさりと流されていくだろうし……。そもそもヨッシさんは水中への対応も必要か。


「ヨッシさん、川の中へ潜るのはどうする?」

「あ、うん。対応は必要だけど、私もやるよ」

「ふむふむ。って事は纏水か癒水草茶?」

「えっと、ちょっと試してみたい事があるから、それが駄目だったら癒水草茶を使うよ」

「お、試したい事があるんだ? どんな内容?」

「んー、言っても良いけど、いつもケイさんには驚かされてるから、今回は見てのお楽しみって事で」

「お、そうきたか!」

「あはは、たまにはこういうのでもいいよね」

「問題なしさー!」

「なんでそこでハーレさんが答える!? まぁ別に良いけど……」

「えっへん!」


 何故かハーレさんが返事をして自慢げにしているけども、まぁたまにある事だからスルーでいいか。さてと、ヨッシさんがああいう感じの事を言うのは珍しい気もするけど、それだけ自信ありって事なんだろう。

 ヨッシさんの持っているスキルから推測してみても良いけども、ここは普通に見るだけにしとこ。他の群集の人が相手なら分析するけども、ヨッシさんが見てのお楽しみって言ってるもんね。


「さて、ケイは普通に潜るだろうし、俺は川の上で待機しとくか」

「あー、アルは探そうと思っても川だとやりにくいだけか」

「まぁ小型化を使えば出来なくもないが、淡水だから適応も必要になるしな。それに上で周囲の警戒もしといた方が良いだろ?」

「……確かにそれもそうかな。それならアルに周辺の警戒は任せてもいい?」

「おう、問題ねぇぜ」


 まぁここはLv20超えの敵が普通に出てくるようになったエリアではあるからね。ここまで来る途中でも全部残滓ではあったけど、俺らよりLvが上の敵は何体か遭遇して倒してもいる。

 地上からは視認しやすいから問題ないけど、上空から襲ってくる飛行系の敵や、川の中から襲ってくる敵もいたもんな。大体は先に見つけてるか、ハーレさんの危機察知で対応出来たけど。


 そういう意味で考えるのなら、川の上でアルに警戒をしてもらうのは重要な役割でもある。……でも、流石にアルのみにそれを任せるってのも少し気が引けるし……よし、警戒するのは2人体制にして、アルともう1人で交代制にしていこう。


「アルだけに任すのもあれだし、警戒は2人で交代しながらってのはどうだ?」

「おー! ケイさんのその案、ナイスです!」

「アルだけ警戒をするってのも確かにあれかな?」

「そだね。うん、その案には私も賛成」


 よし、みんなも同じような事を思っていたようで、反対意見はなし。アルにも捜索が出来るようにしたいとこだけど、アルが警戒を請け負うというのはアル自身の提案でもあるからそれを無碍にするのも無粋ではあるからね。

 中々破片が見つからず、俺らの警戒の交代が一巡したなら俺が警戒を引き受けて、アルにも捜索が出来るようにしよう。せっかくの宝探し的なクエストなんだから、探す過程も楽しまないとね!


「あー、俺は別に1人でも問題ねぇぜ?」

「そこは俺らの気分の問題だって。アル、ここは素直に受け取っといてくれ」

「そうともさー!」

「アルばっかに任せるのも悪い気もするしね」

「そうそう。アルさんが気を遣ってくれてるのも分かるんだけどね」

「あー、こりゃ俺の負けだな。分かった、それで良いぜ」

「おし、それじゃそういう事で! まずは俺とアルで警戒役をやるから、サヤとハーレさんとヨッシさんで探してみてくれ」

「あ、ケイが先に警戒をやってくれるのかな?」

「まぁ、警戒以外にもする気があるけどなー」

「あー! ケイさんが何か企んでるよー!?」

「……そうみたいだね」


 ふふふ、まさしくその通りである! 破片については捜索のヒントも得ている訳だし、ここは俺が適任であるはずだ。まぁ川の中なら俺が一番動きやすい可能性もあるけど、それはこれからやる事で見つからなかった時にやればいい。


「それじゃ警戒役の交代は……5分ずつでいくか。それでいい?」

「はーい!」

「問題ないかな」

「私もそれで良いよ」

「よし、それじゃ捜索開始!」


 これがすぐに見つかればもう少し探索は出来るけども、それは運が絡むからね。川底だから破片が流されているという可能性もあるけど、流されてなければいいな。

 まぁハーレさんを沈めてしまった時に大きく流されてはいなかったから、流れが緩やかな場所にあるはず。そうであってほしい!


「あー、ちょっと待った」

「ん? アル、何か問題あったか?」

「問題っていうか提案だな。ハーレさんとヨッシさんは流されるの防止で、根の操作で軽く縛っとくわ」

「アルさん、お願いします!」

「要するに命綱だね。うん、確かに必要かも」

「だろ? って事で、やっとくぜ。『共生指示:登録3』!」


 軽いヨッシさんとハーレさんには、確かにその手の処置は必要かもしれない。これはちょっと失念していたよ。その辺はアルがフォローしてくれて、根の操作でハーレさんとヨッシさんの胴体に根を巻き付けて準備は完了だ。


「これで今度こそ準備完了だー! えーい!」

「こら、ハーレ、飛び込まないの!」

「ヨッシ! ここはゲームの中だから、怪我の心配はいらないよー!」

「……まぁ、確かにそれは一理あるけど……。リアルで同じような事はしないようにね?」

「はーい!」


 このヨッシさんのハーレさんへの保護者的な様子も相変わらずだね。まぁこれがこの2人の昔からの関係性ってことなんだろうけど。ま、ハーレさんも今は無理はしてないみたいだし、これで良いんだろうな。

 そしてハーレさんは川の中へと一足先に潜っていった。うん、流されそうな雰囲気ではあったけど、アルの木の根が良い仕事をしてるね。ちゃんと流されるのを防いでいる。


「それじゃ、私も行こうっと。ケイさん、これが私の水中への探索手段だよ。『アイスクリエイト』『氷の操作』!」

「おっ!? 氷を球状にして、中は生成しなかったのか! それで中に入って、完全に閉じるんだな」

「うん、そんな感じ。昇華になって気付いたんだけど、氷の透明度も調整出来るみたいでね?」

「これは見事な程に透明な氷かな!?」


 ふむふむ、氷の昇華の効果のかかった生成魔法で透明な氷のボールを作り出して、ヨッシさん自身はその中に入っているんだな。これなら確かに直接水に触れる事はないから、水の対策も必要ない。

 それにアルの根の部分に隙間が出来ないように氷の調整もしているね。ヨッシさん、この手段はやるじゃないか!


「ヨッシさん、ナイス! それって視界も遮らないから、奇襲に対する防御にも使えるんじゃないか?」

「うん、多分行けると思うよ。ま、色々と使い方を考えるのはまた今度にするね」

「あー、それもそうだな。それじゃヨッシさんも捜索、頑張ってくれ」

「そのつもり。サヤ、先に行ってるね」

「あ、うん。分かったかな」


 そうしてヨッシさんも氷の球体に包まれて、川の中へと潜っていく。ヨッシさんは飛ぶには飛んでいるけど氷の球体の中で飛んでいるだけで、潜る為の移動は氷の操作だから流される様子もなく潜れていたね。

 そっか、ヨッシさんも氷の昇華を得て、色々と応用方法を考えていたんだな。それにしても氷の昇華でガラスより少し劣る程度ではあるけども、かなりの透明度までは調整出来るんだな。この辺の視界への影響は土の昇華との大きな差異のようである。


「それじゃ私も行ってくるかな!」

「おう、サヤも行ってこい!」

「しっかり探してこいよ!」

「うん。ケイとアルも警戒はお願いかな!」

「おう、俺とケイに任せとけ!」

「そうだな。あ、あとでPT会話で伝えるけど、探しやすくはするからな」

「うん、分かったかな!」


 そうしてクマの腕に通常のサイズに戻した竜を巻き付かせた状態で、サヤも川に飛び込んでいく。まぁサヤのクマは大きいので全身が水に浸かる訳ではなく、川に浸かったのはクマの胸辺りまでであった。

 そしてサヤはすぐに視点を竜に切り替えたようで、クマは腕以外は大して動かなくなったね。まぁこれはこれで共生進化の有用な活用方法だな。


「さて、サヤ達は潜って破片を探しにいったけど、ケイは見つけやすくするってのはどうする気だ?」

「ふっふっふ、アル、黒い方の『進化記憶の結晶』の特徴はなんだった?」

「……ん? あ、なるほど、光を吸収して真っ黒になってるって話だったな」

「そう、そういう事。それは砕け散った欠片も同じ事だ!」

「そういう事なら、確かにケイが適任か」


 アルは俺が何をしようとしているのか、大体把握したっぽいな。まぁヒントは元々あった訳だし、そこに意識を向けてみればすぐに分かる話ではある。


「みんな、これから光の操作で川の中を強めに照らし出すから、それで異常に黒い破片を探してみてくれ」

「あ、なるほど、そういう事かな」

「了解! あ、ハーレが水で喋れないみたいだけど、了解だって」

「……え、ハーレさんって水の中で喋れないのか?」


 あれ? 前にネス湖の中に潜った時は普通に話してた気もするけど、話せないなんて事はなかったよな? え、なんで話せないという状況になるんだ?


「あー、ケイ。淡水への適応が出来てなきゃ喋れないからな?」

「え、マジで!?」

「おう、マジだ」


 地味に知らなかったぜ、その仕様。そっか、ヨッシさんは厳密には水中じゃないし、サヤはクマの頭は水中ではないから普通に会話が出来るんだな。

 だけどハーレさんだけは何も対応をせずに潜っているから会話は無理という訳か。そういう仕様なら、ハーレさんのクラゲは海水仕様だから海水の中なら普通に喋れるって事になるんだろう。


 って、これ以上は後にしよう。まずは破片の捜索が最優先!


「それじゃ、みんないくぞ! 日光を使うけど、まぁ無茶な操作はしないから時間には余裕があるからな」

「さて、どれだけ効果があるもんかね」

「ま、それはやってみないとなんとも言えないからな」


 アルが効果のほどを気にするのも分かるけど、まずは試すのみ。それでは光の操作の出番である。まぁ昼間の日だとこういう風に探していくのが割と正解な気もするけど、効果はどんなもんだろう?


<行動値を19消費して『光の操作Lv3』を発動します>  行動値 52/71(上限値使用:1)


 日光を操作していき、みんなが潜っている辺りへと光を収束させていく。とはいっても通常より少し収束させて光量を増やしているだけなので、それほど熱を持つほどにはなっていないはず。


「あ、これ、凄いね」

「……ん? ヨッシさん、何か変化あった?」

「えっと、なんて言ったらいいんだろ? まとまった強い光が差し込んで、少し神秘的になってる気がするよ」

「あー、そういう効果もあるのか。ケイ、やるじゃねぇか」

「……あはは、そういう効果は全然考えてなかった!」


 そうか、決して川の中が薄暗いって訳じゃないんだろうけど、より強い光があればそれだけ景色の変化もある訳だ。ふむ、想定していなかったとはいえ、スクショコンテストの事前エントリー中ならばこれは良い誤算だな。


「そうなるとハーレさんがスクショを撮ってる?」

「うん、撮ってるね。私もちょっと撮っておこうっと」

「私も撮っておこうかな?」


 どうやら水中の3人はスクショを優先しているっぽいね。まぁ光の操作はまだまだ時間は問題ないし、別にいいか。今回はスクショも重要だしね。


「あっ! ハーレ、右下の方に黒い何かがあるかな!」

「あ、ほんとだね」

「お、本命の破片があったか?」

「ハーレさん、とりあえず見つけたなら先に取ってこい」

「……うん。ハーレは了解だって。今、取りに行ったよ」


 ハーレさんが喋れない状態だから、ヨッシさんが代わりに答えてくれた。今、水中ではハーレさんがヨッシさんに向けてジェスチャーで言いたい事を表してたりするのかもしれないね。


「ぷはっ! やったー! 破片を1つ、手に入れたよー!」

「おっしゃ! ハーレさん、良くやった!」

「かなり早く見つかったね」

「見つけやすかったのはケイの光の操作のおかげかな?」

「ふっふっふ、もっと褒めてくれてもいいんだぞ!」

「あんまり調子に乗り過ぎるなって言いたいとこだが、まぁケイの手柄に違いないか」


 おっと、調子に乗りすぎるのも確かにあんまり良くはないし、その辺は少し気をつけないと……。まぁそれはそうとして、破片を見つけたのは良かったね。

 それに明日と明後日の昼間にログイン出来ないハーレさんが確保出来たのも良かった。バトルやマップ踏破もそれぞれに違った楽しさがあるけども、こういう宝探し的なイベントも楽しいものだね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る